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戯れにも見えた。死闘にも見えた。/『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』感想

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』を初日初回IMAXで観戦(鑑賞)してきました。

まぁハチャメチャに面白かったわけですが、この対決が『ハイキュー!!』という作品の中でも一風変わった異色のカードだった、と改めて感じたので内容と感想を簡単に書き記しておきます。

この記事は以下のネタバレを含んでいるおそれがあります。
・ハイキュー!!JC全45巻(劇場特典33.5巻含む)
・ハイキュー!!ジャンプ ゴミ捨て場の決戦
・ハイキュー!! magazine 2024 FEBRUARY
・劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦 パンフレット

※サムネはハイキュー!!ジャンプ ゴミ捨て場の決戦(初出JC34巻収録第297話扉絵)より
※タイトルは2012年 JRA CM The WINNER 有馬記念編より

「ゴミ捨て場の決戦」の位置付けと概要

主人公・日向翔陽が所属する烏野高校(宮城)と、彼の友人であり、ライバルである弧爪研磨が所属する音駒高校(東京)。

両校の関係は、烏野の烏飼元監督と音駒の猫又監督の現役選手時代から続く因縁であり、何度も練習試合を重ね、共に高め合ってきた仲でした。

©︎古舘春一・集英社/JC第33巻 p.104-105

この両校の初めて公式戦での対決が、今回の「ゴミ捨て場の決戦」です。漸く実現した「”もう一回”が無い試合」であり、選手たちはもちろん、多くの関係者たちが待ち望んでいた悲願の一戦なわけです。

作中でも屈指の名勝負として絶大な人気を誇ります。

©︎古舘春一・集英社/JC第33巻 p.146-147


両チームのカラーと春高での前後の流れについて触れておくと、烏野は、日向と影山を軸にした全員の攻撃意識が高い、超攻撃型チーム。

春高2日目に優勝候補の一角である稲荷崎高校を激戦の末撃破し、3日目にこの音駒戦を挟んで、高校生として作中最後の試合として描かれる鴎台高校との対決へと進んでいきます。

©︎古舘春一・集英社/JC第35巻 p.50-51


対する音駒高校は、粘り強くボールを拾い、セッターである研磨を軸にじわじわと戦う超守備型のチーム。

春高では2日目に早流川工業高校(石川)との粘り対決を制し、3日目に烏野との因縁の対決に臨みます。

©︎古舘春一・集英社/JC第33巻 p.133


第1セットは、勢いに乗る烏野が猛攻を仕掛けるも、音駒が持ち味の堅実な守備で防ぐという形で進み、烏野の見せた一瞬の”攻めの隙”を研磨が突き、音駒が先取。

第2セットは、音駒の徹底した”日向潰し”の戦略が敷かれる中、影山と日向はオープン攻撃も織り交ぜながら攻略し、烏野が奪取。

最終第3セットは、お互いに身体的・精神的にすり減っていく極限状態の中、研磨が最後にボールを落とし、セットカウント2-1で敗北。

初の公式戦での「ゴミ捨て場の決戦」は、烏野勝利で決着しました。


読者の視点から元も子もないことを言うと、このカードはぶっちゃけ地味です。

烏野も音駒も、お互いのことをよく知っており、対戦としての真新しさに欠け、音駒のプレースタイルは堅実で派手さはそこまでなく、烏野の前後の対戦と比べても、盛り上がり要素は相対的に薄いと感じるのが自然です。

しかし、この両者(日向と研磨、烏飼元監督と猫又監督)の至極個人的な因縁の対決には、あえてこの春高という全国の舞台でやるだけの背景があり、劇場版として描くに足る濃密な内容です。

むしろこの地味さこそが『ハイキュー!!』が持つリアリティーあるストーリーの醍醐味であり、両校の関係性を際立たせる要素となるのです。

©︎古舘春一・集英社/JC第36巻 p.106-107

地区も違うのに、お互いに意識し合い、高め合い、研鑽を重ねて、漸く約束果たす場所が「負けたら終わり」の真剣勝負の大舞台。

©︎古舘春一・集英社/JC第37巻 p.24-25

試合が進むにつれ、息は上がり、身体は悲鳴を上げ、苦しくてしんどいのに、「終わらないでほしい」と願う。それが「ゴミ捨て場の決戦」なのです。


弧爪研磨の視点

『ハイキュー!!』では、音駒vs戸美、梟谷vs貉坂など、烏野が登場しない対戦カードに多くの話数が割かれる回が割とよくあります。

©︎古舘春一・集英社/JC第22巻 p.122-123
©︎古舘春一・集英社/JC第37巻 p.114-115

これは、烏野以外の各校にも人気キャラクターがいるからこそ為せる技であり、作品全体のキャラ層の厚さが窺えるところです。

そして、今回の「ゴミ捨て場の決戦」における烏野vs音駒のカードも(劇場版では特に)半分この「烏野が登場しない回」の部類に入ると個人的には思いました。


もちろん烏野は登場していますし、日向を中心に烏野側の心理描写も多く描かれてはいます。

が、試合全体を見た時に、音駒側、主に孤爪研磨の視点で描かれており、(劇場版では特に)「烏野が音駒と戦う試合」というよりも「音駒が烏野と戦う試合」という側面が大きかったと感じました。

