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DJI RSシリーズ、MP-101をPTZヘッド化する「Project92.com PTZ Remote」の有線版を発売開始しました

自分のライブ配信現場で使うために開発をはじめた、「Project92.com PTZ Remote」……一部では「加賀式雲台」と呼ばれているヤツ……。既製品である電動雲台Bescor MP-101とLANC対応ビデオカメラのセット複数を無線で制御できるリモコンをつくって、ワンオペのライブ配信現場での手元にない複数のカメラを操作することが主眼でしたが、さいわいにも多くの同業のみなさんから欲しいという声を頂戴して2015年より販売を開始し、リモコンだけで150セットほど販売してきました。

2023年春にDJI RS 2、RS 3 Pro対応版も追加して、ありがたいことに、すでに多くの方に現場で使っていただいております。

自分自身も現場で使い続けてはいるのですが、いままで販売してきたのは、いずれも、2.4GHz帯の無線を使った製品です。無線は現場での設営・撤収が楽であるという大きなメリットがある一方で、会場の構造や他の無線機器の電波の使用状況、お客様の入場状況(2.4GHz帯の電波にとって人体は障害物となる)などに大きく影響されるというデメリットがありました。

この会場で大丈夫だったから、次も大丈夫かというと、ワイヤレスマイクやギターワイヤレス、イヤモニ、Wi-Fiなどなどの利用状況で異なってくるため、予想できないところも問題でした。

そんなわけで、以前から有線版を希望する声をいくつか頂戴していて、試作機も作って、一部の方にレンタルで使っていただいたりもしていたのですが、ようやく製品として発売するに至りました。

有線版で強化したポイント

有線版を開発するにあたって、いくつかの点を見直しました。無線版では録画・ズーム・フォーカスなどに限定していた、LANC対応ビデオカメラで可能な制御についても、再度LANCのプロトコルを実機で確認するなどして見直し強化しました。

また、個人的にもいちばん欲しかった、モーションセンサ(加速度、ジャイロ、地磁気)を利用したリモコンを新たに開発しました。

通信手段は有線LAN(Ethernet)を採用し、IPベースの通信としました。専用のリモコンについては独自プロトコル(UDP)を採用していますが、専用のリモコン以外からの制御も可能なようにするために、VISCA over IPへの対応のほか、Bitfocus CompanionProcessingなどからの制御も想定したコマンドも実装しています。

そのため、VISCA over IP対応のコントローラやスイッチャ、Elgato Stream Deckなどでの操作も可能です(Stream Deckでの利用にはCompanionの動作環境となるPCやMacが必要です)。

独自のプロトコルについても、まだドキュメントの整備ができていませんが、リモコンのサンプルコード含めて公開する予定です。

専用のリモコン以外にも市販のコントローラなどが利用可能です

モーションセンサを利用したコントローラ

以下のnoteでもモーションセンサを利用したコントローラについて触れていますが、私自身が一番欲しかったのがコレということで、実際のライブ配信現場(セミナー系だけではなく、アイドルさんのライブ配信など)にも試作機を投入してチューニングしてきたものです。

どういうものかは、以下の動画(まだ試作段階のファームウェアですので、製品版とは微妙に挙動は異なります)を見ていただくのが一番わかりやすいので、まずは、こちらをご覧ください。ポイントはズーム操作は市販のLANCリモコンを利用していることです。

MP-101の操作もできますが、DJI RS 2、RS 3 Proに載せたカメラを、まるで手元で振っているように操作できることを目標に開発しました。

MP-101の操作については、RSシリーズに比べれば大きく劣るものの、できるかぎりチューニングしており、私自身の利用形態ではジョイスティック型のリモコンはなくても運用できています。

自分自身、左手でスイッチャーでカットを切り、右手でパン棒を握ってカメラを振るということが多く、そのスタイルだけれど、カメラは手元にないというのを実現したかったので、このカタチになりました。ごく初期の試作機での例ですが、以下の映像は、私含む2名で実施したライブ配信から切り出したもので、上手(ステージ向かって右側)から撮影しているカメラは、DJI RS 2に載せたGH6をフォーカスモータでズーム操作をするかたちで、配信卓から制御していました。

