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【推しと私を繋ぐ"推しテック"】 BTSの推し活プラットフォーム"Weverse"がすごい!

こんにちは、DCM Venturesの猿丸です。今回はほぼ趣味についての記事ですが、韓国の「推しテック」について書きます。

コロナ禍でいわゆる推し活にもオンライン化の波が押し寄せ、個人的にも推し活×テックサービスの存在感が非常に増したと感じていたので、それらを「推しテック」と呼んでみたいと思います。

本題に入る前に....。DCM Venturesでは、毎週オフィスアワーを実施しています!起業検討中/シードステージの起業家の方を対象に、起業アイディアや事業の壁打ち、資金調達の相談等を行う30分のオンライン面談になります。
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1) コロナ禍、推しと私を繋いだ"推しテック"

推しの「沼」。これは果てしない。ズブズブズブ....
推しはどこまでも尊い。魂が浄化されるような、人生でこんなにも情熱を傾けるものがあることがあるって、とても素敵なことです。うぅ。

私は10代の頃から、東方神起のユノに心酔してきました。
ユノの圧倒的なライブパフォーマンス、言葉、行動、哲学、人間性、ユーモア、感性。もうどれも沼。ユノが笑えば心が躍るし、ユノが傷付けば胸が苦しいし、ユノが理不尽な目に遭えばはらわた煮え繰り返ります。ユノのためなら、どんなに不便なUIでも乗り越えるし、どんな大金もはたけます。もちろんお財布事情との兼ね合いで...。

コロナ前は、毎年必ず日本の全国ツアーに参戦していました。北は北海道、南は福岡まで、1つのツアーで10回以上参加する勢いです。海外公演も、お隣ソウルなら必ず、他の国だって都合がつけばどこへでも飛んで行っていました。ちなみに2018年の東方神起の日本ツアー観客動員数は計128万人。チケット代(定価で1~2万円)だけでも、ものすごい経済効果です。

そんな活動が、一気に止まってしまった2020年。
Eコマースをはじめさまざまな分野でオンライン化が加速しましたが、特に韓国勢の「推し活」には、コロナで一気にテックが浸透したように思います。

同じ公演を見るために全国各地を飛び回っていたあの熱量が、一気にオンラインに向くと考えると、物理的制約で今まで投下されていなかったファンのお金・時間まで投下されているのではないかと感じます。

★世界中から参加できちゃうオンラインコンサート(VLIVE)

まずオンライン化として1番分かりやすい例は、オンラインコンサートでしょう。韓国勢はかなり早期に動いたと思います。NAVERが持っている配信プラットフォーム「VLIVE」と各芸能事務所が提携し、実施していました。

東方神起が所属するSMエンターテイメント事務所も、Beyond Liveと題しVLIVEのプラットフォームで次々と所属アーティストのコンサートを開催しました。

東方神起は、2020年5月に最初のBeyond Liveを実施。視聴チケットは3,700円(ファンクラブ会員は3,000円)でした。
通常のツアーチケットは1~2万円ですが、オンラインの凄いところは1回の公演で世界200カ国近くから2桁万人の集客ができてしまう所です。
日本ツアーだと収容人数はドームだと3~5万人/回、アリーナだと1-3万人/回、日産スタジアムでも7.5万人/回で、何回も公演しなくてはなりません。

ちなみに、世界のBTSも2020年6月にオンラインコンサート「BANG BANG CON The Live」を開催していましたが、報道ではチケット販売額だけで約20億円を売上げ、世界107地域から75.6万人が視聴していたそうです。
さらに、コロナ禍の活発なオンライン活動でますますファンを拡大・粘着させた1年後の2021年6月に行われた「BTS 2021 MUSTER SOWOOZOO」では、世界195地域から133万人が視聴し、チケット販売額だけで約75億円を売り上げたそうです。たった一回の配信で。。。全世界でツアーをするコストを考えたら、凄まじい収益性です。

また、通常のツアーではグッズ販売も盛んですが、オンラインコンサートでも同様、チケットにくっ付けて色々と売られていました。
特に、「マルチカメラ」と言って、自分の推しにフォーカスしたカメラアングルでの視聴チケットの追加購入は、かなり上手いアップセルだと思いました。実際のコンサートでも、常に双眼鏡で推しメンバーのことだけを見ているので(笑)、ライブDVDなどで引きのカメラワークで推しのキリングパートが抜かれなかったりすると、ファンはイライラしてしまうものです。こういうユーザーの細かいけど強い需要をしっかり反映させて追加機能に盛り込むのは上手いなと思います。

