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「2番周平」は機能するか?2020年の打順パターンを考える

*2020/3/7 中日新聞プラスへの投稿分を転載

皆さん、こんにちは。今回は

「2020年の打順パターン」

について考えたいと思います。


あっという間に春季キャンプも終わり、遂に今季のオープン戦が開幕しました。新型コロナウイルスの影響で全試合無観客での開催となってしまったのは残念ですが、長いシーズンを戦うに当たって、選手にとっては「実戦感覚を取り戻す」ためにオープン戦は必要不可欠です。

特に8年ぶりのAクラスが至上命題となっている中日ドラゴンズにとっては、オープン戦と言えど主力選手の調整や若手野手の見極めだけでなく、ペナントレースを勝ち抜くために必要な「戦術のテスト」を行う機会としても積極的に活用してほしいと思っています。

「戦術」に含まれるものは選手起用から継投、攻撃時における作戦(バント、ヒットエンドランなど)など様々ですが、今回は打順にフォーカスして考えてみます。

現在の打順は改善の余地あり

打順については、昨年公開した記事の中で「打順の組み方については正直改善の余地があるように見受けられる」と指摘しました。

具体的には上位打線の中で2番打者の成績が悪く、優秀な一番打者である平田を下位打線と共に孤立させているのでは?という指摘でした。

すでに練習試合やオープン戦を通して「2番高橋周平」を試していることからも問題意識は明らかで、与田監督も得点力を最大化するための打順の組み方について、首脳陣と共に議論を尽くしていることと思います。

長いシーズンを戦う上では「理想の1パターン」だけでなく、あらゆる事態を想定して複数の打順パターンをオープン戦のうちに検討・試行するべきでしょう。

そこで以下では、それぞれの打順が持つ特性や昨季成績、選手それぞれの特徴も踏まえた上で、得点力増が期待できる「打順パターン」を複数提案してみたいと思います。

パターン①オープン戦ベース: 「2番周平」構想

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まずは上記でも述べたような、2番に高橋周平を据えるオーダーについて考えます。

2番に高橋を起用し、それ以外の打順・起用選手は昨季レギュラーとして主に起用された選手をそれぞれあてはめました。昨季は2番に京田が起用されることが多かったですが、強力な一番打者である平田の後ろとクリーンアップの前に置くのは上位打線の繋がりを欠くことが多く見られました。2番打者は1番打者の次に打数が回る一方で、下位打線および出塁率の高い1番打者が塁に出ると長打で走者を進める役割も求められる、制約の多い打順になります。

よって理想は出塁率と長打率を兼ね備えて選手を据えたいので、昨季途中まで首位打者争いをリードするなど「サード専念」で飛躍的に打撃が向上した高橋を据えるのは効果的だと思います。

さらに制約の多い2番であっても、走者一塁のケースではシンプルに引っ張ることを念頭に置いておけば進塁打に繋がりやすいため、難しい右打ちが求められる右打者に比べて心理的な制約は低いはずです。

また不調期に入ると逆方向への意識が強まり引っ張り方向への強い打球が打てなくなる高橋にとって、「強く引っ張ること」をイメージしやすい2番に起用することは安定した成績を残すための「修正」の効果も期待できそうです。

昨季最多安打のタイトルを獲得し高出塁率を誇る1番大島と、福田ビシエド平田の好打者3人を5番までに固めることで、より得点効率の高い攻撃が見込まれます。

つまり「2番周平」の本質は、上位打線に好打者を固めることで、より多くの打席を好打者に回し、走者ありのシチュエーションを増やすことにあるとも言えるでしょう。

対左投手に弱い、足が遅く進塁能力が高くないなど「2番周平」にはデメリットもありますが、それを補って余りあるほどの打棒に期待したいと思います。

パターン②ロバートさん「理想の」打順: 進化した福田を4番に抜擢

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次に、打順特性を考慮して私自身が「理想」だと思う打順を提案します。

