ミト(クラムボン)インタビュー

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 クラムボンのミトへのインタビューを掲載する。このインタビューは、「Real Sound」に掲載された記事『クラムボン ミトに聞く、バンドが危機的状況下で向き合うべき問題 「生活を守るために今の世界と戦わなければいけない」』の、補完となるものである。

 インタビューは2020年5月19日にリモートでおこなわれたが、取材時間は2時間以上にも及び、紙幅の関係上、上記記事ではその貴重な発言の多くをカットせざるをえなかった。そこでミトおよびReal Soundの了解を得て、そのカットした発言をここに掲載する(ただし一部会話の繋がりなどを考え、上記記事との発言のダブりは一部ある)。ぜひ上記記事と合わせてお読みいただきたい。

 クラムボンはこの4月、新曲「夜見人知らず」を発表。『モメント e.p.』シリーズ(2016年〜)に続く、新たな作品シリーズ『エレメント』の第一弾となる楽曲だった。

『エレメント』シリーズ開始にあたって公式サイトに記載されたミトのコメント

 会話は、この『エレメント』シリーズがどんな意図をもって始められたのか、という話題から始まり、サブスク全盛時代に求められる音楽の形態、変容するバンドのカタチ、そしてコロナ禍に於ける音楽家のあり方まで、多岐に及んだ。(小野島)

「空気振動を必要としない音楽」という需要と、バンドのあり方の変容


ミト「たまたま今回は『モメント』でやったようなバンドでのレコーディングではなくて、『エレメント』というシリーズで、配信を専門とするクラムボンのプロジェクトを立てようってことだったんで、普通にバンドでやるんじゃなくても、打ち込みとか普段ライブとかで再現できないことを取り入れてやったら面白いんじゃないか、と話してました。『モメント』は『モメント』、『エレメント』は『エレメント』っていう雰囲気を出していけたらいいんじゃないのかなって思ったんですよ」

ーーバンド的な空気感を大切にする『モメント』シリーズがあって、一方で配信で発表することを前提とする、もっとインナーな作業を中心としたクラムボンの両面を考えていたってことですね?

ミト「そうですね。音でイメージすると、勝手なイメージですけど、サブスクとかで流れてる音楽って、空気通さなくていいんじゃないかっていう感じがする」

——というと?

ミト「最近のアメリカン・ポップスとか、世界のポップやヒップホップを聴くと、空気振動に触れることで増幅される何かっていうものを、あんまり曲の構成自体で考えてないんじゃないか、ていう音楽が多い気がするんです。例えば昨今だったら、チャーリーXCXの音源だったり。なんか凄いベタっとしているというか」

——それは単に打ち込みで作っているから、ってことだけではなくて。

ミト「なく、ですね。さらに例えば、今流行ってるヴェイパーウェイヴやシティ・ポップって正直な話、きっかけは日本のテレビCMだったりとか、そういう音楽のローファイ感とかじゃないですか。すごく平面的だけどキラキラしているっていうか、いろんなものがぐちゃっとなっているイメージで。それで、そういう音楽が実際リアルに流行りはじめて、今のそういう流れができあがっててるのかなと」

——それはいつ頃から感じ始めたんですか?

ミト「僕、一昨年くらいからジムに通い始めて、筋トレしている最中に今のポップスを聴くためにSpotifyやApple musicをインストールして、イヤフォンで聞いてたんですよ。しかもケーブルがあると邪魔なのでワイヤレスでね。それでサブスクで最近の音楽、たとえばバンドものを聴いたりすると、めっちゃ遠いイメージなんですよ。それは多分アンビエンスの問題なんです。空間の音まで全部入っているので。そこでモアレが起きている音楽もとってもいいんですけど、でもインイヤーのヘッドフォンで何かをしながら聴いたりする分には、もうちょっと直接的に近い音の方が聴きたくなるというか」

——ああ、なるほど。要するにバンドものだと音像が目の前に展開しているけれども、インイヤーで最近の音楽を聴いていると、頭の中に定位しているとかそういうイメージ?

