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韓国ノワールの傑作「新しき世界」を見て

「新しき世界」は間違いなく韓国ノワールの大傑作だ。

「ただ悪より救いたまえ」が公開されたときに、この作品の名前が何度も上がっていた。
そりゃそうだ。主演の二人が同じだもの。
パク・ジョンミンを目当てに「ただ悪より~」を見て、面白かったので
作品への理解が深まるかなと思ってずっと気にしていたのが「新しき世界」。
(実際は同じ人が出演してるってだけで全然関係ない。監督も違う。)

私はファン・ジョンミン先輩(あえてこう呼ばせてほしい)がどうしても見たくなる時期が定期的にやってくる。
そういうときは決まってフィルマークスや、登録しているサブスクで作品を探す。
で、なにも見ずに閉じる。
なぜか。
「新しき世界」が見たいからだ。
私が現在登録しているサブクスでは「新しき世界」を見ることはできなかった。
先日、またファンジョンミン衝動が来て、また作品探しの旅に出たが、
相変わらず「新しき世界」は見放題配信されていない。
しかし、そろそろ我慢も限界に近いので課金覚悟で見ることを決心。

前置きが長くなったけど、この先ネタバレめちゃめちゃしてるので、
未視聴&ネタバレ苦手な人は要注意!

観たい気持ちを我慢してると自分の中で期待値がどんどん上がっていって
実際見てみると「あれ?」ってなってしまう現象があると思う。
「こんなに温めた作品があんまりだったらどうしよう」という恐怖。
繰り返し見た予告編で大丈夫そうだということはわかってたけど、
あれがすべてだったらどうしよう。
「新しき世界」をすぐに見なかった理由はこれも一因している。

鑑賞前に抱いていたそういった恐怖は全くの徒労だった。
「新しき世界」はインフレを起こしまくっていた私の期待値をはるかに凌駕する大傑作だった。
観終わってしばらく経った今でもまだ興奮してる。

国内最大勢力の暴力団。
そこに8年間潜入捜査を行っている警察官のジャソン。
そんなジャソンを本当の兄弟のように強い信頼を寄せてくれている組織No.2のチョン。
ジャソンに潜入捜査を命じ、組織を一網打尽にしたいカン課長。
カン課長、ひいては警察組織への忠誠とチョンとの義兄弟の絆の間で揺れ動くジャソン。
そんな中、組織のトップが突然死去したことによって後継者争いが勃発。
カン課長はこれを機に組織の粉砕を目論み、「新世界プロジェクト」を発動する。
というストーリー。
平たく言えばヤクザの権力闘争に警察が介入する話なんだけど、そんな枠には収まりきらないほど、いろんな感情が集まる話。

「イカゲーム」で一躍世界的トップスターとなったイ・ジョンジェが
二つの間で揺れる警察官を見事に演じていた。


ジャソンがとあるシーンで絶体絶命になるんだけど、その怯え方は演技という範疇を超えていた。
「自分の正体がばれたらこうなる」
という恐怖感は手の震えや脂汗、表情など細部にいたるまで「ホンモノ」だった。
あんなに真に迫った演技は見たことないと思う。
まさに神がかった演技だった。

