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【SHIROの歴史と成長背景】北海道の小さな町のOEM工場が日本を代表する化粧品メーカーまで成長した背景について調べた

ここ1年ほど、多くのDtoC企業の検討/出資を行うにあたって、必ずといっていいほどベンチマーク企業として名前が挙がる企業があります。今となっては多くの人が知っているシロです。

そこで、私自身の勉強も踏まえ、北海道の人口1.6万人の小さな市で元々OEM工場を営んでいた会社がどのようにして多くの人に愛され始めていったのか?その背景を調べてみました。


SHIROとは:

シロは、関東を中心に、北海道、愛知県、大阪府、福岡県などを中心に国内外29店舗(百貨店は7店舗)、自社EC、Amazonでコスメティックブランドを販売している化粧品メーカーです。ここ数年は、定期的にシロの製品がTwitterやTikTokでバズっているほど話題を呼んでいるブランドでもあり、ブランドとしての勢いは年々強くなっています。
以下のように毎年120-150%の成長を遂げており、2022年度も現代表の福永氏の記事によると120%ほどの成長予定とのこと。

ソース:美容経済新聞

シロの歴史:

会長今井氏によるシロ立ち上げまでの背景(-2009):

シロの創業者であり、現代表取締役会長の今井氏は、新卒で北海道の土産物屋のLAURELに入社。LAURELは北海道砂川市を中心にハーブや石鹸などの通信販売や、ジャムやドレッシングなどの卸販売を行なっていた会社。

当時、1990年代前半は北海道拓殖銀行の経営破綻をはじめ、多くの企業が倒産し、景気としてはとても悪い時期でした。LAURELではハーブ人気が影響し、食品事業の売上は好調で、社員の中でも今井氏は特に活躍しており、当時では社内売上の1割ほどしか占めていなかった化粧品領域の責任者に抜擢。同時に、大手企業から化粧水開発の依頼が入り、これをきっかけに未経験ながらも周囲の力を借りながら「ハーブウォーターミスト」を完成させ、開発から製造まで、すべての工程を経験し、知見をためていきました。

2000年に、これ以上はこの会社で学ぶことがないと感じ辞表を決意したところ、当時の社長から今井さんが居なくなればこの会社は潰れるから会社を継ぐか、会社を潰すかの選択肢を迫られLAURELの代表になることを決意。同年に26歳という若さで創業者から引き継ぐ形でLAURELの社長に就任することになり、社長就任後は土産物製造業から、生活雑貨事業へ方向転換。自社工場を持つ強みを活かし、多くの取引先企業を開拓。ライフスタイルを中心とした食品メーカーから、徐々に化粧品雑貨のOEM業務を手掛けるようになり、無印良品やFrancfranc、ロフトなど、誰もが知っている大手企業を中心に東京の店舗にも並んでいる製品の製造に転換し、企業数は130社、売上は就任時から倍までの規模に成長。

OEMを通して素材の知識や製造の技術を身につけていく中で感じたのは、もっと有効成分が含まれた「私たちが毎日使いたいものを作りたい」という想いでした。その想いを形にすべく、2009年に自社ブランド「LAUREL(ローレル)」が誕生。直営1号店も札幌にオープンし、OEMメーカーからブランドビジネスへと軸足が転換しました。

化粧品ブランドの立ち上がり(2009-):

本当は良い製品だと思っていないのにOEM工場として大手メーカーの担当者に頭を下げ続けなければいけない事実に対し、気持ちが吹っ切れ、そんな思いをして10億円売り上げるくらいなら本当に使いたくなるものを作って売りたいと感じ始め、2009年に自社ブランド「LAUREL」を立ち上げる。

ローレルの初期アイテムは、フラスコ型のアイコニックなシャンプーやコールドソープなどが人気を呼び、特徴として、素材に妥協しない、素材をそのまま肌に届けるといった点にありました。これは現在のシロのものづくりにもしっかりと引き継がれているブランドのDNAでもあり、この頃からコンセプトは定めていました。