ミト「そういうことですね、そういうこと。だとすると、より定位感がはっきりしたものの方が覚醒しやすくなるというかね。そんなことを考え始めたらどんどんバンドもののドラムが打ち込みになっていったりし始めた。日本で言ったら顕著なのは髭男(Official髭男dism)はまさにそうですけどね。もう"Pretender"なんて、バンド・サウンドを目指している打ち込みっていう発想に聞こえた」

ミト「本人たちもそれは意識していたらしくて、ナマよりも打ち込みの方が自分たちの思い描いている形になるんじゃないかという発想。もちろん後になって(ライヴ等で)プレイするのは自分たちなんだけど、レコーディングでは無理してバンド感を出さなくていいし、ナマで録らなくてもいい。そういう発想で作っていったんじゃないか。そういった意味では革新的ですよね」

——最近若いバンドと話してると、バンドと言いながらも実際のレコーディングは、曲を作ってる人がほとんど一人でトラックも全部作ってるケースが多い。

ミト「そうですよね」

——で、他のメンバーが何をやってるのかっていうと、ライヴでそれをなぞって再現してるだけ。すごく極端な言い方をするとね。

ミト「本当そうですよ」

——それが普通になってる。バンドってスタジオに入ってせーのでやるものじゃないの、って旧来の常識が変わってきている。

ミト「そうなんですよ。もっと言うと、最近のバンドのライヴでは平気で同期が流れていて、誰も演奏してないのにストリングスが流れてたりするんですよね。しかも、お客もあんまり気にしないんです。この曲やってくれるんだ、むしろウェルカム、みたいな」

——演奏してないのに音鳴ってるよとか突っ込む奴も今やいないもんね。

ミト「そうそうそう。だからもう正直な話、小野島さんとか僕たちが考えている"ライヴ"のデフォルトさえも以前から覆され始めてたんですよ。そこに追い討ちをかけるかのごとく今回のコロナの問題がやってきて。本当に予兆的なレベルでそこに近づいていってたんじゃないかとすら思うくらいに」

——それはすごく興味深い話ですね。

ミト「ただ、何がきっかけだったのかは定かではないっていうか。今はもう、どこが始まりでどこが終わりなのかもわからないので」


メロディとベースラインとキックがあれば音楽は成立する


ミト「今やメロディとベースラインとキックがあれば音楽は成立するんですよ。ハーモニーはもちろん重要なんですけど、ほぼメロディとベースラインだけでできる。だからベースの人はずっと弾いてると、多分音楽の根本を潜在的に感じ始めてプロデュース発想が出てくる人が多いんだと思うんです」

——たとえばビリー・アイリッシュの楽曲とか、ですか?

ミト「ああ、そうかも。確かに。でも今本当にキックとベースとメロ、歌、っていうのが今のポップスでは当たり前の構成になってるじゃないですか。だからああいうのも本当そうなんですよ。削がれていった方がカッコ良くなる。僕、ベースの専門誌とかでベースを上手くなる秘訣を教えてくださいってインタビュアーの方に聞かれると、『曲作った方がいいですよ』って言うんです。伝えなきゃならないことは最終的にはそこに結実する」

——Real Soundの対談でベーシストは作曲に向いてる、という意味のことを言ってましたよね。

ミト「うん、そうそう、そういうことです」

「いい曲書くなあ」と思う作家は大抵ベーシストと言っても過言じゃない。世間からはよく、「ベーシストはアンサンブルを俯瞰できるからアレンジャーに向いている」みたいな言い方をされますけど、それより何よりベースに「作家性」が出るというところが重要なんじゃないかと思いますね。

——ベースの重要性ということで言えば、最近ミトさんは、ローの聴かせ方みたいなものが現代のポップ・ミュージックにおいてはとても大事だってことを言ってますね。そこのところをもう一度詳しく説明していただけますか?

ミト「今、日本のテレビ業界はラウドネス規格という音量調整基準が使用されてるんですけど。実はこれ音楽家にとっては非常に弊害があるんです。音が大きすぎないようにリミッターをかけるんですけど、こちらが大きすぎるとものすごい勢いで小さくなり、迫力もなくなるんです。ただ、そのラウドネス規格の音域って大雑把にいうと実は上側、ギターの音だったりボーカルの音だったり中高域が基本メインなんですよ。低域はあんまり重要じゃないんです。だからこそ僕はその低域を武器にしたらいいんじゃないかなと思ったんですよ。そうしたら、どんどんネットで配信されているサブスクのものも同じようなラウドネス規格を持ち始めて」

