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サッポロカイギュウを鮭の切り身にした

先日、札幌の街中にある水族館のAOAO SAPPOROで「古生物をかいてみよう」のワークショップがあった。「北海道絶滅動物館」出版記念の特別プログラムだ。作画担当、札幌在住のボールペン画家・浩而魅諭(ひろじ みゆ)さんを招いて、古生物のお絵かきをするとのこと。


参加のきっかけ

以前テレビ番組で「北海道絶滅動物館」の作画についてのドキュメンタリーがあった。浩而さんが骨格標本を観察し、復元図を描いているシーンが印象に残っていた。てっきり、研究者のオーダー通りに描くだけ、ラフやイメージは研究者で清書はイラストレーターが、のような分担を考えていたので、研究者ととことん議論し、探求して描いていることにとても驚いた。

「北海道絶滅動物館」
カムイサウルスからデスモスチルス、サッポロカイギュウ、ナウマンゾウまで45種の古生物を、全道各地の博物館学芸員が最新の研究成果をもとに解説する。札幌在住のボールペン画家・浩而魅諭さんが120点あまりの絵でその姿や陸や海の環境を再現。約7000万年前から現在までの北海道の成り立ちや古生物たちの秘密がわかる!

北海道新聞社の本「北海道絶滅動物館」


その方のお絵かきプログラムということで気になったのだ。

私は今、自分の興味や好きなことがわからなくなっている。発端は仕事、転職関係での悩みだったのだが、自分の軸が不明瞭な状態が浮き彫りになり、仕事やプライベート関係なく、自分を見つめなおす必要がでてきた。
そのため「ちょっとでも気になったらやってみよう」と思って行動をしているところである。普段だったら、気になっても「子どものためのイベントじゃないかな」とか「一人は浮くんじゃないか」とかまぁ色々不安になって(理由をつけて)、踏み切れない。でも、今回はチャレンジ期間中なので、行くぞおぉと自分を鼓舞してがんばったのだった。

当日

当日、受付開始時間より数分遅れて到着。もう定員になっていたらどうしようと思いつつ、スタッフさんに「大丈夫ですよ」と言われて着席。
テーブルには鉛筆と消しゴムとボールペン。

「古生物をかいてみよう」なので、復元図の話とかを聞きながらなのかなと思いながら、開始時間まで待つ。子どもから大人まで、グループから私のような一人での参加まで幅広いメンツが待っていた。

時間になり、浩而さんが登場した。60分のプログラム。生き物を一から描くのは時間的にも大変なので、生き物の絵が薄く印刷された用紙(薄い線画)に好きに描き足していくというものだ。古生物がテーマなので、昔々にいたゾウ(マンモス?)やキョウリュウ、サッポロカイギュウ等の種類から選べた。線画に背景等はなく、生き物の周りの余白も広い。

浩而さんはオープンキャンパス等でもお絵かきワークショップをしていて、例えばゾウの線画でも、ロボットのように描き込む人、生き物や植物を足してアフリカの風景を描く人、巨大なケーキを食べるゾウにする人、骨格を描いていく人など様々だと紹介があった。お絵かき教室でも生き物を正確に描くための会でもないので、好きに描こうということが強調された。

今回のワークショップで初めて用意されたのがサッポロカイギュウの線画とのことで、私もそれを選んだ。

サッポロカイギュウって?

ここで、教えていただいたカイギュウについて少し記す。

カイギュウは漢字で書くと海牛で、ジュゴンとかマナフィーとか、海にいる哺乳類、草食動物だ。昆布を食べていたらしい。

サッポロカイギュウは、札幌で骨が発見されたことからサッポロカイギュウと名がついた。ワークショップ会場のAOAO SAPPOROでも骨格が展示されている。

でも札幌市って海はないよね?昔は川がとても大きくて、カイギュウが鮭のように遡上したの?と不思議に思った。

その昔(800万年前)、札幌は海だったそうだ。その後海底火山の噴火とかで150万年前頃に陸地になったとか。もうスケールが大きすぎてわからない。ちなみに手元にあった本によると、初期人類(ホモサピエンスではない)が火を使い始めたのは140万年前。わかるようなわからないような。

とにかく札幌の場所が海だった時代にいたカイギュウがサッポロカイギュウ。その線画を描いたり塗ったりするのが今回のミッション。

(参考)サッポロカイギュウについて、詳しくは札幌市のHP
古沢博士に聞いてみよう!その1~カイギュウってなーに?~

(参考)人類が火を使い始めた時期は、こちらの本
ビジュアル 1001の出来事でわかる世界史
この本、生命の誕生も文化も戦争も科学の発見も全部「地球上で起きたこと」で一括りにして時系列順で並べている(国ごとに分かれていない!)のでとても面白いです。おすすめの本第一位。

お絵描きスタート!だけど……

隣の人はさっそくボールペンでカイギュウに模様を描き込んでいる。反対の隣の人はスマホに何かを表示させて見ながら描いている。向かいの人は「かけないから塗ろう」と色鉛筆で広範囲をシャーッと塗りだした。私はどうしようと悩む。カイギュウって白か灰色のイメージ。でも今回、塗り絵をするのは趣旨ではなさそう。鉛筆とボールペンだから描き足したい。浩而さんのボールペンまねしたい。やってみたい。でも何を……。
浩而さんが「カイギュウは昆布食べていたんですよ」と言っていたのを思い出した。

