開幕前におさらいしたい!中日ドラゴンズ・又吉克樹のプロ野球人生
皆さん、こんにちは。今回は中日ドラゴンズのブルペンを支えるサイドハンド、又吉克樹投手のキャリアを改めて振り返ってみたいと思います。先日はTwitterアカウントの乗っ取りで計らずも話題になってしまった又吉投手ですが、これまでのキャリアを振り返りつつ、今季の展望についてnoteしていきます。
0. アマチュア時代: 内野の控えだった高校時代。投手に転向した大学時代が転機に
又吉克樹投手は1990年、沖縄県浦添市生まれ。西原高校時代はセカンドの控えだったとのことですが、コントロールの良さを買われ打撃投手を務めることが多かったそうです。
――本格的にピッチャーを始めたのは大学進学後だとか。最初からサイドで投げていたのですか。
又吉: 高校(沖縄・西原高)時代、本職はセカンドでしたが、コントロールがたまたま良かったので、1年生からバッティングピッチャーをやらされていました。毎日200球近く投げていると、上から放るのはしんどい。それでどんどん腕を下げてラクに投げられるところを探していたら、今のフォームになりました。
引用: [アイランドリーグ] 香川・又吉克樹「憧れの館山(ヤクルト)と同じ舞台へ」
高校卒業後は、「体育の先生になるから」と親を説得し、岡山の環太平洋大学へ進学します。親には内緒で入部した野球部では、元サイドスローの指導者の元で投手に転向。身長が伸びるのに合わせて、球速も入学前の110キロ台から140キロを超えるまでになるなど、飛躍的に才能が開花しました。
控えの内野手兼打撃投手として高校野球を終えた又吉は、岡山県にある環太平洋大学へ進学。2007年に開学した新しい大学で、「体育の先生になるから」と親を説得したという。内緒で入部した硬式野球部で出会った指導者が、元・サイドスローという運命の出会い。投手になることを決めた又吉にピタリとはまり、入学時120キロに満たなかった球速は、4年間で140キロを超えるようになった。
引用: 独立リーグ出身の中継ぎエース―「便利屋になりたい男」又吉克樹(中日)
大学4年時には、大学の2年先輩・亀澤恭平が所属していたこともあり、四国アイランドリーグplusのトライアウトを受験。見事合格者に選ばれると、2012年12月13日に香川オリーブガイナーズへの入団が決まりました。
高校時代は無名の控え選手だった又吉投手の、プロ野球選手としてのキャリアがついにスタートします。
1. 香川オリーブガイナーズ時代(2013年): 傑出した成績で1年目にリーグMVPに輝く
香川オリーブガイナーズでは、先発投手として活躍。最速147キロを記録するまでに球速アップしたストレートと、空振りを取る&カウントを稼ぐための2種類のスライダー、そしてシンカーを武器に勝ち星を積み重ねていきます。最終的には勝利数でリーグ1位、防御率は2位という好成績をマークすると、1年目にしてリーグMVPの栄誉に輝きました。
▼2013 又吉克樹 投球成績
24試合 13勝4敗 防御率1.64 131回1/3
上記の基本的な数字だけでも、十分先発投手として傑出した存在であったことが分かるかと思います。ただより又吉投手のパフォーマンスを詳しく理解するために、投手の真の実力を測るのに用いられるFIP*という指標やその算出に用いられる被本塁打、四死球、奪三振と言った指標から、その傑出度を掘り下げて見ていきます。
*FIP (Field Independent Pitching)
守備から独立した指標である被本塁打、四死球、奪三振から算出される。具体的な計算式は以下リンクを要チェック↓
防御率に代わる投手の評価指標FIPとは!
