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二軍成績から一軍での活躍は予測できるか?2017-2019年における一軍と二軍のレベル差を分析する

*2020/5/31 中日新聞プラスへの投稿分を転載

皆さん、こんにちは。今回は

「二軍成績から一軍での活躍は予測できるか?」

をテーマに考えたいと思います。

プロ野球界には、二軍では圧倒的な成績を残せていても一軍ではさっぱりと言うケースが多く存在します。これは逆も然りで、二軍ではそこそこの成績にも関わらず、一軍で起用すると一気にレギュラーまで駆け上がる選手もいます。だからこそ多くのファンが若手選手の二軍での活躍に一喜一憂する一方で、「二軍成績は一軍での活躍を予期できるものではない」と手放しでは喜べない人もいるのではないでしょうか。

一軍と二軍の間には確かにレベル差が存在しています。この差を超えられずに引退していく選手も数え切れないほどいますが、それではそのレベル差とは具体的にどのような数字で表されるのでしょうか。

セイバーメトリクス研究サイト「Baseball Concrete」で発表された以下の記事を参考に、2017-2019年における「一軍と二軍のレベル差」「二軍成績から一軍での活躍は予測できるか?」について考えていきたいと思います。


1. 2017-2019年の各リーグ間成績を比較する

まず初めに、一軍打撃成績と二軍打撃成績はどのように異なっているかについて確認します。以下は2017年から2019年におけるすべての選手の一軍打撃成績と二軍成績をまとめて、各種指標の平均値を取ったものです。

写真1

まず一軍vs二軍という区分けで見ていくと、一軍であるセパ両リーグの成績と二軍のイースタン、ウエスタンの成績では一軍成績の方が優れていることが分かります。

これは打者目線で考えると、一軍成績はレギュラークラスの野手の成績が、二軍成績は「二軍での育成が必要な」レベルの選手の成績が、それぞれ多く含まれているからだと考えられます。特に一軍の場合はそのレベルに対応できない選手の打席は簡単には増えないので、結果的に一軍レベルに適応した選手の打席が多い=打撃成績が良くなるということでしょう。

ただこの数字だけ見ると、一軍と二軍でどれだけレベルに差があるのか見極めることはできません。一軍と二軍のレベル差を確認するには、1シーズンの中で両方を跨いでプレーした選手の成績差を見るべきだと考えます。

2. 異なるレベルの選手を「グルーピング」する

2.1: 年間総打席数に対する、一軍打席の比率から選手を分類する

ここからは、2017-2019年のそれぞれのシーズンにおける「打席数」に注目して選手を分類していきます。それぞれのシーズンにおける、年間総打席数に対する、一軍打席の比率から選手を分類します。

簡単な例として、2019年の根尾選手で説明します。2019年の根尾昂は、一軍2打席、二軍444打席の年間トータル446打席に立ちました。総打席数に対する一軍打席割合は0.4%のため、以下の表では「<10%」に分類されます。このように、2017-2019年の3年間でプレーした野手それぞれの年における打撃成績を、下記のセグメントごとに分類しました。

写真2

割合に限らず規定打席到達者は「規程到達」に、一軍打席ゼロは「育成/怪我/その他」に分類しています。表中の折れ線グラフは、全選手数に対する各セグメントの選手数割合を表しています。

上記12段階で区分すると、一軍・二軍打席数ともにその多くは両端のセグメントに集中していることが分かります。一軍打席の8割は、「規程到達」「>90%」「80-89%」の上位3セグメントで占められます。逆に二軍打席の8割は、「20-29%」以下の4セグメントで占められています。

このまま12段階の区分けで打撃成績の比較を進めてしまうとかなり複雑なので、上記の情報をもとに、「一軍主力」「一軍挑戦」「二軍メイン」の3グループに分けて、それぞれの一軍・二軍成績を比較していきたいと思います。なおそれぞれのグループは一軍打席比率をもとに機械的に分類しているだけなので、様々な事情で「一軍主力」クラスの選手が「一軍挑戦」グループに含まれているなど、どうしても不可解なグループ分けも一部存在してしまう点はご留意ください。

