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2020 中日ドラゴンズのドラフト指名戦略を考える

*2020/10/19 中日新聞プラスへの投稿分を転載

皆さん、こんにちは。今回は

「2020年ドラフト会議における、中日ドラゴンズの指名戦略」

をテーマに考えたいと思います。

いよいよ26日に迫ったドラフト会議。人材流動性が低いNPBにおいて、ドラフト会議による有望な選手の獲得は何より重要な戦力の獲得ルートです。特に新型コロナウイルスによる球団経営への多大なインパクトを考慮すると、ドラゴンズのようなFA選手の獲得に消極的なチームにとって、ドラフトにおけるより高精度な選手の見極めと指名戦略の構築が重要になってきます。

すでに各種報道で色々な情報が流れていますが、今回は補強ポイント分析およびステークホルダー分析をもとに、今年の指名戦略の予想とそれに基づいた指名選手の提案を行っていきたいと思います。

まず初めに指名選手については、下記をベストケースとして提案します。

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▽2020年 中日ドラフト指名ベストケース

1位: 高橋宏斗 投手 中京大中京高校
2位: 鈴木昭汰 投手 法政大学
3位: 中野拓夢 内野手 三菱自動車岡崎
4位: 若林楽人 外野手 駒澤大学
5位: 山本一輝 投手 中京大学
6位: 髙寺望夢 内野手 上田西高校

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以下ではなぜこの指名順・選手を提案するに至ったかについて、順に説明していきたいと思います。


1. 補強ポイントの確認: チーム編成表の分析

まず始めにドラゴンズの補強ポイントについて、ポジション別の年齢構成と投球回数/打席数から、チーム編成的に埋めるべき補強ポイントについて見ていきます。

1-1. 先発投手

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【現在の状態】
・大野は今季もリーグ屈指の貢献、一方柳は怪我もあり大きく成績落とす
・前年50イニング投げた投手は大野、柳、ロメロ、山井の4人しかいなかったが、今季は大野と柳に加え松葉と福谷がクリア。さらにロドリゲスと勝野も達成見込み
・ロメロ、笠原、小笠原と活躍が期待された左投手の怪我・不振は誤算

【課題と補強ポイント】
先発投手については、若手投手の台頭により今後の展望がかなり明るくなりました。9月30日時点での先発投手の記録した、対戦打者に対する三振割合 (22.2%)、四球割合 (6.4%)はいずれもリーグトップ。大野雄大の圧倒的なパフォーマンスが寄与している部分は大きいですが、梅津晃大や勝野昌慶、ヤリエル・ロドリゲスなど若手速球派投手の貢献も見逃せません。開幕ローテ入りした岡野祐一郎、山本拓実やシーズン終盤から一軍に抜擢された清水達也も、今季の経験を活かして来季はさらにステップアップすることでしょう。

若手先発陣の台頭により、補強ポイントとしての優先順位は低そうに見えます。ただ上記で挙げた投手のうち通年で活躍した投手はおらず、梅津や勝野など怪我がちな投手が多いことも踏まえると、先発投手陣の層をさらに厚くする指名は重要でしょう。投手成績は水物で年を跨ぐと成績がガラッと変わることも少なくないので、優勝争いをするために即戦力先発投手の補強は考えられそうです。

1-2. 中継ぎ投手

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【現在の状態】
・若手、中堅、ベテランとバランスよく一軍戦力になっている。
・祖父江、‪福、ライデルのAチーム3人とベテラン谷元がリーグ屈指の貢献を見せる一方で、ビハインド展開で投げるBチームの投手は不安定だった
・25歳前後の投手が戦力化できていない

【課題と補強ポイント】
中継ぎ投手への懸念は、勝ちパターンで投げる投手とビハインド展開で投げる投手のパフォーマンスに大きな乖離がある点です。祖父江、‪福、ライデルのAチームが抜群の安定感を発揮したお陰で僅差の終盤で圧倒的な強さを見せた一方で、ビハインド展開の投手が失点を重ねることでなかなか逆転勝ちに繋げることができませんでした。

また‪Aチームの一角・福は去年から三振割合、四球割合ともに悪化、今季飛躍した祖父江も来季34歳と言う年齢を考えると、来季以降も同じパフォーマンスが期待できると楽観視はできません。25歳前後の投手を戦力化できていないことを考えても、即戦力となるリリーフの獲得は必要でしょう。

1-3. 捕手

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【現在の状態】
・木下の台頭で攻守両面における他球団との差は縮まった
・怪我で離脱しているもののアリエルの打撃貢献は高く、郡司も攻守に課題はあるが「勝てる捕手」としてのポテンシャルを発揮している
・ファームでは石橋が順調に打席を積んでいる一方で、ベテラン大野奨太の去就が気になる

