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アイ・ジャスト・ウオント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー/マディ・ウオーターズ I Just Want To Make Love To You / Muddy Waters

ある日、H市の営業回りの最中にHR商会というレコード屋さんに寄りこんだ。
ここのお兄さんが、ブラックミュージックに精通していて、東京の俺が通っていた駅前のレコード店にも行ったことがあるという。
共通の話題が見つかった。
正直帰郷してからは音楽の趣味が合う人と出会うことはあまりなかった。
少し欲求不満が募っていたときだったので余計嬉しかったのかもしれない。
このお店を切り盛りしていたO城さんにはソウル、ファンク、ブルース、ジャズなどのブラックでファンキーな音楽をご教授いただいた。
ずっとロック、ニューウエイヴ一辺倒で来ていた自分には刺激的なものばかりだった。
この頃ニューウエイヴ勢にもロック離れの現象が起きていて、ソウルやファンクへの接近が行われていた。

彼らに言わせれば
「ロックでなければ何でもいい」
ということらしかった。

その流れもあって一気にブラックミュージック好きになっていった。
ブラックミュージック特有の肉体性は、今まであえて避けていたこともあって、より新鮮な驚きをもたらしてくれた。
特にアトランティックのソウルとCHESSレーベルのブルースはかっこよかった。

当時エリック・クラプトンの「アンプラグド」が爆発的にヒットしていて、ブルースのカッコ良さに気付きつつあったが、それは表面的なものだったらしく、本来の黒人ブルースはもっとドロドロしていておどろどどろしいものだった。

O城さんは「ブルースは泥沼だから俺君は手を出しちゃだめだよ」と、
とてもレコードを売ることを商いにしている人とは思えないアドバイスをしてくれた。
今思えば、そういうと却って聴きたくなるという俺の性格を逆手に取った高等戦術だったのかもしれない。
そのお店は壁際にお客さんが取り置きしているレコードが並んでいた。
ブルーノートの再発盤100枚とかCHESSのカタログ50枚とか。
再発シリーズを全部まとめて買う人が多かった。
「これいっぺんに買うんだ、すげえな」と思ったが次に行くと無くなっていたからみんなちゃんと買って帰っていったんだろう。
今見たらよだれが出そうになるレコードがたくさんあったが、
簡単に手を出さなかったおかげで入口は覗いたものの、ブルース廃人にはならなくてすんだ。

人の忠告は聞いておくものだ。


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