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Little women シリーズについて

Petit écrin étoile(プチエクランエトワール)のeriと申します。ロリータファッションのヘッドドレスやアクセサリーを製作しています。

活動をはじめて2年半と少し経ち、先日初めての個展を行いました。
今回のnoteはそこでお披露目・発売しました、小さな婦人たちのヘッドドレスについてです。

普段はいくつかお迎えがあってからアイテムのnoteを書くことが多いのですが、今回は図案やカラーバリエーションをギリギリまで悩みながら進んでいたため、製作しながら合間合間にnoteを書いていました。(そのためかまた長くなってしまいました)

私は子供の頃にいろんな絵本を読み、好きな本は何度も何度も繰り返し読んでいました。
当時のお気に入りスタメン本の一つに『若草物語』があります。1868-9年頃にアメリカで出版され、今も沢山の人々に親しまれているお話です。
子供用に簡単な内容で書かれていたその本には素敵なお姉さんたちが4人も出てきて、ちょうど「お姉さん」に憧れていた年頃の私をわくわくさせました。

30年近く前の記憶なのに今でもはっきりと心に残っている場面の思い出があります。家庭の経済的な危機に次女のジョーが自身の長い髪を切って売ることでお金を作ってくる場面です。
当時の私はショートヘアで男の子に間違えられる事が嫌で嫌で仕方なかったです。「長い髪のお姉さん」に強い憧れを抱いていました。

ピンチに大切な髪の毛を売ることがあるのか。せっかく伸ばしたのにもし私だったら…と考えた時、凄く絶望的な気分になりました。そしてこれを自ら選択したジョーの強さを思いました。
"お姉さん"になると大切な何かを守るために別の大切なものを手放すことを選ぶシーンが来るのかもしれない。そんなことを考えたことを覚えています。
大人になることへの憧れが大きくなり、同時に少しの不安を感じるようになったのはこの頃からかもしれません。

「物語」が創作の中にモチーフとして存在していた印象深い思い出も若草物語にまつわることでした。
小学生の頃に『ゼルダの伝説 時のオカリナ』というゲームが発売され、夢中になりました。ゼルダの伝説シリーズは今も大好きなゲームですが、当時は敵が出てくるゲームが怖いので父や妹がやっている横で見ることを楽しんでいました。
このゲームに出てくる"森の神殿"というダンジョンの中には四体のかわいらしい亡霊が出てきます。それぞれにメグ・ジョー・ベス・エイミー、若草物語の四姉妹の名がついていました。
ダンジョン内では4体バラバラに存在していて、それぞれ遭遇すると小さなミッションを課せられます。そしてクリアすると消えて会えなくなってしまいます。敵なので仕方ないのですが、もっと見たかったな、なんなら4人で遊んでるシーンとかないのかな、なんて思って見ていました。
思えば「ものづくりにお話の要素を取り入れる」に触れ心が動いた最初の記憶です。

最近妹とこの話になった時「森の神殿でお姉ちゃん大興奮してたよね」と言われてちょっと恥ずかしかったです。

本シリーズでは新しく「レース作り」にチャレンジしました。
今回使用したものはバテンレースという種類のレースです。平たいテープで絵を描くように枠を作り、そのテープで囲まれた輪の中を糸で編むようにかがり、模様を作ったものです。日傘やテーブルクロスなどで見ることが多いかと思います。
「バテンレースを使ったヘッドドレスを作りたい」とぼんやり考え、材料を探しながらその材料への理解を深めるためメーカーさんのホームページを見ていました。市販の資材としてのバテンレースにちょうど良いサイズ感のものがなかった・作る様子を見ていくうちに「普段からレースの端処理などでふちをかがるの好きだし、楽しくできそうかも」と思った・そして自分が作っている姿がイメージできたことからこのレース作りに取り組んでみることにしました。
レースを作ることを考え始めたのがちょうど個展開催を決めた時期なのもあり、新たなチャレンジとして計画していきました。

本シリーズではこのバテンレースと合わせる生地としてベルギーリネンを使用しています。
他のリネンと何が違うのか明確な情報はありませんが、少しランダムな布目のざらっと感、柔らかくてクタっとした触り心地とのバランスがよく、"抜け感"を感じておしゃれだと思っています。
(今回使用した生地はベルギー産のフラックス(原料)から日本国内で生地として生産されたものとのこと。ベルギー国内で紡績の全てを行っているものはそんなに多くなく、逆に原料の生産は日本では土地の広さの問題等でなかなか難しいそうです。海を越え色んな人の手で作られている布なんだと思うととても愛しいです。)
また、レースのテープがベルギー製だったのでアイテム内で微妙な質感などに統一感が出るのではと考えたことも決め手の一つです。