【課題と補強ポイント】
捕手陣は木下の独り立ちに加えてアリエル、郡司、石橋が控えているのを考えると補強ポイントとしての優先度は低く、支配下での選手の獲得の可能性は低そうです。

一方で気になるのは、大野奨太の去就です。現在の起用法を見るに現首脳陣の戦力構想から外れているのは明らかで、2017年オフに結んだ3年契約も今季で終了。地元出身のFA戦士だけに戦力外は考えにくく、年齢的にはまだ若いが引退も考えられるでしょうか?仮に大野奨が退団となった場合には捕手の人数6人は少ないと思われるので、指名があるとしたら育成で地元の捕手を取る、もしくは他球団から戦力外となった選手の獲得があると予想します。

1-4. 内野手

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【現在の状態】
・一軍は今季も全ポジションで規定到達も、スーパーサブ直倫の怪我&不振のため打撃不振でも阿部京田の固定起用をせざるを得ない層の薄さが露呈した
・二軍は石川昂、根尾、高松、石垣を優先起用する理想的な機会配分。ただ石垣は打撃でアピールするも一軍での起用は限定的に終わった
・石垣の一軍挑戦、根尾高松の外野起用も視野に入れると、育成対象となる若手ショートの獲得が必要

【課題と補強ポイント】
内野はまず阿部京田の競争相手となる即戦力内野手の獲得は優先順位が高いように思います。一軍内野のレベルアップには堂上の復活が1番の近道ですが、年齢的にも昨季並みに復活するかは不透明。石垣の台頭や溝脇の成長にも期待したいですが、一軍で戦える選手の層を厚くするに越したことはありません。

またファームでは石垣の卒業&根尾高松の外野起用なども考慮に入れる必要があるため、育成対象となる次世代のショートも指名したいところです。二軍育成中の内野手はいずれも打撃や足が持ち味の選手のため、タイプ的に高い守備力を武器にプロでもショートを守れるような高卒ショートだとベターです。

1-5. 外野手

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【現在の状態】
・一軍の出場機会がほぼ31歳以上と高齢化が顕著
・センター大島の鉄人ぶりは今季も健在な一方で、両翼のレギュラークラスは怪我が多かった
・ファームでは滝野、伊藤康、岡林と若手外野手を優先起用。両翼の打撃型外野手が不足している

【課題と補強ポイント】
こちらは高齢化した一軍外野陣の世代交代をどのように進めるか?という点が課題となりそうです。即戦力となる外野手が必要に思えますが、一方で2000本を目指す大島のセンターと打線の主軸としての打力が求められる両翼、それぞれでドラフトで獲得した候補にすぐに競争させるのはなかなか難しいように思います。

よって補強するのであればある程度早めに「一軍戦力への定着が期待できる即戦力性」と「プロでレギュラークラスに成長が期待できる将来性」を両立した大卒以上の外野手を獲得して、一軍挑戦と二軍育成を両睨みで行う形がベストだと考えます。できればチームに不足しているスラッガータイプの外野手が理想ですが、石垣、根尾ら内野手を両翼候補として捉えるなら、センタータイプの外野手の補強でも悪くないと思います。


以上、ここまで見てきた補強ポイントをポジションごとにまとめると、下記の通りとなります:

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先発投手:期待の若手は多いものの優勝争いをするには層を厚くしたい、即戦力欲しい
中継ぎ投手:AチームとBチームの乖離が激しいため層を厚くしたい、即戦力欲しい
捕手:一軍、二軍ともに充実しており補強の必要性は低い
内野手:即戦力レベルの二遊間、育成対象のショート両方必要
外野手:即戦力と将来性を両立した大卒以上の外野手

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今年のドラフトでは、上記の条件に当てはまる選手を獲得すべきだと考えます。

ただこれだけではどの選手を上位で、また下位で指名すべきか判断できませんので、以下でその指名順位の決定に影響を及ぼす各ステークホルダーのニーズについて見ていきたいと思います。


2. ステークホルダー分析: 現場、フロント、親会社の異なる視点

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指名順位を考える上では、その決定に関与するステークホルダーのニーズを考慮する必要があります。
今回は現場、フロント、親会社の3者の異なるニーズについてまず整理していきたいと思います。

