見出し画像

中日ドラゴンズはリーグワーストレベルの四球獲得能力をどう改善するか?

*2020/3/28 中日新聞プラスへの投稿分を転載

皆さん、こんにちは。今回は

「リーグワーストレベルの四球獲得能力をどう改善すべきか?」

をテーマに考えたいと思います。

過去何度かこのブログでも取り上げていますが、ドラゴンズの得点力不足の要因の一つに「四球獲得能力の低さ」が挙げられます。
四球獲得能力とは文字通り四球を多く選ぶための能力のことで、打席数に対する四球割合を示す指標BB%では、2019年で12球団ワースト。
2018年以前においても、軒並みリーグ平均を下回るなど、四球を選べない状況は慢性的に続いています。

スクリーンショット 2020-03-24 18.53.45

得点力を向上するに当たっては、塁に出ること (安打+四球)と、走者を進めること (長打力+犠打、盗塁など戦術)の両方の改善が求められます。
ドラゴンズが昨季リーグトップのチーム打率をマークしながら得点数がリーグ5位に沈んだのは、上記で挙げた四球獲得能力と長打力の低さが主な要因です。

長打力増については「ホームランテラス」の設置検討や村上コーチの「ホームランを狙う、強い打球を打つ」という育成方針にも色濃く表れていますが、では四球獲得能力の改善については如何でしょうか。

あまりスポットライトの当たりにくいこちらのトピックですが、ドラゴンズが今季四球数を増やすためにはどうすべきか、以下で考察していきたいと思います。

1. 四球獲得能力の高い打者の特徴とは?

スクリーンショット 2020-06-29 17.46.18

四球獲得能力を如何に向上させるか?を考える前に、まずは四球を多く選べることのできる打者には一体どういう特徴があるのかについて確認してみたいと思います。

NPBにおいて昨季シーズン規定打席に到達した60人の打者を対象に、四球割合と相関関係の強い打撃系指標は何かを表したのが下記の図です。
相関係数は1に近ければ正の相関が強く (指標Xが高くなれば、四球割合も高くなる)、-1に近づけば負の相関が強くなります (指標Xが低くなれば、四球割合も高くなる)。
相関係数±0.4を超えれば、二つの指標の正負いずれかの相関があると言えるでしょう。

スクリーンショット 2020-03-25 1.02.35

まず打率ですが、相関係数は0.15とほとんど関連がないことが分かります。
これはチーム打率がリーグトップの中日ドラゴンズが四球割合がリーグワースト、という事実を証明する形です。
打者のヒットを打つ能力が如何に高くても、積極的に打ちに行く打者もいればボール球に多く手をだしてしまう打者もいるため、打率のみでは四球獲得能力の高さを関連づけることは難しそうです。

次に三振割合ですが、こちらも打率ほどではないですが関連は薄そうです。
三振が少ない打者はバットにボールを当てるのが上手く、カウントが悪くなってもファウルを稼ぎ、四球を奪い取る・・。
そういうイメージで負の相関があることを期待していましたが、実際には正の相関寄り (三振が増えれば、四球が増える)の数値が出ていました。
これは次の長打に関する指標とも関連するかもしれません。

純粋な長打力を示すISO (長打率-打率)長打率については、緩やかな正の相関があることが確認できました。
パワーがある打者に対しては投手側も容易にストライクゾーン内で勝負してこないと想像できるため、感覚的にもこの結果はイメージしやすいかなと思います。


以上、打撃成績から四球割合との関係性を見てみました。
次に打席内でのアプローチを表す指標が四球割合とどのような関連があるのか確認してみます。

スクリーンショット 2020-03-25 1.44.27

まずボール球スイング率とトータルのスイング率について四球割合との相関を確認すると、-0.70、-0.69といずれも強い負の相関があることが分かります。
ボール球に手を出さない、またそもそも消極的で「待球型」と言える選手は狙い球を絞り打つべきボールの取捨選択を適切に行い、結果的に四球を多く獲得しているようです。