モーションセンサによる制御は、Force Mobileなどでもそうなのですが、どうしても誤差が蓄積していくため、一時的にモーションセンサでの操作を止めて、「仕切り直し」たいということがままあります。そこで、LANCリモコンのRECボタンを本来の用途ではなく、モーションセンサでの操作を有効/無効に切り替える用途としています。ズーム、REC/STOP、フォーカスなど本機が機能をオーバライドしているコマンド以外は、基本的にリモコンのコマンドをそのまま送信するようにしています。

ただし、市販のLANCリモコンは、カメラから受信したデータによって送るコマンドを切り替えているものも多く、すべてのコマンドが送れるわけではありません(たとえば、キヤノンZR-2000については、カメラ側の応答次第で送出するコマンドを制限しており、本機に接続時はズーム・REC START/STOP・ON SCREEN以外の機能は利用できません)。

DJI RS 2、RS 3 ProとLANCビデオカメラの組み合わせを新たにサポート

DJI RS 2、RS 3 Proの場合、無線版と同様、ズーム操作などはレンズのズームリングにRS 2、RS 3 Pro付属のフォーカスモータをつけて行うのを想定して開発をはじめましたが、実際にモーションセンサを使った試作機を使ってみるなかで、小型のビデオカメラ(ソニーPXW-Z90や私自身が現場で使っているキヤノンXA25など)を載せられたそれはそれでよさそうだなということになり、有線版ではLANC対応版も新たに追加いたしました。LANC対応版はややお高くなっていますが、フォーカスモータによる制御とLANCでの制御を切り替えられるようになっています。現場によってミラーレス、デジを使い分けるような使い方も可能です。

LANC非対応で、フォーカスモータによるズーム操作、DJI RS 2、RS 3 Proの持つ「ダイヤル機能」を使ったフォーカスなどの制御のみに対応した「LIGHT」版はややお安くいたしました。LANC対応が不要でしたら、こちらもご検討ください。

LANC対応ビデオカメラでの対応コマンドの拡充

従来の無線版でも要望の多かった、アイリスの調整については、少なくともソニー機では対応し、PXW-Z150、PXW-Z90での動作を確認しています(キヤノンXA25では使えないのを確認)。なお、Z150はRS 2には多分載らないのですが、MP-101にはギリギリ載ります。

また、ソニー、キヤノン共ともに、アサインボタン1〜6(いくつまで使えるかはカメラ次第で、XA25はアサイン5まで)、メニューの操作、OSDのON/OFFや表示内容変更が可能なので、映像出力(HDMI、SDI)を操作卓まで引いていれば、リモートからでもカメラのさまざまな機能を設定可能です。

ソニー機の場合は、あらかじめ「画面表示出力」を「全出力」としておいて、ピーキングなどをオフにして、OSDのON/OFF機能でクリーンな出力ができるようにしておけば、本線に映像が出ていないタイミングで、メニューを呼び出すなどのことが可能です。

Bitfocus CompanionとStream Deckによる操作

Elgato Stream Deckはライブ配信現場では多くの方が利用されているかと思うのですが、メーカーによる専用アプリではなく、オープンソースソフトウェアの「Bitfocus Companion」を利用することで、ATEMシリーズなどのスイッチャや再生機など数多くの機材の制御ができ、1つのボタンに複数機器の一連の制御を割り当ててられる強力なコントロールサーフェスとなります。

たとえば、HyperDeckなどの再生機に指定したムービーを読み込み、特定のタイムコードにシークしてから、スイッチャーを再生機に切り替え、再生を叩き、再生機以外の音をミュートするなどといった操作が1ボタンでできます。私の場合、Generic TCP and UDP Moduleを利用して、ATV A-PRO-1のROIの制御とスイッチャの切り替えを1ボタンに仕込むなどしています。

一見、敷居が高く見えるCompanionですが、実際に現場で使うと手放せないものとなります。そんなわけで、今回の製品もCompanionに対応させたく、ひとまず「Generic TCP and UDP Module」で利用可能なコマンドを用意したほか、「Sony VISCA」モジュールに対応しています。できれば、専用のモジュールも用意できればと思っています(先に通信プロトコルについてはドキュメントを整備する予定です)。

