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ギュウ農フェス 秋のSP2022のライブ配信はどうやってたのか?

先日の「ギュウ農フェス秋のSP2022反省会」で、ギュウゾウさんから「加賀さんとか……放送禁止用語言っていい?……“きち○○”だよ」と言われた、先日のギュウ農フェス配信のスイッチング担当の加賀です(笑)。

さて、2022年10月15日〜16日の2日間に渡って、お台場地区夢の広場にて開催されたアイドルフェス「ギュウ農フェス秋のSP2022 お台場2days 〜Field of Dreams〜(以下、秋のSP2022)」。3つあるステージのうち「イエローステージ」の模様を、YouTube Liveで無料でライブ配信いたしました。

アーカイブは1週間限定で公開しておりましたが、おかげさまでファンの皆さま、演者さん、関係者の間でもご好評をいただき、いくつかの演者さんについては、それぞれの公式YouTubeチャンネルにて録画を公開していただいておりますので、よかったらご覧ください(ファンの方が、配信映像をごにょごにょしたやつも上がっているようです……)。

ギュウ農フェスのライブ配信をお手伝いしたのは、9月11日に恵比寿LIQUIDROOMで開催された「ギュウ農フェス THE FACTORY(以下、THE FACTORY)」に続いて2回目。このnoteでは、これらの舞台裏についてお話ししてみたいと思います。THE FACTORYについても、少ないですが以下の映像が公開されていますので、よかったらこちらもご覧ください。

ちなみに、冒頭で触れた「ギュウ農フェス秋のSP2022反省会」の模様はアーカイブ公開されていますが、分割されていてわかりにくいので、以下の吉田豪さんのわかりやすいツイートからご覧ください!(すべてにおいて、豪さんがいないと成立していないトークイベント!)

配信について触れているのは、「その2ギュウ農フェス秋のSP2022反省会(無料配信」の26:30くらいからです。スイッチングの最大のミスのするどいご指摘については、さすが豪さんだなぁとなりました。MCパートで油断していて、並行して他の作業をしていたのもあって完全に逃したやつです。

スイッチングもいいカメラワークあってこそ

冒頭で触れた「ギュウ農フェス秋のSP2022反省会」含めて、スイッチャーのことばかり褒めていただいたのですが、「いいスイッチングだった」と言っていただけるのも、いいカメラワークがあってこそ。

もちろん、カメラワークがよくても、スイッチングがダメでは生かされませんし、音が悪ければ音楽モノの配信としてはNGです。どれが欠けてもダメというチームの力が試されるのがライブ配信です。

特にアイドルモノの場合は、バンドとは違った「作法」が必要で、カメラマンもスイッチャーもアイドルの表現(歌割りやダンスのフォーメーション、歌唱していないメンバーのダンスや表情など)やMIX含めたフロアの反応への理解がとても大切です。

今回は、以下の陣容で臨みました。

コロナ禍の中で、バンド・アイドル含めて、多くの現場を共にしてきた撮影のスキルと映像への感性が高いカメラマン・映像作家、ギュウ農フェスに長く関わっていて、主にヲタクとして現場で一緒になりながら何度かの撮影・配信で一緒になったヲタク仲間だったりと、さまざまですが、共通するのはライブアイドルのシーンに深い理解があることで、このチームだからできた配信でした。

ここについては、話し出すと長い話になってしまうので、私たちが何を考えて、どういうふうに現場で考えながら、アイドルのライブ撮影・配信をやっているかについてご興味があれば、ぜひ、以下のRAYさんによるインタビュー記事もお読みいただけるとうれしいです。

今回、「それぞれの演者さんの専門チームがやっているような映像」とのありがたいコメントも頂いたりしましたが、当然ですが初見や初見に近いグループさんも多いなかでどうやっているのか? というのは、以下のインタビューのなかでも語られています。

RAY3周年ワンマンライブ「works」スタッフ陣インタビュー特設サイト「撮る」
メンバーインタビュー編

運営インタビュー編

後述するように、今回は長時間の野外フェスということもあって制約も大きいなかでの撮影・配信で、反省点も多いのですが、多くの方に「よかった」と言っていただけて、ホッとしております。

カメラマンどうする?……長時間すぎる問題

9月のTHE FACTORYは1日とはいえ本編はおよそ9時間、10月の秋のSP2022は1日10時間の2 days。1番の問題はカメラマンの体制です。

コロナ禍になってから、音楽モノの配信が増え、私たちもアイドルを中心に撮影・ライブ配信を数多く手がけてきました(この3年間でおよそ190案件)。そのほとんどの現場でのカメラの体制は、