材料が殆ど決まった頃、レース図案の作成時に少しでも物語に触れている状態で作りたいと思い、若草物語の映画を流していました。お話の後半で四女エイミーが帰省のお土産としてベルギーのレースを持ってくるシーンがあり、ちょっとした偶然ですが物語と価値観を共有できたようで嬉しさを感じました。

バテンレース作り

自分でレースを作るということは好きな大きさ、好きな柄を自由自在に作り、使用できるメリットがありますが、初めに作る設計図・図案がしっかりしていないと全てが台無しになってしまう危うさがありました。

私は普段は方眼線入りノートを用い手書きでデザインや図案を書くことが多いです。刺繍は実寸大の大きさに絵やガイド線を書き、ビーズ刺繍やソウタシエはラフに図形を書いて順序や矢印を描いています。
今回のバテンレースに関しては図案を写した紙にレーステープを縫い付けて絵を描くように模様を作っていくため、均等な太さの線で絵を描いていく必要があります。
また、左右対称や繰り返しのパターンを作るため「全く同じもの」を正確に繰り返し描くことが大切になると考えました。
そのためこちらも初めての試みでしたが、デジタルとアナログの両方で図案を作成することとしました。

各アイテムの大きさを決め、それに沿ってノートに手書きでラフなデザインを描く

パソコンのお絵描き機能を使ってパターンを作成。繰り返しの模様はコピー&ペーストで配置していく

カラーペンでパターンをなぞり、レーステープの道順を確認

実寸大に印刷をし、かがり模様の図案やガイド線を手書きで記入

という方法で作成しました。

かがりは基本的なものは教本を読み込んで練習しました。
初めての技法ですが、そこにプチエクランエトワールらしさをどう反映させるかを考えました。
日頃お客様から「繊細な作品」と言っていただくことが多いため、繊細さをより感じでもらえるよう、模様に使う糸を通常より細いものでかがるようにしました。

糸が細い分すきまの大きすぎる模様は避けて、糸同士が交差するような模様を中心に作っています。

レース製作の大まかな手順としては
1.図案を薄い紙に写し、その上にテープをそわせ、しつけて固定
2.テープ同士の重なった部分を細かくかがってくっつける
3.糸でかがるように模様を作る
4.裏からアイロンがけしてしつけ糸を外す
です

自分が作業している側がレースの裏面になるため、表から見た時の印象を想像しながらテープを重ねる順番を考えてつくります。デザインをする上で"手順を組み立てる"ことも好きなので、頭の中で確認しながらわくわくして作っています。
そして最後にしつけを外して出来上がったレースを見る瞬間はとても達成感を感じます。

個展では一部の方々にヘッドドレスへの縫い付けも大変ですよねって言ってもらったのですが、この細かく縫い付けていく果てしない作業こそが手芸のとても好きなところのため、多分私ってドMなんだろうなと思ったりしました。

Meg ヘッドドレス

私の中のMeg像は家のことをするためよくまとめ髪をしています。そのため、まとめ髪との相性が良く、ささっとカジュアルにも使えるようなコームタイプのヘッドドレスを選択しました。

優しいMegを表すデザインは全体的に曲線的な要素のみで作りたいと考えていたため、お花と木の実をイメージしたモチーフを3つ作りヘッドドレス土台に配置しました。
「面白み」よりも「整然とした」雰囲気に近づけたかったため、木の実の丸は大きさを揃えて全部で6つ、お花の花びらもなるべく大きさを揃えて6つになっています。

レーステープは太めのものでピコフリルがついたものを使用しています。太い線での模様がクラシカル、そしてピコが少しだけ華やぎを与えてくれました。

色は「大人っぽい」と「女性らしい」を感じられる、スモーキーな紫色を選びました。
紫はプチエクランエトワールでもよく使う色。今回の紫はどんな色の口紅にもよく合いそうで、想像するだけでわくわくします。
つける人それぞれで思い思いのレディになれるアイテムに仕上がりました。

