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歯科衛生士だけのホワイトニングサロンはコスパに優れる?

 近ごろ歯科衛生士が在籍しているのがウリのホワイトニングサロン・セルフホワイトニングの広告を見かけるようになりました。ホワイトニング専門施設には歯科医師を雇用する形で歯科診療所に分類されるところもありますが、今回は歯科医師不在でホワイトニングを行う施設・サービスを主にとりあげます。

 今回はこういった施設が歯科診療所と何が違うかまとめ、あなたにあったホワイトニングを安心して受けるにはどういった選択をしていくのが良いか明らかにします。

執筆:中田先生@NakaDash_
チェック:2名以上のトンデモ歯゛スターズメンバー(見出し画像:akina先生@nakixa)


トンデモ歯"スターズ的結論


 歯科医師がいない施設では歯科衛生士が実施可能な処置は大きく制限され、ブリーチング剤の塗布や販売はできません。歯石取りや口腔清掃も行うべきでないという考えが一主流です。衛生士の知識を活かした歯みがきアドバイスはできますが、無診断であることから一般論の範疇にとどめるべきとされています。

参考としたエビデンス


・過酸化物を用いた歯面漂白材の取扱いについて (医薬審発第0206001号/医薬監麻発第0206001号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta7849&dataType=1&pageNo=1

抜粋 歯の漂白や歯面清掃の補助を目的とする製品(いわゆるブリーチング材)については、その作用が緩和とはいえず、歯科医師による口腔内の診査診断が必要である。


トンデモ歯゛スターズ的見解


1.「ホワイトニング」には2つある

まず知っておいて欲しいのは、「ホワイトニング」は大きく2つに分類されます。

1つは歯の「脱色(ブリーチング)」です。頭髪の脱色と同じように歯にある程度ダメージを与えながら、歯そのものの色調を白くしていきます。リスクは低いとはいえ歯や歯肉の健康を損なうおそれがあることから、歯科医師の診断監督が必要です。

もう1つは歯の「着色除去(クリーニング)」です。歯に付着したタンニンやヤニを除去することで、歯の本来の色を取り戻します。こちらは歯にダメージを与える可能性は低く、歯みがき剤や固形研磨剤の効果として「ホワイトニング」の表示ができると定められています。

「ホワイトニング」という言葉のもつイメージがよいため、どちらもその表現を使いたがり利用者を混乱させています。こちらの詳細は以前の記事をご参照ください。

https://note.com/moody_dent_info/n/n3bc72aaa9032

2.ブリーチングとクリーニングどちらがいいのか

ブリーチングとクリーニング、本当はどちらかを選ぶというものではありません。従来の歯科医院でのホワイトニングの流れでいうと、まず着色の原因がむし歯などの病気や異常ではないことを診断します。次に衛生士による歯石取りの方法で医療機器を使用した「着色除去(クリーニング)」をし、歯の本来の色を取り戻します。ここまでの処置は歯や歯肉に対してマイナスの影響はほとんどありません。

この時点で鏡を見て確認してもらい、満足できる歯の白さが取り戻せているならば処置完了です。そうではなく本来の歯の色を超えてさらに白くしたいと患者が希望する場合、「脱色(ブリーチング)」の段階に入ります。これ以降は知覚過敏症や歯肉へのダメージなどが現れる可能性があるので、定期的なチェックを行いながら慎重に進めていきます

このようにブリーチングとクリーニングは段階的に患者の満足感と医療リスクを天秤にかけながら判断していくもので、本来は一連の流れの中で行うものです。

歯科医師が不在の施設はこの流れの中で「歯石取り」と「脱色(ブリーチング)ができないということになります。つまり衛生士がいてもいなくてもホワイトニングとしては、市販品の歯みがき剤と概ね同じ成分のものを使用・販売して「着色除去」する方法に限られます

これは可視光特殊な固形研磨剤を使用しても同じです。


3,歯科衛生士が歯科医師不在でできること

歯科医師不在のホワイトニングサロンが安価なのは、独占業務を伴う有資格者として人件費単価の高い歯科医師が不在だからです。歯科求人大手グッピーで調べると、歯科医師の時給は3000円以上、歯科衛生士の時給は1500円以上と倍の開きがあります。

