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3つの質問で夫の死への罪悪感が一瞬で消えた話

先日、知人女性Aさんと久しぶりに会話をして、10年以上前にぼくが開催したワークショップ中の出来事についての話題が出た。ぼく自身は言われるまですっかり忘れていたのだが、ぼくが参加者の彼女に対して行ったリフレーミングについて、Aさんから面白い話をきかせてもらうことができた。彼女にとってその時の体験はとても大きなものであったそうだ。

前回の記事でも触れたが、リフレーミングとは、相手に対して新たなものの考え方、世界の切り取り方の枠組みを提示してそれを受け入れてもらう技術のことである。

Aさんから許可をいただいたので、以下、リフレーミングの一例としてその話を紹介する。

死別した夫に対する罪悪感に対してのリフレーミング

ワークショップ中、Aさんは、過去に旦那さんを亡くし、そのときのことがとても心残りで罪悪感があるとぼくに伝えた。

旦那さんは単身赴任の状態で過労で倒れられて亡くなられてしまったのだけど、亡くなる直前の最後のやり取りが夫婦間での大喧嘩で、その数日後に亡くなられたとのことだった。旦那さんはその時期、心の調子も崩していたそうで、Aさんは離れて暮らしながらも電話などでその対応に明け暮れていた。その中で自然と発生した夫婦喧嘩だったようだ。あの時、夫にもっと寄り添った対応をしてあげいれば、こんなことにはならなかった、そんな風なトーンで語ってくれた。

そこで、ぼくは彼女にまず一つ目の質問をした。

以下、め:めんたね(筆者) A:Aさん

め:亡くなる直前の状態の旦那さんが今、3か月だけ生き返ってくるとしたら、どういう風に関わりますか?
A:なんでも彼が望んでいることをやり、すべてをなげうってでも世話をします
め:そうですよね

ぼくは次に2つ目の質問をした。

め:では、生き返ってくる期間が1年間だったらどうしますか?どう対応しますか?

彼女は、1年間だと3か月のときと同じように対応するのは難しいと考えたそうだ。当時、Aさんがこの質問に具体的にどういう答えを返したのかは、もうぼくには思い出せない。

さらにぼくは3つ目の質問をした。

め:じゃあ、生き返ってくる期間が5年間だったらどう対応しますか?
A:……きっと今回と同じような対応をしたと思います

ここで、Aさんは「自分は長く継続的に関わっていくにあたってやれる範囲のことをきちんとやった」と腑に落ちたそうだ。それで、旦那さんが亡くなる直前に喧嘩で終わってしまったことへの心残り、罪悪感が消えたとのこと。その体験がすごく大きなことだったそうだ。

見立てを行う

リフレーミングに必要だけど、多くの人に足りていないのは、ぼくが「見立て」と呼んでいるものだ。リフレーミングのための質問を思いつく前段階の話になる。

たとえば、今回のケースの場合、Aさんは旦那さんと喧嘩別れした直後に死別することになり、その流れに対して罪悪感を持っていた。ぼくはそれと対比する形でそれができればどういう風になったらよいのかを想像する。「理想の状態」とか「健全な状態」と言ってもいいかもしれない。

このケースでは「旦那さんと喧嘩別れした直後に偶然旦那さんを亡くしたけれども、そのことについてさほど罪悪感を持たずに日々を過ごす女性」というイメージをぼくは思い浮かべた。当時のAさんとの一番の違いは罪悪感の有無である。

次にその想像上の理想的な状態の女性と、罪悪感をもって苦しむ目の前のAさんの間の違いはどのようにして生まれているのか?と考える。なにかしら両者の間には異なるフレームがあり、そのフレームの違いが感情・思考・行動パターンの違いを生み出しているんじゃないか?そう想像してみる。

期間というフレーム

すると、今回は「夫を世話をする期間の長さに応じた適切な対応」というフレームの有無だと気づける。

精神的に不安定であった旦那さんを支えるためにどんなことでもしてあげられるのであれば、してやればいいのかもしれない。でも、それは短期間だからこそやれることである。長期間ずっとやり続けることは無理であろう。

罪悪感に苦しむAさんの中には夫を世話する期間に応じて適切な対応の質や量が変わるというフレームがなかった。そして、そのフレームを持ち込んでやることで、Aさんはもう少し楽に夫の死を受け入れられるようになるのではないかと予想された。

このように、具体的なリフレーミングを実行する前にまず見立てを行う。

・より適応的でいられるためにはどんなフレームが必要なのか?
・相手の持つどのフレームが現在の問題を生み出しているのか?

