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【投手編】二軍成績から一軍での活躍は予測できるか?2017-2019年における一軍と二軍のレベル差を分析する

*2020/6/7 中日新聞プラスへの投稿分を転載

皆さん、こんにちは。今回も前回と同様に

「二軍成績から一軍での活躍は予測できるか?」

をテーマに考えたいと思います。

前回の記事では、2017-2019年の一軍と二軍の打撃成績を用いて、野手の打撃成績における「一軍と二軍のレベル差」と「二軍成績から一軍での活躍は予測できるか?」について分析していきました。

今回はその投手編として、同様の手法で投手成績における「一軍と二軍のレベル差」「どの二軍投手指標が将来予測に役立つか」について考えていきたいと思います。

1. 2017-2019年の各リーグ間成績を比較する

まず初めに、一軍投手成績と二軍投手成績はどのように異なっているかについて確認します。以下は2017年から2019年におけるすべての選手の一軍成績と二軍成績をまとめて、各種指標の平均値を取ったものです。

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まず一軍vs二軍という区分けで見ていくと、一軍であるセパ両リーグの成績と二軍のイースタン、ウエスタンの成績では、指標によって差が見られました。まず防御率とHR/9 (=9イニングあたりの被本塁打数)については、二軍の方が成績が良いことが分かります。前回の打者編では総じて一軍の方が成績が良かったですが、それと同じ理屈で一軍にはより優れた打者が多く、投手側の目線では与し易い二軍レベルの打者の打席数がなかなか増えないことが、失点&被本塁打が増える理由なのかもしれません。

特に「投高打低」と名高いウエスタンリーグは、比較的その差が大きくなっています。

次により投手の実力を表すとされる三振および四球割合については、どのリーグと比較するかにもよってその差はまちまちでした。三振割合についてはウエスタン平均がその他3リーグと比較して劣っており、一方で四球割合は逆にイースタン平均の数字が高くなっています。一軍と二軍のレベル差という観点から見ると比較的一軍の方が成績は良いですが、大きな差は見られないと言えるでしょう。

以上一軍と二軍、それぞれのリーグにおける平均値を比較してみましたが、これだけではどれだけプレーのレベルに差があるのか見極めることはできません。一軍と二軍のレベル差を確認するために、1シーズンの中で両方を跨いでプレーした選手の成績差を見ていきたいと思います。

2. 異なるレベルの選手を「グルーピング」する

2.1: 年間総投球回数に対する、一軍投球回数の比率から選手を分類する

ここからは、2017-2019年のそれぞれのシーズンにおける「投球回数」に注目して選手を分類していきます。それぞれのシーズンにおける、年間総投球回数に対する、一軍投球回の比率から選手を分類します。

簡単な例として、2019年の中日・勝野投手で説明します。2019年の勝野昌慶は、一軍16.1回、二軍53.1回の年間トータル69.2イニングに登板。総投球回数に対する一軍投球回割合は23.4%のため、以下の表では「20-29%」に分類されます。このように、2017-2019年の3年間でプレーした投手それぞれの年における投球成績を、下記のセグメントごとに分類しました。

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割合に限らず規定投球回到達者は「規程到達」に、一軍投球回ゼロは「育成/怪我/その他」に分類しています。表中の折れ線グラフは、全選手数に対する各セグメントの選手数割合を表しています。

上記12段階で区分すると、打席数ほどではないですが、一軍・二軍投球回数ともにその多くは両端のセグメントにその多くが位置しています。一軍投球回の2/3は、「規程到達」「>90%」「80-89%」の上位3セグメントで占められます。逆に二軍投球回の2/3は、「20-29%」以下の4セグメントで占められています。

このまま12段階の区分けで投球成績の比較を進めてしまうとかなり複雑なので、上記の情報をもとに、「一軍主力」「一軍挑戦」「二軍メイン」の3グループに分けて、それぞれの一軍・二軍成績を比較していきたいと思います。なおそれぞれのグループは一軍投球回比率をもとに機械的に分類しているだけなので、様々な事情で「一軍主力」クラスの選手が「一軍挑戦」グループに含まれているなど、どうしても不可解なグループ分けも一部存在してしまう点はご留意ください。

「一軍主力」…規定投球回到達者もしくは年間の総投球回数に対する一軍比率が80%以上
「一軍挑戦」…年間の総投球回数に対する一軍比率が30%〜79%の範囲内
「二軍メイン」…年間の総投球回数に対する一軍比率が29%以下


