ちゅうしょうむじい(5)

一流の芸術家には「遍歴」がある。それはクラシックカーのように綺麗に古くなり、歴史に残る。

彦坂尚嘉氏のヴィデオを見た。美術における「抽象」といえば、誰を措いてもまずは彦坂尚嘉である。
内容は、美術史家の富井玲子氏が、彦坂氏の初期からウッドペインティングまでの芸術的変遷を詳細に解説している。内容が濃く、私の力量では、過不足なく要約するのは難しい。

ポイントをひとつを挙げると、彦坂氏は美術における抽象の兆しは1920年代にすでに見られる、と言っている(ところが、多くの人々はそうではなく戦後に起こったと誤認していると。フランスのアンフォルメル、アメリカの抽象表現主義、等々)

私の解像感は大丈夫だろうか…とか、あれこれ自問自答しながら見ていたわけだが。かのように、ヴィデオでは芸術の「理解」に関する議論が中心だったように見える(た)

ウッドペインティングについては、私は詳しくはない。実物を見たい願望がある一方で、ゼロ年代以降の展開(格付け)にこそ、氏の真面目があるのではないか、とも感じている。

フロア・イベント(1970年)でペインティングを解体し、様々な紆余曲折を経て、またペインティングに戻り、展開させていく。”矛盾を抱えたまま行”っていたとも告白している。

この葛藤は、富井氏の説明でも簡潔に表れていたと思う。彦坂氏はその性質上、思考の飛躍を許さず、理解を得た後にまた葛藤し、一歩ずつ前進していくような、

この志向性(絵画思考の強さあるいは深さ、という言い方で表現されていると思うが)の原点として、富井氏は中原佑介や高松次郎の名を挙げたのだが、個人的にはある種の満足というのか、納得感があった。

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