もちろんオンラインコンサートの臨場感は、実際のコンサートには劣りますが、オンラインならではのAR技術を活用した演出があったり、オンラインだからこそできるファンとのインタラクティブコミュニケーションもあったり、アーティストとの距離が縮まる時間でした。

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(画像出典:Instagram @tvxq.official)

★推しの気まぐれなライブ配信(VLIVE)

オンラインで配信されるのは、コンサートだけではありません。
BTSはじめ、元々ライブ配信をまめにやっている韓国アイドルグループは少なくありませんでしたが、コロナ禍でさらに気まぐれライブ配信の頻度・熱量が高まったように思います。

東方神起のユノも、特に今年初めの個人活動中は、こまめに配信をしてくれました。予告なく突然始まるので、好きな人からいきなり連絡がくるあの感覚を味わえます。笑 ついさっきまでテレビで見ていた生放送の音楽番組の収録を終えて家に帰る車の中から、練習後の事務所の作業室で何か食べながら、はたまた、1日のスケジュールを全て消化して帰ってきた家のベッドの上から、ものすごいフランクに生配信が始まります。
流れゆく世界中からのコメントを拾ってお喋りしてくれたり、今日あったことを色々報告してくれたり、部屋のものを見せてくれたり、リクエストに応えてたっぷりいろんな曲を歌ってみてくれたり。。。
世界の大スターとこの距離感でリアルタイムに繋がれるというのは、推し活の熱量をますます上げるものです。

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(画像:Instagram @yunho2154 のインスタライブ)

ユノは個人のインスタライブでやってくれていましたが、今や韓国アイドルの生配信といえば、オンラインコンサートでも先述のNAVERの「VLIVE」というアプリが定番プラットフォームになっています。多くのグループがVLIVEに公式チャンネルを持っていて、そこで生配信をしたりオリジナルコンテンツ動画をあげています。

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インスタなど他の総合プラットフォームと比較してVLIVEのいいところは、公式チャンネルにアーカイブがしっかり溜まっていくところ、時間差で何ヶ国語もの字幕が追加されるところ(by ファン)、後から公式が長い生配信の切り抜きハイライトを作ってくれたりするところ、などだと思います。

世界のBTSは長年このVLIVE でファンとの交流やオリジナルコンテンツの配信を行ってきましたが、ついに今年、後述するBTS所属企業が、VLIVEを自社プラットフォームに統合すると発表していました。

ちなみに先日、BTSのジョングクが久しぶりに9/1の誕生日VLIVE配信をした時は、アジア時間深夜にもかかわらず、1,000万人以上が同時視聴してました。。。(画像左上▷マークの数字)

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(画像:VLIVE BTSチャンネルのライブ配信)

★彼氏よりも高頻度?!推しとリアタイで会話(bubble)

ライブ配信よりもアーティストの負担が軽い「プライベートチャット」も、コロナ禍に一気に浸透したように思います。

韓国アイドルのライブチャットは、我らが東方神起が所属するSMエンターテイメント事務所の子会社Dear Uが開発した「Bubble」というアプリが定番になっています。
SMの所属アイドルだけでなく、TWICEが所属するJYPなど数々のトップ事務所が導入していて、各事務所ごとにアプリも分かれています

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UIはいわゆるLINEのようなメッセージアプリに似ていて、同じグループの中でもメンバーアカウントごとに月額300~400円課金します。
課金した推しメンバーからは、ライブ配信と同様、不定期に気まぐれでチャットが飛んできます。みんなのコメントが流れていくライブ配信と違って、他の人のメッセージは見れないので、まるで1:1で会話しているようなUIになります。自分が送ったメッセージをアーティストが読むと、ちゃんと未読マークが消え、リアルタイム感がでます
アーティスト側は、大量にくるメッセージの一部を拾って、実際に「XXさん、今日試験だったんですね!お疲れ様です〜」とか返事してくれたりします。大体いつも、しばらくチャットにいてファンとの会話を楽しみます。

