2019年 与田新政権はどのように現有戦力を底上げしたか?
こんにちは。今回は「与田新政権はどのように現有戦力を底上げしたか?」というテーマについてnoteしたいと思います。
2019年、我らが中日ドラゴンズは終盤奇跡の追い上げを見せるも、惜しくも去年と同じ5位に沈んでしまいました。ただ一方で借金は前年の-15から今年は-5まで減少し、また得失点差も-56から+19へと大幅な改善を見せるなど、チーム力は格段にアップしたように思えます。
その大きな改善の要因として考えられるのは、現有戦力の底上げです。ドラゴンズは昨年まで6年連続のBクラスに低迷しながら、ドラフトを除いた補強はガルシアの代わりに獲得したロメロのみ。ドラフトでも素材型選手の指名がメインだったため、開幕前における戦力の上積みはほとんどなかったと言って良いでしょう。そんな中で与田新監督の一年目シーズンに課せられた使命は、「現有戦力の見極めと底上げ」にあったように思います。
そこで以下では、具体的に与田新監督を筆頭に現首脳陣が如何に既存戦力を見極め、一軍で使える戦力に仕立て上げていったかについて考えたいと思います。
1. 既存戦力の比較手法: 2018-2019年におけるWARを比べる
まず始めにどのように比較すべきか、その手法について考えます。以下に既存戦力の定義とその比較手法についてまとめました:
▼比較対象となる既存戦力
2018年シーズンに所属していた選手のうち、2019年シーズンも引き続き中日ドラゴンズに所属している選手
*比較対象外の選手
①ガルシア、岩瀬、荒木など移籍・退団した選手
②根尾、ロメロ、松葉など2019年シーズンからの新加入選手
▼比較手法
既存戦力における、2018年シーズンと2019年シーズンのWARを比較する。
*WAR (Wins Above Replacement)とは
打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して選手の貢献度を表す指標である。同じ出場機会分を最小のコストで代替可能な控え選手(リプレイスメント・レベルの選手)が出場する場合に比べてどれだけチームの勝利数を増やしたかによって計算される。
以上引用: 1.02 Essence of Baseball
同一年度における選手間でのWARの比較とそれを用いた評価は、パークファクターや守備位置の違いにおける補正値の影響に注意すべきだと個人的には考えています。ただ今回のような同一選手における年度間での比較については、上記の懸念以上に比較の容易さ・明快さをプラスに捉えて、今回は比較手法として採用することにしました。
WARの上昇・下落は選手それぞれの頑張りや、はたまた不振・怪我による影響が大きいのは間違いないですが、今回の考察ではなるべく「現首脳陣による抜擢や指導によって改善された」と思われる選手にフォーカスして見ていきたいと思います。よって去年から引き続きレギュラーを張っているような選手のWAR増減については特にコメントしませんので、あらかじめご理解ください。
それでは以下より、野手と投手に分けて既存戦力の年度間比較を行います。
2. 【野手】+4.5: 阿部寿樹の台頭など中堅選手の抜擢
上記は対象の野手トータルの成績になります。トータルでは2018年の21.6から、今季は26.1と4.5ポイント分の上積みに成功しているのが分かるかと思います。以下ではより詳細に、ポジション別に確認していきます。
▼【捕手】+0.8: 加藤の抜擢と木下の出場機会増
今季は谷繁引退後から慢性的に続く正捕手不在に、一筋の光が見えたようなシーズンとなりました。その象徴となったのが、前年まで実績皆無だった加藤の大抜擢。もともと「肩は鬼のように強いが中学生レベルの打撃」と揶揄されるような選手で、中日ファンの中でも期待値はそれほど高くありませんでした。転機となったのは、2018年の日本シリーズにおけるソフトバンク・甲斐捕手の「甲斐キャノン」が大々的にフィーチャーされたこと。彼の日本シリーズMVPを獲得するほどの活躍から「甲斐に匹敵する強肩の持ち主」ということで、棚ぼた的にスポットライトが当たることになりました。
現役時代は一時代を築くほどの名捕手だった伊東ヘッドコーチとかつての中日ドラゴンズの正捕手・中村バッテリーコーチの下、春季キャンプから一軍メンバーに抜擢されると、あれよあれよと言う間に開幕スタメンの座をゲット。その後ブロッキングの拙さやあまりにひ弱な打撃から前半戦終了間際に一度二軍降格を経験しましたが、加藤バズーカと形容されるほどの強肩と抜群のフレーミング性能を武器に、終わってみればチーム捕手陣最多の91試合に出場し、同トップとなるWAR0.6を稼ぎました。