こちらの詳細はウェブメディア「THE DIGEST」に寄稿した記事の中で提案したものと同じになります。

基本的には2番周平構想と同じく「上位に好打者を固める」ことをコンセプトとしていますが、もっともこだわったのが福田を4番に据えたことにあります。

福田は昨季シーズン終了後に書いた記事内でも考察しましたが、昨季後半から状況に応じて軽打で走者を迎え入れるような、引き出しの多い打撃ができるようになりました。

それによりホームランで走者をかえす「だけ」でなく、打点を挙げる際のバリエーションが増え「4番打者」として必要なスキルを身につけたように感じます。

例えば以下は、2017年と2019年における、福田の打点バリエーション割合を示しています。福田はそれぞれの年で打席数、本塁打数、二塁打数に大差ないものの、打点で17もの差がついています。

2019年に打点数を伸ばせたのは長打に頼らず、犠飛や内野ゴロでも打点を挙げられる状況に応じた打撃ができるようになったからだと考察します。

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また現在4番には「最強打者」ビシエドがどっしりと鎮座していますが、近年は広いナゴヤドームに適応したアベレージヒッター化しているため、より打席が多く回る3番として起用した方がいいのではと考えているのも理由の一つです。

福田が通年で昨季後半戦並みの成績を維持できるかどうかは蓋を開けてみなければ分かりませんが、個人的にはあの好成績は決してフロックではないと感じているので、今季は4番レフトとして30本100打点クラスの大活躍を期待しています。

また8番キャッチャーについて、ここでは私の「理想」を提案する形なので、木下拓哉を推してみました。

なにより打力でアドバンテージを取れる捕手であり、かつ総合力の高い守備力も兼ね備えているため、安定した出場機会を与えれば(+怪我無く一軍に居られれば)十分「正捕手」に値する成績を残せると感じています。

今春のキャンプではルーキー郡司や2年目石橋の若手コンビがアピールしている印象ですが、今後のオープン戦では彼らライバルに負けない活躍を期待しています。

パターン③与田監督プラン型: 「4番阿部」構想

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次に与田監督が就任以降打ち出した、打順に関するアイデアを考慮に入れた打順を考えてみたいと思います。

具体的には昨季多くの試合で実践した「1番平田」、上述の「2番高橋周平」、さらに「4番阿部」を実践するための打線を構築してみました。

▼えっ!? 4番に座ったのはビシエドじゃなく阿部…中日・与田剛監督が‘’聖域なき打順改革‘’に乗り出す「理想と現実は見極めていかないと…」
https://www.chunichi.co.jp/article/48551

ポイントとしては、阿部の後ろにビシエドを置いたことにあります。

阿部は秋季キャンプからより長打増に重きをおく「スラッガー化」を志向していますが、そこで不安視されるのは確実性がどの程度犠牲になるか?という点です。

そもそも阿部は昨季の規定打席到達者の中でもボール球スイング率がリーグワーストレベルで良くなく、ボール球の見極めに難がある打者です。それでも広角に打ち分ける打撃で高打率をマークしブレイクしましたが、より長打・引っ張り方向への強い打球を打つことを意識すると、ボール球の見極めが昨季以上におざなりになる可能性があります。

よって阿部のあとの5番に格落ちする打者を置き、相手投手が「阿部はボール球中心で勝負し最悪歩かせてもいい」くらいの気持ちで投げられるのが一番厄介です。なのでチーム最強打者ビシエドを5番に据えることで、「阿部を歩かせてビシエドを迎えたくないので、ゾーン内で勝負しよう」と「誘導」することが必要のように思います。

また上記で挙げたアイデアを実現しようとすると、どうしても大島を下位に置かざるを得ませんでした。

FA残留し2000本安打も視野に入れた彼を下位に置くのは現時点であまり現実的ではないかもしれませんが、

・より塁上で走者が詰まった状態で打席が回る6番では、パワーレスな大島でもポイントゲッターとして機能する
・出塁時に下位打線の方が積極的に足を使える、また塁上から盗塁のプレッシャーをかけることで打力で劣る下位打線の打者に球種を絞りやすくさせる