こういったことに注意を払い、相手に伝えて注目を促すフレーム、あまり注目を与えずスルーするフレームをきちんと意識する。

リフレーミングの方法・伝え方を考える

見立てたら、次にどのような形でリフレーミングを行うかを考える。先日書いた記事のたとえを使うならばラッピングの種類を選ぶところにあたる。

新たなフレームを…

・明示的に伝えるか?暗示的に伝えるか?
・たとえ話を使うのか?
・質問を使うのか?

ラッピングの種類はたくさんある。伝え方のバリエーションに関しては現代催眠が強い。この辺の詳細についてはまた別の機会に別の記事としてまとめたいと思う。

今回インストールすべきフレームは「世話をする期間によって、やってあげられることの量や質などが大きく変わる」「夫婦として長期間一緒にやっていこうとする場合には、実際に自分が夫に対してとった対応は非常に適切なものであり、その中には一時的な喧嘩も含まれる」というものである。

ただし、これを直接説得するように伝えたとしても素直にはいそうですね、と受け取ってもらえる可能性は低い。Aさんはとても強い罪悪感を持っているからだ。いきなり直接的にいけば、反発されてしまう可能性が高い。

質問を使ってリフレーミングする

そこで、このケースでは質問によるリフレーミングを採用することにした。こちらの質問に答えた結果が、こちらの提示したいフレームになるような質問を考える。

なぜ質問を使うのか?

人は他人から考え・枠組み(フレーム)を押し付けられることを嫌がる。だが、自分で思いついたアイデアであればそういった抵抗感は生じない。

そこで、質問を使う。人は質問をされると、自然とその回答を自分の頭で考える。そうやって思いついた回答は自分で思いついたものであり、自分自身の考えとしてすんなりと受け入れられる。他人から押し付けられたものではない。

だから、相手が思いつくであろう回答がこちらから新たに提示したいフレームになるように計算して質問を組み立て、それを伝えることで、「フレームを他人から押し付けられた」という抵抗を避けつつも、新たなフレームを提示することが可能になる。

人から提案されたことを割とすんなり受け入れる人もいるし、そこには強い抵抗感を持つ人もいる。特に抵抗感の強い人に対しては質問を利用したリフレーミングが非常に効果的である。リフレーミングされたという自覚も持たず、単に会話しているうちに自分で考え方が変わったと思うことも多い。そもそも、考え方が変わったという自覚すら持たずに、実際には考えが変わっていることもある。

前提に新たなフレームを潜ませる

このケースでは全部で3つの質問を使ってリフレーミングを行った。それぞれの質問がどのような働きをしているのかを確認していこう。

もし旦那さんが亡くなる直前の状態で

1. 3か月間
2. 1年間
3. 5年間

生き返ってくるとしたら、どう対応するか?

このように3つの質問はほとんど同じ構造で、違いは旦那さんが生き返っている期間だけである。

このような構造の質問をすることで、「旦那さんが生き返っている期間」というフレームを質問の中に挿入している。だが、質問の中心は「どう対応するか?」であって、「期間」自体はそれを考えるにあたっての条件に過ぎない。

「旦那さんが生き返っている期間」というのは「旦那さんを世話する期間」と言い換えることができる。ここで、直接的に「あなたは旦那さんを世話する期間について、もっと考えに入れないといけない」などと直接的に言うよりは、「もしも旦那さんが3か月間だけ生き返るとしたら?」「それが1年だったら?」「5年だったら?」と質問の前提として提示する方が、抵抗されずに、自分なりの回答を考えてもらえる。

