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長打力アップは本物か?中日打線のホームラン激増の理由を探る

*2020/6/14 中日新聞プラスへの投稿分を転載

皆さん、こんにちは。今回は

「中日打線における長打力アップの理由」

をテーマに考えたいと思います。

6/19のプロ野球開幕に向け、各チームの急ピッチの調整もいよいよ佳境に入っています。他球団との練習試合も6月以降解禁されましたが、その中で話題となっているのが、中日打線のホームラン増加です。3月以降の練習試合においては、中日は12球団トップとなる19ホームランを放ち、純粋な長打力を表す指標ISO (長打率-打率)でも、.188と12球団中2位につけています (*6/11時点)。

メディアでは中日打線のあまりの好調ぶりに、「スーパー強竜打線誕生!」との見出しも紙面に躍るなど、日に日にその注目度は高まっています。

ただ果たして、この長打力アップは本物なのでしょうか?シーズンに入るとまた元通りになってしまうのではないでしょうか?

当記事では、これまでの中日打線と今年の打撃傾向を見比べてみることで、その実態を突き止めてみたいと思います。

ゴロ割合が大きく減少。フライ量産がホームラン激増に直結

ホームラン数、長打率、ISOと長打力を表す指標でここまで飛躍的な改善を見せている今年の中日打線ですが、その最大の要因はゴロ割合の減少です。昨季までのドラゴンズは、打率こそ高いものの長打が少なく、その理由はゴロ割合が高いことが理由でした。ただ今年の中日打線は、ゴロ打球をフライ打球に置き換えたことで、長打の出る確率が高まったと推察します。

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上記の表は2018-2020年における、月別のゴロ/フライ打球比率を表しています。2020年だけ公式記録ではないこと、また過去2年と比べて月ごとの試合数がかなり少ないことは留意しておくべきですが、今年のゴロ/フライ打球比率はリーグ平均に大きく接近していることが分かります。

これまでのドラゴンズのゴロ/フライ打球比率は常にリーグ平均から大きく解離しており、かなりゴロ打球の割合が多いことが慢性的な長打力不足の主要因となっていました。ゴロでも一塁線・三塁線を破る強い打球であれば長打になることもありますがその割合はかなり小さく、やはり長打増にはライナーやフライ打球を多く打ち、打球を外野に直接運ぶことが重要になります。

上記表を見ると、今年のドラゴンズは特に自粛明けの6月以降にフライ割合を増やし、ほぼゴロ打球と同数に持ってくるレベルまでフライ打球を多く打っていることが分かります。過去2年の打球傾向と併せて見ると、その変化は明らかです。他球団のゴロ/フライ打球比率を見てみても、19年と20年の比較でここまでフライ打球を増加させてチームは他にありません。

選手別に見ていくと、より改善が顕著だったのは大島洋平、ビシエド、京田陽太の3選手です。

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上記表は昨季150打席以上、今季20打席以上立った打者のゴロ/フライ打球比率とISOをそれぞれ比較したものです。大島、ビシエド、京田の3選手は他の選手と比較しても特に多くのフライ打球を放ち、長打を増やしていることが分かります。

特に印象的なのが、打席数は少ないとは言えISOで驚異的な改善を見せているビシエドです。昨季成績でも十分な数字ですが、今年は前年より打球角度を上げてより多くのフライを打つことで、飛躍的に長打を増やしています。特筆すべきはこのフライ増が引っ張り中心ではなく、センターからライトへ広角に打球を飛ばしている点です。

以下は昨季と今季における打球方向の比較ですが、今年はセンターから右方向を意識しつつ、長打を増やすことができています。

▼2019 ビシエド打球方向
引っ張り: 37.0%
センター: 42.0%
流し打ち: 21.1%

▼2020 ビシエド打球方向
引っ張り: 14.8%
センター: 59.3%
流し打ち: 25.9%

大島と京田が引っ張りを意識することで強いフライ・ライナーを多く放っている点と比べると、この広角打法のアプローチはかなり異質です。打席数が少ないためまだ何とも言えませんが、今年のビシエドはこれまで以上に進化した姿を見せてくれそうです。

「飛ぶボール」「ビジターでしかプレーしていない」

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今年の中日が飛躍的に長打力をアップさせた要因として、例年以上にフライ打球を増やしている点を挙げました。ただ一方で、この長打力増に対して、「飛ぶボールが採用されているから」「ホームランが出やすいビジター球場でしかプレーしていないから」と言った解釈が存在していることは確かです。

飛ぶボールの噂についてはその事実を証明することはできませんが、フライ打球に対するホームランの割合を示すHR/FBという指標では、昨季セパともに9.9%だったのに対して、今年はセが10.6%、パが11.3%と増加傾向にあります。中日に限っても、7.1%→13.2%と大きく増加しています。ボールの変化は置いておいたとしても、開幕延期の影響で主に投手の調整が遅れ、比較的打者有利の環境になっていることが影響しているかもしれません。

またホームランが増加した6月以降の練習試合では、ナゴヤドームと比較してホームランが出やすいとされる、神宮球場、メットライフドーム、ZOZOマリンスタジアムでしかプレーしていないのも紛れもない事実です。