又吉投手のFIPは、リーグ平均の3.09を大きく下回る1.87でした。これは規定投球回に到達した投手の中ではナンバーワンの成績であり、イニング数の少ないリリーフ投手を含めても3番目の成績でした。
さらにFIPを構成する3つの指標を見ていくと、9イニングあたりの被本塁打数を表すHR/9は0.14でリーグ3位。三振割合(奪三振/対戦打者)は19.4%(2位)、四球割合(与四球/対戦打者)は5.6%(2位)と、すべてでトップ3に入るハイレベルな成績を残していました。
以下は規定投球回到達者の三振割合と四球割合をマッピングしたものですが、又吉投手が奪三振と与四球の両面でバランスよく好成績を残していたことが分かります。
入団1年目から圧倒的な成績を残した又吉投手は、皆さんご存知の通り、その年の秋のドラフト会議で中日ドラゴンズから2位指名を受けました。この又吉投手の2位指名は、2021年時点で独立リーグ出身者としては未だ最高順位での指名となっています。
2. 2014~2016年: 3年連続60試合登板とフル回転の働き
プロ入り後の又吉投手は、1年目から中継ぎ投手として即戦力の働きを見せます。開幕一軍入りを果たすと、4月6日巨人戦でプロ初ホールド、4月17日のDeNA戦ではプロ初勝利を記録。3-4月は防御率5.71と苦しみますが、シーズンが進むにつれてプロのレベルに適応すると、6月以降は月別の防御率が最も悪い月で9月の1.23と、ブルペンの一角として圧倒的な安定感を誇りました。
結局1年目は67試合に登板し9勝24ホールド、防御率2.21を記録。新人王こそ広島の大瀬良大地投手に譲りましたが、リリーフ投手としては質量ともに最高レベルの成績を残したといっても過言ではないでしょう。
続く2年目、3年目もリリーバーとして起用された又吉投手は、入団から3年連続で60試合以上の登板数を誇るなど、まさに大車輪の活躍を見せました。
2-1. 球種別成績から見る2014~2016年
入団してから3年、主にセットアッパーとしてフル回転してきた又吉投手ですが、その武器となったのはストレートとスライダーです。以下は球種割合や被打率、空振り率をまとめたものですが、又吉投手が如何にこの2つの強力な武器を頼りにしてきたが分かるかと思います。
投球の大半が140キロ台中盤のストレートと130キロ前後のスライダーで占められており、2015年には合わせて96%にものぼります。右サイドハンドから繰り出される威力あるストレートとスライダーのコンビネーションは効果的で、ツーピッチであっても1イニングの中で打ち崩すのは攻略が困難でした。
ストレートは被打率が、スライダーは空振り率が年々悪化しているのは気になるところですが、徐々にシュート・シンカー系球種の割合を増やしながら相手打者に慣れさせない工夫をしている様子が窺えます。そしてこのツーピッチの緩和という取り組みは、翌年の「先発転向」の際により影響することとなります。
3. 2017~2019年: 先発挑戦と低迷期
2016年のオフに監督に就任した森繁和氏は、入団から3年間中継ぎ投手としてフル回転した又吉投手の先発挑戦を明言しました。独立リーグ時代には先発投手として抜群の成績を収めていた又吉投手もその方針には意欲を示し、前向きに先発投手としての準備を進めます。
開幕時にはロングリリーフとして起用されるものの、開幕から約2週間が経過した4月13日のヤクルト戦でついにプロ初先発。勝ち星こそ付かなかったものの、8回を2失点に抑えるHQSピッチで最高のスタートを切りました。
プロ初先発から9試合連続で先発起用された又吉投手は、7試合でQSを記録するQS率77.8%、防御率2.63と抜群の安定感を披露。6月6日のロッテ戦ではプロ初完封も達成しました。
個人的にも又吉投手の先発転向は完璧にハマっている・・。素人ながらそう感じていましたが、プロ初完封の翌週の先発登板を最後に、又吉投手はリリーフに配置転換されてしまいます。その理由は森監督より「先発時に三振が取れないこと」と「対左投手への成績の悪さ」が挙げられていたようです。
▼2017 又吉克樹 条件別成績
三振割合 (K%)
先発時: 11.9
中継ぎ時: 26.4
左右別被打率
対右: .185
対左: .254
リリーフへの再転向を受け入れた又吉投手はその後シーズン終了までセットアッパーとして起用され、最終的にはプロ入りから4年連続となる50試合以上登板をクリアし、防御率はキャリアハイとなる2.13をマークしました。ただシーズンオフのテレビ出演時には、先発起用への熱い想いを口にし改めて先発投手としての起用を志願していました。
続く2018年は先発調整を続けるも結果が出ず、開幕後はリリーフとしての起用のみ。この年は打ち込まれることが多く、防御率6.53とキャリアワーストの成績に沈みました。
さらに2019年も中々一軍で結果を出すことができず自身最少となる26試合の登板に留まるなど、この2年間は先発投手としてはおろかリリーフとしても一軍戦力としてこれまでのように機能することができませんでした。
3-1. 球種別成績から見る2017~2019年
