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夏の終わりを感じる瞬間について

ふと涼しい風が吹くときだったり、短パンとビーサンをしまうときだったり、売り場から緑の野菜が消えたときだったり、金木犀の香りがしたときだったり…。

いくらでもあるんだけど、僕はずーっと前から「これしかない」と確信していたことがあって。

それは甲子園の決勝戦と、赤とんぼ。

8月に入ってから毎日たのしみに見ていた昼間の熱戦が、ついに終わってしまう最後の試合。あんなに強かった強豪たちもつぎつぎに散っていって、残ったのはたったの2校。

なんてものがなしい。ここまでくると勝敗よりも、このうつくしい瞬間を少しでも長く、と願ってしまう。どっちもがんばれ、と。

そして、そんなふうにテレビを見ていて気づくことがある。

それは甲子園の決勝戦になると、途端に赤とんぼが画面にちらつきだすこと。不思議と準決勝や準々決勝では見た記憶がない。決まって最後の試合になると、「ああ、とんぼだ…」と目に入ってくる。

それまでまったく姿を見せなかった赤とんぼが、夏の終わりを告げるように甲子園に姿をあらわす。それを子どもの頃からずっと切なく感じていた。

優勝校が決まると、もう夏休みも残すところ一週間。急に現実に引き戻される感じがしていた。球児たちは地元に帰ってしまい、手元にはいつも夏休みの宿題だけが残されていた。

ただ、ここ数年、赤とんぼを見たことがあったかというと、なぜか思い出せない。暑すぎるからか、自分の目が悪くなったのか、それとも宿題のない40代男性には見えないものなのか。

今年の決勝戦は、切なさの正体を探しながら見てみたい。

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