ーーなるほど。

ミト「スピーカーとかイヤフォンのようなハードウエアでも、ロー・サウンドの音源の再生を求められるようになってきているので、そっち側を強化する商品がどんどん生まれてるわけなんですよ。一番初めは実はBeats(ドクター・ドレーがプロデュースしたヘッドフォン)なんですけど、Beatsのヘッドフォンってもうローが効きすぎてて、音源制作やオーディオをかじった人だったらわかると思うんですけど、なんでこんなにローばっかり出てるんだろうって感じちゃう。あれは僕はもちろんドレーのプロデュース力と彼のヒップホップという音楽性もあったとは思うんですが、それとは別に配信だったりサブスクだったりネット音楽に(ポップ・ミュージックの)主導権が移っていくんじゃないかってことを、多分彼も想定してたんじゃないかって思うんですよね。そこの中で流れている音楽を、ラウドネス規格の中でもっと大きく聴かせるってなったら、いわゆるノイジーと言われるギターサウンド・レベルではなくロー側を張っていったらカッコ良く聴こえるっていう」

——ラウドネス・ノーマライゼーションによって中高域を押さえ込まれちゃって、でもローの部分に関してはその弊害みたいなものが少なかったから、ローの方を強調するように音作りが変わっていったっていうことですか。

ミト「きっかけはそうだと思います。今は、その辺りもちょっとは気にされてはいるんですが、それでもやっぱりApple MusicやSpotifyのああいうサブスクのチューニング的なものが大きいと思います」

——ああ、空気感を重視しない方向っていうのはそういうふうなきっかけもあったっていうことなんですかね。

ミト「そういうことですね」

——なるほどね。じゃあどのみち、(空気感を重視するような、旧来の)バンド的なものは、コロナが訪れる前からトレンドというか主流のものから外れつつあったっていう認識ですか?

ミト「そういうことです」

——クラムボンはそれに対応すべく、新しい『エレメント』っていうシリーズを始めたけど、始めた矢先にこういうことになってしまったと。

ミト「なっちゃった、っていうことです」


コロナ禍に於ける音楽家のあり方

——『モメント』シリーズでクラムボンのやり方のベースみたいなものができあがって、それがうまいこと回っていた。それで新しい『エレメント』シリーズをスタートさせるも、でもコロナ禍によってライヴの場が奪われ、せっかくできあがってきていたクラムボンの活動のベースが失われつつあるっていう現状が今ある。これはバンドにとっても厳しい状況と思うんですけど、そのあたりはどうなんでしょう?

ミト「そうですね…いや、深刻は深刻なんですよ。やっぱりどう考えてもフルサイズでライヴをやるのは難しいと思うし。だから、そうじゃない部分を広げていくことがまず最重要というか。順番としては自分の生活を安定させることが最優先っていうのがありますけど、その次にクリエイターとして考えなきゃならないのはそこだろうなとはやっぱり思っちゃいますよね」

——昔通りのライヴができるような環境がまた来るのをただ待つのではなくて、そうではない新たな可能性みたいなものをガンガン広げていくのがクラムボンのやり方でありミトさんのやり方であるという。

ミト「今思ってるのはそうですね」

——絶対その方がいいと思います。

ミト「僕は事務所の経営者として、ライヴ・ハウスの知り合いやPAの知り合いが普通のミュージシャンより多いと思うんですよ。その方々の苦境とかをSNSや伝聞で聞いてるから、そこに向けて可能な限りはバックアップしたいなと思いますし、実際toeがこの前やったライヴ・ハウスの支援とか、ああいうものを無償でやるっていうのだったら話がわかるんですよね」

toe主宰によるライヴ・ハウス支援制度『MUSIC UNITES AGAINST COVID-19』


ミト「でも有効性を考えないで、お金を出さないでやるのはただの承認欲求なので。ただバズって炎上させたいTwitterのアカウントと変わらないんですよ。だから、もうちょっと頭いい方法でやって欲しいなってすごく思うし。だからtoeはクレバーだったなと。やっぱりtoeっていうバンドをやってるだけある。すごい肝っ玉座ってる音楽に聴こえるじゃないですか。やってることもストイックだし、ある種DIYの塊だし。そういうところが本当は音楽で見えるんですよ。だから、音楽を舐めちゃいけないっていうところが前提であると思うんです」