Bitfocus Companionを使ったStream Deck XLでの設定例

Companionを使った操作で、一番便利なのはプリセットしたポジションの呼び出し(リコール)だと思います。実際、私自身も会場全景カメラの寄り引きとスイッチャの切り替えを連動させて使っています。

なお、プリセットに対応しているのはDJI RS制御ユニットのみとなり、さらにズーム位置のプリセットは、キャリブレーション済みのフォーカスモータによるズームリングの制御時のみとなります。RS 2、RS 3 Pro使用時も、LANC対応カメラのご利用時やパワーズームレンズをダイヤル機能で操作しているときはズーム位置はプリセットできません。

MP-101については、そもそも向いている方向などが外部からは取得できないので、プリセット機能には対応しておりませんのでご注意ください。

以下の例で、0:45あたりなどで使われている広い画角で寄ったり引いたりしているシーンは、DJI RS 2に載せたα7sIIIのレンズにフォーカスモータをつけて、広い画と寄った画をプリセットしておき、Stream Deckのボタン(写真では「Recall & Take #1」とあるボタン)を押すと、ATEM Television Studio HDも併せて制御し、そのカメラにスイッチングしつつプリセットしたポジションをリコールする操作が1アクションで行えるようにして実現しています。

上記ライブ配信にて、DJI RS 2をPTZヘッドとした例。バッテリは標準のグリップ型のものではなく、YC ONION製のLバッテリを2つ使えるものを使用しています。有線LANのモジュールが電気喰いなので外部給電か容量の大きいバッテリ使用をおすすめします。現在購入できるものとしては、TILTAの電源ベースプレートがあるほか、標準のバッテリグリップのUSB Type-C端子にPDで給電するのをおすすめします。
上記の配信現場で実際に使ったStream Deckの設定。スイッチャのコントロールサーフェスJL Cooper ionの上に置いていて、「Recall & Take #1」てスイッチャーを切り替えつつプリセット#1をリコールしている。右の「Layer 2 ROI #6」などは、ATV A-PRO-1のROIでの切り出し用設定。中央の上下ボタンでリコール速度を変更したり、「STOP」でリコール途中で止められるようになっています。

こういう変わった使い方以外に、とりあえずすでにStream DeckやDJI RS 2やRS 3 Pro、MP-101をお持ちで、安価に画角だけ調整できればいいんだよ、という目的でしたら、MP-101制御ユニットないしDJI RS制御ユニットだけお買い求めになって、操作はCompanionとStream Deckでやりきるという方法もあります。

VISCA over IPへの対応

Companionの項でも触れたとおり、DJI RS制御ユニットとMP-101制御ユニットはVISCA over IPに対応しています(リモコン側はリソースの関係もあって非対応です)。そのため、Companionの「Sony VISCA」モジュールだけではなく、市販のVISCA over IPに対応したコントローラ、スイッチャー、ソフトウェアからの制御が可能です。

VISCAはソニーのPTZカメラなどの制御のためのシリアル通信でのプロトコルなのですが、現在は「VISCA over IP」として、IPベースの通信もサポートしています。現実にはややこしく、ソニーによる「VISCA over IP」と、PTZOptics社など多くのサードパーティが実装している「VISCA over IP」は異なるプロトコルとなっています。ベースとしているのは、シリアル時代のVISCAで共通なのですが、IPで送るときのパケットの構成やポート番号などが異なるほか、メーカーによってパラメータの長さが異なるなど、実は非常に混沌としています。また、同じプロトコルでもUDPなのかTCPなのかといった違いもありますが、本機はUDPのみの対応となっています。

また、パン/チルトのためのコマンドも複数あるため、どれに対応していれば、どのコントローラが使えるのかが不明なのと、コントローラによっては、対応したカメラかを判定して、非対応と判断したらコマンドを送らないといったものもあるので、どの程度対応できているか不明ではあります。

現時点では、以下の製品での動作を確認しています。

以下は、Kato Vision KT-KC20で動かしているところですが、PTZ操作のほかプリセット・リコールが可能です。ただ、VISCA自体ロールの制御は対応していないので、DJI RS 2、RS 3 Pro使用時にVISCA経由でロールの操作はできません。

