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赤に爪。

 怖いもの見たさは人のサガ、藪をつついて蛇を出し、自業自得で傷を負う、あいつはそういうヤツだった。
 清楚で無垢な乙女でも体の芯が男を求めることがあるように、質実剛健を歌うドイツ人気質でも、イタリアーンな情熱で狂ったように踊り出したくなることがある。

 あいつは怖いもの見たさなヤツだったけど、周囲はそんなレッテルをヤツに貼り付けて、増長しながら弄んでた節がある。ペタペタと糊でレッテル貼り付けて、勝手に造り上げたる祭りの神輿。担がれるほうも満更ではないのだよの顔をして、神輿の上でしたり顔。

 ところでどうして神輿を造り担ぎ上げる必要があったのじゃろ?

 それはね、投影だったのさ。自分じゃできないことを人任せ。鼻で笑って蔑むように傍観してたその目ん玉の奥の奥で、実は羨望の炎を燃やしてた。
 常識人と言われてきたよ、これまでの私はね。実を申すとハメを外してみたくなることってあるんだよ。だけど邪魔する世間体。失くしたかないよ、これまでで築き上げてきた積み石のキャリアをね。だから生贄が必要だったってわけなのさ。
 
 でもそれでいいのかな?
 代替者がいくらハメを外してくれたって、私はちっとも気が晴れない。映画見てスカッとしたとして、長続きしないのとソレは似ている。
 
 怖いもの、自ら見に行ってもいいのかな。そろそろ。
 いいよね、たまには。
 そうやって私は赤い風船に中指の爪を出そうと決意した。
 

 

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