  • フロア最前

    • 上手(ステージ向かって右側)に手持ちのカメラマン

    • 下手(ステージ向かって左側)に手持ちのカメラマン

    • センターに広角のジンバルカメラマン

  • フロア後方

    • 三脚に載せた寄りを狙うカメラ(1〜2台)

    • フロア全体やグループショット狙いのカメラ

    • 逃げの固定引きカメラ(無人)

という、6〜7カメをベースに予算や会場、演者さんのパフォーマンスや会場の空間を勘案してさらにカメラを増やしたり、減らしたりしてきました。ドリーレールやクレーンなどを入れるケースもままあります。

ギュウ農フェスでも同様にできれば話は簡単なのですが、実際にカメラを持って撮影してみるとわかりますが、ジンバルは2時間もやれば疲労困憊。同じ日にできても数時間の休憩挟んでもう1回くらいが限界というのが正直なところです。よって、まずジンバルは選択肢から外しました。

ジンバルは以下みたいなやつで、加速度センサーとサーボモータを使って、カメラの動きをスムーズにする装置です。最前であれば、たとえば左右に動きながら、ダンスのフォーメーション全体を押さえたゆっくりしたドリーショットから、ダンスの激しい動きに合わせたダイナミックかつスムーズな画まで撮れるので、アイドルモノでは本当は入れたいところなのですが……。

手持ちのカメラもそれなりに体力(腕力)は使うので、10時間連続みたいなのは困難で、2時間撮影→2時間休憩くらいにはしたいところで、そうなると1つのカメラにカメラマンが2人は必要になります。

三脚に載せたカメラなら長時間連続でもがんばれるものの、やはり身体への負担はありますし、食事やトイレを考慮すると、休憩が取れる体制は必要です。

後方の寄りカメラ。主にmigiさんが担当(一部休憩などで交代)

もちろん、すべてのカメラを三脚に載せれば長時間の撮影もできますが、ダンスのフォーメーションの変化のはげしいアイドルの動きを三脚で追うのは難しいだけでなく、躍動感のある画をつくりつつ、歌唱メンバーを追っていくには手持ちや一脚、カメラサポートベストなど、カメラをある程度自由に動かせる撮影スタイルのほうが有利なのです(さらにいえば、フロア最前のように演者さんに近い位置のほうが有利です)。

よって、最低でも1台はフロア最前で手持ちか一脚などでダイナミックなワークができるようにして、後方から三脚に載せたカメラでの寄りのショット、あとは寄り引きしながらグループショットやフロアの盛り上がりを押さえるカメラを基本に構成しました。具体的には、以下のカメラ図に示したとおりです。

ギュウ農フェスTHE FACTORY、秋のSP2022のカメラの配置図。
THE FACTORYのときは、最前手持ちは基本1台のみで、
カメラマンの体力と相談で最後の数組のみ最前手持ちを2台の体制としました

カメラについては、基本的にはソニーα7sIIIやパナソニックGH6などのミラーレス機で構成しています。業務用ビデオカメラのほうが、長距離引き回しやすいSDI出力があったり、高倍率のズームレンズ、内蔵NDフィルタ搭載など利便性が高いものの、やはり画づくりという意味では、センサーサイズが大きいミラーレス機のほうが有利ですし、色味の点でも、業務用ビデオカメラはどうしてもビデオカメラっぽいルックになってしまいます。

ミラーレス機は、高倍率の明るいズームレンズがないといった制約はあるのと、会場によって必要なレンズが変わってくるなど面倒な部分もあるのですが、カメラごとの役割をしっかり分ければ、ある程度はなんとかなる部分です(もちろん、もうちょっとこのカメラの画角、引ければいいのに……みたいなことはよくありますが)。

なお、スイッチャーについては、私、加賀が基本一人で担当して、どうしても……というときに、短時間だけ変わってもらうハードな体制としました。THE FACTORYのときは、そもそも人が確保できなかったのですが、そのときになんとかなったので、秋のSP2022も同じ体制としていまいました。昭和の人間なのでつい……。後方カメラのmigiさんもなんだかんだほぼ休みナシでした。

引きのカメラをどうするか?

