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【INTERVIEW #1】「おおい町の農家で、道の駅を盛り上げたい」松井農園・松井眞二

みなさま、はじめまして。

福井県おおい町の暮らしを発信するnote担当の張本と申します。今年の4月におおい町に移住してきたばかりの地域おこし協力隊でもあります。

このnoteは「おおい町の人や暮らしを、町の外の人にも知ってもらえるとうれしいな」という思いで始めました。これからnoteを通じて、おおい町と関わりのある人たちの活動や思いを発信していければと思います。

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それでは、第一回インタビューのお相手を紹介します。家族経営で東京ドーム6~7個分もの面積になる田畑を管理し、お米や野菜を育てている松井農園の松井眞二さんです。「おおい町の農家と協力しながら、もっと道の駅を盛り上げていきたい」と語る松井さんの農業にかける想いやこれからの構想について伺いました。

松井 眞二(まつい しんじ)
おおい町出身。大阪で介護の仕事に就いた後、おおい町で農業に従事。兄が代表を務める合同会社松井農園で主に稲作、野菜の栽培を行う。

野菜をモノ扱いしたくない

―松井農園での活動について、教えてください。

(松井)草刈りをしたり、苗を植えたり、収穫したり、お米づくりをメインに取り組んでいます。松井農園で扱っているのは、コシヒカリやハナエチゼンなど8種類のお米です。その中には、おおい町にゆかりのある女優・浜美枝さんの『浜美枝のひとめぼれ』も含まれています。

他にもレタスやネギ、さつまいもといった定番の野菜や、白色のナスや緑色のトマト、スティック状のカリフラワーなど一風変わった野菜も育てています。

野菜って、本当におもしろい。例えば、ナスはナスでも品種によって形も味も食感も異なります。料理の仕方によって合うものも、そうでないものもある。例えば、今育てているナスの品種は炒め物にあうナスなんです。

―松井さんが思う農業のおもしろさ、他にも聞いてみたいです。

(松井)先ほどメインの仕事は米づくりと言ったけど、ぼくにとって農業で最もおもしろいのは野菜づくりなんです。新しい品種を見かけるとつい試したくなる。最近だと、イタリアン野菜の種も入荷して育てているところです。

でも、当然、すべてが上手くいくわけではない。全滅するときもあるんです。だからこそ、毎日かならず様子を見に行って、その時々の気候に合わせながら、手塩にかけて育てています。

少し変わった話をすると、野菜について話すとき「この子たち」って表現を使っています。自分の子どもではないけれど、モノ扱いしたくない。

―野菜に真摯に向き合われているのですね。

(松井)松井農園で育てたお米や野菜は、給食センターに卸したり、道の駅で販売したりして、誰かの口に入るものです。だから、おいしいのはもちろんのこと、新鮮で安心・安全な状態で届けなければいけない。そのためには、毎日手をかけてあげることが必要なんです。

師匠はおばあちゃん

ー松井さんはずっと農業を?

(松井)おばあちゃんも親父も農業をしていたので、子どもの頃から手伝っていました。ただ、農業って重たいもの運んだり、草刈りしたり、しんどいじゃないですか。

だから、高校を卒業するときは頭の中に農業の選択肢はなくて。都会にあこがれて大阪に引っ越した後、介護の仕事に就きました。

―農業ではなく、介護に。

(松井)中学生のころに、介護のボランティアに関わったことが印象に残っていたので。その後、おおい町には帰ってきたものの、農業するわけでもなく介護の仕事を10年ほどしていました。

―どういう経緯で、おおい町に帰ることに?

(松井)徐々に大阪での生活に、疲れを感じてきていたんです。大阪は遊ぶ場所が多くて楽しかったし、仕事のやりがいもありました。

だけど、昔から人混みが苦手なうえ、高架下の周辺に住んでいたので空気も良くなかった。環境面での負担が積み重ったのだと思います。そんな状況でおおい町に一時的に戻ってくると、自然に囲まれて、清々しい気持ちにさせてくれていた。それで、おおい町に帰ってくることを決めました。

その後も介護の仕事は続けながら、おばあちゃんの農業を手伝っていると、野菜づくりのおもしろさに気づきはじめた。種を蒔く時期など、おばあちゃんには色々と勉強させてもらいました。

そんな流れのなか、松井農園も人手が足りなくなっていた。母親が年を重ねながらも、30キロの重たいお米を汗水垂らして運んでいるんです。その姿を見ていると「そろそろ農業するべきなんかな」と思って、松井農園で働くことになったんです。

―農業を始められたこと、ご家族の影響が大きかったのですね。

(松井)野菜づくりの師匠は、おばあちゃんですから。でも、家族だけじゃないんです。今も楽しく農業を続けられているのは学生たちのおかげでもあります。

農業体験をした学生が移住者に

―そういえば、地域おこし協力隊のOBの方が「農業体験がきっかけで、おおい町に移住した」と言っていました。

(松井)新型コロナウイルスが流行する前は、近畿大学の農業サークル「やまぼうし農園」のメンバーが毎月のように遊びにきてくれていました。その中の2人がおおい町を気に入って移住してくれたんです。

―どんな農業体験だったんですか?