2.2: グループごとの一軍・二軍投球成績を比較する

3グループの平均投球成績を比較したのが以下の図です。

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各グループごとに一軍と二軍の平均打撃成績を比較してみると、いずれも一軍成績が二軍成績を下回っていることが分かります。どのグループの選手でも、平均的には一軍の高いレベルの選手と対戦することで成績の低下が確認でき、これこそが「一軍と二軍のレベル差」だと言えるのではないでしょうか。

ただ打者編とは異なって、指標によっては二軍から一軍への成績落差に違いが見られました。打者編では「一軍主力」グループの成績落差は小さく、「二軍メイン」グループの成績落差は大きく表れていました。ただ投手成績に関しては、防御率とHR/9でグループ間の落差に違いが見られる一方で、三振および四球割合についてはグループに限らず落差に大きな差がないことが分かります。

投手のレベルに限らず、二軍成績と比較して奪三振は10~15%減り、四球割合は20~23%増えるのが「一軍と二軍のレベル差」と言えます。単純な成績比較だとグループごとに差が出ているので、完璧な区分けではないとしても、それぞれに実力差が明確なのは間違いありません。三振を奪う、四球を少なく抑える能力は、投手の実力差やリーグのレベルに限らず、選手それぞれの特徴が結果に反映されると言うことでしょう。


以上の分析から、それぞれの選手の一軍投球回数割合からグループ分けすることで、それぞれのグループにおける一軍と二軍のレベル差を確認することができました。さらに以下では、当記事の目的である「二軍成績から一軍での飛躍は予測できるか?」を確認するために、「一軍挑戦」の選手の成績をさらに深掘りして見ていきたいと思います。

3. 「一軍挑戦」グループの二軍成績から一軍成績を予測する

2017-2019年における「一軍挑戦」グループの選手は、トータルで357人おりました。この357人のそれぞれの二軍投球指標と、一軍投球指標に相関関係がないか確認していきます。

相関係数は1に近ければ正の相関が強く (二軍指標Xが高くなれば、一軍指標Xも高くなる)、-1に近づけば負の相関が強くなります (二軍指標Xが高くなれば、一軍指標Xは低くなる)。相関係数±0.4を超えれば、二つの指標の正負いずれかの相関があると言えるでしょう。

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まずはこれまでの考察でも比較的リーグ間・グループ間での差が大きかった「防御率」「HR/9 (=9イニングあたりの被本塁打数)」の2項目について見ていきます。

いずれのグラフも分布はかなりバラバラで、一軍と二軍の成績の間には全く関連性がないことが分かります。防御率と被本塁打は味方の守備や球場の形状など投手を取り巻く環境にも左右されるため、二軍成績から一軍成績を予測するのは困難だと言えます。

またここで浮かんでくる疑問として、被本塁打の多さを表すHR/9の関連性を確認するには、パークファクターも考慮すべきでは?という点が挙げられます。パークファクターとは得点や本塁打など各項目の球場ごとの偏りを表す指標のことで、球場の特性により大きく異なることが知られています。

よって一軍と二軍の成績差を考えるにあたっては、例えば二軍ではホームランの出にくい球場でプレーしているのに、一軍本拠地はホームランの多く飛び交う球場でのプレーが多くなるチームの投手だけ集めて考えると、結果は変わってくるのではないか?という視点も考慮する必要があるかと思います。

セイバーメトリクス研究ブログ日本プロ野球RCAA&PitchingRunまとめblog」さんにてまとめられている、2017-2019年のホームラン・パークファクターの一軍・二軍間の比率をチームごとに比較することで、「一軍挑戦」グループの357人の投手をさらに3つに区分けしていきます。

「HR PF 一軍>>二軍」…HRパークファクター比 (一軍/二軍)が1.5以上
「HR PF 一軍≒二軍」…HRパークファクター比 (一軍/二軍)が1.5~0.7以内
「HR PF 一軍<<二軍」…HRパークファクター比 (一軍/二軍)が0.7以下

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3セグメントは左から「一軍本拠地の方が二軍よりホームランがかなり出やすい」、「一軍と二軍でのホームランの出やすさの違いは比較的大きくない」、「一軍本拠地の方が二軍よりホームランがかなり出にくい」と言う分類だと理解して頂ければと思います。ちなみに中日ドラゴンズの場合だと2017年は真ん中、2018-2019年は右表にそれぞれ分類されます。