通常のジョイスティックによるリモコンもあります

私自身、モーションセンサのリモコンの試作品ができて以降、ジョイスティックを使ったリモコンは現場では使わなくなってしまったのもあって、忘れがちなんですが、ジョイスティックによるリモコンもご用意しています。モーションセンサを利用したリモコンは、そのためにビデオ雲台の載った三脚が必須となってしまうため、コンパクトにおさめたい場合は、ジョイスティックを採用したリモコンが有効です。

右側のジョイスティックは3軸(メーカーは上部のボタン込みで4軸って言ってますが、4軸というのは無理がありますよね)なので、パン/チルト/ズームの操作が1つのジョイスティックで可能です。

ただ、それだけだと普通なので、操作対象がDJI RSシリーズの場合に、ズームの代わりにロールとするモードも装備しています。また、ジョイスティック上部のボタンを押した状態で操作をはじめると、一時的にロールとすることもできます。

音楽モノでステージ面に置いた超広角の画の無人カメラをロールさせたいという場面で、開発された機能です。まぁ、セミナーとかでは不要なやつですね。説明しそびれているのですが、モーションセンサのリモコンにも、LANCリモコンのズームレバーでロールを制御する機能がついています。まるで、ロール大好き人間のように見えますが、あくまで適材適所で。

あと、無線版にあった小型のジョイスティックのみのリモコンも作れるような基板設計にはなっているのですが、現時点ではラインナップにはありません。どうしても、というご希望があれば対応はできるのですが、やはり操作性は大型のジョイスティックには劣るので、あまり積極的にはおすすめはいたしません。

マニュアルも公開しております

マニュアルも公開しておりますので、ご検討の前にぜひご一読ください。突貫で制作したのもあり、わかりにくいところや説明が足りてないところもあるかとは思いますが、わからない点があればご質問いただけると幸いです。今後の改訂に活かしてまいります。

無線版はどうなるの?

無線版も引き続き販売はしていきますが、いかんせん、いずれもほぼ受注生産みたいな状態なので、現在は一時的に在庫ゼロとなっております。ご希望の方はご連絡いただければ個別対応いたします。

また、有線版の開発で強化したLANC周りのサポートであったり、DJI RS制御ユニットのLANC対応、モーションセンサ版リモコンなども、おいおい無線版にフィードバックしていきたいとは思っています。

今後のロードマップというか妄想

すでにご要望というか、できないんですか? というお声もいただいているのが、モーションセンサによるリモコンの他社PTZカメラへの対応です。現時点で使用しているマイコンのリソース的には、現在の独自プロトコルに加えて、他社プロトコル(VISCA over IP含め)を同時にサポートすることは残念ながら不可能です。

そのため、方針としては、たとえばVISCA over IP専用機だったり、キヤノンXCプロトコル専用機だったりを用意するか、そもそもマイコン自体をよりリソースのあるものに変更して、各種プロトコルに対応させるか? のいずれかとなります。

これは、MP-101制御ユニットやDJI RS制御ユニットもそうで、現状は独自プロトコルとVISCA over IPの両対応ですが、それにもう1つ別のプロトコルも追加というのは難しい状況です。まぁ、こちらはどの程度ニーズがあるか読みきれないところもあるので、現時点での優先順位としては高くはありませんが……。

また、一部からFreeDプロトコルなどに対応できないか?(MP-101はもともと無理なので、DJI RS 2、RS 3 Pro限定になりますが) というお声もいただいていますが、これもマイコンのリソース的に難しいのが現状です。また、対応してはみても、遅延含めて、必要な精度が得られるかどうかというのもあるので、本当に実用に耐えらえるのかは未知数ではあります。

また、自分自身が現場で試作機を使いながら開発しているもののどうしても、自分の現場視点での判断しかできませんので、ご要望などあればお気軽にお寄せください(特にMP-101もLANCも状態を外部から知ることがほとんどできないという仕様上の限界があるので、つれなく「それはできないですね。」というお返事になることもありますが)。

関連note

ここまでに至る背景などご興味あればご一読ください!


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