「一軍主力」…規定打席到達者もしくは年間の総打席数に対する一軍打席比率が80%以上
「一軍挑戦」…年間の総打席数に対する一軍打席比率が30%〜79%の範囲内
「二軍メイン」…年間の総打席数に対する一軍打席比率が29%以下

2.2: グループごとの一軍・二軍打席成績を比較する

3グループの平均打撃成績を比較したのが以下の図です。

写真3

各グループごとに一軍と二軍の平均打撃成績を比較してみると、いずれも一軍成績が二軍成績を下回っていることが分かります。どのグループの選手でも、平均的には一軍の高いレベルの選手と対戦することで成績の低下が確認でき、これこそが「一軍と二軍のレベル差」だと言えるのではないでしょうか。

またこのレベル差について、グループごとに違いが出ていることも分かります。
下の表は一軍成績を二軍成績で割った数字をグループごとに比較したものになりますが、「一軍主力」グループの選手は打率からISO (長打率-打率)までの比率が0.91〜0.95の範囲で収まっており、二軍→一軍での成績低下がそれぞれ5~10%程度に抑えられていることが分かります。

一方で、「二軍メイン」のグループについては打率からISOまでの数字が0.73~0.81となっており、成績低下の落差が25%前後と「一軍主力」グループより大きくなっています。一軍打席数に応じてグループ分けしグループ間の実力差を明確に分けたことで、結果としてそれぞれのグループが感じる「一軍と二軍のレベル差」が具体的に見えてきたように思います。

以上の分析から、それぞれの選手の一軍打席数割合からグループ分けすることで、それぞれのグループにおける一軍と二軍のレベル差を確認することができました。さらに以下では、当記事の目的である「二軍成績から一軍での飛躍は予測できるか?」を確認するために、「一軍挑戦」の選手の成績をさらに深掘りして見ていきたいと思います。


3. 「一軍挑戦」グループの二軍成績から一軍成績を予測する

2017-2019年における「一軍挑戦」グループの選手は、トータルで226人おりました。この226人のそれぞれの二軍打撃指標と、一軍打撃指標に相関関係がないか確認していきます。

相関係数は1に近ければ正の相関が強く (二軍指標Xが高くなれば、一軍指標Xも高くなる)、-1に近づけば負の相関が強くなります (二軍指標Xが高くなれば、一軍指標Xは低くなる)。相関係数±0.4を超えれば、二つの指標の正負いずれかの相関があると言えるでしょう。

写真4

まずは「打率」「出塁率」「長打率」「OPS (=出塁率+長打率)」の4項目について見ていきます。

左から見ていくと「打率」と「出塁率」についてはそれぞれの成績が横長に分布しており、「二軍成績が高ければ、一軍成績も高くなる」という関係にないことが分かります。特にヒットを打つ確率である打率は投手のレベルのみならず守備などにも影響を受ける不安定な指標のため、一軍・二軍間の成績比較では関連が出ないのも頷けます。

次に右側の「長打率」「OPS」については、打率や出塁率よりは右肩上がりの形をしているものの、こちらも関連性は小さいと言えそうです。

このように上記4項目では二軍成績から一軍成績を予測するのは困難なように思います。一般的には二軍成績をみる際にはこれら4項目(+本塁打数)を確認することが多いかと思いますが、冒頭で述べたように「二軍レベルで圧倒的な成績を残しながらも、一軍ではさっぱりというケースが多い」という感覚を証明する結果となっています。

続いて、よりそれぞれの打者タイプを反映していると言えそうな「ISO」「三振割合」「四球割合」の3項目について見ていきます。

写真5

まず打者の純粋な長打力を表すISOですが、相関係数0.46と緩やかですが正の相関が見られます。二軍レベルでホームランを連発し高いISOを記録する選手は、確率さえガクッと下がっても一軍でも「当たれば飛ぶ」ことが証明できるということでしょうか。

次に三振割合ですが、こちらはさらに高い相関を示しました。三振割合は打撃の確実性、コンタクト能力の一端を示す指標ですが、相手守備に影響されない指標のため、打率よりも三振割合をチェックする方が一軍レベルでの適応力を測るには適していると言えます。