では歯科衛生士のいる施設といない施設では何が違うのでしょうか。

歯科医師がいなくても歯科衛生士として一般論としての健康アドバイスを行うことは差支えありません。専門知識がある分、無資格販売員よりもキメ細かな説明ができると思います。

一方で歯科衛生士には診断を行う資格がないので、個々人の状態に踏み込んだブラッシング指導や口腔内の清掃はできないというのが主流の考え方です。仄聞するところによるとこういった施設では歯科衛生士を接客業として雇い入れるということだったので、無資格者と比べ出来ることが大幅に違うこということはなさそうです。

このとき歯科衛生士としてサロンで使用する歯みがき剤を広告することは違法です。これは「専門家が推奨することで商品を過大評価させてしまうこと(優良誤認)」が違法とされています。

豆知識として面白い話をご紹介すると、歯みがき剤のCMに歯科医師は登場しません。あれは「白衣を着た謎の人物」です。


まとめ

現代社会には多様なニーズがあるので、歯科医師がいると緊張してしまうとかトラウマでダメだという人にとっては歯科医師不在のホワイトニングサロンは有意義な選択肢かもしれません。

そこに歯科衛生士がいれば一般論としての健康アドバイスの説得力が高まり、心理的に安心することはあり得ると思います。

一方歯科医院に行くのが問題ないのであれば医療機器を使用した「着色除去(クリーニング)」を数千円の料金で受けることができ、たったの1~2回で歯の本来の色を取り戻すことができます。同時にお口の健康診断を受け、「脱色(ブリーチング)」へとつなげることもできます。

もちろん歯を診られたくない等といった気持ちもわかるので、これらの情報を踏まえた上で適切なサービスを選択していただければ良いと考えています。歯科医師としては、治療をするかしないかは別として定期的に自分のお口の健康状態を知ることは大切だと考えています。

(関連)
・Youtuberが宣伝!?「歯の脱色」ではないホワイトニング拡大を懸念
https://agora-web.jp/archives/2049152.html

(参考とした文献)

JDMA 日本歯磨工業会 歯みがき類の表示に関する公正競争規約施行規則

医薬品医療機器法に則った化粧品・医薬部外品の歯みがき剤はともに「歯を白くする」という表示が可能。その延長として「ホワイト」という用語を使用することは、一般的商習慣となっている。

・歯科衛生士法

第二条 3 歯科衛生士は、前二項に規定する業務のほか、歯科衛生士の名称を用いて、歯科保健指導をなすことを業とすることができる。
第十三条の二 歯科衛生士は、歯科診療の補助をなすに当つては、主治の歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、又は医薬品について指示をなし、その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をすることは、さしつかえない。
第十三条の三 歯科衛生士は、歯科保健指導をなすに当たつて主治の歯科医師又は医師があるときは、その指示を受けなければならない。
第十三条の五 歯科衛生士は、その業務を行うに当たつては、歯科医師その他の歯科医療関係者との緊密な連携を図り、適正な歯科医療の確保に努めなければならない。

・医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について | 薬生監麻発 0929 第 5 号

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000179263.pdf

5 医療用医薬品等の広告の制限:(1)医師若しくは歯科医師が自ら使用し、又はこれらの者の処方せん若しくは指示によって使用することを目的として供給される医薬品及び再生
医療等製品については、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告を行ってはならない。
10 医薬関係者等の推せん:医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局、その他医薬品等の効能効果等に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体が指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告を行ってはならない。

・医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について | 医政発第 0726005 号

https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000g3ig-att/2r9852000000iiut.pdf

以下に掲げる行為も、原則として、医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の規制の対象とする必要がないものであると考えられる。
重度の歯周病等がない場合の日常的な口腔内の刷掃・清拭において、歯ブラシや綿棒又は巻き綿子などを用いて、歯、口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除き、清潔にすること


・昭和三五年一月二七日最高裁判所判例
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/354/051354_hanrei.pdf

トンデモ歯゛スターズの活動は、基本的に全てボランティアで行っております。本活動を持続可能なシステムにしていきたいと考えておりますので、是非ご支援いただけると幸いです。