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ビジネスへのAI導入はなぜ失敗するのか?

これからの企業活動の明暗を分けるとも言われる、AI(人工知能)技術の導入。その成功のためには何が必要なのでしょうか。既刊書『失敗しない データ分析・AIのビジネス導入』から、一部抜粋します。

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AI導入の落とし穴

著:株式会社ブレインパッド

「AIを我が社でも導入せよ」、「AIを使ったプロダクトをつくりたい」、そんな号令のもと始まったプロジェクトでは、次のような言葉が聞かれることは想像に難くありません。

・そもそも何をしてよいかわからない
・プロジェクトが一向に進まない
・思ったほどの成果が上がらない
・運用が大変だ
・ユーザーが使ってくれない

AI導入は他社との差別化ができる大きなビジネスチャンスであるとともに、その導入には少なからぬ苦労とリスクがつきまといます。AIを企業活動に組み込むためには、AI技術の正しい理解と適切な進め方が必要です。そのためにはまず、

「AI導入は、目的ではなくあくまでも手段である」

ということを念頭におくことが何より重要です(→図)。AI導入の本質は、事実、つまりデータに基づく意思決定にほかならず、個々のAI技術はあくまでもその一手段なのです。

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AI導入はビジネスのゴール達成のための一手段である


AI(人工知能)とは何か

実のところ、AIそのものの定義については、専門家の間でも明確な共通認識はもたれていません。本書ではAIの定義を、

「コンピュータに、人間から見て『知的』であると思える処理や動作をさせること」

とします。よく知られたAIの分類として、「強いAI」と「弱いAI」の区別があります。「強いAI」は人間のような意識(心)をもつとされ、「弱いAI」は心や複雑な認知能力をもたず、限定的なタスクをこなせるもの、とされています。現在「強いAI」は実現できておらず、「弱いAI」も発展途上にあると言えるでしょう。「強いAI」の実現のためには、そもそも知性とは何かという哲学的な問題にまで立ち返らなければいけません。一方、ビジネスにおけるAI活用の意味においては「弱いAI」でも十分、意思決定に有用だと認識しておけばよいでしょう。

AIは、過去2回の隆盛と衰退を経て、現在3回目のブームにあると言われています。今回のブームは機械学習、とくにその一手法である深層学習のブレイクスルーによってもたらされたと言われています。


AI導入は「データ分析プロジェクト」である

企業活動へのAI導入はどのように行うべきでしょうか? そもそも、AI導入をすべきかどうかをどう判断すべきでしょうか?

AI導入は、「データに基づく意思決定の仕組み化と定着」というゴールにたどりつくための一つの手段であることを先に述べました。多くの場合、その取り組みは期限を区切った「有期性のプロジェクト」として進められることになります。したがって、AI導入もプロジェクト管理の視点で考えることが重要です。

AI導入をプロジェクトとして捉えた際、大きく分けて

・AI技術が全体の一部分をなすプロジェクト
  (例)商品の「AI機能」部分を開発するプロジェクト
・AI技術が主となるプロジェクト 
  (例)社内業務の高度化/自動化を目指すプロジェクト

があります。また、その目的も、日々の業務の改善、プロダクトへの組み込み、データに基づく企業活動の意思決定など、多種多様です。どのようなプロジェクトにおいても、AI技術を組み込んだプロダクトやサービスを構築したり、結果をレポーティングしたりして終わりではなく、あくまでも「成果を上げ続けること」がゴールとなります。また、そのすべてに共通しているのが、「データを理解するために、データを分析する」ということです。

したがって、AI導入を考える際には、「AIを導入すべきか?」ではなく、まずは「解決したいビジネス課題に対してデータが活用できるか?」を問うべきなのです。このような見地から、本書〔『失敗しない データ分析・AIのビジネス導入』〕では以降「AIプロジェクト」ではなく「(AIを活用するものを含む)データ分析プロジェクト」一般について解説していきます。


データが活用できるか?

「使えるデータがそもそもない」という状況からプロジェクトが始まることもあります。現状において本当にデータ分析やAIが必要かどうかを最初に検討すべきです。AIによる自動判断をいきなり目指すよりも、まずは人間の判断のサポートをするための簡単な集計値の算出から始めることを検討すべきかもしれません。実際、目的によってはそれで十分なことも多いのです。

データに基づく意思決定が得意なタスク、つまりデータ分析の成果を出しやすいタスクの条件は、

・大量かつ意味のあるデータが得られる
・タスクが定型的で、評価がしやすい

ことです。たとえば、顧客の購買に合わせた追加購入商品のレコメンド(推薦)、コールセンターでの案内業務、工場の不良品判別などが当てはまります。

一方、データ分析の活用が難しいのは、

・発生頻度が少ないため、データが得られにくい
・不定型で単純に評価できない

タスクです。工場の建設、新規事業立ち上げといった経営判断の場面では、データ分析だけに頼った意思決定はまだ不可能でしょう。こういったタスクは問題設定が大きすぎることも多く、タスクを分解することでデータ分析が適用しやすくなることもあります。


データ分析プロジェクトを遂行する

データ分析を進めることが決まったら、プロジェクトを立ち上げます。データ分析プロジェクトの立ち上げにおいては、ゴールを設定し、それに対してどのようなリソースを準備していくかを考えます。どのようなデータを収集するか、どうやってデータを整備するかのプロセスを構築したり、データ分析の概念実証(PoC)の結果からどのように意思決定を行うかを決めたりすることも重要です。アプローチを定める際には、単なるアルゴリズムの選択だけではなく、何をいつどこでどこまで予測し、予測した結果をいつどこでどう使うかなど、意思決定までのプロセス全体の構築を行います。

