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Netflixで配信された、『THE DAYS』について。

 Netflixで配信された、『THE DAYS』について、僕なりに見て感じたことを書きます。

 正直、最終回まで見るのが辛いドラマでした。内容が辛いのではなく、演出がクサくてしらけるのと、台詞が説明的で、火サスのような2時間ドラマを見ているような気持ちになったからです。

 再臨界を恐れた首相官邸が海水注入を止めさせようとしたことになっているし、ダメな首相官邸と現場の間に挟まれた可哀想な東電本店という扱いになっているし、首相がアメリカに対して1Fから80km圏外への避難指示を取り下げるように迫っていたり、自衛隊が原発事故対応で大きく活躍したことになっていたり、オチではダメな日本政府がアメリカの大活躍によって救われたことになっているし、原案となった門田隆将氏の意向が強く反映されたものになっていると感じました(それは、地震が起きた時の国会審議の内容からも読み取れる)。

 役所広司さん演じる吉田所長役は、『FUKUSHIMA50』のような剛腕のイメージはなく、随分と優しくていい人、的な描かれ方がしています。「英雄を描きたいわけではない」といった趣旨のことをプロデューサーはインタビューで答えていたように思いますが、やや優柔不断な印象もあり、主役でありながら随分とボヤけた雰囲気でした。ラストの吉田所長(役所広司さん)による独白では、2017年や2019年の話までされていて、その後に「2013年死去」と出てくるのは、吉田所長が亡くなっていることを知らない人は混乱すると思います。

 石田ゆり子さんが千羽鶴を折るシーンや、最終話で1Fの状況を伝える女性アナウンサーが泣き出すシーンは、見ていて辟易しました。漫画みたいなあんな酷い演出を平気でやれる神経がわかりません。

 象徴的なのは、「原子力明るい未来のエネルギー」の看板を、地震で倒壊したように見せたことでしょう(実際には地震で倒壊はしておらず、2015年12月に人為的に解体撤去された。現在、文字盤のみ原子力災害伝承館で保管されている。外で展示されているのはレプリカ。)。あの看板には大きな意味があったにも関わらず、その撤去にまつわるエピソードを全く知らないことの証です。当事者への取材が全く足りてないのでは、と感じていましたが、全8話見ても全く同じ印象でした。エンドロールで出てきた参考資料のみ熱心に読み込んで作ったとしか思えません。

 事実関係の細かい違いは、映画『MINAMATA』でもあったし、映画である以上構わないとは思いますが、大事なポイントで大きく違っていることは問題だと思います。これを全8話毎回しょっぱなに「事実に基づく」として全世界配信することはいかがなものでしょう。これは、『THE DAYS』ではなくて、『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』というタイトルの門田隆将原作のフィクションとすべきだと思います。

 こうした作品を見るたびに、原発構内で起きていることと周辺で起きていることが完全に断絶していることに残念な気持ちになります。現場作業員は頑張ったのかもしれませんが、地元消防団のことについては何も触れられていません(参考:「孤塁」吉田千亜著)。周辺住民はその後何年にも渡ってとても辛い状況に置かれ、今も避難生活を続けている人が何万人もいます。原発事故によって、大多数の人の暮らしが大きく変えられてしまいました。しかしそうしたことについては全く語られていません。「今も廃炉作業は続いている」とは言いますが、「今も避難生活は続いている」とは言わないのです。

 「風化を防ぐ」という観点で見れば存在意義はあるのかもしれませんが、僕はこの作品を人に勧めることは出来ません。

2015年5月撮影。

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