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質問恐怖症

大学生のころ、疑問を持つのがこわかった。
というか、疑問を持たなくてはいけないのがこわかった。

大学生とか人生のなかで一番クリティカルに全てに疑問を抱いて「あらゆる事象に疑問を抱ける俺、ヤベぇ」とかイキってなきゃいけない時期だというのに私ときたら。
でもほんとに疑問が全然湧かなかった。
勉強にやる気がないのもあったけどそれにしたってなんにも「はて?」と思わないのである。
虎に翼の主人公が見たら激おこになるであろう。
せっかくの学びの機会に全てを鵜呑みにしたままで、ほんとに……。

しかしあの頃の私ときたら講義を聞いても「納得」以上のことが全く浮かばない。
「はえ〜そんなもんなんですね!」とスッキリして終わってしまう。
あと90分って睡眠のサイクルに結構ちょうどいいから寝て目覚めてスッキリ!みたいな場合もある。

たまには質問とかしてみようかと想定して真面目に講義を聞いてみた時もあったのだがやはり「ふ〜んそうなんだ、勉強になります!」で終わってしまう。
本当は真面目に講義を聞いて「ふうん、そうなんだ。このあたりもっと掘り下げたいな」と文献を漁ってみたりしてもいいものなのだがまったくやる気というか、疑問がない。

私は福祉の相談援助を専攻していて、この辺りの分野って実はまだ歴史がそんなに深くないのでいろいろと改善点というか学ぶ余地?掘り下げる余地?も多いはずなのになと今になったら思うんだけどあの頃は毎日9時から19時半まで詰め込まれたあらゆる講義を相手に目まぐるしい日々を送っていて結構忙しかった。
空きコマこそあったけどあったけど何してたっけな……1・2年生の頃は生協でおやつ買って食堂に溜まってた気がするけど3年にもなったらもういちいち家に帰ってたような気がする。その時間に図書館にいけよ……1日でも返却が遅れると厳しい口調で「次からはないですからね!」と詰められることでお馴染みの図書館によ……。
いや、図書館にもたまに行ってた。地下の漫画の棚の近くで鈴木先生やピンポンを読んでいたような気がする。

そういうわけでいろいろ書いたけど疑問を持たないまま学生生活を送るという非常にコスパ悪く勿体無い経験をしていた私が1つ恐れていたものがある。
専攻の発表会で課せられたゼミノルマだ。

私が所属していたゼミでは発表会に出席するにあたってノルマがあり、それが「1回は必ず誰かに質問すること」というものだった。
先に書いた通り講義を聞いても内容すべてに納得してしまって疑問を持つことがなかった私はこのノルマを言い渡されるたびに胃が痛くなっていた。

ちなみにこのノルマを達成できなかった場合、ゼミの先輩がバイトをしている古本屋に紛れ込んでお客さんが来た時に店員さんのふりをして大きな声で「いらっしゃいませー!」と大きな声を出さなくてはいけないという罰ゲームも用意されていてそれが本当に本当に……。

そういうわけで発表会のたびに先輩の発表を見ては何か疑問、疑問はないか?と必死に探していたのだがこれもまたつらかった。
疑問をもったことがないということは疑問をもつのも下手くそなわけで、そして私はいろいろあって先輩という生き物にたいして過剰なほどの畏怖の念を抱いていたわけで、つまりに何が言いたいかというと後輩が先輩の発表に粗探ししているみたいになっちゃうんじゃないかって思っちゃってはちゃめちゃに混乱していたし怖かったしで大変だったのである。

結局1回先輩に質問する機会はあったのだけどその時は2、3回あったことがあるゼミの先輩に対してなんとか絞り出したジューサーの残り滓のニンジンみたいな質問をそっとぶつけて終わった。
マジでただただ粗探ししてる気分になって申し訳なさすぎるあまりなけなしの神経がすり減らされた。
ゼミの教官には「いい質問だったよ」と言ってもらえたが全く信じることができずやってしまった、やってしまったと呟きながら帰りに真冬の北海道をヒールで歩き近所のセイコーマートでアイスを買って食べながら歩いて帰った。

それからもう色々あって発表会に出席することはほとんどなかったのだが毎度毎度胃袋をブラックコーヒーで煮詰められたような気持ちになっていたのを覚えている。

なんかよくわかんないけど今ちょっとラッキーで思ったより出費が浮いたんだ〜っていうあなた!よかったらサポートしてみない?