次にコンタクト率についてですが、こちらは-0.26と四球割合との関連性は薄そうです。
前述の打率、三振割合の結果とも関連していますが、バットにボールを当てる能力は四球獲得には寄与しないと言うことでしょう。

最後にゾーン率 (全投球のうち、ストライクゾーン内に投じられた割合)ですが、こちらも-0.30と関連は薄いと言う結果となりました。
強打者になればなるほどストライクゾーン内で攻められる割合は低くなりますが、数値の幅が10%前後しかないためゾーン内に投げられる割合「だけ」では、四球獲得能力とリンクするまではいかないのでしょう。
相手投手から警戒されボール球中心の配球をされたとしても、狙い球を絞って相手の土俵に乗らない強い自制心が四球を選ぶには重要なのだと思います。

以上、各指標を用いて四球割合との関連を見ていきました。
まとめると、

「①選球眼に優れる、待球型のアプローチである打者、もしくは②長打力に優れた打者が四球を多く獲得することができる」

と言えそうです。
それでは中日ドラゴンズの主要選手は、どのような特徴を持っているのか?
以下で詳しく見ていきましょう。

2. 中日ドラゴンズ 主な打者の特徴

スクリーンショット 2020-03-27 0.19.36

上記の図は問題の四球割合と、四球獲得能力に関連すると思われる長打力を表す指標を一覧にしたものになります。
昨年100打席以上打席に立った選手のうち、リーグ平均の四球割合8.6%を上回った打者は平田と福田の2選手しかいないことが、チームの現状を良く表しているかと思います。
長打率、ISOを確認してみると、両方でリーグ平均を上回ったのは平田、福田の他にビシエド、堂上とアルモンテ。
また長打率は多くの打者がリーグ平均をクリアしていながらも四球獲得に繋がっていないところを見ると、打席内におけるアプローチも合わせて見ていった方が良さそうです。

と言うことで以下の図は、対象の打者におけるボール球スイング率とスイング率でプロットしたものになります。

スクリーンショット 2020-01-25 1.30.07

スイング率とボール球スイング率の両方でリーグ平均を上回る打者は大島一人で、多くの選手が「積極的にスイングする、ボール球の見極めに苦労している打者」である右上に位置していることが分かります。
ドラゴンズはチーム全体で見てもボール球スイング率とスイング率の両方で12球団トップの数値を叩き出しているので、アプローチの悪さがリーグワーストの四球割合の主要因と言えるでしょう。

3. 四球割合をどう改善すべきか?

スクリーンショット 2020-06-29 17.51.49

最後に、リーグワーストの四球割合をどう改善すべきかについて考えたいと思います。
改善のヒントを得るために、まずは「現在四球割合が高い打者」がどのように四球割合を改善させたか?について考察します。
昨季の規定打席到達者のうち、リーグ平均となる8.6~8.9%を大きく超える、10%以上の四球割合を記録したのは29人いました。
その29人の過去数年の成績から、四球が多い打者は以下の4つのタイプに分けられます:

①先天的に選球眼が良い打者
②長打力を武器に投手側の警戒レベルを引き上げ、見極めが容易なボール球を増やしている打者
③レギュラー経験を複数年こなし、後天的にボール球見極め能力を上げた打者
④キャリアの途中からスラッガータイプにモデルチェンジし、②の状況を作り上げる打者

以下で一つずつその特徴を見ていきましょう。

①先天的に選球眼が良い打者
こちらはプロ入り後から安定して選球眼が良く、ボール球スイング率が常にリーグ平均を下回っている打者です。
ストライクゾーンを上手く管理しており、自身が打てるボールを的確に取捨選択できるため例え打率は高くなくても、安定して高い出塁率をマークできます。
代表例は日本ハム近藤、オリックス福田周平、阪神糸原などが挙げられます。