(松井)最初は近畿大学の客員教授であり、女優の浜美枝さんとのご縁から始まった取り組みでした。授業が終わってからも、農業体験に参加した学生たちが立ち上げたサークルが10年近くおおい町に来てくれていたんです。

 野菜はスーパーに陳列されているもので、種からどんな葉や花がなるのかは知らない。土を耕したり、虫を触ったり、草を刈ったりした経験もない。そういった学生が多かったので、一緒に苗を植え、収穫した野菜を売り、収入を得るというすべての過程を体験してもらいました。農業の楽しさも大変さも感じてもらえたらと思って。

もちろん農業を仕事にしたい人ばかりじゃないから、ちゃんとやる子もいるし、ダラダラする子もいる。でも、農業3割、遊び7割のバランスでいいのかなと。だから、おおい町は農業以外にもたくさんの魅力があるし、農業以外の時間は色々な場所に連れてって一緒に遊んでいました。

―そしたら、2人も移住されたんですね。

嬉しいことですよね。ハードなスケジュールではあったのですが、学生たちが毎回、「空気が澄んでいる」「癒される」と言ってくれて、この場所の良さを再確認させてくれていた。たくさんの刺激を与えてくれていました。

道の駅を盛り上げたい

―今後についての眞二さんの構想も伺いたいです。

(松井)おおい町の農家と協力しあいながら「道の駅うみんぴあ大飯」を盛り上げていきたいですね。道の駅は週末を中心に多くのお客さんが来てくれる。そこで「おおい町の農家が育てた野菜はおいしいんだ」ともっとアピールしていきたいんです。

まだまだ課題だらけですけどね。例えば、おおい町はビニールハウスで野菜を栽培されている農家が少ないので、季節によってはおおい町の野菜を出荷できない。そうなると売り場には町外の野菜が並ぶことになります。やっぱり、おおい町の農家としては悔しいんです。

ただ、その課題をすぐに解決するのは難しいので、まずは野菜を出荷する人を増やす試みから始めています。例えば、今だと道の駅やほかの農家と一緒に朝市の企画を進めているところです。

―朝市、いいですね。

(松井)もともと道の駅ができるまでは、みんな自分や家族、友人のために野菜を育てていました。だけど、道の駅ができたおかげで、野菜を売ってお客さんに喜んでもらえる楽しみが生まれたんです。

出荷者さんと話をすると、「野菜を買ってもらえてうれしい」とみなさん言っていて。だからこそ、野菜を並べておくだけじゃなく、朝市で出荷者とお客さんが直接顔を合わせる場をつくりたい。そのほうが、双方にとって楽しい体験になるんじゃないかと思っています。

そんなイベントを開催しながら、最終的には毎朝お客さんが並んでいる状態になると嬉しいですね。白ナスなどの珍しい野菜を育てているのも、他のスーパーや道の駅になく、人生で出会ったこともないような野菜があれば、楽しく買い物してもらえるんじゃないかと思って。そうして様々な試みをしながら、道の駅の野菜売り場を盛り上げていきます。

―何かできることがあれば、ぜひ手伝わせてください。

(松井)もちろん。またいつでも遠慮せずに遊びにきてね。

編集後記

料理が苦手な筆者は、これまで野菜を買うときは安さと近さを重視していました。そんな自分でも農業に真剣に向き合う眞二さんのお話を聞いていると、取材しながら「愛情込めて育てている人の野菜を食べたい」という気持ちになってくる。そして、そんな農家さんが半径1キロ以内にいて、みなさんが育てた新鮮な野菜を道の駅ですぐに買えること、とてもありがたいことだと感じました。おおい暮らしの魅力のひとつに「農家さんとの距離の近さ」は間違いなくある。次の週末は道の駅に行き、ゆっくり野菜を選んでみます。


執筆・撮影 : 張本舜奎
*一部、松井農園さんから写真を頂きました。



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