THE FACTORYも秋のSP2022も、グループショットや会場全景を押さえるカメラは無人の固定カメラとしました。

とはいえ、完全にここが動かない画だとかなり残念なことになってしまいます。特に、動きがダイナミックな前ツラ手持ちカメラから、完全に画角が固定したカメラに切り替わってしまうと、画の「テンション」が違いすぎるからです。

本当ならここも有人で、音楽のグルーヴやメンバーのフォーメーションの変化やフロアの盛り上がりに合わせて人手で寄り引きの操作をしたいところではあるのですが、上記の事情からカメラマンは前ツラカメラの交代要員として確保したい、予算も潤沢ではない、さらにTHE FACTORYは配信が決まったのがギリギリすぎてカメラマンのスケジュールを押さえるのが大変だった……という事情から、無人ながら画に動きをつける手段を用意することで解決することにしました。

THE FACTORYの際は、後方に設置した固定カメラのレンズのズームリングに、TiltaのNucleus-Nanoというレンズモータを装着して、加賀がスイッチングしながら寄り引きを制御するスタイルとしました。Nucleus-Nanoでの制御の弱点は、動きはじめが若干ガタつくことですが、なにより直感的で速度も人が制御できること、ズームレンズの全ズーム域が使えるのが利点です。とはいえ弱点もあって、カメラの設置高さや位置によっては、ズームしながらカメラの上下の動き(ティルト操作)がほしい場面もあります。THE FACTORYでは、寄り切っても引き切っても、それなりに画角としてある程度は破綻しない高さを計算して設置しました(もちろん、理想は上下も動かしたいところですが、カメラは完全に固定としました)。

ギュウ農フェス 秋のSP2022、後方の引きのカメラ2台(1日目は1台のみ)
GH4とDG VARIO-ELMARIT 12-60mm(35mm換算24mm-120mm)
1台は会場全体の画で固定、もう一方はステージ幅いっぱいくらいの画角で固定
ギュウ農フェス 秋のSP2022で後方引きカメラの切り出し(ROI機能利用)に使った
ATV A-PRO-1

対して、秋のSP2022では、ATVのA-PRO-1という4K HDMIスイッチャの機能として提供されている「ROI(Region of Interest)機能」を活用しました。ROI機能では、カメラの4K映像の一部を切り出して、フルHDの映像を出力することができます。

A-PRO-1のROI機能はネットワーク経由(TCP/IP)で制御できるので、同じくネットワーク経由で制御できるスイッチャATEM Television Studio HDと組み合わせ、Stream Deckというディスプレイ内蔵ボタンが並んだコントロールサーフェスで、ズーム操作の開始とスイッチャーのカメラ切り替えを1ボタンでできるようなシステムを構築しました。

具体的には、Stream Deckに対応したソフトウェアBitfocus Companionで制御するかたちとしました。Companionは、ATEMシリーズなど多くの機器の制御に対応しつつ、A-PRO-1のような非対応の機器もTCPで制御できるものは、ある程度の制御が可能となっています。A-PRO-1はStream Deckの純正アプリには対応しているものの、今回はATEMの制御も同時にしたかったため採用しませんでした。

実際の映像をみると、ズームワークがスムーズすぎる欠点もあるのですが、寄り引きしながら上下左右にパンティルトする動きも可能で、かつボタン1つで操作できるのは非常によい点でした。

A-PRO-1のROIを制御しつつ、ATEM Television Studio HDの切り替えを同時にするための
Stream Deck。Stream DeckはBitfocus Companionで利用(写真は別現場でのセッティング)

ただ、一方で元ソースが4Kとはいえ画面の一部を切り出している都合上、ズーム域はあまり広くないのが欠点です。仕様上は4Kの映像(3840×2160)から最大768×432ピクセルの領域まで切り出せるのですが、さすがにそこまで拡大すると画質は犠牲になってしまうので、できればフルHD(1080p)〜HD(720p)の間くらいに抑えたいところです。

ROIで切り出すイメージ。4Kから画質のロスのないフルHDを切り出すとこれくらいの画角に。
実際の秋のSP2022での配信はもうちょっと寄った画角のプリセットも用意して、状況に応じた
プリセットを呼び出すことで行いました。2日目の寄ったカメラの例(きのホ。さんのステージより)
ただ、ズームしていくのではなくて、ズームしながら画角は下に移動するかたちになっています

