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テーブルの上の宇宙船|詩

今にもふわりと飛び立ちそうな
まるでUFOみたいな
美しい流線型の
艶やかでぷっくりとした
目玉焼きの黄身

君は半熟でなかったために
あの子に食べてもらえずに
柔らかなティッシュペーパーの上で
飛び立つその時を待っている

窓の外は雨
雲の切れ間はまだ見えない
薄い影が宇宙船と薄紙の境いを曖昧にする

お皿やコップが片付けられ
テーブルにはオレンジ色の宇宙船だけが
何か有名なアーティストの作品のように
日常から抜け出してそこにある

君が半熟であったなら
今ごろすっかりお腹の中さ

君が半熟でなかったから
いつもの朝のおかずの君に
刹那の美が宿ったのでしょう

さあ飛ぶがいいさ
さあ彼方の惑星まで行くがいいさ

美しいオレンジ色のボディには
火星がお似合いだろうか
それとも銀のお皿のような
土星の輪っかに載せてみようか

宇宙旅行の道々で
サンチャゴが捕らえた獲物のように
誰かに少しずつ
噛りとられてしまうのだろうか

もっと美味しい食べ物が
地球にあるのではなかろうかと
宇宙戦争の火種になろうか

そんな大それた運命が
食卓のティッシュペーパーの上にある
ぷっくりとした黄身には宿っている

2020/9/20

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