片付け戦略:駐車場①~⑤

休日、深夜3時に目が覚める。それから5~6時間パソコンでゲームをしたり動画を見たりして9時ごろにカフェに向かった。

カフェや喫茶店に行くという習慣はこの夏から始まった。軽食やコーヒーを頼むが、コーヒーの美味しさというよりは、気分や時間を楽しんでいる。そうやって気分を乗せて、あまたある積読本を読んだり、ノートに思い浮かんだことを書き連ねたりする。ブログのネタだったり、妄想だったり、やりたいことリストだったりする。

今日はいつも行くカフェの駐車場がいっぱいで止められなかったので、Uターンして家に帰ろうかと思ったが、勇気を出して、趣ある喫茶店に初めて入ってみることにした。が、駐車場がわからない。周囲と共同の駐車場になっているのか、広すぎるが看板もなく判然としない。とりあえず店の近くに停めて、店員に聞いてみることにした。

私「こんにちは」
オーナー「……」

しかめっ面のおじさんが、静かにこちらをにらむ。見慣れない一見さんの審査に入ったのだろうか。入る店を間違えたかもしれない。奥では常連風のおじさん二人がタバコを吸いながら談笑していた。

私「あの、駐車場ってどちらに……」
オーナー「駐車場?!1番から5番まで!!他は契約駐車場だからだめだよ」私「あっ、はい……」(よかった1番に停めといて)

早口の大きな声で駐車場の案内をされて、わずかに狼狽した。オーナーは、立ち尽くしている私の肩にツンと触れてテーブル席を指さす。水を差しだしつつ、「どうする、モーニング?」「トーストかハンバーガーか」と小声で言う。その声は、さっきより少しゆっくりと、柔らかくなった気がした。これが接客モードだろうか。

「ハンバーガーのモーニングで、あと飲み物はアイスコーヒーで」

私はカバンの中から雑誌とノートを取り出し、家の片付け戦略を練って書き出していた。リビングのゴミを捨てて床を出す。服を捨てる。洗濯機を2回回す。要らない服を捨てる。机の上を拭く。どれも当たり前のことなのかもしれないが、私は気分を乗せてやらないとできないのである。

注文したモーニングセットはすぐに平らげてしまい、ひたすらノートに向かって片付け片付けと書き記す。

私より少し後に入ってきた常連風おばさんは、「今日はなにをしようかなと思って」と言って席に着いた。数十分後、「そうだガソリンを入れよう」と口にして去っていた。オーナーとは、互いに話を聞いてるのか聞いてないのかわからない会話をしていた。

常連風の客たちが帰り、客が私だけになってもまだ、私は諸葛孔明よろしく片付け戦略を練っていた。

オーナー「なんの勉強?」

オーナーは、くしゃっとした笑みを浮かべて私に声を掛けた。なるほど。そんな笑い方をされる方だったのか。

私「えっと、家の片付けの予定を考えてまして」「というか、まず散らかった家のゴミ捨てからですね……」
オーナー「そりゃそうだ。まずゴミを捨てないと」「家具だなんだと、新しく買うと金がかかるぞ」「会社勤めかなんか?」

そんな会話から始まり、20~30分ぐらい話していた。新鮮だった。仕事関係で他人と話すことはあっても、プライベートで全く知らない人と話すことは普段まったくないからである。パソコンかピアノか、ゲームか本、動画。最近の私の行動範囲はその中に納まっていて、外出して他人と話すなどレジの会話ぐらいである。

私は、自分がうまく笑えているか気になった。話すことは、なんとかできた。苦手でも久しぶりでも、頭をフル回転させればどうにかなった。でも、この顔である。声色である。久しぶりに人間界に舞い降りてきた化け狸のごとく、筋肉を操れている自信がなかった。これはいけない。ときどきちゃんと、人間と話さねばならんな、と思った。同時に、仕事の時は完全に違うモードに入ってることにも気づかされた。あれは仕事用に最適化されていたんだな。

店を出るときには、「じゃあがんばれよ、世のため、人のため」「お父さんも無理せず、がんばってください」と言い別れた。

家に帰り、その後は約3時間片付け・掃除・洗濯ができた。これは私にとって、自己新記録であった。これまでは長くて1時間半程度。今日は、駐車場の場所を厳しく教えてくれたお父さんのおかげで、片付けがはかどった。毎週行くのはちょっとアレなので、またカフェの駐車場がいっぱいだったら、行きますね。


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