などの効果が期待できるので、状況によっては検討すべき手の一つだと考えています。

パターン④打球傾向&打者タイプジグザグ型: より攻め難いオーダーを目指す

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最後に、打球傾向、打者タイプを考慮した「ジグザグ打線」を提案します。

一般的にジグザグ打線とは右打者と左打者を交互に並べることで、左投手のワンポイント起用の効果を薄くさせるなどの効果があります。一方で、当然ながら「左投手に強い左打者」も多く存在するので、機械的にジグザグに並べるのも考え物だと思っています。

ということで打者の左右だけではなく、打球特性や打者タイプを考慮したジグザグにすることで、相手バッテリーに「攻めづらさ」を感じさせることを目的としたのがこの打順になります。

具体的には例えば「ゴロが多い出塁型の選手(例:大島、京田など)」を並べると、相手バッテリーにとっては警戒するポイントが大きく変わらないため、似たような攻め方を続けられる=相手に考えさせるステップを一つスキップさせてしまうデメリットがあります。

そこで左右だけでなくタイプの違う打者を交互に組むことで、より相手に考えさせる打順になるかと思います。

またフライヒッターとゴロヒッターを交互に並べることも、苦手なグラウンドボーラー対策になるでしょう。昨季はゴロを多く打たせる阪神青柳やDeNA平良に苦戦しましたが、その理由の一つがゴロヒッターが多い選手構成になっていたのが理由の一つだと考えられます。したがってフライを意識的に打てる打者を適切に配置することで、苦手投手に気持ちよく投げさせない、そもそも苦手投手を作らない工夫が重要です。

ちなみに平田と高橋の打球傾向にアスタリスクがついていますが、これは昨季のデータを振り返ると両者はゴロ打球の方が多かったからです。ただ彼らは過去のキャリアでフライを多く打つフライヒッターだった時期も長く、モデルチェンジを期待してフライ側の打者とカウントしています。

またそもそもフライヒッターが少ないことから、この想定では京田に変えて堂上をショートとしました。京田は今回の5つの打順パターンにおいていずれも下位打線の想定としていますが、いくら高い走塁能力を持っているとしても、肝心の出塁能力が低くては下位に置かざるを得ないと判断しています。

走力は上位打線を構築する上では考慮すべき重要な要素の一つなのは間違いありませんが、打数の多い1-2番ではなにより出塁能力が重要だと考えているので、昨季成績をベースにした場合この結果になったことをご理解頂ければと思います。

まとめ: オープン戦こそ様々な状況を想定し、複数の打順パターンを試すべき

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以上、5つの打順パターンについて提案してみました。

昨季は打順を固定することができず「猫の目打線」などと揶揄されることも多かったですが、よほどの対応力を備えた強打者が並ぶ打線ではない限りは、日々柔軟に打順を入れ替えることは決してネガティブなことではない、ということは協調しておきたいです。

また一年間同じ「理想の打順」で戦い続けるのは難しいですから、オープン戦では上記のような複数の打順パターンの検討に加え、主力選手が離脱したときのことをシミュレーションした選手起用・打順の策定を行うべきだと考えます。

例えばオープン戦で上位1-5番までを打つことが多い打者を日替わりで「敢えて外す」ことで、その際に組める最適なオーダーを試し、「空いた打順に代わりの控え選手をただ当てはめるだけ」のような最適でない打順の組み方を避けることに繋がります。

打順の最適化による得点力への影響は限定的との分析もありますが、慢性的な得点力不足に喘ぐドラゴンズにとっては、やれることは全部試す「人事を尽くして天命を待つ」スタンスが必要ではないでしょうか。

得点力不足の解消のために「2番周平」やそのほかのアイデアが実ることを、心から楽しみにしています。

以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!


データ参考:
1.02 Essence of Baseball
nf3 - Baseball Data House -

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