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傘がない│詩

傘がない

朝から降り続く雨の一日
昇降口にさしておいたはずの
新しく買ってもらった傘がない
名前も書いた透明な傘

風もなく
雨は真っ直ぐ落ちてゆく
灰色の雨霞の中へ
次々と消える同級生たち

碁盤の目のように並んだ
鉄製の四角い升目には
まだ持ち主を待つ傘たちが
ポツリポツリと立っている

何事もなく
一日を終えた持ち主に迎えられ
一本ずつ雨に消えてゆく傘を
昇降口の端に立って見送る

しばらく待てども
雨の中を戻る影はなく

五月蠅い雨音に混じって
癪に障るクスクス笑いが
聞こえた気がして

そういうことか
もう傘は見つかるまい
雨の中へ頭から飛び出して歩く
腹を立てても傘は戻らない
つまらない奴等にハメられただけのこと

どこかに捨てられているのだろう
おろしたての透明な傘よ
お前と一緒に消えてしまえばいい
馬鹿な奴等もそれを許した自分も

透明傘の一本が高価な家もある
本革のグローブを買い与えられた
坊主頭には思いもよらないことだろう

傘がない
ただそれだけならば
雨の冷たさに
心まで震えることはないのに

傘がない
ただそれだけならば
灰色の雨の中
悔し涙を流すこともないのに

傘がない
昇降口の四角い景色と
この日の冷たい雨を忘れない

傘がない

2024/5/13

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