今回、1日目はROIのソースとしてカメラ1台で臨んだのですが、やはりそれだとメンバーがぎゅっと寄ったグループショットからメンバーの動きに合わせて引いていくみたいな画がつくれないのと、寄ったときの解像感が不満だったため(若干カメラのフォーカスも甘かったようです)、2日目は2台体制として、1台はぎゅっと寄れる状態のカメラ、もう1台は会場全景に寄せた設定としました。

1日目〜2日目の固定カメラの画角。
これだとあまり寄れないため、2日目は上記の寄った画角の固定カメラも追加しました

A-PRO-1は完全に独立した2つのROIの処理と出力ができ、同じカメラから別の箇所を切り出して個別に出力することも、2台のカメラ映像から切り出してそれぞれ出力することも可能なため、1日目は1台のカメラから別々の広さの画を出力し、2日目は2台のカメラそれぞれから切り出すようにしました。

ズームワークは、あらかじめ設定した領域のプリセットを呼び出し、プリセットした画角までへの変化の時間を指定することで行なっています。そのため、ズーム操作の途中だけど、曲が終わったいまここで止めたいみたいなことが、Bitfocus Companionを利用した制御方法だとできない(もしかしたらできるかも?……今後検証予定です)のは課題ではあります。また、設定した画角を覚えていないと、止まるタイミングが読みにくくて、本当はもっと動いていてほしいのに、思いのほかはやく止まってしまうみたいなこと、ボタン1つで動くゆえに操作ミスなどもあったり、たまにバグなのかまったくあり得ない方向に動いてしまったりと課題はあります。

※2022年12月12日追記:RPC(ROI Preset Call)コマンドで、プリセットをトランジション時間(Auto Time)を指定して呼び出した場合、プリセット位置に移動する途中で止めたい場合、RMV(ROI PTZ Move)コマンドをスピード「0」で発行すると(「RMV: 0,0,0,0」など)、その位置で止まることを確認しました。

また、今回のように、カメラをステージ正面に置けないケースだと、メンバーの立ち位置が舞台奥か手前かで、左右に画角を振りたいという場面もまあまああって、その辺は制御方法で解決できないものかと思っています。とはいえ、総じて有効で、ギュウ農フェス以外の配信現場でもすでに何回か投入しています。

あまりに有効なので、普段私が使っているスイッチャーであるATEM Television Studio HDの操作に使っているJL Cooper ionというコントローラのボタンのうち、音楽モノの本番中は使わないボタンの上に、Stream Deckを置くためのアクリル製の蓋を自作して秋のSP2022から投入しました。

AUTOボタンを使うならTバーを使え。ということで、ここはStream Deckの置き場所としています。
DSKなどの操作は別のStream Deckで行っています。

引きカメラの寄り引きのズームワークは、簡単なようでいて奥は深く(特にアイドルモノの場合は、フォーメーションの広がりの変化に応じてワークさせたい)、曲に対して速すぎるとかなり違和感ありますし、なにより寄り引きしはじめ〜止まるまでのに音楽的にちょうどよいタイミングだったり、カメラのパンティルト含めて、ちゃんとよい画角を維持しながら寄り引きしていく必要もあります。

ここをうまくできるカメラマンというのはそうそういないもので、そうした腕のたつカメラマンにはフロア最前の手持ちや後方から寄りで抜くカメラなどにアサインしたいということもあって、実はずっと悩みではありました。

そういう意味では、今回採用したA-PRO-1のROI機能を使った方法はスイッチングともタイミングを合わせられるなど、完璧ではないものの、そこそこの結果が出せるという意味で、ベストではないものの、低予算だったり今回のように人員が限られるような現場では、かなり「使えるな」というのが実感です。制御の方法など、まだまだ改良点はあるので、この辺はいろいろ試したうえで別途noteにまとめられたらと思っています。

野外ゆえに闘えなかった最前センター無人ジンバル

先にも紹介しましたが、今回はあきらめたジンバルの代わりにはなりきれないのですが、手持ちのジンバルの代わりに、無人のジンバルを電動スライダーに載せて、最前センターに設置しました。

ギュウ農フェス 秋のSP2022の際の最前センターカメラ。電動スライダーの上にDJI RS2に載せた
GH6を配置。レンズはDG VARIO ELMARIT 8-18mm(35mm換算16-36mm)。
ズーム操作もTilta Nucleus-Nanoでリモート操作可能とした。