加藤は正直まだまだ正捕手として固定するほど完成度が高い選手ではないですが、欠点にある程度目をつぶり、一年を通して実績がある選手たちよりも優先して起用したことは、既存戦力の底上げという面では評価すべきポイントだと思います。
また怪我で途中離脱してしまった木下も、シーズントータルで見れば前年から倍近く出場機会を増やした(*去年も怪我で離脱した時期が長かった)ことで、WARを0.3ポイント伸ばしました。中長期的なチームプランを見据えるにあたり大きな上積みが期待しにくいベテラン捕手陣よりも、加藤、木下ら実績の乏しい若手〜中堅捕手に優先して出場機会を与え、それぞれが一定の成績を残した点は来年以降につながる効果的な起用法だったと言えるでしょう。
▼【内野手】+7.8: 高橋周平のサード専念と阿部の抜擢、堂上のUT起用
今年開幕前の目玉の一つとして挙げられていたのが、高橋周平のサード専念です。高橋は前年は主にセカンドで起用され、プロ入り初の規定打席に到達するなどレギュラーに定着。打撃が持ち味でセカンド守備も平均レベルでこなせていたため、セカンド高橋が今後数年チームの強みになると期待していたファンも多かったと思います。
ただ与田監督は春季キャンプから一貫して高橋をサードでのみ起用し続け、結果打撃では怪我で離脱するまでは首位打者レベルの好成績、守ってはGG確実と思われる美技で、12球団を見渡してもトップレベルの成績を残すまでになりました。このサード専念について与田監督は未だその意図などを明らかにしていないかと思いますが、個人的にはセカンドよりもサード守備が得意な高橋のポジションを完全に固定することで、守備面での負担を減らしより打撃に集中しやすい環境を作ったのではと考えています。
ここはセカンドで誰を起用するかも絡んでくる話でもありますが、その辺の考察については開幕前に下記の通りまとめていますので、宜しければご覧ください↓
また今季中日ファンだけでなく他球団ファンにとっても最大のサプライズだったと言っても過言ではないのが、プロ4年目・阿部寿樹の覚醒です。昨季は一軍出場が僅か18試合に留まり、二軍では内野全ポジションを守るなど完全にユーティリティプレーヤーとしての道を歩み始めていたと思っていた阿部が、今季はセカンドのレギュラーとしてガッチリそのポジションをゲットしました。
正直昨季までの公式戦成績を見る限り今季の突発的な成績向上を予測するのはかなり難しかったように思えますが、首脳陣には活躍する兆しが何か見えていたのかもしれません。早くからセカンドのレギュラー候補として、オープン戦から実績で上回る堂上、亀澤と対等にレギュラー争いをさせていたのが印象的で、その起用に応えた阿部も見事だったと思います。阿部のキャリアイヤーとなる今シーズンの働きについては、また別の機会に取り上げていきたいと思います。
最後に堂上については、主に打撃面における進化と首脳陣による適切な起用法がWARの上積みの要因だと考えられます。今季プロ入り初の二桁ホームランを達成した堂上ですが、極端なドアスイングが幾分か修正された影響か最短距離でバットが出るようになり、特にストレートへの対応力が格段に改善されたように思います。
ただ一方で手元で動く変化球への対応はpoorだったため、阿部・京田がレギュラーとして成績を残していたこともあり、堂上は得意なフライボーラータイプの投手の時に優先してスタメン出場の機会を与えられていたように思います。その象徴が、ヤクルト戦の対高梨です。堂上は対ヤクルトで打率.333、ホームラン7本の活躍を見せましたが、そのうち対高梨は打率.500、ホームラン4本のキラーぶりを見せつけました。狭い神宮球場での好相性ぶりを噂されましたが、個人的には高梨のような曲がりの大きな変化球とストレートで勝負するフライボーラータイプのピッチャーの方が、狙い球を絞りやすく思い切って強振できたため、結果が出やすかったのだと思います。
弱点の多い堂上にとって、たとえ好調時であってもフルスタメン起用よりも好相性の相手に絞って起用されたことが、今季の好結果に繋がったのではと推察します。
▼【外野手】-4.1: 遠藤&井領の控え外野手の抜擢
外野手についてはトータルで前年よりWARがマイナスになる結果になりましたが、大きかったのはレギュラーである平田の怪我とアルモンテの前半戦の不振および後半戦の怪我によるものです。彼らが出場機会を減らしたことによる影響が、ここには色濃く表れているように思います。
