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左の変則派リリーバー・‪福敬登‬はなぜ右打者を「制圧」できたのか?

*2020/2/29 中日新聞プラスへの投稿分を転載

皆さん、こんにちは。今回は

「福敬登‬はなぜ対右打者に対し好成績を収めることができたのか?」

について考えてみたいと思います。

‪福敬登‬と言えば、昨季クロスステップ&サイド気味の変則フォームに改良することで好成績を収め、シーズン終盤にはセットアッパーとしての役割も任せられるなど、昨季中継ぎ投手として大きく飛躍した投手です。


▼2019 ‪福敬登‬ 投手成績
52試合 52回2/3 2勝0敗 18H 防御率2.05
奪三振 53 与四球 16 被本塁打 3


上記の通り素晴らしい成績を残したのですが、特筆すべきは当記事のタイトルにもあるように

「左の変則リリーバーにも関わらず、対右打者に無類の強さを発揮した」

点にあります。

以下は左右別の対戦成績ですが、右打者に対して圧倒的な成績を残していることが分かります:

対右: 被打率.158 (101-16) 奪三振 29 与四球 8 被本塁打 1
対左: 被打率.256 (90-23) 奪三振 24 与四球 8 被本塁打 2

左投手でありながらマークした対右の被打率.158は、50イニング以上投げた左の中継ぎ投手では阪神・岩崎優に次ぐ12球団2位の数字 (.146)でした。

それでは何故、左の変則リリーバーである福は右打者相手にこれほど圧倒的な成績を残すことができたのでしょうか。

いつもならデータをもとにあれこれ考察していくところですが、今回はまず直接ご本人から頂いたコメントをもとに考えていきたいと思います。

1. 対右打者の好成績の要因は何か?

そもそも今回このテーマについて取り上げたのは、CBCラジオ「ドラ魂キング」で月曜パーソナリティを務めるダイノジ大谷さんの以下のツイートがきっかけでした。

調子に乗ってたくさんの質問をDMで送ったところ、なんと両選手に対してひとつずつ質問を採用して頂くことに!

そのうち福選手に対して下記の質問を大谷さんにして頂き、以下の回答を得ることができたので、その内容について深掘りしていきたいと思います (以下2/24放送より引用):

大谷さん: 昨季阿波野コーチとともにクロスステップと腕を下げる投球フォームに変えて「左キラー」のようなモデルチェンジで大成しましたが、実際には対右打者への成績が極めて良かったのが印象的でした。対右打者への好成績の要因はなんだったと自己分析していますか?

福投手: そうですね、自分の中で右バッターが投げやすくてしょうがないですね、いまは。クロスステップして、左対右といえばやっぱり右の内角をいかに突けるかみたいなところがあると思うんですけど、その要は「右の壁」が意識しやすくなったというか、もうそこに投げておけば、綺麗に入ってくれるだろうぐらいの感覚で投げれるようになったので。

大谷さん: ご自身投げやすいということなんですか?

福投手: もう投げやすいです、はい。右のインコースには今のところかなりの自信があるんで。

短いコメントですが、対右打者攻略のカギはインコースの攻め方にありそうです。

実際に対右打者に対してどのような攻め方をしていたのか、下記の通り調べてみました。


対右打者への投球データ

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対右打者は、ストレートとスライダーが投球の柱でした。

通常右打者に強い左投手というのは、打者から逃げるチェンジアップや低めに落ちるフォークを武器としていることが多いです。福投手もスクリュー系のボールを持ち球にしていますが、投球割合は10%弱とさほど多くはないため、少なくとも昨季は決め球というレベルでは使っていなかったはず。

そのため、やはりご本人のコメントにもあった通り、右打者の内角を攻めるいわゆる「クロスファイア」が右打者攻略のカギでしょう。

上記表を見ると、右打者の内角への投球割合は5割近くを占め、被打率も非常に優秀なことが分かります。

また下記の記事によると、福投手のストレートは非常に回転数が高く、手元で自然とカットする球質とのこと。

福、緊急投入2死満塁の危機救う わずか1球で阿部を右飛に

そんな右打者の手元で食い込んでくる球筋のストレートを、内角へ厳しく投げ込めていたことが好成績の要因だと思います。

右打者の視点からすると、背番号が見えるほど投球腕を隠したフォームから、クロス気味に体へ向かってくるストレートが投じられるのですから、思っている以上に内角を厳しく攻められている感覚を覚えるのかもしれません。

クロスステップで打者から見づらいフォームを追求することで、逆に投げやすいコースが見つかるというのは面白い話です。一時は選手生命も危ぶまれるほどの怪我を経験しながらも、来たるべき時に備えて日々「工夫」を積み重ねてきたからこそ、辿り着いた感覚なのではないかと思います。

2. 2020年飛躍のカギは何か?