上記3つの表をざっと見てみると、いずれも分布がバラバラで相関が全くないことが分かります。一軍と二軍を行ったり来たりしているレベルの選手だと、一軍・二軍それぞれの投球回数・被本塁打数もそれほど多くならないため、成績のばらつきが大きいからなのかもしれません。ただサンプル数が限定的なことは置いておいても、ここまで傾向が出ない点だけでも二軍の被本塁打数は一軍での成績予測には適さないと断言できます。

続いて、これまでの分析からもより関連がありそうな「三振割合」と「四球割合」について見ていきます。

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こちらは先の指標と比較すると、相関係数はそれぞれ0.40、0.37と小さいですが、かなり緩やかな正の相関が確認できます。これまでの分析でもその傾向が表れていた通り、投手成績における三振割合と四球割合については、他の指標と比較するとある程度は信頼できる指標だと言えるでしょう。


以上の考察より、「防御率や被本塁打はどれも一軍での飛躍を見通すにあたり参考にはならないが、三振および四球割合は参考になりうる」と結論づけたいと思います。

投手の将来予測をするに当たっては、できるならば打球傾向からグラウンドボーラーなのかフライボーラーなのか推察したり、ボール球スイング率などより詳細なデータを使って分析した方が良いのは間違いありません。ただ二軍成績だと個人レベルでそこまでのデータを用意するのは至難の業のため、今回行ったように簡単にアクセスできるデータから贔屓の投手の将来像を想像する、それだけでも十分面白いと私は思います。

4. 一軍と二軍のレベル差はどのように活用できるか

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最後に、これまでに分析してきたデータや考察はどのように活用できるか?について考えたいと思います。

前回の打撃編と同様に、現在のグループ内での平均成績と選手それぞれの成績を比較することで、今後一軍登板機会を増やすべきか否かについて確認していきたいと思います。

以下では昨季の中日ドラゴンズにおける各選手の一軍・二軍成績を元に、「二軍メイン」にグループ分けされた14選手についてまとめました。

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まず先発投手から見ていくと、吉見一起、松葉貴大の二人は二軍レベルでは三振こそ多くないものの、四球を出さない安定した投球を見せていることが分かります。ともに二軍レベルで燻るべき選手ではないので、今年は少しでも一軍での登板機会を増やせるよう奮起してほしいと思います。特に今年の吉見はフォーム改造の成果かストレートに力強さが戻り、開幕ローテーションを狙える位置に来ています。

先発投手の中で守備から独立した3項目いずれもグループ平均を上回っている、福谷浩司も注目したい投手です。昨季は腰痛のため一軍では1先発に終わりましたが、その1登板があまりにセンセーショナルだったのは記憶に新しいのではないでしょうか。今週火曜の登板ではイマイチでしたが、右の本格派投手はチームの先発陣の中では貴重な存在なので、今後早期に一軍戦力になることを期待したいです。

リリーフでは伊藤準規、木下雄介の二人が三振・四球の両方で高いパフォーマンスを見せました。両者ともオフの怪我の影響もあり二軍調整が続きますが (木下はまだ実戦登板なし)、長いシーズンいくらでも二人の力が必要な場面は出てくるはずなので、焦らず調整してほしいと思います。

最後に高い奪三振能力を誇る、育成選手のマルクにも期待したいと思います。特殊なフォームから繰り出されるストレートは威力抜群で、中日ファンのみならず一見の価値ありです。今季は仁村二軍監督からファームのクローザーにも指名されるなど、首脳陣の期待も高まっています。高い四球割合を改善させ、ストレート以外にも決め球となる変化球の精度が上がれば、今季途中の支配下登録も決して不思議ではないでしょう。


以上、今回の考察をもとに現時点の育成方針について考えてみました。今週から一軍、二軍ともに開幕に向けた練習試合がスタートし、野球ファンの熱も徐々に高まっています。新型コロナウイルスの感染拡大に対する不安は未だ拭えませんが、引き続き感染には注意しながら、開幕の日を楽しみに待ちたいと思います。

以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!


データ参考:
プロ野球データFreak
日本プロ野球RCAA&PitchingRunまとめblog

参考記事:
一軍と二軍の壁

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