ゆっくりしていってくだい

また動画の話です。

言語学系の動画でよくバズってはる、すきえんてぃあさんという方がおられます。
最近は、「ゆっくり動画」という解説・実況系動画ジャンルの冒頭部のテンプレ(霊夢と魔理沙という二人のキャラが、自己紹介したあとに「〇〇って知ってる?」「知らない」「じゃあ今日は〇〇の話題をしていくわね」と会話を進め、二人で「ゆっくりしていってね」とハモる)を色んな言語(主に日琉諸語)に訳す企画でバズってはります。
(以下その二例)

触発されて、私も自分とこ(滋賀県湖東地方)の方言で二番煎じ動画を作ってみました。

京阪神の一般的な関西弁と異なる表現をなるべく盛り込むように努めました。せっかくなので解説していきます。

①ごきげんさん、霊夢やで。おせんどさん、魔理沙やど
 江州弁らしい挨拶言葉、何がいいかなと考えて選んだのが「ごきげんさん」と「おせんどさん」でした。「ごきげんいかが」「お疲れさん」という意味です。どちらも私の日常会話には出てこない表現で、特に「おせんどさん」は祖父母からも聞いたことがありません(湖北の中年層の方から聞いたことはあります)。「おきばりやす」「ようあんたさん」あるいは「ごめんやす」「おいでやす」も候補でした。いずれもやはり年配層の挨拶言葉です。
 「〜やど」は一般的な関西弁では柄の悪いおっさん口調という感じがしますが、少なくとも湖東地方ではそんなにキツい表現ではなく、女性も使うことがあります。私も含め若い世代ではほとんど使いませんけどね……。

②あのよ魔理沙
 間投助詞「よ」は湖東・湖南の江州弁の特徴。私を含め若い世代でもよく使われる表現なのでどこかで盛り込みたいと思って、ここに使いました。「なぁ魔理沙」も候補でしたが、それだと何も珍しくないので不採用。「あのよ魔理沙」のあとに二人称「おまん」を挟む案もありました。

③知ってたか?
 江州弁の特徴の一つが疑問の終助詞「〜け?」ですが、女性はあまり使わない表現なので今回は不採用としました。

④知らんてた
 当初は「ちょっとも分からん」にする予定でしたが、滋賀県内各地(正確な範囲は知りませんが、結構広範囲と思われます)で使われ、かつ京阪神ではほとんど使われない「知らんてる」という表現にすることで江州弁らしさを高めました。
 ただ、「知ってる?」という問いかけに「知らんてる」や「知らんてた」と返すのは私の感覚ではしっくり来ないので、ゆっくり動画のテンプレから外れて「知ってたか?」と問いかける形にしました。

⑤ほんなもんあっかいな
 「ほんなもんあっかい(な/や)」は年配層でよく使われる決まり文句なので盛り込みました。「そんなんじゃダメに決まってるでしょ」という意味合いです。

⑥聞かいさろほん
 「聞かしたろ→聞かいさろ」のような変化と、終助詞「〜ほん」は、どちらも全国的に珍しい湖東周辺独特のものなので、ぜひとも盛り込みたいと思って台詞を工夫しました。もっとも、「聞かしたろ→聞かいさろ」のような変化は年配層からも聞く機会がほとんどない死語寸前の特徴です。

⑦ほら
 「ほんなもん」もそうですが、江州弁ではコソアド言葉がよくコホアドになります。「それは→そりゃ→そら→ほら」。特に湖東では若い世代(さすがに10代とかは微妙でしょうが)でも顕著なので、ぜひ盛り込みたかった要素です。

⑧ういこっちゃ
 私も含め若い世代ではまず使われない表現ですが、京阪神にはない湖東・湖北独特の言い回しなので盛り込みました。「うい」は場面によって色んな使い方がありますが、ここでは「悪いねえ」ぐらいの意味合いです。

⑨来ててくれやる
 「〜はる」に相当する表現として「〜や(あ)る」を使うのは、老若男女問わない江州弁の特徴(湖西〜大津あたりでは言わないかも)。「〜やる」と短く言うのは湖東・甲賀でよく聞かれる特徴です。私は言いませんが、地域によっては「〜らる」とも言います。年配層で使われる「来とぉくれる」も候補でした。

⑩ゆっくりしていってくだい
 「していってね」をどう訳すかも悩みました。私が普段言い慣れている表現は「していってな」「していってや」「していきーや」「していきーな」などですが、それだと普通の関西弁と変わらなくて面白くない。そこで、私もほとんど聞いたことのない年配層の表現を引っ張り出してくることにしました。湖東じゃなくて湖北の江州弁ということだったら「ゆっくりしていかんせ」でも良かったんですけどね。

ちなみに動画の背景に使っている滋賀県湖東地方の上空写真は、ネットから拾ったものではなく、飛行機で東北旅行に行った時に撮ったものです。

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