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世界は容赦なく美しい時もあるけれど/少年とサギ感想会

 君たちはどう生きるかを観たので、なんとなくサラッと書き残しておこうかと。
 分かりやすく整理して書く体力がなくなる(言葉を並べるだけで限界)ような作品なので、脳直言いっ放しスタイルです。セルフログ。

 具体的な話はほぼしないのでネタバレを含むかどうかは微妙ですが、そもそもこの作品は先入観なく自分がどう解釈するかというところに面白さがある(というかそれ以外にエンタメ性はない)ので、とりあえず観たほうが良いんじゃないのかなと思います。

 まぁそういう感じで、以下の文章にはすべて、「少なくとも自分にとっては」という枕詞がつくと思ってください。作品を細かく見ればそうでない部分もあるんだろうけど、個人的な印象強さについて語っていますよ、というところも含めて。


とにかくメタファー

 ありとあらゆる描写がなにかのメタファーであり、それが何のメタファーなのか解釈しないとまともにストーリーを追えない。一つ一つの内容がわかりにくいということは決してないものの、次から次へと何が何なのか考え続けることになるのでめちゃくちゃ疲れる。あとはそもそもそういう見方をしない人にとっては訳がわからないで終わってしまいそう。


人生は苦痛ばかり

 キャラクター目線では苦痛ばかり描写されている。生きることは苦しくて辛くて嫌になることばかりだ、というような。痛み、不気味、不快みたいなところをガンガン提示してくる。しかもそれを視聴者に生々しく想起させるまでやるという強い意志を感じる。特に触感的なところはかなりクる。
 それと集合体恐怖症の人はかなりしんどいと思うから、気をつけてほしいところでもある。ここで書いたところで手遅れなんだろうけども。


世界は美しい時もある

 一方で背景描写なんかはかなり徹底して美しい。この対比がまたなんとも。世界は容赦なく美しい時もあるけれど、それはそれとして個人の人生には基本的に苦しくて辛いことしかない、という気分になる。自分自身がそういう風に世界と人生を認識しているというのもたぶん大きい。
 そういう点では「君たちはどう生きるか」というタイトルの的確さとズルさも感じる。正直あんまり気分の良くないズルさ。洋題の方がヒネくれずに観れると思います。

 美しく見えるかどうかは主観的で、先入観として美しいものが醜い瞬間もいっぱいあるよ、というのも感じた。ペリカンとかインコとか。ただ、醜さに限っては動物に限った描写の仕方だった気もする。


二軸のストーリー

 主張というかストーリーが描写する思想は二軸あるように感じた。普通は一軸を大きく打ち出すものだと思うけど、この作品については主従なく二軸だったなと思う。
 それが良いか悪いかというとなんとも言えないところ。特に片方の軸に関してはその前提となる心情や認識、光景の描写が不足していて、描かれていないバックグラウンドを想像しないと置いていかれる。かつ共感的な没入感には至りにくい。
 そしてその二軸が入り交じるのではなく、前半と後半でシームレスに入れ替わるような構成になっている。なんか話変わってきたな、と認識することで微妙に没入が削がれるところもある。
 前述したストーリーの追っかけにくさも相まって、最終的に「え? どっちをやりたかったの?」となったりもする。そういうの全部ひっくるめて、望んでいなくても死なない限り時間は進み人生は続く、ということかなぁというところにひとまず落ち着きつつ。


エンタメではない

 どうやってもエンタメ作品ではない。サッと観て面白い要素はどこにもない。すべての瞬間に対して解釈と想像を自発的にやっていかないと意味不明で終わってしまうと思う。
 思考や感情に対する前提描写が無い、または薄いせいで感情的なカタルシスも得にくい。エモーショナルな場面に関しても、伏線と事実開示を元にした「あぁ、そういうことならそうなんですね」という納得がほとんどだ。
 背景やキャラクターの造形に関してはファンタジー寄りジブリ作品の集大成みたいなところがあって、これまでに僕たちが観てきた名作のベスト盤的な面白さはある。


総括

 総じて、観終わった感想としては内容的にも解釈的にもメタ的にも楽しさはほぼない。苦しさとしんどさしかないと言ってもいいくらい。
 けれど前情報やネタバレ無しに観れてよかったと思うし、観る価値のある作品だったと思う。ここまで書いたようなことを考える機会になる作品というだけで、支払ったコストに対して十二分に価値があった。
 観ていない方は脳みそを存分に回す覚悟をしてから、ぜひ観に行くと良いと思います。このSNS時代、こういった作品と先入観なしにガチンコで向き合える機会は早々ないかと。後悔のなきよう。

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