プロジェクトが成果を出した後も、運用を継続するうえでは絶え間ない改善が必要です。なぜなら、環境は絶えず変わり続け、得られるデータや新たに取得するべきデータも変わっていくからです。データに限らず組織や人も変わっていきます。運用を継続し、新たな課題に取り組んでいくためには、恒常的にデータ分析を行うチームや部署の構築が必要になります。


データ分析プロジェクトの七つのリスク

データ分析そのものの進め方については、ある程度の共通認識がもたれた枠組み(CRISP-DMなど)があります。しかし、業務への活用やサービス化、プロダクト組み込み、それらの運用については、未だ標準的な方法論ができているとは言いがたい状況です。このため、各社において試行錯誤の上に成功事例を積み重ねつつあるのが現状だと言えます。

データ分析は、他の施策に比べて明確な成果を上げることが難しい取り組みです。通常のプロジェクトとも共通する困難に加え、データ分析プロジェクト特有の落とし穴が存在するためです。通常のプロジェクトとデータ分析プロジェクトとの主な違いは、やってみなければわからないという不確実性の多さや、それらの関係者間での認識共有が不十分になりがちな点にあります。データ分析プロジェクトの進め方に対する知見や経験をもたずにプロジェクトを開始すると、やがて次のような状況に直面することでしょう。

・想定していた学習データが十分な量得られなかった、または質が低かった
・出てきた結果が業務に当てはまらない
・目標とする精度に達しなかった
・ユーザーの協力が得られなかった

これらの結果として想定外の工数が発生してプロジェクトの遅延や追加費用が生じれば、最終的にはプロジェクトの中断にもつながりかねません。あるいは一応の完成を優先させた結果、見た目は立派でもユーザーに使われないシステムができ上がったり、誤った意思決定を導いてしまったりすることもあるでしょう。最悪の場合、大きな経営上の損失につながることも考えられます。そうなると、データ分析に関する間違った理解や忌避感が生まれることになります。一度失ってしまった信頼を取り戻すことは容易ではなく、社内のデータ活用の雰囲気の醸成からやり直すということになりかねません。

そんなことにならないよう、本書では、さまざまな角度からデータ分析プロジェクトの失敗要因を分析し、対処の方法を見ていきます。

データ分析プロジェクトにおける失敗要因を、大雑把に七つのリスクとして分類します。

1.分析の進め方として時間と成果が比例しないリスク
データ分析の結果は、費やした時間と必ずしも直線的な比例関係で得られるものではありません。試行錯誤を繰り返す必要があります。

2.データの量や質が不十分なリスク
先に述べたとおり、データからルールを構築する機械学習を使用する場合には、目的とする事象の予測に対して十分な量や質のデータが要求されます。

3.データへ依存するリスク
データに依存したモデルであるため、ある日データの形式が変わったり、外部データの提供がされなくなったりすることで機能しなくなります。もしくはその対応が必要になります。

4.データのトレンド変質に関するリスク
市場環境の変化などで取得したデータの傾向が変わると、モデル構築時の精度が維持できないことがあります。また、商品レコメンデーション(推薦)などでは、売れ筋商品ばかりが推薦されることで短期的には売上商品が偏り、長期的には売上低下を引き起こす可能性があります。

5.分析結果に関するリスク
必ずしも望ましい結果が出てくるとは限りません。当たり前の結果しか出ないこともしばしば起こります。結局は人間が作業したほうがよい場合もありえます。

6.分析結果が活用されないリスク
結果が必ずしも人間にとってわかりやすいわけではありません。理解しにくい仕組みは現場の支持を得られず、使われない可能性があります。

7.システム化するときのリスク
PoCでうまくいったとしても、システム開発が思ったとおりの時間で終わるとは限りません。複雑すぎるアルゴリズムは机上ではうまくいっても、精度を再現できなかったり処理時間がかかったりするなど、実務上のプロセスに合わない可能性があります。


失敗しないデータ分析プロジェクトのために

ここまで、ビジネスにおけるAI導入とは何か、そして、AI導入はなぜ失敗するのかを見てきました。本稿で述べてきたように、AI導入はそれ自体が目的ではなく、「データに基づく意思決定を行うこと(=データ分析)」の一手段であると考えるのが適切です。AI(人工知能)に過度に期待せず、AIを組み込んだと称する製品・サービスの実体を正しく理解することも肝要です。データに基づく意思決定のために、データ分析はプロジェクトの形で進められます。そこではデータ分析の知識だけでなく、データ分析プロジェクト特有の進め方や考え方の理解が必要となります。

偶然に任せていては、プロジェクトは成功しません。成功に至るデータ分析には、それだけの理由があるものです。先に述べた失敗要因の落とし穴にはまらないことがまずは必要です。

出典:『失敗しない データ分析・AIのビジネス導入:プロジェクト進行から組織づくりまで』(第1章)

【著者紹介】株式会社ブレインパッド
2004年創業。AI、ビッグデータなどの言葉が広まる前から、データ活用のリーディングカンパニーとして、アナリティクスとエンジニアリングを駆使し、企業のビジネス創造と経営改善を支援。業界最大規模となる100名超のデータサイエンティストを擁し、幅広い業種を対象とした支援実績は1000社を超える。

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【目次】
第1章 AI導入はなぜ失敗するのか
第2章 データ分析の基礎を押さえる
第3章 データ分析の仕事の流れを理解する
第4章 プロジェクト立ち上げ
第5章 PoC
第6章 ビジネス適用
第7章 データ活用をする組織をつくる
最後に、主に経営層に向けて――広大な可能性を前に




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