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熊本のサッカー専用スタジアムについて考えてみた

はじめに

 1993年にJリーグが開幕して20年を経過した頃から、老朽化した施設の更新、Jリーグのクラブライセンス条件の達成、サッカー観戦の顧客体験価値向上やアクセス改善による地域経済活性化やクラブの収益向上の観点からサッカー専用スタジアム(以下、専スタ)が建設されるようになりました。
 特に2024年は、2024年2月1日にエディオンピースウイング広島、2024年2月18日に金沢ゴーゴーカレースタジアムが開業し、2024年10月14日には長崎スタジアムシティが開業(ピース スタジアム コネクテッド バイ ソフトバンクは2024年10月6日にプレオープン)する予定と、非常に熱い年になっています。
 熊本でもロアッソ熊本サポーターからは専スタ建設を要望する声が上がっており、先日も熊本市でスポーツ施設整備のパネルディスカッションが開催され、地元紙メディアでもたびたび取り上げられる論点となっています。

 他にも自分なりに調べたことなど専スタについての情報が手元にかなり増えてきたので、整理も兼ねて、現時点の自分なりの考えをまとめることにしました。

熊本の現状と課題

現在の熊本におけるサッカースタジアム事情

 熊本市を拠点とするJ2所属のロアッソ熊本は、熊本県民運動公園内にある熊本県立の陸上競技場であるえがお健康スタジアムを拠点としています。J1ライセンス基準を満たした約30,000人収容の天然芝スタジアムで、ホームアウェイゴール裏の大型ビジョンと国際基準のLED照明を備えています。個人的に観戦した印象ではそこそこ雨が降っても水はけが良い印象があり、競技場としては十分ではないでしょうか。

 一方、車での来場前提の立地であるため公共交通機関によるアクセスが非常に貧弱にもかかわらず、駐車場がサッカー観戦以外の利用者と併用のため、4,000~5,000人程度の来場者でも駐車場がパンクします。退出の際も、1,000台収容できるメイン駐車場からの退出路が1つしかなく、退出に1時間近くかかることもあるため、約30,000人のキャパシティを活かしきれない現状があります。
 また、周辺に商業施設はなく、飲食店もわずかにある程度であり、熊本市中心部まで行くとしても車で30分、本数の少ない公共交通機関で40分以上かかるため、せっかくの集客効果を広域に波及させるのが難しい立地でもあります。

※熊本城あたりが熊本市中心部です

 さらに、陸上競技場であるためフィールドと観客席が遠く臨場感に欠けるため、サッカー観戦の顧客体験価値が上がらないという問題もあります。

熊本の社会課題

 熊本でも多数の地方自治体と同様、少子高齢化地方財政の硬直化中心市街地の空きテナント増加といった社会課題に加え、政令市ワーストの交通渋滞といった社会課題があります。そこで、専スタ建設をその解決につなげられれば、行政や直接専スタにかかわりがない住民、事業所の理解と協力を得やすくなることが期待できるのではないでしょうか。

自分的熊本版専スタ構想

 以上を踏まえ、先行事例等を参考に、こんな専スタが熊本にできたらいいなという構想を立ててみました。

目的

「少子高齢化・人口減少社会における、元気で、夢があり、活力に満ちた熊本の実現に寄与する」
 どこかで聞いたことがあると思ったそこのアナタ、鋭い!これは、ロアッソ熊本が掲げる「県民に元気を」「子ども達に夢を」「熊本に活力を」というクラブ理念をほぼそのまま持ってきました。地方創生に直結するロアッソ熊本のクラブ理念、個人的にめっちゃ好き。

画像はロアッソ熊本公式ホームページより引用

コンセプト

「熊本から世界へ」
 
コンセプトには次の3つの意味を込めています。
 1.世界で活躍する熊本のサッカークラブとアスリートの育成
 2.世界に向けた熊本の魅力の発信
 3.世界的に直面する少子高齢化社会のモデルケース

事業主体

 行政の関与する範囲が大きくなると、財政負担が大きい、意思決定に時間がかかると言った問題点が生じるため、長崎スタジアムシティのようにクラブを含めた民間主体で完結できるのが理想です。なお、髙田長崎スタジアムシティの取組みについては、ジャパネットHDの髙田社長が詳細に語ってくれています。

 ただし、完全民間主体だと乱開発や需要の奪い合いで結果的に地域が疲弊しかねないため、完全民間主体の場合でも行政の役割は大事です。完全民間主体ではなく、行政から運営会社への出資や、公有地だと土地関係の租税負担がなくなるので土地の貸付で関わるのも一つの選択肢ですね。