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(画像:ユノとのbubbleチャット画面)

東方神起のユノも、特に個人活動期間中は、ライブ配信と合わせて本当にしょっちゅうbubbleをくれたので、「彼氏よりも連絡頻度高いかも・・・」という声も続出していました(笑)
活動中の待ち時間やプライベートの時間に、こうしてちょくちょく繋がれることで、いつも圧倒的なパフォーマンスを見せてくれる推しが物凄く身近に感じられ、ますます愛がこもってしまいます。

ちなみに、上記画像でユノの発言の横に「A」というリサイクルマークのようなボタンが表示されていますが、これを押すとユノのメッセージが自分の設定言語に自動翻訳されます。
さすが、韓国。ファンはいつだってグローバル想定です。

★推しと私の...1:1通話(通称ヨントン)

そして、極め付けはこれでした。

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(画像:ユノと私の通話スクリーンショット)

コロナ禍で、サイン会の代わりに韓国アイドルの推し活では当たり前になった1:1通話の「ヨントン」(韓国語でビデオ通話のことを指す略称)。

CD購入の抽選で行われていたサイン会が、単純にkakao talkなどの1:1の通話サービスに移されたものです。通話時間は大体1人2〜3分。待っていると、自分のカカオアカウントに電話がかかってきます。長い行列を成して、ベルトコンベアのように握手やハイタッチをしていくオフラインのサイン会より、ある意味ずっと「密」な空間です。
正直私も、このヨントン権を勝ち取るために、あんなものがあれくらい買えてしまえる額を注ぎ込みました(爆) 自分の部屋で自分のカカオでユノと通話した3分間は、人生の中で最も貴重な3分間でした。。。泣

ヨントンは、コロナ禍で会えない中でも、ファンとアーティストとの間の距離感を今まで以上に縮めたように思います。
多くの参加者たちは、ヨントンの通話記録をスクリーン録画でおさめてSNSなどで共有し、参加できなかったファンたちも含めて毎回みんな悶え死んでいました。ヨントンがある日はTwitterのタイムラインもお祭り騒ぎです。

ちなみに類似サービスで、去年日本でも佐藤健ファンなどの間でSUGARがバズっていたと思います。

2) BTS所属HYBEが時価1兆円超の大企業に。推しテックに注力

そんな"推しテック"の最先端を行こうとしているのが、BTSが所属するHYBEではないでしょうか。

私はARMY(BTSのファンクラブ)ではないですが、Weverseにメンバーが何かポストしたり、ファンや他メンバーのポストに本人コメントがついたり、VLIVEでライブ配信が始まったり、新しいコンテンツが上がれば見に行ったりしています。

BTSは、コロナになる前から、こうした推しテックを通じてファンとの"親密性"にすごく力を注いできたように思えます。圧倒的なパフォーマンスをするグループは他にもたくさんいる中で、大手事務所所属でもなかった彼らがここまで突き抜けたのは、こういった背景も関係しているのではないでしょうか。

そんなBTSを育ててきたHYBEが、2020年KOSDAQに上場しました。時価総額は、現在なんと10.5兆ウォン(約1兆円)。
夏休み中ソウルに入り浸っていた2013年7月、Mカウントダウンの観覧に入り、異色のB系新人グループとして話題になっていた「バンタン」に感銘を受けましたが、まさかこんな1兆円企業になるとは想像もしていませんでした。

(動画:観覧した日の彼ら……若い)

これは正直、芸能事務所のレベルではないです。韓国芸能界にはいわゆる「3大事務所」と呼ばれる3社がありますが、時価総額は下記です。

[SM] 1.5兆ウォン(約1,500億円) ー BoA、東方神起、少女時代など。冬ソナを初め韓ドラに続く「韓流」を音楽界で切り拓いた事務所
[JYP] 1.4兆ウォン(約1,400億円) ー Wonder Girls、2PM、TWICEなど。2020年は「Niziプロ」で社長のJYParkが日本でもブームに
[YG] 9,755億ウォン(約975億円) ー BIGBANG、2NE1、BLACKPINKなど。優等生アイドルとは一線を画す、実力派・個性派な路線
※時価総額はすべて2021/9/25時点
※参考までに、avexは689億円、アミューズは443億円