一方で明るい話題としては、前年まで鳴かず飛ばずだった遠藤と井領が控え外野手としてほぼほぼシーズンを通して機能したことです。遠藤は今季いわゆる「工藤枠」として代走・守備固めを務める控え外野手として、シーズンを通して一軍戦力であり続けました。井領は脇腹痛で離脱するまでは代打の切り札および平田が離脱時のライトスタメンとして、主に打つ方でチームに貢献することができました。共に悪名高い2014年の即戦力ドラフト出身者ですが、前述の加藤と合わせて今季はチームに欠かせないバイブレーヤーとして、チームの屋台骨=レギュラー野手を陰から支えました。
本来彼らの役割は前年まで第4外野手と活躍していた藤井が一人で担えるポジションであったと言っても過言ではないかと思いますが、与田監督は藤井を6月まで一軍昇格させず、上記の二人や友永、松井佑など中堅外野手を積極的に起用することで彼ら一軍半選手の見極めを優先させたのは特筆すべき点かと思います。出場機会が限定的で昨年は二軍の出場機会を「圧迫していた」と言っていい彼らアラサー一軍半選手にチャンスを与えるなど活用する姿勢がなければ、遠藤、井領が一軍戦力として機能することはなかったように思います。
以上、野手について見ていきました。「若手を抜擢してレギュラーに仕立て上げた」というような王道のストーリーというよりは、「不遇だった中堅野手にスポットライトを当て、活用した」という方がしっくり来るように思います。野手については全く即戦力の補強がなかった中で、レギュラー選手のポジションの変更やこれまで実績のなかった選手の抜擢で戦力の底上げを達成した点については、与田新政権の手腕を手放しで評価していいポイントだと個人的には感じています。
また「既存戦力の底上げ」というテーマからは少しズレますが、根尾や石垣、伊藤康や石垣など高卒3年目以内の若手へ適切に出場機会を与えたことも、個人的には評価したいと思っています。
3. 【投手】+3.7: 左右のエースの本格化、リリーフ運用の改善
上記は対象の投手トータルの成績になります。トータルでは2018年の8.9から、今季は12.6と3.7ポイント分の上積みに成功しているのが分かるかと思います。投手WARはそれでも2年連続の12球団ワーストの数字ではありますが、以下でより詳細に、先発投手・中継ぎ投手に分類した上でどのように改善できたか確認していきたいと思います。
▼【先発投手】-0.4: 大野雄&柳のWエースの躍進
先発投手の底上げについてまず始めに取り上げるべきは、大野と柳の左右の両輪がシーズンを通してローテを守り抜きハイレベルな成績を収めたことにあります。大野は9勝ながらリーグトップの投球回数を稼ぎ、最優秀防御率のタイトルを初めて獲得。またノーヒットノーランも達成するなど完全復活の一年となりました。
一方で柳も全球種の平均球速を5キロ以上アップすることで先発投手として最低限の出力を備え、安定した制球とスラッター・チェンジアップを武器に特に6-7月は全登板でQSを達成するなどし、自身初の規定投球回到達&二桁勝利を勝ち取りました。
彼らの成績向上は勿論それぞれの意識改革と日々のトレーニングの賜物であったことは間違いないですが、加えて現首脳陣の指導による影響も大きかったと思われます。こちらの点についてはつけものさんが下記noteにまとめていますので、そちらをご参照頂ければと思います。
その他先発投手に関しては上記の通り大きなマイナスを計上してしまっておりますが、正直今季はあまりにも怪我人が多かった点は考慮すべきだと感じています。今季開幕投手を務めた笠原は不整脈で途中離脱し、またその他投手についても下記の通り開幕から不在だったことで、先発投手起用に多大な悪影響を及ぼしたのは間違いありません。
怪我人が多く発生したことによるベテランの山井、球威不足の阿知羅や開幕時点ではリリーフ調整をしていた高卒2年目の清水を先発投手として抜擢「せざるを得なかった」ことによるマイナスについては、他に手立てがなかったものとして理解すべきだと感じています。大ベテランか実績の乏しい若手かに二極化された歪な選手構成になっている点を鑑みると、起用法というよりは選手層の薄さを指摘せざるを得ません。先発投手については、来年以降上位を狙う上で既存戦力の底上げ以上に、補強によるベースアップが必要のように思われます。
▼【中継ぎ投手】+4.1: 若手新戦力の台頭でブルペンがチームの強みに
中継ぎ投手に関しては、藤嶋、福、Rマル、三ツ間ら若手リリーバーの台頭が大きかったように思います。
藤嶋は血行障害の影響で出遅れましたが、一軍復帰した7月以降は先発投手ではなくリリーフとして昇格すると、ブルペンの序列最下位から好投を重ね、20イニング以上無失点の快投を続けたことで最終的にはAチームにも名を連ねるレベルまで上り詰めました。