このタイプの打者のように選球眼が極めて良い打者を「育成」することはかなり難しいように思うので、スカウティングの段階で選球眼に優れた打者を優先的に獲得するしか方法はないでしょう。
現在のドラゴンズではドラフト4位ルーキー郡司や、渡辺勝が当てはまるため、これらの選手が活躍し出場機会を増やすことに期待しましょう。

②長打力を武器に投手側の警戒レベルを引き上げ、見極めが容易なボール球を増やしている打者
こちらは典型的なスラッガータイプの打者が当てはまります。
ボール球スイング率はリーグ平均レベル前後ですが、圧倒的な長打力とスラッガー然とした見た目の打者はボール球でもハッキリしたボール球が増えやすく、結果としてゾーン率以上に四球を多く獲得しているのでは?と考えられます。
もしくはこう言ったスラッガータイプの打者は長打を量産するために多くの三振が発生することを「必要経費」と割り切っている打者も多いため、狙い球を絞る過程で見極め力が向上する、もしくは結果的に四球が増えるのかもしれません。
代表例は西武山川、DeNAソト、ソフトバンクバレンティンが挙げられます。

このタイプの打者においても、やはりドラフト時から意識的にスラッガータイプの打者を獲得する、もしくはパワー系外国人野手の獲得がメインになるでしょう。
そう言った意味ではドラフト1位ルーキー・石川昂弥には期待大です。

スクリーンショット 2020-06-29 17.53.52

③レギュラー経験を複数年こなし、後天的にボール球見極め能力を上げた打者
こちらはレギュラー獲得後、複数年に渡って打席を積み重ねることで選球眼を高めていった打者です。
基本的に打者がボールを打つときには、バットに当たるまでを全て目で追って打つというよりは、投手のリリースの瞬間からどのコースにボールが来るかを予測し、その予測に合わせてバットを出しているそうです。
よってプロの一軍レベルで経験を積み重ねることでその予測の精度が高くなり、結果としてボール球スイング率が改善→四球割合が向上するのだと思います。
当てはまるのは楽天茂木、広島會澤、西武外崎あたりが挙げられるでしょうか。

ドラゴンズの選手でこのタイプの改善がもっとも期待できるのは、ショートの絶対レギュラー・京田だと思います。
京田はプロ入り後ずっとボール球スイング率がリーグ平均を上回り、四球割合も低い一方で、今年は栗原コーチの指導もあり選球眼に改善の傾向があります。
恐らく選球眼の向上「だけ」では四球は増えず、合わせて長打力の向上にも取り組む必要があるため一朝一夕には行かないでしょうが、チームの主力選手として京田には今季飛躍的な打撃成績の向上を求めたいと思っています。

▼中スポ記事: 中日・京田が好調キープ! 「打ちにいきながらもボールの見逃し方がいい」 栗原コーチ評価

④キャリアの途中からスラッガータイプにモデルチェンジし、②の状況を作り上げる打者
このタイプの打者はあまり多くはないですが、②と③の複合型と言えるでしょうか。
レギュラーとしてキャリアを積み重ねる過程でより長打が打てる打撃スタイルに「モデルチェンジ」することで、長打と四球の両方を増やしています。
こちらは楽天浅村が挙げられます。

ドラゴンズの場合は阿部、高橋周平など多くの選手が秋季キャンプから取り組んでいる「長打増」の取り組みが身を結ぶかどうかがカギになりそうです。
オープン戦や練習試合での結果を見る限りそう簡単ではなさそうですが、来年のホームランテラス設置検討を前提に、継続的に取り組みたい課題です。

以上、まとめると

「得点力不足を解決するための『長打意識』は、同様に四球増をも実現する可能性はあるが、道のりは長い。郡司のような選球眼に優れる打者や、石川昂弥のようなピュアなパワーヒッターを地道に獲得していくしかない」

と言えます。

残念ながら四球増を実現するための特効薬があるわけではなさそうですが、スカウティングと長打増の取り組みを両立することで、地道に改善を進めていってほしいと思います。

以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!

データ参考:
1.02 Essence of Baseball
nf3 - Baseball Data House -



この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?