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坂の上のあなたへ

お天気の良い日。

良くも悪くも、今日も職場はバタバタと忙しい。

そんな晴天の午後、ボスと実調に出かけた。なんと、歩いて。

坂の上の方ある病院でその人とその人のご家族とケアマネさんが待っていた。

最近のご様子からすると、『もう、そんなに長くはないと思います。』とのこと。90歳を超えてご飯もほとんど食べられなくなったと言う。よくある開口不良のタイプの食欲不振の方だ。

すんなりうちのホームにいらっしゃるのか?と思いきや、色んな迷いがある様子。

この話はまとまらないなと思った。

早く出て行ってくれないと困るからお渡ししたいのですと思っているスタッフの方々と、ここに来て在宅に切り変えようか?でも、家で看れるんだろうか?と思うご家族様と。
そして『良いから早くうちに来て』と思うボスと。

ただ空中を見詰めているご本人と。

いらしてもすぐにお別れすることになるかも知れないと思いつつ私はじっとその人を見詰めていた。

何か、言えよ という空気が周りを取り囲んでいる。

そこでボスには悪いけれど、一旦ご家族様がご希望される多くの道のうちの一つ。転院でも良いのかも知れないと思った。
今よりも大きな病院で検査をしてみたいという思いがあるらしいのだ。
そうして見ても良いのではないか?と思った。

もしも何も見つからなくて、これが純粋に老いによる食欲不振だと分かれば、うちの施設でやれることは山ほどある。

何とも答えがハッキリ出ないまま、ボスと帰りの下り坂を歩いて帰った。

利益にならない態度を取っていた私に怒ったかな?とも思ったが、その帰路で、ボスは『実調って好きなんだよね。』と言った。『やっぱり、色んなことを考えるし、色んな人に会えて視野が広がる。』と。

一つの施設に閉じこもって、先ごろ頭を悩ましている下らない些細な出来事を一旦離れ、純粋に一人の人のことを考えられる時間。

元々は相談員だった施設長が原点に返る時間なのかも知れない。
私はと言うと今の我が施設を思うと『早く、うちに来なさい。絶対間違いないから。』とも言えないので、ただただ同行しているだけのつもりなのだが。

ふと気が付くといつも複数の顔がこちらを見詰めていて「何か、言って。」という空気。

とりあえず道を決めるのはご家族様なので今度は、間違いを恐れず思うことを提案してみよう。

今夜、あの人も、あの人のご家族もスヤスヤと眠りについていますように。

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