この時に売れた製品だと、石鹸のLAURELコールドソープ 95%が有名。当時日本では輸入されていなかったローレルオイルは現地で生産者のおばあさんを見つけて、製造工程や農薬の使用の有無などを確認して、直接仕入れました。ローレルオイルの素材の良さをそのまま肌に届けるため、LAURELコールドソープ 95%には、その名の通りオイル分の95%にローレルオイルを配合。そしてこの香りも付いてない至極シンプルな石鹸は、美肌効果の高さによって予想以上に大きな反響を呼びました。これにより、素材をそのまま高濃度配合することのメリット、そして混じり気のないピュアなコスメを待ち望んでいる顧客が数多く存在していることを改めて実感できたとのこと。

ローレルの初期アイテム

スキンケアラインの販売(2012-):

2012年になると、主に北海道の豊富で新鮮な資源を生かしたスキンケアライン「sozai LAUREL(ソザイローレル)」をスタート。ブランドデビューからしばらくは海外生産者の原料を中心としてラインナップが構成されていたが、日本人が日々口にしているものの方が肌にいいのではないかと考えるようになり、身近の北海道に存在する素材に注目。

スキンケアライン sozai LAUREL

素材を作っている生産者さんを回る中で、たまたま昆布を調べている博士が函館にいるからと誘われて行ったのがきっかけで、捨てられている素材(この時はおぼろ昆布)を知り、「これは化粧水にしてみたらいいんじゃないか」と思いついたことが始まり。函館の深海のみで獲ることができる「がごめ昆布」は加工する際に根の部分が切り落とされていたが、この根に栄養が凝縮されていることに気付きました。

栄養価が高いがごめ昆布は食用として親しまれているが、全てが食べられるわけではなく、特に石に付着した部位は硬すぎるため廃棄されていたため、その廃棄された部位を地元の漁師から譲り受け積極的に採用。がごめ昆布特有の強いとろみは、高い保水力を誇り、肌にハリとうるおいを与えるため栄養が凝縮しており、また、酒かす化粧水の酒かすも、道内の酒蔵さんから仕入れており、敏感肌用の化粧水に使っているラワンぶきというのは、道内で採れる長いフキで、8割ぐらいは捨てられていたものを使用。

この素材の魅力を最大限に生かすこと、かけがえのない自然のチカラを余すことなく享受すること、シロではこのポリシーを当時からずっと体現し続けており、現在もブランドのシグネチャーアイテムとして定番人気を誇る「がごめ昆布」や「酒かす」のシリーズは、この当時開発されたもの。この時からエシカルな思想でのものづくりが始まっている。

がごめ昆布化粧水

フレグランスシリーズ拡大&初のオーガニックシリーズ登場(2013-):

2013年には、ファブリックミストや食器洗剤などの新アイテムが登場。ヴァーベナ、ローズ、ラベンダーや、サボンの香りを大人っぽく仕上げたサボンⅡ、現在定番のホワイトリリーなど、新しい香りをリリース。

また、2014年からは同社初となる無農薬栽培の素材を使用して、小豆島の有機オリーブや有機ハーブ、有機ゆずなどを取り入れたオーガニックシリーズ「ソザイ ローレル オーガニック(sozai LAUREL organic)」をリリース。また、2014年にはOEM事業から撤退し、ブランドとしての独立行うと同時に、パッケージもシンプルに素材の良さを伝える新デザインとなった。

シロの誕生(2015-):

2015年には自社ブランド名を「LAUREL」から「shiro」へ変更。それまでは社名である「ローレル」をそのままブランド名として使っていたが、海外展開を見据えた規模拡大に合わせ、新たな一歩が踏み出した。実はブランド名の由来は、ブランド創業者とその子息の名前にある。自分の名前を背負い、世界に挑戦するという大きな決意が込められている。同時に、食のセレクトショップ「shiro LIFE(シロ ライフ)」もスタート。

shiroからSHIROへリブランディング(2019-):

