日常
1‘
あぁ… 毎日、毎日
この満員電車に乗ってまた何もない1日が始まるのだろう
私は毎朝いつも同じ扉横に立つ。
窓ガラスに映る自分はいつしか歳をとっていた。
誰もかれもが毎日同じ角度でスマホを見ている。
2‘
私は何をしたくて今の仕事をしたんだっけ?
最初は情熱が確かにあった…
でも、理不尽な嫌味、途方もない残業
こんなことをする為に私は…
3‘
次の駅で降りよう…次の駅って何駅だっけ?
まぁいっか…何処だろうと関係ない
○「お姉さん、大丈夫?」
日奈子「えっ…」
4‘
〇「あ、ごめんごめん、急に話しかけたら驚くよね?いや、なんかつまらないような深刻な顔していたからさ〜」
目の前の制服を着た少年は何を言っているのだろうか?
つまらない顔だけならば深刻そうな顔にはならないはず…
そもそも私は感情が表に出にくいタイプだからわかるはずがない
5‘
日奈子「なんでもないわ」
○「そう?ならいいけどさ〜」
そう言った彼は私の横から移動する素振りがない。
つまらなそうに唇をとんがらせている。
その横顔を見ているとその男の子が口を開く。
6‘
○「この電車に乗ってるほとんどがさ、生気のない人形みたいに立っているからつまんなくて」
日奈子「あなた、何を言って…」
○「何を諦めたんだろうね?」
7‘
日奈子「え…」
○「あーあ、次の駅に着いちゃったね?お姉さん、ここ?」
日奈子「あ、いや、私は」
言葉出なかった。
まるで私の心中を見透かされたようだったから。
8‘
だからかな…
ここで降りないと…降りないと私は後悔する気がする。
でもドアが開かなかった…反対側が開いたんだろう。
わかっているのにあっちへ動かなくて…
9‘
すぐにでも動かないといけないのに
嫌だ…嫌だと思っても
嘘だ…嘘だと思っても
体は動いてくれない
10‘
私は窮屈な暮らしの中から出たい
そう思った…そしたら私はある手に導かれて
走り出していた。
11‘
“プシュッー、バタンッ“
日奈子「なんで…」
○「あれ?お姉さん、降りたがってたように見えたけど?」
日奈子「そうだけど……」
12‘
○「じゃあいいじゃん(笑)」
日奈子「あなたは大丈夫なの?この駅じゃないんでしょ?」
○「あー、気にしないで!俺ね?自由主義なの!」
日奈子「自由主義?」
13‘
○「そう!自由主義!だからね?何処で降りても構わないんだ!だって自由ってさ、電車で例えるなら途中下車をできることでしょ?」
そう言った彼は本当に楽しそうに笑っていた。
○「だからさ、お姉さんも毎回じゃなくていいから自由に生きてみなよ(笑)じゃあーね!!」
14‘
それから私は入社して初めて会社を休んだ…
意外と会社の方からのお咎めはなしで
それどころかたまには有給を使えと言われた。
15‘
あれから3ヶ月
私に対して理不尽な嫌味を言っていたお局様は
会社の常務との不倫でクビになり
先代が退き、新しい社長になって新しいシステムを
導入したことにより残業が減った。
16‘
私も最近ではかなり忙しいが
前からやりたかったデザインの仕事もさせてもらっている。
あの時以来、彼を電車では見ていない。
17‘
______
18‘
“ガタゴトガタゴトっ…“
日奈子「………」
本当に彼を見なくなったな……
私はいつも通り、会社に向かう為に電車に乗っていた。
19‘
あの時の彼は誰だったんだろう?
私の幻覚?もしかしたらそうなのかもしれない
最近ではそう思い始めてきた。
その時だった。
20‘
降りる駅の一駅前で彼の後ろ姿を見つけた。
見間違いかもしれない…この駅で降りたら会社に遅刻する。
それでもいい!間違えでも、なにもなくても構わない!
21‘
あの時、彼は私の手を引いて駅を降りてくれた。
今度は私で降りてみなくちゃ!今度は自分が変わらないと!!
日奈子「あっあの!!」
○「ん?おっ、あの時のお姉さん!今度は自分で降りれたんだね(笑)」
22‘
日奈子「私とお茶しませんか!」
○「うん!いいよ!」
花咲き誇る…春
私は少しは変われただろうか
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