2-1. 現場のニーズ

3年契約2年目の今季、10月17日時点でリーグ2位まで躍進した与田剛監督にとって、来季はペナントレースを独走する巨人に少しでも迫れるような戦力の拡充を要求するでしょう。先日のスカウト会議では「即戦力の投手を」と要望したとのことですが、監督視点で考えると1年目から先発ローテーションに入り活躍が期待できる早稲田大・早川隆久投手やトヨタ自動車・栗林良吏の獲得が現場のニーズにフィットすると思います。

野手については、前述の通り内野陣の底上げが急務。一部報道では石川昂をショートとして京田の競争相手に、と言った思惑もあるようですが、どこまで現実的かはわかりません。ファームでは内野全ポジションを守り二遊間守備にも定評のある石垣を競争相手に据えることが既存戦力を活用する上では一番現実的かと思いますが、攻守に実績がないためやはり即戦力野手を補強するに越したことはないでしょう。

2-2. フロントのニーズ

中長期的な視点で選手の獲得、編成の管理を行うべきフロントにとっては、即戦力の穴埋めと並行して将来チームを背負う有望な選手の獲得に優先順位を置いているはずと思います。過去2年はドラフト1位で根尾、石川昂と内野手のトッププロスペクトを獲得しているだけに、今年は将来のエースもしくは外野のスラッガー候補の獲得を検討していると考えられます。

また米村チーフスカウトは以下の記事で「課題は野手」と発言していることからもわかるように、指名全体ではなるべく上位では野手の比重が高まるかもしれません。

2-3. 親会社のニーズ

東海地方に深く根ざしている中日新聞社にとっては、多くの購読者が存在するエリアからより多くの選手を獲得することで地元密着をアピールしたいはず。

それは2018年のドラフト1位・根尾は岐阜出身、2019年のドラフト1位・石川昂は愛知出身と、ここ2年は地元の超逸材を1位で指名していることからも明らかです。よって今年のドラフトに関しても、1位は地元トヨタ自動車の栗林、もしくは中京大中京高・高橋宏斗の獲得を支持すると予想されます。


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以上、指名順位に影響を及ぼす3者の異なるニーズについて考えてみました。

これら3つの視点とさらに今年のドラフト指名候補の充実具合から指名戦略を考えたいと思います。現場、フロントおよび親会社のすべてがWin-Winとする指名順位を考えることは不可能に近いですが、今回は下記の通り予想しました。


3. ドラフト指名戦略: 1位入札は中京大中京高・高橋宏斗

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3-1. 1位指名戦略: 入札・高橋宏斗→外れ1位・大卒・社会人の即戦力投手

まず初めに入札されるだろう選手としては、中京大中京高・高橋宏斗だと予想します。上記で検討した3者のニーズを全てを満たせる訳ではないですが、過去の指名傾向から地元志向の強さ、フロント主導の中長期的な視点でのチームづくりを優先するはずだと予想します。

×現場のニーズ→如何に逸材とは言え高卒投手を一軍戦力としてフル稼働は考えにくい
◎フロントのニーズ→大学・社会人含めてもナンバーワンと評価する将来のエース候補
◎親会社のニーズ→地元・愛知出身の高校ナンバーワン投手

契約最終年となる来季に向けて重要なドラフト1位の枠を高卒投手に費やすことは現場のニーズとマッチしていないですが、昨季2-4位の指名で大卒・社会人の即戦力となる選手を獲得したことでバランスを取ったことを考えると、今年も2位以下の指名は即戦力寄りにすることで折り合いをつけるものと予想します。

万が一高橋宏斗の競合に敗れた場合は、現場のニーズを最優先し即戦力投手の獲得に動くと予想します。今ドラフトの目玉である早稲田大・早川隆久は既に名前を呼ばれているはずなので、可能性があるとすればトヨタ自動車・栗林良吏、日本体育大・森博人(愛知出身)ら地元の即戦力投手が有力候補です。

3-2. 2位指名戦略: 大卒・社会人の即戦力投手 or 将来のコア候補野手

2位指名においては、まず1位で誰を指名できたかに依存します。1位で高橋宏斗の獲得に成功した場合に優先順位がもっとも高いと思われるのは、やはり即戦力投手の指名です。前述の栗林は2位までには残っていないと思われますが、森に加えて法政大・鈴木昭汰、明治大・入江大生らが候補に挙がります。いずれも1年目から先発での活躍が期待できます。

今年は上位候補で大卒・社会人の有力投手が豊作の年で、逆に野手の有力候補は少ない印象です。そのため近畿大・佐藤輝明、中央大・牧秀悟、五十幡亮汰、東北福祉大・元山飛優らはかなり早めに名前を呼ばれるはずなので、現在Aクラスの中日の2位までには既に指名済みであることが予想されます。よって中日にとっては「課題は野手」に間違いありませんが、即戦力を意識するならより有力候補の多い投手を優先すると考えられます。