2019年、ブランド10周年を迎えたシロは、大きな転機を迎えた。ブランド表記を小文字の「shiro」から「SHIRO」に変更し、そのビジュアルを一新。少し華奢な印象だった小文字表記をどっしりとした大文字表記に変えた理由は、グローバル展開を進めていく中で、シロの持つ潜在的な力強さをさらに前面に押し出していきたかった背景がある。クリームや白をメインカラーにしていたパッケージも、ネイビーをキーカラーとし、シャキッと引き締めた。一般的なラグジュアリーブランドが採用している黒を避けることで、カジュアルさや枠に捉われない自由な発想と柔軟性を表現。当時大々的に行われたプレスプレビューでは、2025年までの海外における店舗展開の展望や、国内では最大33店舗まで拡大していくことなどが宣言され、ロゴを小文字のshiroから大文字のSHIROにし、書体も変更したのは、存在感のあるいでたちのほうがグローバルでは伝わりやすいのではないかという視点からの変更。

なぜここまで成長できたのか?

フレグランス製品の牽引:

フレグランス製品を本格的に出し始めたのは、ヴァーベナ、ローズ、ラベンダーや、サボンの香りを大人っぽく仕上げたサボンⅡ、現在定番のホワイトリリーなどの香りをリリースした2013年頃。そこから年々、香りのバリエーションを増加させ、今では50種以上を展開。スキンケアやメイク用品を抑えて売り上げの過半数を占めており、オードパルファンから練り香水、さらにはルームフレグランスまで商品展開が幅広く、香り自体もサボンなどスタンダードなものからアールグレイなど変わり種まである。特に限定で発売される香りはすぐに売り切れてしまうほどの人気であり、購入できなかった人は翌年の購入を狙うため、争奪戦の模様は年々激しさを増しているとのこと。

実際、2020年9月24日にオンライン予約が開始されたキンモクセイ オードパルファンは、箱なしの製品が15分程度で、箱ありの通常製品も1時間たたないうちに完売。9月8日にはSNSやホームページ上で発売の告知がされていたため、予約開始を待ち構えていた人や、買えたと話題にする人がその瞬間に急増したことで、「#SHIRO」はTwitterのトレンド入りも果たしています。12月18日にリニューアルオープンした表参道本店で限定発売された「SHIRO PERFUME WISHING WELL」も好評で、翌日には完売しました。

キンモクセイ オードパルファン

完全なるDtoC型経営の型:

化粧品の独立系ブランドではOEMで商品を製造するという方法がよくとられていますが、SHIROは自社で企画、製造、販売まですべての機能を持ち、サプライチェーンの無駄を省いている点が強みの一つです。観光土産物製造の時代から、ジャムなどを自社工場で製造しており、化粧品も当初は食品用の機械を転用していました。自社工場の存在が、自然素材を使う製品を実現しているとも言えます。

容器への充てん工程などは自動化しているが、素材を扱う部分は機械化が難しく手作業で行っている工程が多いために、外注は難しいのが背景としてあります。例えば、早くから製品化した酒かすを使った化粧水では、搾る工程を手作業で社員が行っています。機械で搾ると、香りも、肌への付けごこちも全く違ってしまうため、10年以上、機械化を試みているがうまくいかないのが現状。酒かすの素材の米や昆布などは、年によって状態が違うため、手作業でできる微妙な調整を機械に置き換えるのは難しい。結果、工場は手作業と機械化工程が半々の形で行なっています。