最後に四球割合ですが、こちらは分布がバラバラで全く関係性が見られませんでした。四球割合は、以前に考察しましたが「選球眼の良さ」が大きく関係します。また選球眼は生まれつきの能力で、ルーキー郡司選手のようにアマチュア時代から選球眼に評判がある選手は、プロでも同様にその能力を発揮できると良く言われています。

ただ今回の分析では、二軍成績と一軍成績の間に関連はなさそうです。これは野手のレベル差というよりも、投手のレベル差が大きいからなのかもしれません。二軍において育成段階の投手は制球力に課題があり、明らかなボール球が多いかまたは投球の質自体が低く、打者にとってボール球を見極める難易度が低い可能性があります。よって如何に二軍レベルで四球割合が高いと言えども、一軍レベルでも同様に選球眼を発揮できるかどうかは未知数と言えます。


以上の考察より、「主要打撃成績はどれも一軍での飛躍を見通すにあたり参考にはならないが、長打力を表すISOや三振割合は参考になりうる」と結論づけたいと思います。

ISOや三振割合はどちらかというと打者タイプを理解するためのもので「一軍での飛躍を見通す」には適さないかもしれませんが、一軍成績と合わせて確認することで一軍レベルへの適応度を測ったり、選手それぞれの将来像を考える分には十分かと思います。


4. 一軍と二軍のレベル差はどのように活用できるか

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最後に、これまでに分析してきたデータや考察はどのように活用できるか?について考えたいと思います。

私は上記のようなグループ分けをすることで見えてきた「一軍と二軍のレベル差」や「参考にすべき打撃指標」を活用することで、各選手の現時点における育成レベルを確認することができると考えます。具体的には、現在のグループ内での平均成績と選手それぞれの成績を比較することで、今後一軍打席を増やすべきか否かの判断材料になり得る、ということです。

実際のプロ球団ではそれを体力的・技術的な視点から決定するはずだと思いますが、いちファンのレベルでは内情を知ることも外から把握することも難しいのが現状です。よってあくまでファン目線での妄想に過ぎないですが、このような考察を用いて「将来のチームを担う若手選手にどのような育成のステップを踏んでもらうか」を考えることもまたオフの楽しみの一つとして以下に提案させてください。

以下では昨季の中日ドラゴンズにおける各選手の一軍・二軍成績を元に、今季は一軍打席を増やすべきか、また二軍で研鑽を積むべきか確認していきたいと思います。今回の区分けでは一軍主力・挑戦のメンバーはいずれも年齢的にも実績的にも一軍を主戦場に戦うべき選手のため、「二軍メイン」にグループ分けされた13選手についてまとめました。

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スペースの関係上13選手全員を紹介することはできませんが、まずすべての指標でグループ平均を上回っているアリエル・マルティネスが特に目を引きます。昨季終盤はほとんどファースト・指名打者での出場でしたが、育成選手ながら打力では確かな可能性を示しました。外国人枠の関係上すぐの支配下登録は難しいのが正直なところですが、今季はウエスタンリーグで広島・メヒア選手のような圧倒的な成績を残してアピールして欲しいところです。

続いてほとんどの指標でグループ平均を上回った石川駿、渡辺勝両選手は、今季こそ一軍定着が至上命題でしょう。イレギュラーなシーズンとなってしまいましたが、開幕当初の無観客試合が続く状況は、一軍の大歓声の中でのプレーに慣れていない選手にとってはある意味好都合かもしれません。オープン戦から好調を維持していた渡辺勝選手には、自慢の選球眼を武器に今年は一皮剥けてほしいと思います。

一方で2年目の根尾昂選手、石橋康太選手は引き続き二軍での英才教育が必要のように思います。根尾選手は打撃だけでなく内外野の守備も含めた総合的なレベルアップを、石橋選手は長打力は特筆すべきですが、アウトコースへの対応など打力アップに向けた課題クリアに努めてほしいと思います。


以上、今回の考察をもとに現時点の育成方針について考えてみました。新型コロナウイルスの影響で外出自粛が続きますが、先日開幕日が発表されたことで遂に大好きなプロ野球開催の兆しが見えてきました。一軍戦も二軍戦も、また楽しく見れる日を楽しみに静かに開幕を待ちたいと思います。

以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!


データ参考:
プロ野球データFreak

参考記事:


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