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オタクの戒めとして見る「Lovely Writer」

ネタバレ有。
完走した感想。

キーワード、背徳感

この作品の肝は、妄想カップルの片割れとして活動する俳優と、その相手役・・・ではなく、作家が恋に落ちるという背徳感だったと思う。
特に、NubsibがGeneの家に転がり込み、練習と称してキスするシーンはその最たる例。
あのシーン、めちゃくちゃ良かった。

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นับสิบจะจูบ Lovely Writer // Official Trailer (2021) - นับสิบจะจูบ Lovely Writer

しかし、その背徳感がうまく働いたのは、最初の同居を始めてから数話くらいだったのが残念だったな。
中盤からは、二人の間における関係性の変化や、家族との問題、世間との折り合いなど、正直規模は違えどよくある展開だなぁと思ってしまった。

せっかくこのテーマ設定で挑むのならば、もっと俳優×作家という関係性における、罪悪感や禁断の恋的な描写があって欲しかったという個人的な希望。
そもそも、Sibの方は元々Geneにお近づきになる為にオーデを受けたので、俳優志望なわけでもなく、なおさら罪悪感なんてあるはずはないんだけれども。
Geneの方が相手や世間のことを考えてはいるものの、結局流されちゃったり、自分は作家なので世間の反応に対してはどこか他人事だったり。

まず、Geneは自分の書いたBL小説に愛着があったり、ドラマ化を心から喜んだりしている訳ではない。
だから、自分が原作を担当するドラマの出来の良し悪しや、どれだけヒットするかというのも、興味なさげ。
撮影で嫉妬を見せるシーンは可愛かったけれど、Sibへの気持ちと作品のヒットを願う気持ちでの葛藤なんかも見れたらもっと面白かったな。

愛が深いというのは良いことだけれども、それはどの作品でも補えるというか、なんなら最低条件な訳で、この作品の持ち味はテーマなんだから、もっとそこを掘り下げて欲しかった。
タイBLあるある「実は昔会ってた」展開も、この作品で使うには、せっかくの「作家と俳優の恋愛」というテーマを生かしきれてないなぁという印象。

珍しい設定に対して興味があっただけに、ちょっと私の期待していた展開とは違って残念だったという話。

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นับสิบจะจูบ Lovely Writer // Official Trailer (2021) - นับสิบจะจูบ Lovely Writer

タイBLにおけるオタ活の現状

この作品においてもう一つ、大きな注目ポイントがある。
それは、作中のオタクの動向。

タイBLにおける”オタ活”はとにかく自由度が高い。

・そもそも公式のノリが軽い
・公式も俳優もSNSに力を入れている
・ファン主導で気軽にFC活動が出来る
・ハッシュタグで盛り上がる文化がある
・BL作品に出演した俳優のCP売りが主流なので、ナマモノに対する壁が薄い
・ファン撮影の写真やイラスト、コラージュなどの投稿文化が盛ん
・ギブアウェイと呼ばれる同人グッズの配布、交換文化

・・・などなど、とにかくSNS活動が盛んで、公式もそれを利用して作品を盛り上げようというスタンスだ。

コンテンツが口コミで広がる現代において、SNSでのファン交流や拡散力というものは凄まじい。
公式もお金をかけず広報が出来るので、旨みはあるだろう。
しかし、それが裏目に出る場合も勿論ある。

「Lovely Writer」では、SNSの投稿をきっかけに、ドラマ内で主役カップルの片割れを務めるNubsibと、公式のお相手役ではない、作家のGeneがお付き合いしているのではないか?と炎上してしまったのだ。

もし、現実で同じことが起きたとすれば、同じように炎上し、ドラマの視聴率の低下や批判は避けられないだろう。
作中でもあったように、何かしらの釈明を出すことになるかもしれない。

私はこの作品を見ていて、もし、推しが同じように炎上してしまったら?
オタクはどうすべき?私はどう見守るべき?と、たくさん考えさせられた。

何が善で、何が悪なのか。

「Lovely Writer」におけるこの一連の騒動は、きっとタイBLの現状へのアンチテーゼとまではいかないものの、風刺なんだろうな、と。

推しの幸せとオタクの幸せ

オタクというのは、やっぱり推しの笑顔が一番好きだ。
推しにはいつでも笑っていて欲しいし、推しの幸せを願っている。

だけど、オタクのわがままな願望で、推しの笑顔を奪っているのだとしたら?

もちろん、彼らは自分を売り込み、ファンをつけることも仕事なので、犠牲にしなきゃいけないものもたくさんあるだろう。
だけど、そんな中でも出来るだけしがらみが少なく、自分らしく、楽しく生きて欲しいと思うのは当然の気持ちだ。

作中において、オタクが「NubsibとAeyがカップルでいてほしい」という願望を突き通したあまり、誰も幸せにならない結果を生み出した。

ファンひとりひとりにとっては、たった一言の書き込みかもしれないが、それは大群になって嵐を呼び、記者会見という大ごとにまで発展させてしまったのだ。
結果、NubsibとGeneはしばらく逢瀬も控え、波風経たぬように過ごさざるを得ない状況となった。

もちろん、二人にも、周りにも、配慮が足りなかったところはある。
何もオタクだけが100%悪いわけではない。
基本、個人が何を書き込むのも、規約違反でなければ自由だ。

でも、本来、推しの幸せを願っているはずのオタクが、推しの幸せを奪ってしまったのは事実。

今一度、自分の何気ない一言が、もし、推しや推しの関係者、他のファンの目に入った時に、傷つけやしないか、本当に今投稿すべき内容なのか。
一呼吸置いて考えてから投稿しようと心に誓った。

もちろん、地球に存在する何十億人、全員を傷つけない言葉なんてない。
どれだけオブラートに包んだ言葉でも、誰かを傷つける可能性はある。
だけど、一旦落ち着いて考えて、その被害を最小限にする努力は、ひとりひとりが意識しなきゃならないことだな、と思った。

いくら推しだからと言って、甘やかすべきではないという意見もあるかもしれない。
でも、私は、オタクは誰よりも無責任に推しを甘やかせる存在だと思っている。

本当にその批判は、オタクが推し本人に直接伝えなきゃいけないことなのか?
正しい道への指導や叱ることは、推しの上司や指導者、家族、友人など、近しい人の役目であって、オタクは応援することが役目なのではないか?
自分の理想、自分の願望を押し付けるのは、もう、やめにしないか?

自分に合わないと思ったら、そっと離れる。
それでいいじゃないか。

私たちオタクの活動が、推しの幸せを奪ってしまわぬように。

オタクの戒めとして、「Lovely Writer」を心に刻もうと思う。


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