ただ、この自社内製がコロナ禍の際に新たなグロースポイントのきっかけとなりました。コロナ禍では、消毒用アルコールが不足しており、仮に手に入ったとしてもアルコール濃度が高いものだと手が荒れ、臭いがきつかったり、べたべたしたりするものが多く、本当に使いたいと思うような製品がほとんどありませんでした。そういった中で、ユーザーが本来欲しがっている製品を作ろうという思いでアルコールスプレーの開発を企画し、3週間という短い期間でリリースまで行ないました。これと同時に、アルコールスプレーにリソースを集中投下されるべく、2020年3月に全ての生産ラインを止めることで、除菌スプレーの生産に集中投下。更にボトルやラベルは、新型コロナウイルスの影響で調達が難しくなっていたものの、他の既存品に使う予定だったボトルやラベルを使用することで、一刻も早くお客様のもとへお届けできる体制を整えることに成功。通常より大幅に製造期間を短縮し、3週間という短い期間で企画から販売までを実現させました。これらの意思決定により、製品は爆発的に売れました。2020年の4月10日にアルコール配合量80vol%のミストとジェルの予約受付をECのみで開始してからは、オンラインストアへのアクセスが集中。常にサーバーがダウンするほどの人気で、1カ月で注文数は22万個を超えました。
コロナ禍を機にリリースした製品で機会を捉え見事にヒットした。これがSHIROの一貫した哲学が強みになった瞬間です。

チャクラーサナ スプレー80

インスタLiveによる顧客エンゲージメント:

日本ではSNS広告もリターゲティングもせず、基本的に単純なリスティング広告しか行なっていない同社でしたが、コロナ禍の影響で店舗販売が難しくなった20年の春からは、お客様が店舗で購入できなくなり接客が受けられない、新製品情報が得づらいといった声も聞く中、販売現場で行われているようなコミュニケーションの場として毎週1時間のインスタライブを実施。

Webで新製品の情報発信をしたり、マスクによる肌荒れ対策やアイメイクの方法に関するお悩み相談会を開催したり、積極的な発信を行い、アーカイブも含め、動画の視聴者数は平均2万人ほど存在するほどの人気。化粧品メーカというと、女性スタッフが前面に出る機会が多くなりがちですが、SHIROのインスタライブでは男女のスタッフを組み合わせて配信を行っていることも特徴の一つです。

SNSによる販促は競合も力を入れていますが、ライブ配信を毎週必ず行う会社は皆無。シロは企画や制作もすべて自社内で行っており、紹介する内容は朝礼の時間に話し合ったり、出演者も店頭に立つこともあるエリアマネジャーだったりと、完全にオリジナルで行なっており継続することによって、特に人気のあるスタッフが生まれるなど、自社内でインフルエンサーが育つような環境にもなっているようです。

新製品の投下:

化粧品は消耗品であるためスイッチングコストが低く、ともすれば毎月10%程度ずつ、顧客が減っていく可能性は高いとは思いため、シロは次々に新製品をリリースし、ファンを飽きさせることなく、じわじわと顧客を拡大しており、圧倒的な製品開発力による新規顧客とのタッチポイントの多さも成長の要因の1つ。

通常の化粧品ブランドだと新製品数は年間40~50と言われているが、SHIROでは年間約200アイテムにも及ぶ。ほぼ毎月、新製品がラインナップに加わっているため、新しいお客様をどんどん呼び込むことができるのである。
また、「キンモクセイ」シリーズのような限定品を常に出し、新規を開拓し続けることで、1年に1回しか購入しないというユーザーもファンにできる。

SHIRO Membership Program:

2021年から始めたメンバーシップ制度のSHIRO Membership Program。ポイント還元などの値引きは行わないが、顧客は会員ステージによって限定製品を手に入れたり、体験型プログラムに参加できたりするなどの特典が得られる仕組み。これもシロの最近の施策の中では特に好評となっており、たとえば2023年にGOLDステージ会員の方は、SHIRO Membership Program特典でしか手に入らない特別なアイテムをプレゼントしてもらえるなど、よりロイヤルカスタマーの方にとってエンゲージメントが高まるようなアプローチで評判を呼んでいる。

SHIRO Membership Programの特典




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