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そのよん こころを護るもの

理姫さん(可愛い連中/exアカシック)の歌詞について、あれこれ考える短期連載。

これまでテーマは順に酒、煙草、場所、時間と続いてまして。本当は、酒、煙草の次に入れた方が良かったなと悩んでいたお話。


纏うものたち


メイク、洋服、ネイル、などなど。

「女性の過敏な自意識」を描くとされる理姫さんならでは、女性の日々の振る舞いに関わる言葉を集めてみました。

(「女性の過敏な自意識」という文言はアルバム「プリチー」の帯に記載ありまして、めっちゃ素敵な言葉なので引用しちゃいました)


メイク


・グロスも駄目
・焦る心はノーメイク
・どれだけ首折り曲げても
誇らしくある不自然な睫毛は
指している
・そっとしっかりぱっちりキメて
ナチュラルメイク諦めたら
・流行りのメイク諦めたら
千鳥足で
・やっとちょっと憧れだったブランド化粧品
昔より似合うってラッキー
・ケバい女がそれ行くわ
・深夜0時は軽めに
食べたらリップ塗り直した
・聴いていたいブルース
ルージュ差して
・黒眼にあるカラコンとって
・紅ひいてキスしなきゃ
・紅ひいて歌う世界
・ケバさは強さじゃないの護って
・すっぴんで「好き」とか言いそうでやばい
・冷たい土に 刺さっていく睫毛
・衝撃の発明
24時間落ちないマスカラ
落として寝る


ネイル、爪


・ぼんやり旅行雑誌をめくる
欠けた爪が不快だ
・赤い爪先さえ
することがないの 暇なの
・爪は赤く血が滲み
はみ出した裾はひっぱって踏み
・癖で爪を噛んだ


アクセサリー


・救われねぇな初恋か
ピアスあいてるけどね
・ハートのイヤリング




・スカートは駄目
・ヒールは駄目
・ハイヒールならす
・カラスの悲鳴を聞いて ついついヒールを脱いだ
・潤んだ伊勢佐木町で ブランドバッグを下げ踊る
・大人なら キメるとき全身白
・赤いセーター着て 少し汗もあった
・長袖着た背中は新しい湿度を持つ
・シルクの下着にも
煙草の匂いが 付けばさ
遠くまで旅行したくもなるでしょう
・待って ハイヒールを履き替えるわ
・ちょっといい服 もうすぐ手に入る
ちょっといいカラット ついでに予約する
・だからあたしは一張羅で
泥を泳いだって平気よ

髪型


・茶髪をバッサリやってさ ギャルは幕引きした
・冷たい髪ねじるわ
・くたびれた体引きずって歩いたり
前髪よれちゃったりした
・あたしなら髪飾りして
・伸びた髪の匂いひとつと
・同じシャンプー使ってよねぇねぇ
・前髪伸ばすか切るか
それだけで今日は終わった
・遊び足りない気分を茶髪にして
・真っ赤なリボンで結んで
愛を歌う

その他


・礼儀みたいなハンカチの折り目に
哀愁感じるのあたし
・才色兼備 肌艶 今夜は肉 カッコイイ!
・大人が裸になるの
どうして駄目なの
・大人が裸になれば
クギヅケなくせに
・大胆に仕上げた小麦色 肌で 急げ
・微妙に香水が残る朝


剝き出しの心を護る言葉たち


さて。今回の記事、もし歌詞カードが手元にある方は是非ご自身の眼でも確認してほしいことがあります。



読みました。わたし。
コンサバティブからPOP OFFまで、配信だけの歌詞も、まだ公式歌詞が発表されていない可愛い連中名義の歌詞も、全部確認しました。提供曲も確認しました。


理姫さんの歌詞、「メイク」など装いに関する言葉は散見されますが、実は「身体的特徴」など素の状態の外見に関する言葉がほとんどありません。
(「すっぴん」「ノーメイク」は化粧を施した状態との対比と考えました)

それに気づいた途端、私が理姫さんの歌詞に没入する理由の一つがわかった気がしました。

私たちは、バンドのボーカルでありフロント、アイコンとしての「理姫」という人物を知っています。
ですが、歌詞カードに並ぶ言葉だけでは、例えば彼女の眼は大きいのか小さいのか、背は高いのか低いのか、のような情報がほとんど読み取れません。
もし、歌詞カードが理姫さんとの「初対面」という人がいたら、歌詞の中に登場する「あたし」についてご本人と相当にかけ離れた容姿を想像することだってあるかもしれないくらいです。

理姫さんの歌詞で印象的なのは、美しい言葉の合間から覗く危なっかしいほどに晒された心情。
ただ、狂おしいほどの愛を咄嗟に隠したり、思わず見栄を張ったり、女の子として生きる矜持を喜んだり、時に心は<入れ物>や<隠れ蓑>を必要とします。
理姫さんはそんなとき、身体という生まれ持った<入れ物>ではなくメイクやファッションなどの装いを言葉にします。

悲しいことを言いますと、私の見た目は理姫さんと似ているところなんてまるで有りません。
切れ長の眼もすらりとした鼻筋も持たない、元が浅黒い肌だから色白の肌を小麦色にしたいなんて思わない、色気はきっと所有する資格もない。ああ悲しい。

それでも、理姫さんの言葉を飲み込むとき、数え切れない程のたくさんの共鳴を覚えます。
遊び足りない気分はきっと茶髪にしたくなるし、欠けた爪は不快だし、ケバさは強さじゃないと思ってるし。
そう、慌てて取り出すメイクポーチの中身やクローゼットのぐちゃぐちゃ具合とか、無理して履いたヒールのせいで痛くなる爪先の感覚とか、私たちが剝き出しの心を隠すときに思い出す景色が甦るような歌詞なんです。理姫さんの歌詞。
どんな女の子にも通じる感覚を、女の子の特権である言葉たちで次々と言い当てる。
そこに私たちは共鳴を感じる訳です。


あっけらかんと事実を書けば、「ノンフィクション」の作品は完成します。
ただ、嘘がない歌詞ならば私たちはそれで納得するのか、と言われれば微妙です。

理姫さんの言葉が貫くのは、私たちの心の本質であり、行動に宿る感情の兆しです。
メイクも、ネイルも、スカートも、ヒールも、茶髪も、みんな私たちの心から生まれる選択の上での装い。生まれながらに持ち合わせ心との因果関係を持たないありのままの身体よりも、それらはもしかしたら「生々しい」ものかもしれません。

流行も世代も変わっていく中で、新しい活動に移行し始めた可愛い連中。
これからどんな言葉たちが私たちの心の動きを暴いてくれるのか、今後も期待は募るばかりです。


今日はちょっと書きすぎましたね。

可愛い連中FCサイト限定音源が良すぎたせいです。STAYHOMEをする大事なときだからこそ、良かったら沼落ちしてみませんか?



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