——いずれにせよ、自分のできることを誠実にやる以外にないっていう気がします。コロナの影響でライヴが止まって、(集まっての)レコーディングもできなくて、なんにもできなくなっちゃったっていうミュージシャンが結構いるなかで、クラムボンとしての活動も作曲家としての活動も止まってないですね。

ミト「うん、止まってないですね。(原田)郁子さんはクラムボンとは別に、『キチム』っていうアトリエ(原田郁子が中心となって運営)があるので、そこを使ってオリジナル曲だったりカバー曲だったりをYouTubeで配信してたりする」

キチム公式サイト

キチム – Kichimu YouTubeチャンネル

ミト「YouTubeも最近いろんな方々がやってらっしゃるじゃないですか。またいろんなバンドの有名な方々がリモートで動画を録ったりしてそれを各SNSにアップしてますよね。みんな一生懸命頑張って活動を続けてるんだよってアピールしてるのはわかるんですけど、そういうのをいっぱい見てると、今度はその動画にいかにリアリティがないかってところが気になってきちゃうんです。それはどういうことかというと、動画ではみんなちゃんと叩いて演奏して歌っているように見えるんですけど、実は歌だけはちゃんと録り直してるな、と。それでいてハッシュタグに#stayhomeとか書いてあったりすると。なんて言ったらいいのか……これは大変失礼なんですけど、なんかちょっと冷めるんですよね」

——ああ、わかります。

ミト「もうちょっと一生懸命やってほしいっていうか。ただプロモーションのためにまとめましたみたいな感じで出されると、他のやり方でできないものなのかなって思ったりする」

——YouTubeや配信アプリ使ってリモートでやるのであれば、それに適した表現方法とかやり方があるはずだし、制約を逆手にとってもっと突き詰めれば面白いものができる可能性があるんだけど、そこがいまいちできてないとは思いますね。

ミト「そうそう、そうなんですよ。曖昧にYouTubeやSNSを使って動画を使ってリモートして録りました、みたいなのが多すぎる。音楽家を安売りしているような気がして」

——なるほど。

ミト「本当にそれがイヤで。YouTubeもちょこちょこ見てはいるし、あとバトン(ミュージシャンがリレー方式で歌・演奏を配信する)とかもそうですけど、バトンは正直いろんな方から連絡がきたんですけどほぼほぼ全部断ったんですよ。できないことはないんですけど意外と労力もかかるし。あとTwitterの音源ってクリックして聴かないと音めっちゃ悪いんですよ。しかもスーパーチャット(YouTubeのライヴ配信で使える投げ銭のシステム)をやってるわけじゃないので、見返りとなるものがあるわけでもない。見返りは必要ないんですっていうその気持ちも、今ミュージシャンが言うのって非常に嘘くさい気がする。流れ作業で、活動できないフラストレーションを解消してるぐらいにさえ見えてしまうというか」

——こないだリモート・インタビューした別のミュージシャンも、そういうバトン的なものは全部断ってるって言ってましたね。

ミト「はははっ。本当にミュージシャンの方々に言いたいのは、もうちょっと自分にプライド持って欲しい。それは本当に思いますね。何でもかんでもタダで聴かせればいいと思うのは正直、今のリテラシーとストレスに追いやられているだけだと僕は思っているので。あなたたちが作っている音楽はもっとすごく崇高だと思うし、誇っていいものだと思うので、お願いだからあんまりむやみやたらにタダで出すのはやめて欲しいですね」

——私もそう思います。プロなんだから。

ミト「そう。それをどんどんやっちゃうから、周りから『あいつらはタダでやってたのになんでお前たちは金を取るんだ』って言われちゃうんですよ。それは本末転倒。それじゃお金が流れていかないんですよ。だからそれは本当に再三言ってます」

——ライヴ中心にやってた人が無観客で有料配信するのは一つのやり方だと思うんだけど、無料でやる人が多すぎちゃうと有料の人が金儲けしてるっていうイメージになっちゃって、できにくくなるっていう弊害は絶対ありますよね。

ミト「そう。まさに、おっしゃる通りですよ。でも、なぜそうしてしまうかっていうのもわかるんです。動けないし、動こうとしても何もできない。ライヴもできないし。だからどうにかして何か活動的なことをしているという体(てい)は出したいんだろうな、という。それはわかる。でも僕、ミュージシャンはもうちょっと黙っててもいいと思ってるぐらいだったりするので」(2020/5/19 リモートにて)(取材・文 / 小野島大)

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