この「3大事務所」がありながら、BTS一本でここまで来て、今や1兆円企業になっているのはやはりすごいものがあります。
今のHYBEを見ていると、単なるタレント育成事務所というよりは、様々な買収や投資も含め、包括的に新時代のエンターテイメント事業を推進していく一企業という印象を受けます。
CEOも、BTSの生みの親であるパン・シヒョクプロデューサーから、ネクソンコリアというゲーム会社でCEOを勤めていたパク・ジウォン氏に交代しました。芸能事務所というよりも、1つの「企業」を経営していくという意志を感じます。

★HYBEの3本柱:レーベル事業・ソリューション事業・プラットフォーム事業

実際にHYBEの事業は、レーベル事業だけでなく、ソリューション事業プラットフォーム事業を含め、3つの事業を3本柱として掲げています。

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(画像出典:HYBE IR資料

レーベル事業は、今の所プロパーアイドルはBTSとTXTの2グループのみですが、人気アーティストが所属する事務所の買収や、戦略的パートナーシップの提携を結んで拡大を早めているようです。
先述の3大事務所の1つYGの子会社にも、今年100億円弱の投資をしてパートナーシップを結んでおり、後述するプラットフォーム事業(Weverse)のユーザベース拡大にも貢献しているようです。(YG所属BLACKPINKはYouTube再生回数14億回以上のMVを2作持つグループ)
更に今年1番衝撃的だったのは、Ariana GrandeやJustin Bieberが所属する米国Ithaca Holdingsの株を11億ドル(約1100億円)で100%取得したことです。これによって、billboardトップ10の4社がHYBE所属という事態になりました。会社として抱えているファンダムの規模を考えると、今世界最大になっているのは間違いなさそうです。

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(画像出典:HYBE IR資料

次に、ソリューション事業では、ゲームやed-tech等の分野でIP事業を展開しています。下記はIPコンテンツを用いた韓国語学習教材などを開発する「HYBE EDU」、BTSやTXTの音楽を用いたリズムゲームアプリを開発する「Superb Corp.」です。ただ、正直、この分野の事業はファンの熱量をそこまで活用しきれていないように感じます。IPを使えば何にでも飛びつくわけではない、と思います。これについては後述します。

★推し活プラットフォーム"Weverse"が売上の4割


そして最後に、HYBEが特に力を入れているように見えるのがまさに「推しテック」分野である、プラットフォーム事業の"Weverse"だと思います。
こちらは自社IPに限らず、他社IPへの導入も進め「ファン活動のためのプラットフォーム」としての確立を進めています。

プラットフォーム事業「Weverse」(HP説明より抜粋)
Weverse Companyは、顧客体験の拡張を通じたファンダム文化の革新をビジョンに掲げている、グローバルファンダム・プラットフォーム企業です。ファンコミュニティ・プラットフォームであるWeverseは、アーティストとファンのコミュニケーションの窓口の機能と共に、ファン活動に最適したコンテンツとサービスを提供しています。
コマース・プラットフォームであるWeverse Shopは、世界の顧客を対象に、アーティストの公式グッズ(MD)の販売などの事業を展開しています。

PL上の正確な数値はないのですが、2020年のHYBE全体の売上高が7,963億ウォン、Weverseのアプリ内決済額が3,282億ウォンなので、単純にHYBEの売上の約4割がWeverse上で流通しているイメージです。
ちなみにWeverseアプリはすべて自社開発しており、所属アーティストのグッズ販売や有料コンテンツの販売も全てWeverse上で行い、業務委託していないことも評価されています。

Weverseアプリは2019年7月にローンチし、すでに200カ国のユーザーに使われており、21年2月時点の累積DL数は約2,500万回、21年2Q時点のMAUは530万人でした。

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(画像出典:HYBE IR資料

ファンが、日常生活の中で、アーティストをより身近に感じられること」を目的として、日々新機能の追加や改善が行われていますが、1番重要なのはアーティスト自身のエンゲージメントが高いことだと思います。
例えば下記は、ある日のWeverseからの通知です。私はWeverseでBTSだけでなくBLACKPINKなど他グループもフォローしていますが、BLACKPINKのJennieが、自分が新しく何か投稿した後に、ファンが投稿したポストにも次々とコメント返信していっていた瞬間を捉えました。笑 