先発転向からリリーフへの再転向、さらにプロ入り後初めて経験する低迷期など色々あったこの3年間を球種別成績から振り返ると、球種割合の変化が最も大きな変化点だったと言えます。2016年に見られていた傾向がさらに強まり、2017年には先発転向しより球数少なくイニングを稼ぎたかったからか、ゴロを打たせる球種としてのシュート・シンカー系の割合が増えました。
さらに低迷期に入った2018年以降はより球種判定が複雑化していきます (小さく見づらいのは申し訳ありません・・)。これは又吉投手がこれだけ多くの球種を実際に操っていたというよりも、例えば苦手の左打者対策に球種を増やした、あるいは不調の原因として投球フォームが安定しなかったから球質も不安定だったことによる、変化や球速のばらつきによるものと推察されます。
この2年間の不振の原因がどこにあるのかは、明言し難いのが正直なところです。ただ考えられるとするなら、例えばキャリア前半の登板過多によるパフォーマンスの低下は無視できません。2018年以降もストレートやスライダーの球速自体は年々増加傾向にあることから、ボールの変化量や制球面で劣化があった可能性は考えられます。
またデータ面から挙げてみると、又吉投手の代名詞であったストレート&スライダーのツーピッチが対戦経験が積み重なることでライバルチームからも慣れられてしまったこと。さらに右サイドハンドの投手にとっては永遠の課題と言える「対左打者対策」が先発転向により浮き彫りになったことで、複数球種を試す過程で投球フォームを崩したことなども原因として考えられるでしょうか。
いずれにせよ又吉投手にとってこの3年間は、プロ野球選手として次のステップに進むための様々な試行錯誤を繰り返した、雌伏の時期だったと言えるかもしれません。
4. 2020年: 苦手の左打者を克服し、「便利屋」としてブルペンに欠かせない存在に
復活を期す2020年は自費でドライブラインのプログラムに参加するなど、動作解析もトレーニングに取り入れました。
科学的なアプローチを採用することで、今年こそ開幕から一軍戦力に返り咲くはず…でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い開幕延期が決定。さらに6月の開幕直後には左脇腹痛による離脱を余儀なくされるなど、先行き不透明なコロナ禍の中で出鼻を挫かれる形となってしまいました。
ただその後2ヶ月の治療と二軍での調整期間を経て、9月には一軍復帰を果たします。復帰後はまずBチームのリリーバーとして試合序盤のロングリリーフの役割を担いますが、好投が続く中で徐々にブルペンにおける役割も変化。主に谷元圭介投手が担っていた、イニング途中のピンチの場面で登板する「ストッパー」的な役割での登板も増えていきます。
シーズン最終盤になると、ライデル・マルティネス投手の離脱の影響もあり重要な場面での起用も増加。特にラスト10試合では8試合に登板し3連投、1日休んで4連投のフル回転でも無失点投球を続け6ホールドを荒稼ぎするなど、最後までAクラス争いを戦い抜いたチームのブルペンを陰で支えました。
最終的には2年連続で自己最少タイの26試合登板、投球回数はワーストを更新する26イニングと量的な貢献はできずに契約更改でもマイナス評価となってしまいましたが、9月の一軍復帰以降はまさにブルペンの「便利屋」として、あらゆるシチュエーションでの登板となりながらもキッチリと仕事をする姿が印象的でした。
4-1. 球種別成績から見る2020年
そんな2020年の又吉投手の球種別成績を見ると、ストレートとスライダーを合わせた割合が68%と自己最少に抑えられていて、ツーピッチからの脱却が急速に進んでいたことがわかりました。
さらにカーブの割合が14%と大きく増えていたのも印象的です。これまではストレートとスライダーのツーピッチを投球の軸に置きながら、逆方向に曲がるシュート・シンカー系をアクセント程度に織り交ぜる「ゾーンの幅を使う」投球術でしたが、2020年は球速の遅いカーブを積極的に活用することで奥行きを使う投球を実現していたように思います。
結果として投球割合の30%強を占めたシュート、チェンジアップ、カーブの3球種はいずれも被打率3割超えと単体で見ると効果的とは言い難いですが、割合を減らしたストレートとスライダーはいずれ被打率1割台&空振り率10%超えと、ルーキーイヤーを超えるレベルの好結果をもたらしています。
4-2. スライダーの高速化が対左打者成績改善の切り札に
さらに球種割合の変化に加えて成績良化のキモだったと言えるのが、スライダーの高速化です。これまで又吉投手の投球の大黒柱だったスライダーはキャリアを通じて130キロ前後の球速帯がほとんどでしたが、2020年は130キロ中盤から後半までにスピードアップ。その分大きく滑るように曲がるというよりは、打者の手元で鋭く変化するような球質に変わったような印象を受けました。
スライダーが高速化したことでもたらされた最大の恩恵は、課題だった対左打者相手に強くなったことです。以下は又吉投手の各年の左右別被打率ですが、プロ入り後初めて対左打者の被打率が対右打者のそれを下回りました。
高速化したスライダーが如何に対左打者相手に効果的に作用したか?については、以下のあおとらさんのnoteにて詳しく解説されているのでご参照ください。今回はこちらのnoteから一部引用してお伝えしたいと思います。
▼2020 又吉克樹 球種別球速分布