満仲監督も仰っていた通り、この劇場版における主人公は研磨だったな、と。「主演:研磨、助演:黒尾・日向」といった感じ。

これは、劇場版が原作と比べて、物語の前後の繋がりをある程度切り離して観られる故のことと、原作から細かいシーンがカットされ、あえて研磨をメインに据えて描かれていたからだと思います。

©︎古舘春一・集英社/JC第36巻 p.83-84
©︎古舘春一・集英社/JC第30巻 p.94-95

外で遊ぶことより、部屋でゲームをすることの方が好きで、勝負ごとに然程関心がない研磨が、クロ(黒尾鉄朗)に導かれて始めたバレーボールというスポーツを通じて、翔陽(日向翔陽)と出会い、彼への興味を呼び水として、バレーボールの楽しさを深く味わっていく。

「ゴミ捨て場の決戦」は、研磨のバレーボール人生の一つの集大成であり、区切りとして強調されていました。


ちなみに、この「ゴミ捨て場の決戦」は2013年という設定。

黒尾たちが卒業した後の音駒の戦績は、2014年(研磨3年生)が春高2回戦敗退、2015年(日向3年生)は春高東京予選決勝敗退で、日向と研磨が公式戦で戦ったのは今回が最初で最後となったみたいです。(IHや国体で対戦したかは謎)


敗者の在り方と単純な楽しさの追求

『ハイキュー!!』という作品の物語の軸の一つに「敗者の在り方」があります。

©︎古舘春一・集英社/JC第8巻 p.141-142
©︎古舘春一・集英社/JC第42巻 p.65-66

物語の始まりから一貫して「敗者の姿」がクローズアップされ、そこからどう立ち上がるか、どう挑戦するかという「敗北という現実を前にした時の人の在り方」が描かれています。

部活動という限られた時間の中でスポーツに打ち込む高校生たち。彼らはほぼ全員漏れなくどこかで負けます。「ゴミ捨て場の決戦」の試合後にもこれについて少し言及されるシーンがあります。

©︎古舘春一・集英社/JC第38巻 p.98-99

この敗者に対する暖かい眼差しが、作品の揺るぎない地盤として存在しており、『ハイキュー!!』の魅力の一つとなっています。

ただ、「ゴミ捨て場の決戦」は、多くの人の悲願だったという試合の性質と、先に述べた研磨視点で描かれるという構造上、この「敗者の在り方」からは少し逸脱した締め括られ方がされています。


宴であり、祭であり、ある種のエキシビションマッチのような雰囲気で試合が始まり、勝敗の決し方も実にあっけなく、気が付けば終わっていた、というような形。

もちろん、「負けたら終わり」「もう一回がない」、そういう試合をしている自覚はコート内外の全員が持っていますし、だからこそ試合が終わった時、研磨は清々しい達成感と幸福感に包まれていたのだと思います。

©︎古舘春一・集英社/JC第37巻 p.42-43

ラリーは永遠には続かない。どちらかが勝ち、どちらかが負け、試合が終わる。

そんなバレーボールというスポーツの「当たり前」を通して、日向が研磨に「楽しい」や「面白い」を言わせた「ゴミ捨て場の決戦」には、ここまでも、そしてこの先も作中で徹底して描かれる、真の意味での「敗者の姿」は存在しません。

©︎古舘春一・集英社/JC第36巻 p.180-181
©︎古舘春一・集英社/JC第36巻 p.182-183

日向が研磨に「たーのしー(楽しい)」と言わせた時点で、この二人の勝負は決しており、学校同士の勝負の勝敗として、結果的に烏野が勝利し、次に進んだだけという話です。

勝ち負けという基準ではない「楽しさ」の追求こそがこの「ゴミ捨て場の決戦」の根幹でした。


最後に

以上、「研磨を軸に」「楽しさの追求を描く」というアプローチが、劇場版「ゴミ捨て場の決戦」が『ハイキュー!!』においての異色なカードに思えた理由でした。(書いていてよく分からなくなってきたので無理やり締めます。)

映画、というかほぼ原作の個人的な振り返りとして、「ゴミ捨て場の決戦」について書きましたが、いやはや本当に名勝負。

細かいことは置いておいて、軽い気持ちで観に行って十分満足できるものに仕上がっていたと思います。


ただ、やっぱりアニメより原作のコマ割りやテンポが個人的には好きです。アニメも良いですけどね、動きや声、音が入っていて。

©︎古舘春一・集英社/JC第37巻 P.32-33
©︎古舘春一・集英社/JC第37巻 p.34-35

特に「ゴミ捨て場の決戦」最後のプレーとなるここのシーンの演出は、アニメならではのもので息を飲みました。



さて、劇場版制作が発表されている「二部作」の内、二作目となるであろう鴎台戦ですが、今回のですら85分でギリギリだったので、どう考えても圧倒的に尺が足りません

なんとか2時間強の尺で作れないか、それでも心許ない気がするので、偉い人に頑張っていただいて、いっそTVアニメでやる方向に行かないものか…と思っています。

今回の劇場版が割とメガヒットしそうな勢いなのでワンチャンありそう。

©︎古舘春一・集英社/JC第38巻 p.181-182

あと花江くんの光来があまり合っていない気がしていのも個人的向かい風です。まぁそもそもまだアニメでそこまで登場していないので、もっと色々な活躍を見れば変わってくるかもですが。


何はともあれ、今は「ゴミ捨て場の決戦」に浮かれましょう。「”もう一回”が無い試合」を何度でも楽しみたい。

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