ジャソンを潜入させ、内部情報を探るカン課長は名優 チェ・ミンシクが演じていた。


こちらも素晴らしい演技で、ともすれば「お前こっち側(ヤクザ側)だろ」といいたくなる言動の中に人情を見せてくれた。
ジャソンの目線で見るとカン課長は「自分を利用する嫌な奴」という風に映る。
ジャソンを8年も潜入させ、任務の終わりが見えてきたころに新しい任務を命令する。
そのうえ、ジャソンが寝返った場合真っ先に狙われるのは自分だからとスパイをジャソンの妻として送り込む。
内部抗争を激化させるためにチョンとジュングを焚き付けて抗争を熾烈なものとする。
ここだけ見るとどっちがヤクザかわからない。
しかし、予告編や煽りではジャソンにとってカン課長は”父なる存在”として書かれている。
ではどのあたりが”父なる存在”なのか。
なかなかわかりにくいがカン課長はきっと部下思いで人情味のある人なんだと思う。
連絡係としてジャソンとともに潜入していたシヌの身元がばれ襲撃を受けた際。最後のお願いとして「禁煙」を勧められた後
コ局長との食事シーンでたばこを勧められた際に発した一言。
「たばこをやめたんだ」
このセリフでカン課長の中にいる”人間”が見えた気がした。
口が悪い人はあまのじゃくで不器用な人が多い(と思う)から、カン課長も危険な任務に就いている部下に対して心配と申し訳なさを強く持ってるけど
どういう風に表現すればいいのかわからなくてああいう態度になったのではないかと思う。
シヌさんはなんとなくそういう性格なんだってこと気づいてるのかなって思ったけど、ジャソンには全然伝わらなくて反発されたところに元来の性格が災いしてあの結果なのかなと思う。
(ジャソンは正直それどころじゃないから言葉を推し量ることなんてできなかったと思う)
最後、死ぬシーンはかっこよかった。
「全く勝ち目がないな」
逃げようともせず、ただ一言発したあの顔は安堵感のようなものも見えた。

組織序列2位でジャソンの兄貴分であるチョン・チョンを我らがファン・ジョンミン先輩が演じている。


正直これを超えるキャラクターはなかなか生まれないんじゃないだろうか。
素晴らしい設定と脚本、それにファン・ジョンミン先輩の卓越した演技が見事に合わさって非常に魅力的な”理想の兄貴分”として昇華された。
まず、初登場シーンから最高。
真っ白のジャケットにスリッパ。(多分飛行機内で配られたやつっぽい)
この一瞬で大体どんな感じの人なのかわかる。
同じ華僑出身のジャソンを「ブラザー」と呼び、偽物のブランド品を渡してみたり、何かにつけてちょっかいを出す様子はノアール映画だったことを忘れてしまうほど微笑ましい。
それほど、ジャソンのことを溺愛し、ジャソンもまたチョンチョン兄貴を敬愛していることを印象付けられた。
話が進んで警察が潜入していることが分かり、そのなかにジャソンがいることを知った後でも、ジャソンだけは粛清せず何もなかったようにそばに置くところを見て、一つのミュージカルを思い出した。
「ファンレター」という韓国オリジナルのミュージカル作品の中に「ヘジンの手紙」というナンバーがある。

「ファンレター」はめっちゃめちゃ簡単に言ったら
ファンレターを送ってきてくれた会ったことない人を好きになったら、それが実は自分の書生だった、という話。
この「ヘジンの手紙」の歌詞にこんな言葉がある。

그게 누구라도 편지의 주인을 나는 사랑하지 않을 수 없다
(それが誰でも 手紙の主を 私は愛さずにはいられなかった)

全然違う作品だけど、ジャソンとチョンチョン兄貴の関係性を表すのに
ぴったりな言葉だと思う。

チョンチョン兄貴は最期までかっこよかった。
カン課長の策略でジュングの部下に襲撃され、生死にかかわる大怪我を負ってもなお、敵を煽る気概。かっこよすぎる。
おなかをめった刺しにされてるのにそんな風に煽ってきたら私だったら怖くて刺せない。
病院に搬送されてもジャソンに
「そろそろお前の生きる道を選べ。」
「強く生きろ」
と思いやる言葉をかけたりと、悩める弟分を最期まで兄貴分として向き合う姿が理想的な兄貴でとても美しかった。
私は女だけど、チョンチョン兄貴は男性の方がより好む兄貴だと思う。
あんなかっこいい兄貴、誰だって惚れちまうさ。

チョンチョン兄貴はほんとにめちゃめちゃかっこいいんだけど、
私の語彙力では表現しきれないから、
「どんなものかしら?」と思った方がもしいたらぜひ鑑賞してほしい。
得はあっても損だけは絶対ないと思うし、そこが沼の入り口だから。

最後にこれだけで見て。

「人質 韓国トップスター誘拐事件」を見に行った時に売店に売ってた
”ファン・ジョンミンを応援しようセット”のうちわ
「いつか使う時が来るかもしれないから」と思って買っておいたんだけど、
ほんと買ってよかった。

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