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次に、インタビューで話された今季の飛躍のカギについて見ていきます (以下2/24放送より引用):

大谷さん:2020年はまた更にその先にいきたいというのは?

福投手:そうですね、どんどん自分が19年で変化していったと思っているので、20年はもっと「好きなように変えれるようになりたい」ですね。バッターに対して、どこどこが苦手だからこういう変化で行こう、みたいな。

大谷さん:バッターによって投げ分けるような?

福投手:そうですね、それができたら一番かなと思いますね。

このコメントを解釈すると、まず「どんどん自分が19年で変化していった」はクロスステップへの変更や腕を下げるなど、少なくとも下記のような変化を指しているように思います:

①阿波野コーチのアドバイスのもと、クロスステップの構えに変更

②交流戦で見たオリックス・比嘉投手から着想を得て、左腕を下げる

③春先では140キロ前半だったストレートの球速が、夏場ごろから最速149キロまで向上

④9月あたりからカットボールを増やす

福が中軸3人斬り

昨季一軍定着後に大きな波もなく安定した成績を残せたのは、上記のような変化の賜物だと感じます。実用には至らなかった変化も含めて、数々の試行錯誤を重ねた結果が好成績に繋がったのでしょう。

一方で、今季のテーマとして話した「好きなように変えれるようになりたい」とは、打者の左右や打者のタイプ問わず抑えられるように攻め方のバリエーションを増やすことを指しているように思います。

上で示した対右打者の投球データに加えて、対左打者のデータも紐解いてみましょう。

対左打者への投球データ

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まず球種割合を見ていくと、半数以上を占めるストレートに加えて、左打者から逃げるように変化するスライダー、カットボールのほぼ3球種で勝負していることが分かります。

右打者に対し約10%の割合で投じていた、左打者に向かって変化するスクリュー系のボールは、左打者相手にはほとんど投げていないようです。

またコース別の投球割合を見ていくと、外角への投球がかなり多いことに気づきます。これは多くの左投手に共通することで、福投手も例外ではありませんでした。外角中心にストレートとスライダー・カットボールを投げ分けることが基本の攻め方だったようです。

改めて福投手の昨季の対左打者への被打率を確認してみると、.250と決して悪くはありません。ただ昨季成績からさらに飛躍するためには、対左打者の成績を向上させることくらいしか改善の余地がないとも言えるでしょう。

そこから考えると、福投手の目指す「打者のタイプに合わせて自在に攻め方を変える」ためには、左打者のインコースを攻めることはマストのように思います。

先ほど左投手の多くは外角中心に攻めていると書きましたが、当然打者によってはアウトコースを得意とする打者も多くいる訳なので、外角にしか攻め手がない場合は「この打者はどこどこが苦手だからこういう変化で行こう」と言った駆け引きができなくなります。

内角を突けなくても阪神・岩崎投手のように高めにホップして伸びるストレートなどで高低を使って攻められれば良いですが、前述の通り福投手は手元でカットする球質のため、ストライクゾーンの高低よりも幅を広く使った攻め方の方が現実的でしょう。

そこで重要になってくるのが、現在習得中だと報じられているツーシームです。

福「左打者の内角えぐる」 Jロッドから伝授のツーシームに磨き

福投手の強みである手元でカットするストレートとカットボールと対になるようなツーシームを習得できれば、どのタイプの打者が来てもストライクゾーンを幅広く使い、今以上にゴロアウトを量産できる投手になれると確信しています。

福投手が昨季以上に打者の左右問わず試合終盤を任せられる万能リリーバーになれれば、ロドリゲスの移籍で生まれたマイナスも最小限に留められるはずです。


以上、福投手の昨季の好成績の要因と今季展望について、ご本人のコメントから分析してみました。

普段は自分自身が抱いた質問や仮説に対して、選手ご本人から直接ヒントを得て分析を進めることなどまずできないので、今回私の質問を取り上げてくれたダイノジ大谷さんには心から感謝申し上げます。

本当にありがとうございました!

またいつか、今度は直接インタビューできる日が来るまで、毎日工夫と努力を積み重ねていきたいと思います。

以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!

データ参考:
nf3 - Baseball Data House -
データ参考: (株) 日本スポーツ企画出版社 『2020 プロ野球オール写真選手名鑑』
CBCラジオ ドラ魂キング

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