ジンバルは普通はカメラマンが持って撮影するのですが、たとえばDJIのRoninシリーズのRonin-SC以降の機種(RS2RS3など)はリモートでコントロールすることも可能です。DJIのRoninシリーズには、スマホのRoninアプリに「Force Mobile」という機能が搭載されていて、スマホの加速度センサーを利用して、スマホの動きどおりにジンバルを動かすことができます。手持ちはもちろん、スマホを三脚(ちゃんとビデオ向けにスムーズに動かせる雲台が載った三脚)に載せるなどすれば、まるで手元にカメラがあるように、離れた場所のジンバル上のカメラの向きを動かすことができます。

これまでも、多くの現場でForce Mobileは使ってきたのですがいずれも屋内で、LIQUIDROOMで開催されたTHE FACTORYでも有効に活用しました。アイドルのステージは、ダンスのフォーメーションの形も大事なわけですが、たとえば上から見てV字型となるようなフォーメーションなどは、後方のカメラから撮ると平面的な画となってしまう一方で、前ツラの広角レンズで撮った映像は、奥行き含む前後の関係性も描き出せるため、可能なら有人のジンバルなどで撮っていきたいところではあるのです。

Force Mobileの利用例。I to U $CREAMing!!さんワンマン「miroir monde」では
引きカメラをリモート操作。iPhoneの動きに合わせてRS2が動く。
パン棒についているのは、ズーム制御のためのTilta Nucleus-Nano。
iPhoneに貼り付いている謎のデバイスは、Force Mobileのオン・オフを画面タップの代わりに
手元の押しボタンで操作できるようにしたもの

THE FACTORYのときもForce Mobileは大活躍だったのですが、秋のSP2022ではそうはいきませんでした。お客さんが入るまでは、まったく問題なかったのですが、お客さんが入りはじめた途端、通信が途切れてしまいまったくダメでした。

テストしたところ、野外ではForce Mobileは人が数人あいだに入るだけで通信が困難になりました(屋内なら問題ない条件下でも)。通信自体、2.4GHz帯を利用したBluetoothで行なっているため、電波の直進性が高く、人体に吸収されやすい波長で、さらに電波の出力も大きくないため考えてみたら当たりまえ。屋内の環境では天井や壁などの反射波によって通信できていたのだと気付かされました(本番開始直前に……)。

Force Mobileと同じような制御が可能なForce Proという製品もDJIからは出ていて、そちらはより遠くまで届くとされているほか、安心な有線接続も可能です。現在入手が困難なようですが、これはいずれ導入しないといけないかもしれません(こうして機材貧乏になっていくわけです)。

幸い、SmallRigの「DJI RSシリーズ 無線制御ハンドグリップ 3949」も持ち込んでいたため、まったく制御できないという状況は回避できたものの、ジョイスティックによる操作のため、Force Mobileと違って微妙なワークもクイックな動きもできず、あまり活用できませんでした。レンズにはNucleus-Nanoをつけていたので、ズームワークもある程度できるようにしていたものの、1日目後半はNucleus-Nanoも動かなくなってしまい、限定的な活用にとどまりました。

THE FACTORYでは活躍したForce Mobileも、秋のSP2022では使えなかったので、
SmallRigの無線制御ハンドグリップとNucleus-Nanoで。こちらも2.4GHz帯なのですが問題なし

雨対策などなど

事前の週間予報などでは、雨も予想されていて、雨を覚悟していたのですが、蓋を開けてみれば両日とも晴れ、暑いくらいでした。配信卓はテント内にあり、後方も垂れ幕があって非常に暑く、配信音の処理に利用していたM2 MacBook Airの内部温度が上昇しすぎて、DAWでの録音が停止した影響で一瞬音が切れたタイミングがありました。急遽USBファンを置いて冷却してその後は問題なかったのですが、まったく予想外の天候となりました(イベントとしては、むしろ好天に恵まれたといってよいので最高でしたが!)。

雨での問題は一番大きいのは電源周りですが、長丁場のため後方のカメラや前ツラのカメラのコンバータ類は発発の電源から供給を受けていたこともあって、雨が降っても問題ないようなボックスを自作して対処しました。下が芝生のところに直置きすることになるので、実は雨天でなくても細かいコンバータ類やACアダプタ・バッテリ類を設置するにはすごく安心感があってよいなと思いました。

また、カメラのレインジャケットや大きいビニール袋やシート、人間用のレインジャケットなど用意したのですが、幸い出番はほぼありませんでした(1日目の朝方や準備に入った前日も若干雨が降ったため役にはたちましたが)。

