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中力粉とラグビー観戦。あるいは日常でゆらぐ時間を作ること。

店頭で粒の揃ったパック苺をよく見かけるようになり、買おうか買うまいか迷った結果「明日ショートケーキでも作ろうか」という発想になった。

ケーキ作りには粉とバターと卵と砂糖が要る。ちょうど切れていた卵と、普段使わないので少量しかない小麦粉、そしてメインの苺を買いに徒歩15分のスーパーへ足を運んだ。

運んだはいいが夕飯前に行ったのでお腹が空いていて、1日の疲れもそこそこ溜まっていたので着いて早々「帰りたい」という気持ちになってしまった。足早に店内を周り最後に小麦粉コーナーに立ち寄ったとき、わたしはそこから動けなくなった。

「小麦粉(中力粉)」

…え?なんで中力粉しかないの?
レシピを見るにわたしが買うべき粉は薄力粉なのだけど、棚の最下段は中力粉で埋め尽くされている。手に取って目線に合わせてみても間違いなく「小麦粉(中力粉)」と書いてあり、奥に薄力粉があるのか?と思い取り出し探ってみても中力粉、中力粉…。棚の全体を見ても唐揚げ粉、天ぷら粉、お好み焼き粉、片栗粉、強力粉、中力粉の並び。

薄力粉がないなんてこと、あるはずがない。
と思いながらも、変わらない現実が目の前にある。今から他のスーパーに寄るのも面倒だし、明日に仕切り直すのも面倒。結局「強力粉じゃないから何とかなるか…」と思考を停止させ人生で初めて中力粉を買った。

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あるいはラグビー観戦である。

4月某日、大学のサークル同期からLINEが届いた。「先輩たちとラグビー観戦に行くんだが一緒にどうか」という誘いだった。

フランクに誘ってくれたのかダメ元での誘いだったのか分からないが、わたしは特にスポーツ観戦を趣味にしているわけではない。勿論ラグビーの存在は知っているけど、見たこともないしルールも知らない。そこそこ人もいるんだろうし…とどうするか悩んで、「行ってみたい」と返事をした。

だって誘われなかったら絶対行く機会ないもの、ラグビー観戦。面白そう。

当日は初めて降り立つ駅で久々のメンバーと会い、暑い日差しにやられながら知らない同志たちの人波に揺られ会場へ向かった。2年前くらいに誘われて行った野外音楽フェスの温度を思い出す。

ラグビーに詳しい先輩からルールを解説してもらいつつ、フィールドを眺める。スポーツらしい熱さや身体のぶつかり合い、独自のルール、怪我の発生や選手交代、トライまで巧みに駆け抜ける人間の身体能力の高さにドキドキした。

後ろにいる女性たちがラグビー業界の年収や選手移籍についてそれぞれの見解を話していたのも興味深かった。この人たちは一体いつどうやってラグビーと出会ったんだろうか。

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結局、中力粉を使ったケーキ作りはあまり上手くいかなかった。食べれないことはないが、想像より固い仕上がりになってしまった。残り700gの使い途を調べていると「うどん」「おやき」のレシピが目につく。

うどんが中力粉で出来ているのを初めて知ったし、家庭で作ろうと思えば作れるのも驚きだった。おやきは何度かチャレンジして、2度目で成功して3度目で失敗した。加えるお湯が熱すぎるとダメらしい。生地を寝かせてこねる作業は単純に楽しく、夢中になった。

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きっとAmazonで注文していたら中力粉を買うことはなくおやき作りにハマることもなかった。ラグビー観戦という休日の過ごし方もわたしの脳内にはなかったし、検索窓に入力すらしなかっただろう。 

最近先輩がよく「こもる時間とゆらぐ時間」の話をしてくれる。

家にこもっていると、新しいものに出会いにくい。ある意味積極的に「間違ってみる」「流されてみる」ことも必要なんだなと感じる。単調な日々を揺らすゆらぎの時間だ。

ゆらぎの引き起こし方に正解はないけど、ゆらぎが適度に日常にあるのは楽しい。中力粉とラグビー観戦がもたらした時間は思いの外楽しく、自分の知識や思考の幅を広げてくれたので感謝している。

中力粉は、おそらくあと2回ほどおやきを作ったら無くなってしまうだろう。次はうどんかパン作りか。

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