昆布→出汁→おいしい

と思いついた(単純すぎる)ので、カイギュウで出汁を取っているところにしよう、と鉛筆をつかむ。
しかし、出汁をとっているところを描き足す……?鍋(器)を描いてみるが、シーンがよくわからない。

おいしい→食べよう

と、調理中は難しいので、食べるところ、箸でつまんでるところだったら描けるか?と、カイギュウの体に箸を描き足す。それっぽくなった。

「箸でつまんでる!」

と、参加者一人ひとりまわってお話していた浩而さんに言われる。箸だとわかってもらえて嬉しい。

「なんだか可哀想になってきた」 ともコメントをいただく。このカイギュウ、絶滅した要因が人間で、おいしいし捕まえやすいしで乱獲されて滅んだんだそうだ。なんてこった。紙の上で再度絶滅の危機である。このままでは後味が悪い。

サッポロカイギュウの子孫にあたるステラーカイギュウが、人間に発見されてわずか27年で根絶したとか。人間って……。
(参考)サッポロカイギュウの絶滅、根絶について札幌市のHP
古沢博士に聞いてみよう!その2~カイギュウの進化~

後味が悪いのは嫌なので、せめてシュールにしようと思った。胸のあたりから尾のあたりの形が魚の切り身にも似ているので、切り身にしてしまうことにした。サッポロだし、鮭にしよう。皮を描いて、黒っぽい部分はボールペンで線を重ねて……。

「切り身になってる!」

再び回ってきた浩而さんに楽しそうに反応していただいたので、こちらも楽しい。鮭っぽくするためにオレンジ色に塗ってしまおうとアドバイスをいただき色塗りに移った。
テレビで、色は濃く塗るとか複数の色を重ねようとか言ってたなーと思いながら色を重ねる。

タイムアップ

完成したのがこちら。

鮭の切り身なサッポロカイギュウ

お椀に入っているのは、鮭にする前に、出汁にしようとか出汁だからみそ汁にしようとか考えた痕跡。

他の参加者の方はというと、隣の方はカイギュウに綺麗な渦模様を描き、ほかの古生物も描いて太古の海になっていた。反対の隣の方はカイギュウを葉に見立てており、葉になったカイギュウを見上げる構図がとても幻想的だった。ほかにもカイギュウを北海道の形に組み込んだ方、色の海を泳がせた方、などなど様々だったようだ。

何を描いても肯定していただけたのが、本当に楽しい。自分の描いた絵をこんなに大事に思えたのいつぶりだろう。

終了後

終わった後、カイギュウを葉に見立てていた方に声をかけていただいた。教員をしているので、私が切り身にしたカイギュウを写真に撮って、資料に使いたいとのことだった。ちょっと照れくさいが、どうぞどうぞと答えた。

こうして周りに声をかけられるのすごいなぁと思った。何か話したいなと思ったが、私は何も思いつかないのだ。この出会い、なにかもうちょっと話したいと思うのだが、なんも思いつかないのだ。で、そわそわしながらその場に居続けてしまう。これどうすればいいんだろう。

「北海道絶滅動物館」をその場で購入し、サインを入れていただく。次に並んだちびっこが、浩而さんや先生(カイギュウの研究者!)に質問をしていた。ちびっこは古生物が好きなようで、会話を聞いているだけでほんわかした。

よし、と勢いつけて参加してよかった思う。出だしは不安になったが、そのあとは楽し~!で進み、楽しかった~!で終わった。行動的には参加できたことが第一歩。お絵描きは楽しい。古生物も面白い。サッポロカイギュウも名前は知っている気がするから知っている生き物になった。人より秀でることや仕事にするまでにはできないけど、お絵描きや生き物も私の好きなものだ、と安心もした。

家に帰って思い出したこと

私のサッポロカイギュウはおいしそうの連鎖で最終的に鮭の切り身になったが、そういえば、キャラクターの「ジンギスカンのジンくん」や「嶋田マートの豚」も好きだったなぁと。生き物と食べ物のシュールさが好きなのだろうか。(カイギュウだと鮭の切り身でなく焼肉にしないといけないが)

ジンギスカンのジンくん
ジンギスカンを応援するゆるキャラ。ビジュアルの説明をすると、ジンギスカン鍋を帽子のように被っていたり、鍋の上に乗っていたりする子羊(ラム)。詳しくは公式サイト「ジンギスカンのジンくん
嶋田マートの豚(と私は勝手に呼んでいる)
バレーボール漫画「ハイキュー!!」に登場するスーパーマーケット「嶋田マート」のキャラクター。輪切りにされた豚である。公式画像見つけられなかったので、気になる方は検索してみてください。「嶋田マートの豚」で出てきます。

サッポロカイギュウの鮭の切り身、気に入ったので、自分で一から描いて、名前をつけてみよう、と、やってみたいこともみつかった。

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