フロア最前の防水ボックス。カメラの信号はここまでHDMIで伝送し、
ボックス内のHDMI→SDIコンバータでSDIに変換して配信卓まで伸ばす
防水ボックス。コンバータ類や電源タップなどを入れる。ケーブルや電源タップは通せるが、
ある程度の雨でも水が侵入しない構造としました。

ネット回線問題

今回野外イベントということで、最大の問題が実は配信に使うネット回線でした。最近ではライブハウスなどは配信向けにネット回線完備になっているところも多いのですが、野外の場合は問題です。

たとえば管理事務所などがあれば臨時の光回線を引き込んで、そこから延ばしてくるということなども可能なのですが、今回はそうした施設もなく、我々のような予算感の現場では、携帯電話網を使う以外の選択肢がありません。

現場からの配信データのサーバへの送信(「打ち上げ」などと言われています)は、最低でも1つのストリームが送れれば問題ないので、電波状況や基地局の混雑がなければLTEなどのサービスでも実は充分です。多くの視聴者数をさばくのはサーバ側なので、1080p24〜30での配信であれば、サーバまでの帯域は上り5〜8Mbpsが安定して出れば大丈夫なのです。

以前、フレッツ光のサービスエリア外の北海道更別村の十勝スピードウェイでの配信をやったときに実感したのですが、お客さんが入っていなければ、LTEがつながれば問題ありません。しかし、お客さんが入って携帯の端末や通信が増えたときには帯域の奪いあいになって、かなり厳しいということで、ここがまったく予想できないのが難しいところです(事前にテストしてもお客さんがいないのでテストとして意味が薄い)。

こうした光回線が確保できないような現場向けにLive U Soloなどの複数の携帯回線を束ねて使うエンコーダなどもあり、それのレンタルも考えたのですが、コスト面だけではなく、十勝スピードウェイ案件のときにLive U Soloは役に立たなかったため、ギリギリまでどうするか迷っていました。

十勝スピードウェイのときは、Live U SoloでもLTE回線の帯域が不足し、Live U Soloの設定でビットレートを下げるのも限界があって、結局モバイルルータとLiveShell Xで配信し、回線状況をみながらフレームレートを順次落とすなどして配信しました。

そんなこともあり、ある程度エンコーダ側の自由度が高い構成としたいこと、また、スイッチングしながらの操作のため、ビットレートの変更が簡単であることも条件となり、今回はLive U Soloは採用せず、Speedifyというサービスを使って複数回線を束ねることにしました。ドコモ、au、ソフトバンクの3キャリア4回線のLTEモバイルルータをMacBook Proに接続して、Speedifyでボンディングする形をメインとして、エンコーダはWeb Presenter HDでMacBook Proのインターネット共有でSpeedifyの回線にぶら下がるかたちで送信しました。

ドコモ、au、ソフトバンクの3キャリアのLTEモバイルルータの回線を
Speedifyでボンディングして(束ねて)メインの配信回線とした

Speedifyのようなボンディングのソリューションは、手元でデータを分割して複数の回線で分けて送り、サーバ側でそれらをまとめて、送信先に送ります。YouTubeへ送信するデータは、一旦Speedifyのサーバに送られ、そこでまとめたものがYouTubeに送られる形になります。Live Uも基本的には同じようなことをしているわけですが、分割したデータをどう送るか(1つの回線だけで送るのか、回線断に備えて複数回線で同じデータを送るのか)は、製品によって設計ポリシーは異なるようです。

Speedifyのクライアント側画面。接続に利用するネットワークインタフェースの
一覧に各回線の使用状況や品質が表示され、優先度などを設定できる。
今回はLTEモバイルルータのうち3台はEthernet接続で、1台はUSB接続とした

YouTubeはメインのストリームの打ち上げに障害が起きた場合に、自動で切り替わるようにバックアップの打ち上げが可能なので、バックアップとして、iPhone 14のpovo 2.0の回線(データ追加150GBのトッピングをしたもの)を利用しました。さいわい今回の会場では、povo 2.0は5Gをしっかり掴んだため、けっこう速度が出ていました(お客さんの入る前は)。バックアップ用の2台目のWeb Presenter HDは、iPhoneとUSB-C - Lightningケーブル(Apple純正以外だと使えないものもある)で直結してiPhoneのテザリングで接続していました。バックアップの送信は、Speedifyそのものの障害に対処するためでもあり、LTEがNGだったときに5Gに逃げられればというのもあって採用し、ある程度は助けられたものの携帯網自体の限界はありました。