福は前述のつけものさんブログにもありましたが、阿波野コーチの指導によりクロスステップを活用した「打者から見えづらいフォーム」で嫌らしい左のリリーフとしての地位を確立し、こちらもAチームリリーバーまで昇格しました。
Rマルは昨オフのビルドアップで体を一回り以上大きくし、ストレートの平均球速を前年の144.5キロから152.9まで大幅にアップ。序盤からセットアッパーとして抜擢されると、鈴木博志の再調整後はクローザーとして抜擢されるなど飛躍の一年を過ごしました。
三ツ間は一軍昇格するまでは、主に二軍のブルペンを支えるリリーバーとして多くのイニングを消化してきた苦労人でした。一軍昇格後は手元でグニャグニャ変化するボールを武器にBチームにおけるロングリリーフ、またピンチでのストッパー起用に応え、チームの数々のピンチを救いました。
このように、一軍ブルペンはシーズン序盤こそ田島や谷元、小熊など中堅〜ベテラン投手の起用により不安定な時期もありましたが、最終的には若手投手の適材適所の抜擢により、ブルペンの底上げが達成されたように思います。今回は深くは取り上げませんが、阿波野コーチが開幕前から強調していた「3連投はシーズンの終盤まで避ける」という連投規制のもと、ブルペンの消耗を最小限に抑える取り組みが背景にあったことも忘れてはなりません。こちらは中堅以上の投手におんぶに抱っこではなく、その良さを引き出していったことは評価すべきポイントと思います。
一方で上手くいかなかった点を挙げるとすると、前年に「神スラット」の使い手として名を上げた佐藤を活用できなかった点は反省すべきように思います。一部報道によると佐藤は今季開幕前から先発を希望したものの、首脳陣はリリーフ調整を命じたそうです。そのことが本人のモチベーションに繋がらなかったのかどうかは断定できませんが、開幕から調整が上手くいかなかった佐藤は開幕一軍には滑り込んだものの、「大量点差時のリリーフ」というかなり限定的な場面でしか起用されませんでした。それにより登板機会を十分に与えられず、結果戦力としてカウントできなかった点は、序盤における大きなマイナスポイントのように思います。
結果として佐藤は二軍降格となり、その後は希望通り(?)先発調整を続けますが、ほどなくしてリリーフ起用に戻った点はチグハグ感を感じざるを得ません。今季における佐藤の成績悪化は勿論本人の責任によるところが大きいですが、前述の若手投手のような活用ができなかった点は、ポテンシャルの大きい投手だけに残念だったと言えます。
一方で同様に前年から大きく成績を落とした鈴木博志については、こちらは本人のスランプによる悪影響を最小限に抑える「二軍降格判断」が適切だったように思います。こちらは下記noteにまとめていますので、そちらをご参照ください。
以上、投手について見てきました。こちらは怪我人が続出した点や選手層の薄さから、かなり難易度の高いマネジメントを強いられた点は否めなかったように思います。その中で、主に与田監督・投手コーチ陣の指導により既存戦力の底上げが達成されたように思います。
4. まとめ: 今季の「土台づくり」には一定の評価をすべき。勝負の2年目以降は、適切な即戦力の補強が必須
ここまでかなり長くなってしまいましたが、与田新政権の1年目において如何にして既存戦力の底上げを達成したかについて見ていきました。
即戦力の補強がないまま限られた戦力の中で、これまでなかなか開花しなかった選手たちを「使える戦力」に仕立て上げた与田新政権の「土台づくり」については、一定の評価を与えるべきと思います。
一方で、前年から成績を押し上げたとは言え7年連続のBクラスに終わったことは紛れもない事実です。来年以降さらにステップアップするためには、個人的には既存戦力の底上げ以上に適切な即戦力の補強がマストのように感じています。
それは例えばFA選手の獲得であったり、来たる10/17のドラフト会議における即戦力選手の指名が挙げられると思います。今シーズンまで低迷が続いたことでかなりチームの総年俸は圧縮されていると思われるだけに、今オフは来季以降の覇権奪回に向けて、大型補強を敢行すべきと思います。
今年の戦いぶりを見るに、個人的には与田監督及び現コーチ陣の手腕は間違いないと思っています。今季の反省を踏まえて、かつ適切な補強を行うことで、来季こそは久しぶりの上位争いを見せて欲しいですね!
以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!
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