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私はネコが嫌いだ。

今日の消印ゲットしてきたであります!

マネジャの第一声が今もこだまのように鳴り響いています。雨が降る中、重要な応募原稿を包んだ封筒を濡らさぬように抱えながら郵便局まで自転車を走らせた勇者は、帰宅するとずぶ濡れの笑顔で高々と勝ち名乗りを上げたのでした。

2006年5月10日。当日消印有効という言葉の意味は何度も確認したものの、0時直前に滑り込んだところで郵便局がそれを受け付けてくれるのか、そもそも0時を過ぎてしまうのではないだろうか。もしくは受け付けはするものの業務上のルールやなんやで消印は翌日になっちゃいますねぇ、なんていうこともあり得るんではなかろうか。そんな幻想たちが既に機能しなくなっていた脳内を埋め尽くし暴れ回るので幽体離脱すら始まりかけていたボクでしたが、勇者の放ったそのひと声で正気を取り戻したのでした。そして。

貴殿ノ大切ナ応募作品ハ確カニコチラデ受理シマシタ。安心シテ待タレヨ。

しばらくすると主催者からそのような旨の脅迫状が届いたので、言うとおりに安心して待っていた翌月。応募要項によると結果発表は9月上旬のはずなのにそれを待たずして電話が鳴った。

厳正ナル審査ノ結果、貴殿ノ作品ハ金賞ヲ受賞イタシマシタ!

こうしてボクの初めての絵本『私はネコが嫌いだ。』の出版はあっけなく決まってしまったのでした。もちろん応募した作品をそのままの状態で即出版、なんてできるほど甘い世界でもなければ許されるはずもなく、担当編集者さんとの打ち合わせを重ね、それまで得ることのなかった知識を授かり、直すところは直し、出版に見合う体裁に整えるなどして初めて世に胸を張って出せる状態になり、2007年の9月に晴れて産声を上げたのでした。

そしてそれは同時に、絵本作家よこただいすけの誕生でもありました。

デザイン科の高校から美大に進み、留学先のアメリカでもデザインを学び、帰国後にデザイナーとして勤めた会社を2年で辞め、絵を描いて食べていこう、と決めたばかりのボクには、全てがあまりにもスムーズに進みすぎてこの後の自分にまさか辛く苦しい暗黒氷河期が待ち受けているだなんて想像できるはずがありませんでした。


これはそんな、ボクがまだ天才だった頃の話。



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