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岸田首相のCOP28演説〜明かされる日本の化石燃料依存

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また今年も気候変動を話し合う国連の会議「COP28」が幕を閉じた。
その最終結果は評価する者の立場によってガラリと異なるだろう。気候アドボカシーに尽くす人や、気候変動の悪影響に晒される島国の住民なら、化石燃料「フェーズアウト」という言葉の記入が見送られたことは国際交渉の致命的な失態に思えるだろう。

その反面、「化石燃料からの転換」、「損失と損害」基金の成立、世界での再エネ発電キャパシティを3倍増加、エネルギー効率化を2倍増加などの合意は、コンセンサスと妥協が重んじられる舞台における大成功だと受け止める見方もある。

(COP28の合意を復習したい方にWWFジャパンの解説をおすすめする)

ここではCOP28の一側面、岸田首相のスピーチに目を向けてみたいと思う。

岸田首相は、第一週目の「首脳級ハイレベル・セグメント」での演説で、「排出削減対策の講じられていない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了していく」と宣言した。しかし、この方針の内容ほぼ全てに問題がある。
岸田首相が公表したこのコミットメントの内容を詳しく見ていこう。

「排出削減対策の講じられていない」

まず一つ目は、「排出削減対策の講じられていない」(英訳:Unabated) である。気候変動に関する専門用語では、「排出削減対策の講じられていない」発電所とは、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術を用いて排出量を削減している発電所のことを指す。

排出削減対策の講じられていない化石燃料を段階的に廃止していくことは、実に望ましいことに聞こえるだろう。だが、発電所に適用されるCCUSの回収率は一貫して期待外れで、再エネが最も安価なエネルギー源であり続けるこの時代に、単に化石燃料を維持するためにCCUSに莫大な補助金を投じることは、到底意味をなさないだろう。米国の気候変動活動家であるビル・マッキビンが先日述べたように、CCUSはまさに「化石燃料産業によるここ10年間の詐欺」なのだ。

また、岸田首相が言及した「排出削減対策が講じられていない」のもう一つの問題は、日本政府はこれを一度も明確に定義したことがないことだ。日本政府が発表した資料から判断する限り、CCUSと共に、石炭とアンモニアや水素の混焼といった、「ゼロ・エミッション火力」を削減ソリューションと見なしていることは間違いない。しかし、国内最大のエネルギー企業JERAが示すように、こうした技術は依然として商業的に実証されていないのが現状。つまり、排出削減対策が講じられていないも同然なのだ。

「新設」

岸田首相の演説におけるもう一つの抜け穴は、「新設」条項である。外務省関係者が認めたように、首相の公約は日本国内で稼働中の171基の石炭発電所および建設中の2基の石炭発電所には一切触れないというわけだ。

「国内」

続いての危険信号は「国内」だ。言うまでもなく、国内の一次エネルギー供給の10分の9近くを化石燃料が占める日本には、火力発電所を維持するための強固な動機があることは確かだ。しかしもう一つの理由は、海外での大規模な石炭とガスの資金調達なのだ。

日本企業は石炭産業において世界各地に進出している。三菱、三井、JERA、IHI、J-POWER、伊藤忠商事、関西電力、および住友商事を合わせると、日本国外で50基もの石炭発電所に出資していることが分かる。

政府はこうした民間の取り組みを支援するために大きな役割を果たしてきたことも確かだろう。かつて日本の公的金融機関は、化石燃料への世界的な資金提供国のトップを占めていた。そして、数多くの国が2021年に化石燃料への公的投資を停止することに合意した後も、日本はウズベキスタン、インド、インドネシアにおけるガスプロジェクトに資金を提供し続けており、その額は少なくとも646億円に上ることが明らかになっている。

政府の国際的な化石燃料支援は、岸田首相が昨年アジアの他の10カ国と共に成立したアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)という形でも展開されている。このフォーラムを通じて、経済産業省は、日本企業の開発するアンモニア混焼やCCUSのような化石燃料関連技術の市場を創出することを目指している。

「石炭火力発電」

最後になるが、間違いなく重要な点として、岸田首相が段階的廃止のコミットメントを石炭火力発電所のみに限定したことが挙げられる。かなり意図的に言葉を選んでおり、石油やガス火力の段階的廃止は棚に上げられている。
天然ガスおよび液化天然ガス(LNG)は特に重要な存在だ。日本は世界有数の天然ガス消費国であり、中国に次いで第2位のLNG輸入国であることを念頭に置いておきたい。1969年にアラスカから日本へ初めて輸送されたLNGは、1970年代のオイルショック以来、もはや日本にとって生命線となっているのだ。今後、政府は2030年までにLNGへの依存度を低減させる計画であるが、決して段階的にLNGを廃止するわけではないと言えるだろう。

出典:資源エネルギー庁

それはつまり、海外でのガス生産に依存することを意味する。ロシアがウクライナへの侵攻を開始した後でさえ、三井物産と三井菱は引き続き、それぞれロシアの「サハリン2プロジェクト」の12.5%と10%を所有している。また、日本企業のコンソーシアムは、米国による最近の制裁決定にも関わらず、「アークティックLNG2プロジェクト」に固執し続けているのも事実だ。さらに、日本最大のLNG需要家の一社である東京ガスは、今年の夏にG7がガス投資に対する抜け穴を設けたことで、アジアおよび米国で上流ガス資産を継続保有することを奨励した

これこそが政治家や政策立案者の公約の力なのだ。公約には法的拘束力はないものの、業界関係者に現状維持を良しとすることを暗示するものである。仮に経営者や投資家が気候変動に対して懸念を抱いていたとしても、政治家の頷きは化石燃料への投資を後押しし、抵抗したくてもしにくい市場環境を形成する。

代わりになすべきこと

では、岸田政権は代わりに何をすべきなのだろうか?明らかな第一歩は、エネルギー安全保障を守るということは、化石燃料を輸入し続けるということと同義ではないと認めることだろう。これまで幾度もの研究結論づけているように、日本にはエネルギー需要をほぼ全て賄えるだけの再エネの潜在力がある。これを受け入れた上で、日本はすべての石炭火力発電所を段階的かつ迅速に廃止し、また再エネ導入を加速させるための綿密なロードマップを策定すべきだ。今年のCOPでは、116ヶ国が再エネ容量を2030年までに全世界で3倍に引き上げることに合意した。日本は自国でもこの合意に応じることができるはずだ。そして最後に、岸田首相は単に海外における化石燃料への公的資金提供を停止するのではなく、日本国内の輸出信用機関や開発銀行に対して、世界中の再エネ開発への資金提供および技術的ノウハウの注入を命じることができるだろう。

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