1日目の時点で、お客さんが増えてきたところで、帯域不足で不安定になったタイミングがあったので、その時点からビットレートを下げて画質を犠牲にして配信したのですが、2日目は安全をとって、最初から720pでの配信としました(よりビットレートを下げる余地が大きくなるので)。しかし、朝の段階でSpeedifyの接続がうまくいっていなかったようで途中切れてしまい、バックアップで配信が継続していた状況がいっとき続いていました、不運にもバックアップも回線の混雑で不調となり、完全に止まってしまったタイミングがありました。一時的にスイッチングを代わってもらい、Speedifyの再接続などの対処を行い、その後はなんとか乗り切れました。

ここについては、やはり常に回線状況を確認して対処できる人員を割きたいところではありますし、可能であれば、事務所などに光回線が引けるようにしたいものです。Starlink for RVなども1つの選択肢となりそうではありますが。

なんで無料なの?

配信そのものの実施にもコストは掛かっているので(機材などもレンタルしているものもありますし、当然人件費も)、普通なら有料での配信となるわけですが、敢えての無料というか、私のところに話が来た時点で「無料前提」でした。

ギュウゾウさんも、先日の「ギュウ農フェス秋のSP2022反省会」で「今回、無料配信したっていうことに関しては、ギュウ農フェスはこういうレベルの配信をやるんですよ。っていうのをみんなに見てもらいたい」とおっしゃていたのは、本当に大事なポイントだなと思っています。

コロナ禍でライブ配信が増えたものの品質は玉石混交で、お金払って配信チケット買ったけど、いろいろいまいちで「そっ閉じ」みたいな経験もあるとは思うのですが、そういう状況下で有料配信しても、そもそも買おうとなるまでのハードルむっちゃ高いですからね。ちょうどコロナ禍で配信が増えてきたころに、ハシダカズマさんがツイートしたこれが、すべてを物語っていますよね……。

そもそもギュウ農フェス自体、ライブアイドルの文化を広げたいという想いが根底にあるので、そのためにも無料であることの意味は大きいと思っています。以前は、ニコ生さんで配信をやっていたので、一部はプレミアム会員限定パートとなっていたとはいえ、基本無料を実現できていましたしね。

なにより、配信きっかけでライブアイドルの文化を初めて知ってヲタクになってくれる人がいたら最高だし、アイドルヲタクも新しい推しを見つけられて、今度はギュウ農フェスに足を運んでくれたら理想ですよね。既存の「おまいつ」を取り合うのではなくて、ちゃんと新しいヲタクをこの世界に引き入れること、普段は現場にこないけど、ワンマンやギュウ農フェスなら来ようみたいなファンをなんとか増やしたいものです。

tipToe.のメンバーである、未波あいりさんが、過去のギュウ農フェスの1期tipToe.のステージをファンが撮影しYouTubeにアップしていた映像でtipToe.を知って、いまは2期のメンバーとして現在活躍されているという事実を考えても、無料のライブ映像を出していくというのは、実は重要だと感じています。個人的にも、かつて、ももいろクローバーZにハマったときに、初現場(大航海ツアーの赤坂BLITZでした)に行くまでに背中を押したのは、YouTubeにアップされていた大量の動画の存在は大きかったですし。

実際、今回のギュウ農フェス、無料のYouTube Liveでの配信だったことによって、多くの人に観ていただけましたし、チャットやツイートなどをdigると、配信きっかけで現場行きたくなった、といった声もありました。多くの演者さん、関係者さんからも好評だったのですが、やっぱり無料で気軽に観られるゆえだったと思うのですよね。

私自身はコロナ禍になってからのこの3年間で、アイドルと音楽モノのライブだけで、190回近いライブ配信案件をお手伝いしてきたのですが(基本はスイッチャーですが、まれに撮影のときも)、今回ほど大きく話題にしていただいたことはありませんでした。ギュウ農フェス自体の注目も大きいですし、ギュウゾウさんも積極的に配信チームの名前を出していただいたというのもありますが、やはり無料で配信映像そのものを多くの方に見ていただいたことが大きいと思います。