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Weverse上では、グループごとにアカウントが分かれています。複数のグループの更新が1つのタイムラインなどに集約されることはなく、あくまでもグループごとに部屋が分かれていて、自分の推しグループだけを見に行く場所です。

例えばBTSのアカウントを開くと、下記画像のように4つのタブに分かれます。
まず1番左の「Feed」というタブは、ファンが自由に投稿する場所です。ファン同士でいいねやコメントをしあうことはありますが、リツイートのような拡散性はありません。正直BTSとかだとあまりにも投稿が多すぎて、投稿5分後には遥か下に行ってしまって自分でも見つけられません。笑 したがって、Twitterのようにファンの投稿がバズるというようなものはないです。
一方で、先程のBLACKPINKのJennieのように、アーティスト本人がコメント返しを割と頻繁に行ってくれるのがWeverseの特徴です。本人が見てるかも、というドキドキ感はファンの投稿意欲も高めてくれます。
したがって、ファン同士のコミュニティというよりも、ファンとアーティストのコミュニケーションの場になっています。もちろん、今後の開発でファン同士のコミュニティもTwitter等から移行してくるかもしれません。

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次に下記画像の、左から2番目「Artist」タブは、アーティスト本人が投稿する場所になります。
上に並んでいる丸いアイコンは、Instagramのストーリーと同じような仕様です。ただ、24時間では消えず、ずっと残してくれます。
下のタイムラインは、Twitterのような投稿です。多くのアーティストはTwitterやInstagramにもアカウントがありますが、Weverseは既存ファンだけが見ている、よりクローズドな場なので、もっと距離感が近く、ハイコンテキストなニュアンスの投稿が多い気がします。アーティストが何か投稿すると、一瞬で何万件ものいいねやコメントがつきますが、メンバー同士がお互いの投稿にコメントし合ったりするのも、ファンにとってはたまらない空間となっています。

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上記は、この日曜日に更新されたBTSメンバーJINの投稿です。釣りに来たらサメが釣れてしまったという他愛もない話を上げていますが、つい先日アメリカの国連で大役を果たしてきた世界のスターが、すごく身近に感じられる瞬間です。ファン達にとっては、空港写真などで帰国は把握しているものの、少し休暇をもらっているのかな、などと彼らのリアルな「今」に想いを寄せられる場所です。

次に左から3番目の「Media」といういタブは、ライブ映像やオリジナルコンテンツなど、従来YouTubeにアップされたりDVD等にされてきたような内容を、無料/有料で閲覧できる場所です。
有料コンテンツは、サムネイルをタップするとすぐにApple storeの決済画面に連携されるので、とてもスムーズです。
現状、ライブ配信だけが別プラットフォームのVLIVEになっていますが、来年からVLIVEもWeverseに統合される予定です(後述)。

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そして最後に、1番右の「Only」タブはファンクラブ会員限定の内容になります。公式ファンクラブARMYへの加入も全てWeverseプラットフォーム上で行われる動線になっています。
下の案内にある通り、「Weverse Shop」という別アプリから、ファンクラブ入会手続きやその他チケット・グッズ購入などができます。

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以上のように、「推し活」のベースがどんどんWeverse上に集約されてきているわけです。

★レーベルの買収だけでなく、推しテック事業への投資も活発

ちなみに、Weverseを開発運営するWeverse CompanyはHYBEの「子会社」という位置付けになり、株式の51%をHYBEが、49%をNAVERが保有しています。
先述した通りNAVERの「VLIVEでは、BTSも例に漏れずライブ配信やオリジナルバラエティの配信をしていますが、今年1月、WeverseがNAVERからVLIVE事業を買収し、来年には1つのプラットフォームに統合することが発表されました。まだWeverseに加入していないものの、VLIVEには公式チャンネルを持っているグループも多く、ますますファン活動のベースが1つのアプリに集約されていきそうです。

また、Weverse Company(HYBE)は、今年の5月にアメリカの推しテックスタートアップFAVEにもシード投資を行っていました。

Faveはまだシードのサービスですが、テイラー・スウィフトなど強力IPから攻めており、やろうとしている世界観はWeverseと近いです。
ただ、Weverseがアーティスト自身のエンゲージメントドリブンで始めているのに対して(ファンとアーティストが繋がれる)、Faveはファン発信のコンテンツからプラットフォーム化(ファン同士のコミュニティ)していこうという点が違うように見えます。