1位で即戦力投手を獲得した場合は、2位は将来のコア候補となる高校生の獲得が考えられます。1位で即戦力投手を獲得している、大卒・社会人の上位候補野手が少ないことを踏まえると、フロントのニーズを優先して中長期的な視点で選手を獲得すべきでしょう。

2位の候補としてまず挙げたいのは、近江高・土田龍空です。中日の二軍内野陣は石垣が現在一軍での出場を増やすフェーズにあり、根尾や高松はいずれも外野での起用も視野に入ります。来季以降二軍で育成対象となる内野手が不足することを考えると、プロでもショートを守れる高いポテンシャルを秘めた土田は間違いなく補強ポイントに合致します。高卒ショートとしては他に準地元の石川、星稜高・内山壮真も有力候補でしょう。

また慢性的な長打力不足を解消するために、明石商業高・来田涼斗や、花咲徳栄高・井上朋也ら未来のスラッガーも有力候補です。

どちらも即戦力の選手ではありませんが、若手有望株の宝庫となった二軍にさらに活気をもたらす存在となるのは間違いありません。

3-3. 中位指名戦略: 大卒・社会人の即戦力野手指名を優先

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中位以降の指名においては、上位で指名された選手の顔ぶれや他球団の指名状況に依存するかと思います。よって3位以降の指名に関しては、上記の指名戦略に応じて行われるものと推察します。

以下では、中日ドラゴンズにとってベストケースだと言える高橋宏斗を引き当てた「シナリオA、A2」を想定したときの3位以降の指名候補について紹介していきます。


まず3-4位の中位指名では、内外野の即戦力野手の獲得が優先されると予想します。内野と外野どちらを優先するかは意見が分かれるところかと思いますが、来季に向けた即効性を考えると、三菱自動車岡崎・中野拓夢を指名し内野の層を厚くすることが現場のニーズにフィットすると考えます。社会人ナンバーワンショートである中野はセカンドとショートいずれも高いレベルで守ることができるため、内野守備のハードルが高い中日でも即一軍で起用され、レギュラー陣に危機感を植え付けるにはぴったりの存在だと思います。

外野手を優先するなら、両翼のスラッガータイプのJFE東日本・今川優馬か、俊足巧打のセンタータイプのトヨタ自動車・逢澤崚介が3位候補に挙がります。今川は右の代打および両翼のレギュラー候補として、逢澤は代走守備固めから大島休養時のセンターとして1年目から活躍が期待できます。

4位では、3位中野なら身体能力に優れこの秋長打力が覚醒した駒澤大・若林楽人、中央大・五十幡に負けず劣らずの俊足を誇る獨協大・並木秀尊ら外野手が指名候補。逆に3位で今川もしくは逢澤なら4位は慶應義塾大・瀬戸西純や國學院大・小川龍成ら大卒ショートが候補に挙がります。いずれも3位候補と比較すると即戦力性は落ちるかもしれませんが、チームの補強ポイントには合致する選手だと思います。

3-4. 下位指名戦略: 5位は「地元枠」、6位は指名状況によっては指名なしも

5位はここ数年は「地元枠」として東海圏の選手が指名されることの多い指名順です。Aシナリオでは即戦力投手をここまで1人しか獲得していないので、5位では地元と縁がある大卒・社会人の投手の指名を予想します。候補としては中京大・山本一輝、日本製鉄東海REX・松向輝、ヤマハ・池谷蒼大ら左投手の名前が挙がるでしょう。

6位では高卒ショートの獲得を予想しますが、既にリストアップされている選手が指名されている場合は指名なしの可能性もありそうです。その中で有力候補としては、プロ志望高校生合同練習会で中日スカウトから攻守に高い評価を受けていた上田西高・高寺望夢が挙げられそうです。

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以上、今年のドラフト会議に向けた指名戦略について考えてみました。

今オフは新型コロナウイルスの影響で大々的な補強もあまり期待できないことを考えると、ドラフトで如何に有望な選手が獲得できるかが例年以上に重要になります。上記予想では即戦力となる選手の予想に重きを置いて考えてみましたが、実際には即戦力と将来性、どちらを重視した指名になるのかという点が一つ注目だと思います。どんな指名になるのか、来週の月曜日が楽しみでなりません!

以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!

追記:2020年のドラフトの振り返りは下記のnoteで行いましたので、こちらもぜひ↓↓↓


データ参考:


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