「不敬罪の復活」が必要では?
「不敬罪の復活」が必要では?
刑法上の名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪
ある者を誹謗中傷から守るための法規範として名誉毀損罪・侮辱罪があります。(※民事訴訟を皇族が提起することは実際上考えられないのでそちらは捨象します。)
刑法上の名誉毀損罪・侮辱罪は【親告罪】です。
検察が独自に公訴提起するわけにはいかず、刑事裁判が行われるためには必ず告訴がなければなりません(告訴なしでも捜査は可能だが)。
ただし、「天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣」の場合は内閣総理大臣が代わって告訴を行うことに。
では、その他の皇族は?
というと、一般国民と変わらない扱いなので、自らが告訴をしなさいということ。
ここに皇族に対する名誉毀損・侮辱の深刻な問題が現れていると思います。
「皇族が告訴をした!」
これだけで一つのエンタメとして消費されてしまいます。告訴対象者はYoutubeなどで一躍時の人となり、荒稼ぎし始めるでしょう。
なお、既に女性週刊誌は皇室の話題でさんざんっぱらお金儲けしてます。
ここで、名誉毀損罪については公共利害性・公益性などの「抗弁」が主張されることも。
「公共利害性・公益性」という逃げ道
メディアやネット上の誹謗中傷者は「皇室報道には公益性がある」で逃げてるが、そういう逃げ道を無くすべきでは?
今の制度は「皇室相手ならテキトー書いても大丈夫」とメディアやネット民に思わせるものでしかない
したがって、名誉毀損罪・侮辱罪は皇族を誹謗中傷から守るためにどれだけ有効なのかは疑わしいです。(※天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣も結局は同じ構造的問題があるだろう)
そこで、その不都合を回避できないか?
削除された刑法上の不敬罪
刑法第二編第一章は、かつては存在していたが、1947年(昭和22年)に削除されています。旧刑法の規定はまた少し異なるのですが、戦後の刑法でも一時期までは不敬罪が残存していたということです。
削除された不敬罪と、現行の名誉毀損罪・侮辱罪は以下が異なる
・実行行為が「不敬ノ行為」
・親告罪ではない=非親告罪
・公共利害性・公益性・真実性・真実相当性の抗弁が、少なくとも判例規範として示されたことが無い
・法定刑が重め
親告罪ではないというのが大きい。これで上掲の問題はクリアできる。
ただ、削除前の不敬罪をそのまま復活させるのは、必ずしも要しない。
たとえば客体には「神宮」「皇陵」があるが、これら場所に対する行為についてまで特別規定を定めるべきかは今回の事案の延長で論じる話ではない。
また、実行行為「不敬の行為」は、客体に対する軽蔑の意を表示し、その尊厳を害する一切の行為と解されていましたから、かなり範囲が広いものに。
こうなっているのは法定刑が重いこととも関係していますが、不敬罪の保護法益が個人的法益に限らず客体が象徴する国家的法益を含んでいるからです。
「不敬罪は現行憲法上は違憲ではないか」への反論
削除された不敬罪をそのまま復活させることで「不敬罪は現行憲法上は違憲ではないか」という懸念は強くなる。
ただ、客体が象徴する国家的法益を保護する規定を設けても、それだけでは憲法違反にはならないだろう。
なぜなら、外国国章損壊罪は当たり前に存在しているし、尊属殺重罰規定が違憲とされた際も「尊属に対する尊重報恩」を刑法上の保護に値するものとしていますから、況や皇室・皇族をや。
折衷案としての名誉毀損罪・侮辱罪の特別規定
「不敬罪」という別類型を設けることに反発が強いなら、名誉毀損罪・侮辱罪の延長で天皇皇族に対する特別規定を設ける、という方法もある。
天皇や皇族に対する場合には告訴は不要、とすればよい。
この方法は、皇室の尊厳を守ろうとしている者にとってもそこまで悪い話では無いのかもしれない。
たとえば、不敬罪として運用する場合「皇族の婚約に関する厳しい言説は、皇室の権威を維持するために行われているのだから違法性阻却される」という抗弁がなされたらどうだろうか?
「客体が象徴する国家的法益を批判者はむしろ守ろうとしているのだ」のように主張された場合にそれを排斥しながら理論的整合性を見出すのは結構しんどいと思う。もちろん、そういう主張のほとんどは実際には単なる方便であって、実質は単なる誹謗中傷だとされるでしょうが。
また、公判で皇族が審尋されないようにする証拠構造になるような手当も必要では無いでしょうか。捜査機関が立件する際にはそこまで睨んでやるでしょうけれども、捜査機関側の運用だけでは排除できない場合がいくらか存在するんじゃないかと想像しますが、果たして。
皇族の人権とリベラルの人権尊重
ところで、自称リベラルの人たち、「皇族に人権が無い(ような扱い)のは可哀想」だとか言ってたくせに皇族個人を守ろうとはしないんですよね
皇族の人権は天皇とは異なる扱いですから(天皇には民事刑事の裁判権は及ばないが皇后には民事裁判権が及ぶとする判例。普通の皇族はなおさら)。
皇族にかかる人権の制限は皇室典範や皇室関係法による他、実際の環境がそうさせている面がありますが、法的扱いは一般人とそれほど変わりない、という主張をするなら、皇族に対する誹謗中傷にかんしても同様に考えることになるはずですよね。
たとえば篠田英朗教授は国際法との関係を論じながら一般左翼に向けてこのような指摘をしており、実に必要な議論を展開していると思われます。
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