Tech Crunch記事抜粋:
Faveは、ファンダムごとに分かれており、ファン同士がつながり、コンテンツを作成したり、ファンをテーマにした商品やアートワークを互いに売買したりすることができます。Faveの市場はファンに焦点を当てていますが、最終的にはクリエイターにもプラットフォームに参加してもらい、新たな収益源にしていきたいと考えています。

ちなみにWeverseには、自社アーティストだけでなく、他事務所のアーティストもどんどん入ってきています
先述した通り、14億回以上の再生回数を2作も持つYG事務所のBlackpinkの加入は、Weverseにとっても大幅な売上増加に貢献しているはずです。

Ithaca Holdings買収により今や所属アーティストとなったBieberやArianaが乗ってくる日もそう遠くないかもしれません。米国のアーティストはSNSの個人アカウントの活動などより自由度が高いので、ダイナミクスが少し違ってくるかもしれませんが、HYBEは間違いなく、世界最大の「推し活プラットフォーム」を築いていくことを目指しているのだと思います。

3) 推しテック領域の考察

ほぼほぼ趣味の紹介のような記事を、つらつらと書いてしまいましたが、ここまで読んでくださった方が果たしていらっしゃるのでしょうか。汗
最後に「推しテック」領域について個人的に思うところを書いて、終わりにしたいと思います。

★推し本人の継続的なエンゲージを得られるか

ご覧いただいた通り「推しに対する熱量と粘着性」というのはものすごいマーケット機会ですが、実際、IPコンテンツであっても、毎日使われるサービスと、放置され気味のサービスがあります。

アーカイブ性の高いコンテンツ(編集された動画、録音メッセージなど)をただ楽しむだけなら、正直、無料コンテンツはそこらじゅうに溢れています。(肖像権の厳しいジャニーズなどはまた違うかもしれませんが)

また、HYBEのソリューション事業のようなIPを活用した「ゲーム」「教材」なども、ゲームや教材自体が面白くなければ、表面上IPが使われていたとて、正直そこまでの熱量は生まれないと思います。

一方で、今までご覧いただいたような、既存ファンダムのクローズドな空間で「推しと繋がれる」「推しの日常を共有できる」といったIPとの双方向性・親密性の高いサービスは、ファンダムの熱量を非常にうまく事業機会に転換しているように思います。

ただしこういったサービスは、IP側にもリアルタイムなエンゲージメントを要するので、IP側への教育・動機付けがかなり重要です。ちなみにこれは、アプリのUI/UX設計よりも重要だと思います。
どんなに使いづらくても、検索性が悪くても、翻訳機能がへなちょこでも、推しがエンゲージしているサービスなら何としてでも見にいくし、推しがコメントくれるかもしれないなら何としてでも投稿するからです。

Weverseも、BTSやBLACKPINKのメンバーはすごくよくやっていると思います。

逆に、公式お知らせばかりのグループアカウントは、結局あまり見ませんし、これによって推し活の熱量が上がることはあまりなさそうです(あくまでファンクラブ入会などのユーティリティ)。
本人のエンゲージメントがあるかでサービスへのユーザーエンゲージメントはまるで変わりますし、それによって推しの沼底(ファンダムの熱量自体)もさらに深くなるなと思います。

★Fandomに、FOMOを作る

推し本人からのエンゲージメントはまさに、ファンダムにFOMO(fear of missing out=取り残される恐怖感)を作る王道コンテンツです。

他にも、ファンダムにFOMOを作れる要素は、色々あるかもしれません。絶対に出回らない限定コンテンツ、見逃したら消えてしまうコンテンツ、「ファンなのにこれも知らないの?」と思われたら困る最新の活動情報、などなど。。

例えば「ファンなのにこれも知らないの?」を防ぐ方法として、この10~15年はTwitterが主流でした。推しがいる方なら分かっていただけると思いますが、10代からシニア世代まで、大体みんな推し活用のアカウントを持っています。推しをフォローするというよりは、大事な情報をいつも迅速に流してくれるキーパーソン的なファンのアカウントや、共感してツボにハマれる二次創作やまとめ動画/画像を作るファンのアカウントや、気軽に語って一緒に悶えられるファン仲間のアカウントなどをフォローして、ファンダムの情報を逃さないようにしつつ、ファン同士の交流を通して推し活の熱量を上げています。時には、ファンダムの中でも様々な派閥があったりするので、Twitter内で宗教戦争レベルの論争が勃発したりするほどです。笑 
スタートアップ界隈のTwitterにも似てるかもしれません。

