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大家という稼業(リスクも好き)

 人が不動産投資に目覚めるきっかけはだいたい2パターンある。
 ひとつ目は「金持ち父さん貧乏父さん」を読んでポケットにお金を入れてくれるものこそが資産だという資本主義のルールを学んだ人たち。そしてふたつ目が「桃鉄」だ。
 ぼくが1千万円くらいのスナックやラーメン屋を好んで買ってしまうのも、利回りがよくわからない物件ほどワクワクして惹かれるのも、小学生の頃に桃鉄99年モードで取得競争を繰り広げた稚内のカニ漁船団の影響に他ならない。

 不動産投資に関わるリスクは無数にある。火事になったら?人口が減ったら?家賃が下がったら?空室、滞納、金利、滞納…。ヘッジできるものもあるけれど、いくらエクセルで賢し気にシミュレーションしたところで、わけのわからない地雷が無数に埋め込まれており、最後はそれが爆発してシミュレーションがだいなしになるのが、生身の人間がパンパンに詰まってる現物不動産の醍醐味だ。
 友達のアパートでは、ペットボトルに詰めた黄色い液体をばらまく入居者が現れて、ずっと満室だったのに入居率が激減してしまった。困り果てて監視カメラを設置して、問題入居者がペットボトルを持って出てきたタイミングをとらえ、雨が降る前にお巡りさんと駆けつけて成分鑑定を行ったところ、それが人間の尿であることを確かめたという。いや黄色なんだからわかるでしょ。いわゆる放尿リスクだ。

 だいたいの人はこうした面倒な揉め事やリスクを避けたいと考えるので、だいたいのリスクは実際よりも大きめに評価されがちだ。となれば、リスクはできる限りかき集めて、どんどん現実にして化けの皮を剥いでいくもの。サブリースなど現実を見ないだけの高価なアイマスク。リスクを取れば取ればとるほど、投資家は儲かるように世の中はできている。それが日本の誇る不動産経営シミュレーション桃鉄でぼくたちが学んだことだ。
 とはいえリスクはこわい。失敗したときに損するのはファミコンじゃなく現実のお金だし、一度失敗した不動産投資家は予後も悪い。不動産の甲区に名前があるだけのむしょくが、甲区から追い出されたら他に行くところはどこにもないのだ。
 すでにぼくの履歴書は空白期間10年にも及ぶ。不動産投資家としてこの間に身に着けたのは、建物写真からGoogleストビューで物件住所を特定するとか地場の不動産屋からFAXで概要書を徴収するとか、そういう微妙なスキルしかない。もう再就職は絶望的だろう。それでも、利益を求める投資家ならリスクを取り続けるしかないのだ。

 不動産を買おう。耐用年数が残っていて、担保評価が高くて、イールドギャップが取れて、空室率が低く、人口が増えていて、道路付けがよく、容積率が余ってて、地盤が頑丈で、海抜が高くて、将来戸建て用地にできて…いや違う。違うんだ。こういう不動産を買えというアドバイスは無数にあるけれど、ぜんぶ満たせる理想の物件なんて存在しない。
 それより、自分は何を妥協できるのかを考えて、自分が取ってもいいリスクや、許容できる欠陥について考えるのだ。仲介さんも夢みるエンドよりも「ボロくても都心なら買える」「あいつは生活保護が大好き」「こいつは借地でもいける口」「積算しかみないで買う客」みたいなわかりやすい取柄がひとつふたつあるエンドの方を覚えていて、なんかあったときに思いだして物件情報を出してくれると思う。
 地縁があって得意なエリアがあればマクロではわからない空室率の濃淡を見分けて買うことができるかもしれない。DIYやデザインの技術があれば部屋の傷みやリフォーム代を気にせず買えるだろう。お好みのリスクを集めて、自分だけの不安玉を作ろう。

 ぼくはさしたスキルはないけれど、ボロスナックと土地権利があやしい物件を気合いで買っている。
 なぜなら土地権利があやしくても建物を賃貸で借りてくれる人には関係ないので、相場のお家賃がもらえるので収益性が高いし、長い目でみて権利がきれいになって資産価値が上がるなど家賃収入以上のボーナスがあるかもしれない。
 エンドである強みのひとつは不動産業者では気が遠くなるほど長い時間軸で取り組めることだ。それにうまく資産価値があがらなくても、もともと訳ありで安く買ったものなら、手放すときも訳ありで安くなってもいいじゃないか。保有している間の収益性が高いならそれでいいと思ってやっている。

 そしてボロスナックのような店舗も楽しい。店舗物件は投資対象としない不動産投資家も多い。たしかに店舗物件は賃料変動も大きいし、空室になったときに埋まる物件と埋まらない物件の差が大きく安定性に欠ける。だからこそそれが店舗物件の魅力なのだ。
 住居と違って、家賃が1万円安いならお得だからこっちの冴えない裏通りで商売しよ♡と考える商売人はいない。とはいえ、チェーンの牛丼屋が成り立つような高立地の物件はそもそも売りに出ないし、出ても利回りではとても買えない。
 ぼくは天気がいい日はよく散歩をしているので、なんとなく雰囲気のいい街や、このあたりならいけるんじゃないか…という勘が働く。そのため賞味期限ギリギリ、まだお腹を壊さずに食べられる限界商業立地を見極めたり、うらびれた現テナントがつぶれたあとに入る未来のキラキラテナントとの賃料ギャップを見抜いて買うことができる。

 狙い通りに退去後に従前の130%の賃料で入居申込があったりすると自らの見立てが正しかった喜びをじんわりと感じる。同じ利回りで売っても1.3倍に資産価値アップだ。狙い通りに入居申込書がなぜか届かないので、届くまでAD(広告費)を増やしていたら700%になったこともある。2回ある。
 それでも店舗を幾つかまとめて運用すれば賃料変動も空室率も大数の法則でこなれて安定してくる。リスクを飼い慣らして、レジよりも高い収益性だけを享受することができる。
 そう思ってやっていたんだけど、このたびのウイルスでぜんぶまとめてダメージをうけている。なるほどそう来ましたか。

 この世界、地雷原を歩いてるのに気付かず、運よく地雷を踏んでないだけのことも多い。投資は自己責任でお願いします。リスクとリターンと冒険の思い出はすべて投資家に帰属します。




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