以下のグラフはこれまでの3年での私が関わってきた音楽モノのライブ配信の有料無料の別ですが、圧倒的多数は有料配信です。やはり多く観られているのは無料の配信で、無料のYouTube Liveの多くは、MIGMA SHELTERさんやNILKLYさん、グーグールルさんといったAqbiRecさん所属グループの配信であったこともあって、これまでもAQBIの配信の人として、一部で知っていただいていた感じです。

有料配信での例ですと、RAYさんが今年5月8日に開催した3周年ワンマン「works」にて、私たち裏方にフォーカスを当てて紹介いただいていたり(先に紹介したインタビュー参照)、ナナランドさんは15回ほど配信などで入らせていただいているので、一部のコアなファンの方には知っていただいてはいましたが、今回のような反響に至ることはありませんでした。

加賀の関わったこの3年間のアイドル・音楽ライブ配信案件の配信プラットフォーム

もちろん、ただただ無料では事業継続性という点で問題があります。AqbiRecさんの場合、YouTube Liveでの無料配信の場合でも有料配信の場合でも、配信と同時にその日のライブ映像をSDカードに収録して、終演後物販で引き替え・販売することで、撮影・配信に関する収益性を上げることに寄与しています(ファンとしても買いたいという気持ちもあって、企画を進めました)。

終演後即、SDカードでの映像販売を可能にするBlackmagic Duplicator 4K
1台で同時に25枚のSDカードに録画できる
SDカード販売時のパッケージ例。2021年10月2日のMIGMA SHELTER ブラジルさん生誕RAVE
このときはmicroSDカードをSDカードアダプタにセットしたものにしていたのですが、
現在はSDカードとしていて、カードのラベルも専用のものとしています

YouTube Liveであればスパチャだったり、ツイキャスでの収益化アイテムといった「投げ銭」ももちろんありますが、やはりライブアイドル規模だと、なかなか成立しにくいなぁというのが実感です。ギュウ農では「応援仮想サイリウム
で応援してくれる人も多くいらっしゃいましたが、この辺は課題だなぁと実感しています。

理想の1つのスタイルとしては、ある程度無料で観られて、全編視聴は課金が必要なようなライブ配信プラットフォームの登場だと感じています。また、過去の配信コンテンツを、少なくともマネージメントが希望する限りは、いつまでも売れる・買えることも大事だなと思っています。新たなライブ映像を作るにはどうしてもコストがかかりますので、過去のコンテンツを資産としてちゃんと活用することは重要ではないかなと思っています。

「ギュウ農フェス秋のSP2022反省会」でも語られていましたが、今回のギュウのフェス 秋のSP2022は大赤字で、継続して開催できる体制を築いていくことは喫緊の課題ではあるのですよね。野外フェスって何もないところにステージ組むところからスタートして、更地に戻すところまでがゴールなので、とにかく多くの人が動いて、お金ががかかる。

ステージも音響も照明も、さらには楽屋、トイレにバーカンも、電気もネット回線もあるライブハウスってほんとうにありがたいなと思う反面、やっぱり野外だから楽しいみたいなのもあるんですよね。

個人的には、今回のギュウ農フェス秋のSP2022はお客さんとしても楽しみたかったくらい、最高のフェスだったと思いますし(ずーっとテントの中にいたので、あくまでイエローステージの模様や、Twitterで見た結果ですが)、高いと言われたチケット代も、実際その場にいたら「実質無料」と感じられるようなものだったと思うので、微力ながらギュウ農フェスに関わった者として、継続できるために今後もできることはしたいと思っています。

やはりギュウゾウさんはじめ、ライブアイドル文化への愛と理解の深いひとたちが企画・ブッキングして開催しているギュウ農フェスの存在って、特にアイドルの枠にとらわれない楽曲や表現を追求しているライブアイドル界隈にとって本当に大事だと感じています。課金レースで演者さんを決めた結果、本来だったらブッキングすべき大物を逃す……みたいなのと無縁なのも個人的には大好きなんですが、ちゃんと収益を追求すべきところは追求して、継続できるカタチにしないとですよね。

応援仮想サイリウム」や「ギュウ農フェス秋のSP2022 救済Tシャツ」のご購入であったり、今回の配信映像をYouTubeで公開いただいている、各演者さんの映像を拡散していただくということも含めて、どうかどうか、今後のギュウ農フェスも前のめりに応援いただけたらうれしいです。


こんな時期ですので、サポートいただけたら家飲みビール代としてありがたく使わせていただきます! ご紹介しているような配信案件などのご相談ありましたら、TwitterやFacebookなどでどうぞ!