▼2019 ホームランパークファクター (ホームランがどれだけ発生しやすいかの指標)
1.40 神宮球場
1.08 メットライフドーム
1.08 ZOZOマリンスタジアム
0.48 ナゴヤドーム

以上の2点を踏まえると、確かにこれまでは(*6/11時点)ホームランの出やすい環境でプレーしていたことは否めません。中日打線の長打力アップが本物かどうか、外的要因を100%排除して判断することは極めて難しいでしょう。

ただ一方で、上記2点が中日のホームラン増の理由であるなら、前述のようにゴロ割合が改善されることはなかったのではないでしょうか。外的要因により「たまたま」ホームランが増えていたとすると、ゴロ割合は昨季と大差なく、HR/FBの数値だけが増えていたはずです。

ホームランがここまで増えたのはボールの影響や球場特性も関係したはずと思いますが、それだけが全てではありません。昨オフから多くの選手が口にしていたような、「長打力増」を達成するためのアプローチ改善が、この劇的な変化を起こした主要因であると考えるべきでしょう。

「フライボール革命」の伝道師・パウエルコーチの加入

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チームの長打力増に一役買ったと思われるのが、今季から巡回打撃コーチに就任したアロンゾ・パウエルコーチです。パウエルコーチはMLB4球団で打撃コーチを歴任し、近年の「フライボール革命」をリアルに体感してきた人物です。

パウエルコーチは今年1月に出演したPodcast番組、「Japan Baseball Weekly」の中で、「ドラゴンズにフライボール革命のアプローチをどのように持ち込むのか?」という質問に対し下記のように答えています。

まず第一に、打撃技術を身につけることが先決だ。良い打者になること。そうしたら次のステップとして、打球を上げるためのスイングの微調整を行うことができる。ただ先に述べたとおり、本拠地ナゴヤドームでプレーすることを考えると、打球をどれだけ上げることがチームにとって有益なのかは考える必要がある。東京ドームでプレーするなら、打球を上げるアプローチが正しい。ただナゴヤドームでは、代わりにライナーを打つことをまず意識する。ツーベースを増やし、広いフィールドに強い打球を打つことが必要だ。
(Japan Baseball Weekly Vol. 10.01 17:00~、上記和訳)

フライよりライナーを意識すべき、というのは意外だったかもしれません。ただこれはもちろん「フライを打つな!」ということではなく、「高いフライではなくライナー性の強い打球を打つよう心がけよう」と解釈すべきでしょう。ナゴヤドームのような広い球場では、東京ドームと同じような打球角度を意識していては結果が出にくいのは間違いありません。

これまでより少し打球を上げる意識をつけることで、ナゴヤドームにもフィットするフライとライナーの中間のような打球を打つよう指導しているのだと推察します。その結果が、ライナー打球割合を昨季からほとんど変えないまま、ゴロを減らしてフライが増える傾向につながっているのだと思います。今春のキャンプでは打球角度を計測できる機器「ラプソード」も導入しており、データと併せて各選手の打球角度を最適化した可能性は十分にあるでしょう。

今後も高い長打力は維持できるか?2つの注目ポイント

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以上、今年のホームラン増の理由について考えてみました。最後に、今後もこの高い長打力を維持できるのかどうかについて、2つの注目ポイントを挙げていきたいと思います。

①ナゴヤドームでも現在のアプローチを貫く

広いナゴヤドームでもこれまでのアプローチを継続することが、長打力を維持する最大の要因だと考えます。前述の通り、球場の広さを考えるとナゴヤドームでは確実にホームランのペースが減るのは間違いありません。ただだからと言って、これまでのゴロが多いアプローチに戻していては本末転倒です。多少のフライアウトは気にせず、パウエルコーチの指導のもと外野に強い打球を打つことを徹底してほしいと思います。

パウエルコーチも先ほどのPodcastの中で、以下のように述べています。

ビジターではフライを意識して、ホームではライナーを意識して、とスイングを変えていって欲しくない。アプローチを変える間に、自分自身のスイングを見失うことにつながる。ビジターでもホームでも一貫したアプローチを選手に取ってもらうよう、他のコーチとも協力して取り組むことが私の最大の仕事だ。
(Japan Baseball Weekly Vol. 10.01 17:00~、上記和訳)

今年はゴロ/フライ打球割合やISOと言った指標を使って、ホーム・ビジターでも変わらないアプローチで臨めているかはチェックし続けるべきだと思います。

②打ち損じを減らし、内野フライを減らす

今年はフライ打球が増えた一方で、内野フライも併せて増えていることは改善の余地があります。昨季12.5%だった内野フライ比率は、今年はリーグトップの15.8%まで上昇しています。アプローチの変更と確実性の向上を両立させることは難しいかと思いますが、得点力増のためには修正すべき課題です。


いよいよ今年の開幕も来週金曜に迫ってきました。練習試合で見せた長打力増がシーズンでも発揮されるかどうか、楽しみに開幕の日を待ちたいと思います。

以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!


データ参考:
1.02 Essence of Baseball
日本プロ野球RCAA&PitchingRunまとめblog

コメント参考:
Japan Baseball Weekly Vol. 10.01

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