立地

 少子高齢化、地方財政の硬直化、中心市街地の空きテナント増加といった課題の解決に向けた考え方の一つに、コンパクトシティの形成があります。コンパクトシティを前提とすると、エディオンピースウイング広島や長崎スタジアムシティのように中心市街地との回遊が可能な場所が第一候補となります。
 また、交通結節点である中心市街地に専スタがあると、仕事帰りや学校帰りなどの通りがかりでも立ち寄りやすいため、集客面においても大きなメリットを感じます。
 ただ、そもそも熊本市の中心市街地にはまとまった土地がほとんどなさそうなのが最大のネックです。どこかないですか。

施設

 専スタ建設においては地域への経済効果が議論となりますが、

 経済学では少なくともこの時期まで整備されたスタジアム・アリーナの経済効果に関するエビデンスはない

スマート・べニューハンドブック(日本政策投資銀行著)p31より

とあるように、この時期(2008年)までの例では経済効果が確認されていません。また、先の長崎スタジアムシティの場合も、複合施設を含めて黒字化を目標としており、スタジアム単体では赤字なることが示唆されています。
 以上から、専スタとホテル等が一体となった複合施設での整備を目指します。
 採算が取れるような内容にする必要があるため実際の内容は事業主体が検討することになるかと思いますが、次の通り個人的な案を考えてみました。

・スタジアム
 スタジアムの収容人数は、過去の試合の観客数実績に加え、なでしこジャパン、オリンピック、ユース年代などの日本代表、AFC(アジアサッカー連盟)主催の国際的な競技会を開催又は誘致することが可能な20,000~25,000人規模が妥当だと考えます。
 また、VIP席をはじめ様々な席種を設けて収益を上げるとともに、授乳室やキッズルームを充実させ、家族連れでも安心して観戦できる環境を整備します。

ヴィッセル神戸のホーム、ノエスタのVIPルーム(株式会社デザインアークHPより引用)

 さらに、サッカー以外でも、公園のような憩いの場からライブ会場としても使用できるような設計を行い、稼働率の上昇を狙います。
 アクセスについては、渋滞対策及びまちなかへの周遊促進から、公共交通機関による来場を前提とし、エディオンピースウイング広島を参考に、駐車場は関係者車両用と自転車駐輪場のみ整備します。公共交通機関で行くのに慣れてもらうことで公共交通機関の利用促進に繋げ、車社会からの脱却に繋げる狙いもあります。

・併設施設
 併設施設は、台湾を中心に海外客を見据えたホテル、飲食店、物産館、オフィス・貸スペース、イベントスペース、保育・学習施設、高齢者等福祉施設、医療施設、研究機関(AI・IoT・半導体・医療・福祉の実験フィールド)といった、目的とコンセプトに合った内容で揃えます。TSMC(JASM)誘致により大いに盛り上がっている半導体産業を巻き込んだ新技術開発促進の狙いもあります。イベントスペースにクラブ関係者を呼んで試合後の振り返りをやって混雑と分散させたり、試合がないときはくまモンのイベントやイーフトの大会を開催したり、バーチャルなイベントにも対応できるような設備とし、1年を通じて常に人が訪れたくなる場を創出します。
 また、熊本市中心部は過去に大水害に見舞われたこともあるため、いざというときに想定避難場所として機能することも盛り込みます。ソーラーパネルや小型水力発電機を各所に設置して自給自足することで、エコと非常事態対応の両立を目指したいですね。

まとめ

 ざっと個人的な妄想、理想、構想をまとめてみましたが、いかがだったでしょうか?
 ちなみに自分はアクセス問題さえ解決できれば、しばらくえがスタでも悪くないと思ってます。芝と競技設備は揃ってるし、えがスタ周辺の空間に余裕があるのでいっぱい出店が並んでお祭りみたいな雰囲気になるのもワクワク感があって好きです。あと、焦って中途半端な専スタ作ってえがスタの二の舞になるのがめっちゃ怖い
 ただ、今から専スタ実現に動いても少なくとも10年はかかかる話だと思います。木村熊本県知事も言っていたようにまずは草の根の議論がスタートですので、えがスタのアクセス改善と並行で、クラブ、商工会議所、行政を巻き込んでいっぱい議論してある程度構想を固めておき、チャンスに動けるようにしておきたいですね。
 色々とツッコミどころ満載と思いますが、この構想が叩き台となって様々な議論が飛び交うようになると良いなぁと思います。ご意見、ご感想どしどしお待ちしてます。みんなで盛り上がろう!

おまけ

 この記事を書くにあたって、「スマート・べニューハンドブック(日本政策投資銀行著)」がめちゃくちゃ参考になりました。2020年5月初版なのでちょっと古いですが、社会課題からはじまり、スポーツ施設整備の効果、整備のための検討事項の詳細、豊富な海外の具体的な事例と包括的に記載されてますので、専スタに限らずスポーツ施設整備に興味がある方は一読の価値があると思います。続編はよ。

 先のジャパネットHDの髙田社長のお話と併せて、鹿島アントラーズの小泉CEOのお話も大いにパクら参考にさせていただきました。お2人ともどんどん真似してほしいと言ってて本当に懐が深く、ありがたい限りです。


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