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自燃性 -「主体性」の哲学、稲盛和夫を中心に 3/4

稲盛和夫は、「自燃性」を主体性の重要な要素だと考えていた。「自燃性」とは、自ら情熱を持って行動を起こし、自分自身を高めていく性質のことを指す。

この章の冒頭にも紹介した稲盛自身が若い頃に実存的な悟りを開いたエピソードがある。当時、憧れて入った会社に嫌気がさし、辞めようかと考えていた。しかし、彼は、状況をどう受け止めるかは自分次第だと気づいたのだ。周りに流されるのではなく、自ら主体的に意味付けを行い、どうあるべきかを選択する。それこそが人間の自由であり、存在の実践そのものだと悟ったのである。

この稲盛の経験は、「自燃性」の本質を表している。「自燃性」とは、実存主義の「投企」の概念に通じるものがある。「投企」とは、人間が常に未来へ向かって自己の可能性を追求し、自分自身を創造していくあり方を指す。稲盛の「自燃性」も同様に、自ら情熱を持って未来へ向かい、自分自身を高めていく性質なのだ。

稲盛はこう語っている。

「いまの若い人たちの中に、自分が望んでいる道を選ぶことができなかった人がいたとしても、いまある目の前の仕事に脇目も振らず、全身全霊を懸けることによって、必ずや新しい世界が展開していくことを理解してほしいですね。
ですから、不平不満を漏らさず、いま自分がやらなければならない仕事に一所懸命打ち込んでいただきたい。それが人生を輝かしいものにしていく唯一の方法と言っても過言ではありません」

目の前の仕事に情熱を注ぐことで、新しい可能性が開かれると稲盛は説く。不平不満を言うのではなく、目の前の仕事に打ち込むこと。それこそが「自燃性」の表れなのだ。

また、稲盛はこうも述べている。

「『不燃性』の人は会社にいてもらわなくても結構だ。私が近づかなくても勝手に燃えてくれる『自燃性』の人であってほしい」

周囲から指示されるのを待つのではなく、自ら情熱を持って行動を起こす人材こそが求められている。「人生とは、自分自身が脚本を書き、主役を演じるドラマだ」と稲盛は言う。自分の人生を自分で切り拓いていく。それが「自燃性」の本質である。

「充実した人生を送るには、『好きな仕事をするか』『仕事を好きになるか』のどちらかしかない」。自分の情熱を仕事に注ぐか、目の前の仕事に情熱を持つか。どちらにせよ、「自燃性」を発揮することが重要なのだ。

「なぜ働くのか?。働くということの最大の目的は、労働に従事する私たち自身の心を練磨し、人間性を高めることにある」。稲盛にとって、仕事とは自分自身を高めるための手段だった。「自燃性」を持って仕事に打ち込むことで、人は自らを磨き、成長させていくことができるのだ。

稲盛和夫の「自燃性」の哲学は、自ら情熱を持って行動を起こし、自分自身を高めていくことの大切さを説いている。周囲に流されるのではなく、自分の人生の主人公として、未来に向かって自己の可能性を追求する。そうした姿勢こそが、人を成長へと導く原動力となるのだ。



主体性を持つことの重要性は、本田宗一郎氏にとっては「自己犠牲をしない」と言い換えられる。

会社の為に働くな。自分が犠牲になるつもりで勤めたり、物を作ったりする人間がいるはずない。だから、会社の為などと言わず、自分の為に働け。
本田総一郎

仕事の悩みを解決するためには、もっと仕事をするしかない。
孫正義

仕事の悩みを仕事で解決できると信じているのは、彼らがそのように解決してきたことの証だろう。

サラリーマンではなく、自分自身で考え行動する自律・自立型の社員(ビジネスマン)を会社内で育成しなければ会社は成長しない。

これから問われるのは、自分の頭で判断して、決めること。周りの空気、隣の人の行動に左右されるなんてことは情けないことだ。

人の言うことを聞いて、疑いもなく作業する人はいらない。何が一番最適なのか、自分がやるべき仕事が全体から見てどうなのかを考えてもらう
柳井正


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