PRIDE


昨夜の、がん患者の家族をテーマにしたwebセミナーでディスカッションをしながら
私は今も、助けてと言えないままでいる…ということに気づきました。


『胃がんは治る時代』『がんになっても生きていける時代』


夫が告知を受けた時から、これらの言葉が刺さりました。
周囲の人から、「切れば治るのに、なぜそこまで気づかなかったのか」と言われることが多かったのです。
共働きをしていたため、周囲からも「料理が充分じゃなかった」「ストレスをかけていた」という空気を感じましたし、何よりも強くそれを思っていたのは私自身だったのです。
だから、私がこの人を救う責任があるのだと思いました。

その時に、私の気持ちに寄り添う言葉を言ってくれたのは、科学的根拠が乏しい医療でした。

私は、いわゆる『ステレオタイプ』に苦しみ、今もその中で声をあげているように思います。


科学は進歩し、以前のように『がん=死』ではないことは確かなことです。
一方、今でも治療法が確立されず、旅立っていく人がいることも事実です。


話し合っていればいい看取りに繋がるという言葉では納得できない、想定以上の最期の日々を経験しました。
自分がステレオタイプに苦しんできたからこそ、大きな声にかき消されてしまうことがないように「そうではない場合もある」と発信すれば、「水を差す」「被害者意識」と言われることもあります。
それでも、返ってくるであろう言葉を恐れて、言葉を飲み込んではいけないと自分を奮い立たせているように思っています。

そもそも、私は夫が患者会をつくると言った時、猛反対しました。希望の会という名前にも納得がいきませんでした。
それでもなぜ、受け入れたのか。
それは、自分たちの状況が悔しかったし、夫が命をかけてしたいと言っていることを支えることこそ、妻が出来ることだと思ったからなのです。
夫の死へのカウントダウンを覚悟したからこそ、彼の『生きる日々』を支えたかったのです。

患者会は、私が甘えられる場ではありません。
認定NPO法人となり、500名に及ぶ会員の存在、今も毎日かかってくるスキルス胃がんと告知された直後の混乱の痛み、厳しい現実への苦悩、家族を喪った悲嘆に接し続け、患者会として何ができるのかを問われ続けています。


エビデンスが全てだと思っているわけでもありません。

『知る機会』と『ステレオタイプにかき消されないように声を上げる』ことが、せめて、それぞれの後悔が少ない選択の背景に繋がってほしいと願っています。

患者会には害もあります。同じ病だからこそ、比較してしまうし、属していなければ知らないでいられた旅立ちにも接します。会員それぞれの背景があり、その距離感もとても繊細なものです。

昔、長男は野球でキャッチャーをしていたのですが、その時に言っていた言葉があります。
ホームベースを狙って突っ込まれてきても、ケガをするんじゃないかと思っても、代わってくれる人はいない。後ろに球をそらしてしまったら、それをカバーする人はいない。』
今の自分には、その言葉の意味がしみじみとわかります。

昨夜、セミナー後にぼんやりとし、なんとなくテレビをつけたら、今井美樹さんが
PRIDEをうたっていました。
この曲が作られた時の背景を思うと、私はこの曲がなんとなく好きにはなれないでいるのですが、昨夜は妙に沁みました。


夫が人生をかけて立ち上がったことを支えたかった。そして、その続きの日々を私は生きている。
PRIDEなのか、意地なのか…


全国胃がんキャラバン、多くの人にがん情報を届けるグリーンルーペアクションに挑戦しています。藁をもすがるからこそ、根拠のある情報が必要なのだと思い、頑張っています。