> 対左の投球は主にスライダー・ストレートで構成され、ストレートとの球速差は平均6.0km/hと比較的小さいようです。
赤色で示されたストレートと紫色で示されたスライダーの球速分布が隣り合っており、かなり近いスピードで異なる変化をしていたことが分かります。対左打者相手には、球速の近いストレートとスライダーを軸に、時折球速帯が離れたカーブを織り交ぜる緩急も駆使した構成となっていたようです。
▼2020 又吉克樹 カウント別コース分布
> 浅いカウントではゾーン内で広く分布しており、2ストライク時には打者の膝元を中心に投げ込むことで凡打を重ねています。
左のインに切れ込むような軌道でスライダーを活用できたことが今年の復調に繋がったことが推測されます。
高速化したスライダーの効果的な活用法は、打者のインコースを厳しく突くことにあったようです。前述の通りストレートと球速帯の近い、似たような軌道から鋭く変化するスライダーを内角に投じることで、打者の凡打を多く誘ったことが被打率1割台の好成績に繋がったと考えられます。
以上のように、「高速化したスライダーを近い軌道・球速のストレートと組み合わせ内角を厳しく攻めたこと」が、対左打者攻略のポイントでした。苦手の左打者を克服したことこそ、シーズン最終盤に勝ちパターンに返り咲くまでに復活した最大の要因だったと思います。
5. 2021年: ダルビッシュ直伝のチェンジアップを携え、正真正銘のAチーム復帰へ
最後に春季キャンプやオープン戦での情報を元に、2021年の展望についても掘り下げていきたいと思います。この春における又吉投手にまつわる話題と言えば、MLBサンディエゴ・パドレスに所属するダルビッシュ有投手からチェンジアップを教わったことが挙げられます。
以下のインタビューにて答えていたところによると、ダルビッシュ投手のサプリを紹介したことがきっかけでLINEを交換し、落ちる変化球のアドバイスをもらうようになったそうです。
この又吉投手の新球・チェンジアップは、特に対左打者相手に空振りを取るボールしてかなり機能するはずと思います。上記の動画の中では「対左打者にゴロを打たせたい」とその活用法について語っていますが、左打者から逃げるボールの精度が高まることで、三振増の効果も期待できます。
前項では昨季の又吉投手は、「左打者の内角を高速化したスライダーで厳しく攻めることで被打率改善を達成した」と書きましたが、一方で対左打者の三振割合はキャリアワーストの成績となっていました。
打者に対して入ってくるボールをメインにすることは凡打が増える一方で、コースが甘く入ればファウルで粘られてしまうことで三振増には寄与しなかったのだと考えます。今季は左打者から逃げる高精度のチェンジアップの割合を増やすことで、リリーフ投手にとって重要である奪三振増も成し遂げられそうです。
今季の起用法がどうなるかはまだ未知数ですが、リリーフに専念するにしても昨季までのようにあらゆるシチュエーションで登板する「便利屋」に終わるとは、個人的にはとても思えません。今季は高速化したスライダーとダル直伝チェンジアップのコンビネーションを武器に、打者の左右に限らず高いゴロ率&三振割合を記録するハイレベルな投球が期待できます。
与田剛監督も勝ちパターンの投手の負担軽減のため、Aチームを2パターン用意する「ダブルAチーム構想」をぶち上げているだけに、又吉投手には入団当初のようなセットアッパーとしての活躍も期待したいところです。
5-1. 球種別成績から見るオープン戦
最後に、3月17日時点のオープン戦3登板までをまとめた球種別成績を振り返ってみたいと思います。以下表ではスライダーは高速スライダーを、チェンジアップはフォークも含んで投球割合を算出しています。
わずか3試合、3イニングのみの投球ですが、無安打無失点と完璧な投球を披露しているようです。新球・チェンジアップの活用は未だ控えめですが、これからどのようなコンビネーションで打者を制圧していくか楽しみで仕方ありません。今年はシーズンを通して又吉投手の投球に注目していきたいと思います。
おまけ: 又吉"広報"のバズったツイートTOP5
又吉投手と言えばTwitterでの広報活動・・ということで、おまけに又吉投手の過去のツイートからいいね数が多かったTOP5ツイートを勝手にランキング形式で発表します笑
どのツイートが1位になるか、予想しながらスクロールして行ってください!
第5位: 松井雅人選手の惜別ツイート (1.3万いいね)
第4位: 大野雄大選手のノーヒットノーラン達成 (1.6万いいね)
第3位: 松坂大輔選手とキャッチボール (1.7万いいね)
第2位: 浅尾拓也&野本圭両選手の引退惜別ツイート (1.7万いいね)
第1位: 大野雄大選手のノーノー達成・別バージョン (1.9万いいね)
まさかの大野投手のノーノー関連のツイートが二つもランクインする意外な結果に・・笑
今後も選手としての活躍だけでなく、Twitterでの積極的な発信からも目が離せませんね!
以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!
■データ参考:
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