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シッパイとセイコウの友情

昔々、あるところにシッパイとセイコウがいた。

シッパイは、みんなから嫌われていた。

失敗すると暗くなるし、落ち込むし、寂しくなる。

セイコウは、みんなから好かれていた。

成功すると明るくなるし、気持ちが高まるし、喜びにあふれる。

シッパイはセイコウに言った。

……でもさ、失敗しないと反省しないじゃん。なぜ、失敗はそんなに嫌われるんだろう。

セイコウはシッパイに優しく言った。

……みんな傷つきたくないんだよ。生きてるだけで、けっこう大変なんだから。

ある日、シッパイはどこかへ行ってしまった。

セイコウがひとり残された。

みんな上手くいくことばかり。

世界は喜びと明るさに満ちあふれた。

この世の楽園が成就されたように見えた。

しかし、それは夜の来ない世界のようだった。

誰も深く身をかえりみることが無い。

能力が伸びていかない。

このままでは、無駄に年老いるだけだと考えたセイコウは、シッパイを探して、戻るように説得した。

……シッパイ。戻ってきて。みんな成長しなくなった。シッパイが必要なんだ。

シッパイは、しょげている。

……俺なんかいないほうがいいんだろう。どうせ嫌われ者だよ。

セイコウは、シッパイの頬を叩いた。

……シッパイは、なんのために生まれてきたの! みんなの成長のために、失敗が必要なんだ。たしかに、落ち込むし、暗くなる。でも、夜が来なければ、寝ないだろう? 夜が来るから、休もうと思って、寝てる間に脳のデフラグツールが働くんだ。シッパイは、どうしても必要なの。

セイコウは泣いていた。

シッパイは、しょうがないな、という顔をした。

……嫌われ者が戻りますよっと。

セイコウは笑顔になって言った。

……私はシッパイのこと大好きだよ。それでは足りない?

セイコウとシッパイは、肩を組んで、長い間、語り合った。

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