まさにこのTwitterが押さえてきた「FOMO」などは、もしかしたらファンダムというコミュニティのニーズに最適化した形で、新しいサービスがあり得るかもしれません。

★「ファン同士」は、既存を置換える程の強烈なUXを作れるかが鍵になりそう

Twitterのファンダムは、前述の通り「FOMO」から逃れる情報取得の面と同時に、ファン同士の交流というもう1つの側面があります。

推し活は、一人ではなく、仲間がいてこそ盛り上がるのは事実です。同じポイントに萌え、悶え、感動し、憤り、心を痛める仲間がいてこそ、自分自身の熱量も上がります。ファンダムの熱量は、二次創作等含むファン同士の交流の熱量にも比例するように思います。

実際に私も、ユノを一緒に追いかける仲間たちがいます。ほぼ皆さん、10年ほど前からTwitterで出会ってきた人たちです。もちろん全国各地のライブ会場でも会い、時には国境も一緒に超え、美味しいものも食べてきたわけで、まるでリア友のようですが、いまだにみんなTwitterの推し活アカウントのハンドルネームでお互いのことを呼び合っています。笑

まさにここに着目して、TwitterやYoutubeに散らばっていたファン発信のコンテンツや、ファン同士の熱い交流に特化した場所を作ろうとしているのが、HYBEが投資したアメリカのスタートアップFAVEです。

ただこの領域の難しさは、ファンダムコミュニティがすでにTwitterやYoutubeで一定程度機能してきていることにあります。顕在化した強いペインはないようにも感じます。ファンダムに特化した、推し活ならではの細かい機能やUI/UXを作り出し、既存プラットフォームから移行してくるくらいの「これは!」という驚き・新体験がないと、置き換えの難易度は結構高いのではないかとも思います。

★IPありきだが、推しテックが熱量を高めるのも事実

FAVEもテイラー・スウィフトから始めている通り、強力なIPがあればある程度の事業機会はまず作れてしまうというのは事実です。

「推しのエンゲージメントが、UI/UXより重要」と先ほど述べたとおり、どんなに使いにくいものであっても、そこに強力なIPコンテンツ(双方向で親密でFOMOを作るもの)があれば、ファンの熱量は向きます。あくまでも推しテックはIPありきで「テック(プロダクト/サービス)勝負ではない」というのは、ある程度真だと思います。

ただ、推しテックが、ファンダムの熱量自体をさらに高めるというのも事実だと思います。
まさに先に述べた通り、大手事務所にも所属していないシードスタートアップのようだったBTSが、圧倒的なパフォーマンスをするグループは他にもたくさんいる中でここまで突き抜けた理由の1つとして、Weverseなどがなかった時代から、既存のSNSや媒体を駆使して、こまめにブログや動画や配信を通じ、ファンとの双方向で親密なコミュニケーションを継続して大事にしてきたことが大きいと思います。

もちろん、集客の部分は、IP自体の魅力に大きく依存するとは思います。推しテックがあるから見つける・好きになるというのはなかなか難しいと思います。ただ、ファンダムの維持・強化には、十分効果を発揮しているように感じます。

そう考えると、いわゆる「クリエイター」と呼ばれる、近年増加している事務所無所属のロングテールIPなどに対して、例えばワンストップでこうした「推し活」の場を与え、規模は小さくとも熱量の高いファンダムを効果的に維持・強化していくことをサポートするサービスなどは、まだまだこれから色々と出てくるかもしれません。

というわけで、そろそろ長くなりすぎているので終わりにしたいと思います。。最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
ユノぺンの方、もしいらしたらぜひ気軽にご連絡ください、お友達になりましょう。笑

最後にもう一度。DCM Venturesでは、毎週オフィスアワーを実施しています!起業検討中/シードステージの起業家の方を対象に、起業アイディアや事業の壁打ち、資金調達の相談等を行う30分のオンライン面談になります。
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