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リバー、流れないでよの感想

まずタイトルが妙です。リバーなど凡そ日常生活で出てくる単語ではありません。水曜日のカンパネラの「ばあちゃんリバーでウォッシュ」以来の衝撃と言えるかもしれません。あれも中々に妙ちくりんな歌です。その妙ちくりんさに期待を寄せて、チケットを買いました。要するにタイトルだけ見てチケットを買いました。
タイムループものなのですが、コメディ的な要素がふんだんで、またストーリーもすらすらと流れるようで、エンディングまで一息でした。
サマータイムマシンブルースと同じ人が原案・脚本ということで、同じようなテンポの良さを感じました。タイムループの繰り返しをベースに、いつの間にか巻き込まれているような感覚こそが魅力だと思うのでぜひ体感してください。衝撃のファーストインプレッションをもたらした「リバー、流れないでよ」というタイトルもまた、この主人公のキャラを知ればより一層素敵に思えます。

美空ひばりの歌に「川の流れのように」というのがありますが、あれは時代や日々が川の流れのように過ぎていくと歌っています。いつの間にか、止めどなく過ぎていく日々を慈しむような歌詞です。現象学などを踏まえると、主観的には時間は伸び縮みするように思われます。川の流れが止まるというのは、ある濃密な時間についての表現と言えるかもしれません。劇中の貴船の、のんびり流れる日常、その中で忙しく働く日常はまさに穏やかな川のように流れていきます。そうした中で、繰り返される2分間は積層して、主人公にとって濃く重く動かし難いものとなったのではないでしょうか。その意味では、「リバー、流れないでよ」というのは俗な日常を一回的に味わおうとするような、美味しい日本酒をちびちび飲むような、止めどない日常を噛み締めるような、去るものへの哀愁が込められた良い言葉です。

少年老いやすく、などと言いますが、気が付くとともう7月でした。流れないでよと祈っても過ぎるものは過ぎます。井伏鱒二が言うところでは、さよならだけが人生だそうですから、せめて杯に酌んで飲める分だけでも遠慮なく味わいたいものです。

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