質問を使ってリフレーミングするときには、リフレーミングしたいことを主役に据えるのではなく、質問に対する回答自体とは少し離れたところに脇役として配置するとうまくいきやすい。

ペーシング:相手の思考と感情を受け入れ、肯定する

3つの質問を問いかける順番にも意味がある。

まずは最初に3か月だけ生き返ってくる場合について質問した。

め:亡くなる直前の状態の旦那さんが今、3か月だけ生き返ってくるとしたら、どういう風に関わりますか?
A:なんでも彼が望んでいることをやり、すべてをなげうってでも世話をします
め:そうですよね

ここでは当時Aさんが持っていたであろう「もっとやってあげられることがあったはず」という後悔の念を表現する場を用意している。実際にそれが語られ、ぼくもそれに同意する。こうして相手の思考・感情の流れに寄り添い、相手との間に信頼関係を作る。これをペーシングと呼んだりする。味方ポジションに入ること、YESセットを取ること、どれもペーシングの一種である。

この質問はペーシングをして信頼関係を強める一方で、こちらの質問に対して、ストレートに思った通りのことを答えてもらうという流れを作っている。それはこの先にする予定の2つの質問、答えるのがちょっと難しいであろう質問に対しても効果を示すことになる。

新たな変化を導入する

次の質問に移ろう。

め:では、生き返ってくる期間が1年間だったらどうしますか?どう対応しますか?

3か月間と対比される形で1年間という期間を提示されることで「世話をする期間が延びた」と当然、認識される。

すると、「世話をする期間が延びたことによって、自分にとってどういう風に意味が変わってくるのか?」という新たなフレームが連想的に持ち込まれる。

そして、「3か月間だけ対応するよりも、長期間支えることになるから、色々と大変そうだ。本人が完全に望むように対応しきることは難しいかもしれない」という発想もわいてくる可能性が高い。

そして、3つ目の質問でダメ押しをする。

め:じゃあ、生き返ってくる期間が5年間だったらどう対応しますか?
A:……きっと今回と同じような対応をしたと思います

最後の5年間となると、Aさんが当時、直面していた状況に近い。

Aさんは旦那さんと長く夫婦をやってきて、それはこの先もずっと続いていく。その状況下で継続可能な夫婦の関わりを維持する必要がある。いつ終わるかわからない夫の世話のために全てを投げうっては生活自体が破綻してしまう。だから、やれる範囲でやれることをやるしかない。

そういう思考が自然と沸き起こる可能性が高い。実際、このケースではそのようにAさんは思い至った。

そして、この3番目の質問に対しての回答こそが、今回の自分のケースに重なる状況であり、自分自身が持っている旦那さんの死に対する罪悪感がリフレーミングされて消えることとなった。

リーディングとペーシングのバランスをとる

もし仮にこの3番目の質問だけをいきなり相手に投げたとしたら、あまりに唐突で性急過ぎて相手の思考と感情が追いついていかない可能性があっただろう。

リフレーミングは相手の中に新たな思考の枠組みをインストールする。変化を起こす、変化を導くということだ。リフレーミング以外にも相手に働きかけを行って変化を導入すること、全てを含めてリーディングと呼ぶ。

リーディングはペーシングと対になるものだ。ペーシングで関係を作り、リーディングで変化を持ち込む。常にこのバランスを取り、ペーシングが足りないようであればペーシングを補う。

いきなりリーディングを連発しても負荷が過剰になり、相手との関係が悪化してしまう。だが、ペーシングだけやって一切の変化を持ち込めなければ、相手に対する有効な援助にならなかったりもする。

もちろん、ペーシングだけやり続ける支持的な援助というのもある。ペーシングをしているだけで相手が癒され、本人の自己治癒能力が呼び覚まされるような場合だ。若者への支援などはそれで十分なことも多い。

そういった状況を見極め、必要に応じてペーシングとリーディングを使い分けていくことが大切だ。

後日談

この話には後日談があるので、興味がある方はお読みください。

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