Jo ヘッドドレス

レース等のデザインはJoのものが一番初めに決まりました。

葉っぱが連なっているようなデザインで、物語を書いたJoが言葉を紡ぐことを葉を連ねるような形で表しました。
葉っぱの先は全て尖らせ、かがり模様もほぼ直線的な要素で作ることを意識しました。Joの意志の強さをイメージしています。
レースをしっかりはっきり見せたく、テープは太い線を選択しました。

お話の中でJoは髪を切ってしまうため、ショートヘアやボリュームの少ないヘアスタイルでも使いやすいよう、控えめなサイズ・ボリューム感を心がけました。
そしてより軽やかな印象になるよう、フリルはレースと同色でチュールの細かいプリーツをつけました。
顎下のリボンは生地と同色の幅広のものを選んでいます。本体があっさりしているため、リボンを前で結ぶことにより一気にキュートな印象になります。
扱いやすさからポリエステルのグログランリボンを使用しました。

色もJoが一番先に決まっており、チャコールグレーを選んでいます。黒よりも少し薄く、強さの中に優しさを感じる色です。
レースとのコントラストがはっきりしており、しゃんとした印象のヘッドドレスとなりました。

Beth ヘッドドレス

Bethは線の細いイメージがあるため、レースはまず細いテープで作ることにしました。

家族の絆をより深く繋げるBethのレースは端から端まで一つに繋がっているものを考えました。
また、音楽好きな彼女をイメージし、音符のような丸やつながりの曲線を取り入れながら楽譜を連想できるようなデザインにしています。

着脱はクリップタイプ。これ一つで気軽に沢山のおしゃれを楽しんでもらいたくてブローチで取り外しのできるリボンの飾りをつけています。
リボンはリネンのタフタリボンを使用。シンプルなので2連にしたりお洋服につけたり、色々な使い方ができます。
Bethのものは全体がフリルになったタイプのヘッドドレスですが、今回はいつものランダムなギャザーのフリルと異なり、少し規則的に折りたたむようにして作っています。
フリルのひだの長さを決めるのが大変で、中学生の数学を思い出しxとyで計算して決めました。

生地の色は冷たいブラウンベージュを選びました。室内着でもお出かけコーデでも可愛く少し控えめに楽しめる色を探しました。
生成りやブラウンなどのナチュラルな色味のお洋服やお花柄のお洋服と合わせていただくととても可愛いだろうなと思っています。

今回とは全く関係のない話ではありますが、
Bethは高校生の頃にお洋服に猛烈に恋をする気持ちを覚えてしまったブランドさんの名前と一緒で、私にとって特別な4文字です。それもあってかデザイン・製作中は背筋が伸びるような感覚がありました。

Amy ヘッドドレス

製作が一番大変だったのがAmyのヘッドドレスです。はじめの一個を完成した時一人でバカでかい声で「終わったー!!」と叫んだくらいです。

四女のAmyは絵を描くことが得意。なので私も絵を描くように図案を作りました。テープは細いものを選んでいます。左右対象に蝶々とベリーのレースを作り、様々なバリエーションで模様を入れていきました。

ヘッドドレスをキャンバスのようにしてデザインを楽しんだため、プチエクランエトワールには珍しいくらい幅広なヘッドドレスになっています。
レースの模様を最大限に目立たせるため、フリルは共布で作ることにしました。
手触りやわらかなこのリネンは何重に重なることでがっしりとした質感になります。フリルは形状が固く保たれており、私のイチオシ可愛いポイントです。
着脱はリボンで。本体とのバランスを考えJoのものより少し細いものにしました。

色はピンク系がいいと最初から決めており、少し大人ぶりたい彼女のためにグレイッシュなものを選びました。
個展では同じリネンの生地でパターンから作ったワンピースを着て過ごしました。タックでボリュームを出した大きな袖がお気に入りです。

記念に写真に残してみました。
少しモードっぽい印象になったため、髪は細かい三つ編みをいくつか作り、ダークなワイン色の口紅をつけてほんのちょっと奇抜な雰囲気で着てみました。


あんなに憧れていたのに、気がついたらみんなよりずっとずっと大人になってしまっていました。でも沢山の経験をしながら大人になったからこそこれらの作品が作れたのだと思います。

今回、とてもいい機会に新しい挑戦ができ、沢山の方に見ていただくことができてとても嬉しかったです。
またまた長くなりましたが読んでくださりありがとうございました。

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