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Restart

2020年9月2日。上原健太が素晴らしいピッチングを見せた。

上原は今季ファームで10試合に登板し、1勝4敗、防御率5.45。
直近の試合は8月25日の楽天戦で5回2/3を投げて10安打2失点で負け投手になっている。
正直言ってパッとしない成績だ。ファームの成績だけ見れば、北浦や吉田輝星の方が数字はいい。
なぜ、今ここで上原なのだろうと疑問に思ったし、マルティネスがリリーフに回るという噂もあって
「上原をショートスターターにして、後をマルティネスに投げさせるのかな。だとすれば2回か3回なんとか投げてくれれば」
なんて思っていた。

ドラフト1位という重圧

2015年のドラフト1位で入団した上原だが、これまで目立った成績は残せていなかった。
ファイターズの過去のドラフト1位を振り返ると、
2012年 大谷翔平
2013年 渡邉諒
2014年 有原航平
2015年 上原健太
2016年 堀瑞輝
2017年 清宮幸太郎
2018年 吉田輝星
2019年 河野竜生
吉田輝星はまだファームで育成中だが、それ以外のメンバーは一軍で奮闘している(大谷もメジャーで頑張ってるし、ついでに言えば2011年の1位は入団しなかったけど菅野だ)。
ドラフト1位という観点から言えば、上原だけが物足りない状態だろう。

「ファイターズで一番足が速いのは誰?」
と聞くと、ファイターズファン以外なら盗塁王も取った西川や中島の名前を挙げるだろう。
ただファイターズファンに聞くと上原健太の名前を挙げる人も多い。
春季キャンプ中に行われる30メートルの坂道ダッシュで、瞬足の西川や中島を抑えて毎年1位になっているのは上原なのだ。
また、一昨年の交流戦ではプロ初安打となるホームランを打ち、勝利投手にも収まっている。大谷翔平が二刀流として活躍してる中で、大谷に続く二刀流として打診されていたというのは有名な話だ。
類まれなる運動神経、野球センスの持ち主であることは誰も疑わないだろう。

だからこそ、もどかしかった。プロ入り5年目で一軍と二軍を行ったりきたりしつつ二軍暮らしの方が長くなっている現状。
玉井投手の登場曲ではないが、もしかすると今回の登板を「ラストチャンス」と捉えていたのかもしれない。
それくらい、鬼気迫る投球だった。気持ちの乗ったピッチングだった。
5回まで70球を投げて2安打1四球で無失点。
球数的にはもう少し行けるかと思ったが、勝利投手の権利を持って5回を投げ切り降板した。

3点差のリードを守って、このまま勝利投手になれるかと思ったが、9回に守護神秋吉が崩れ、1年ぶりの勝ち星はするりと手中から逃げて行った。

過去の呪縛

昨日の試合で勝つことはできなかったけれど、これで過去の呪縛からやっと解き放たれたのではないのかな、と思っている。

2017年7月3日 西武戦
上原は5-6の1点ビハインドの9回表に登板し、5失点を喫して試合の流れを決定づけた。
ショックで2日間ほとんど食べることができなくなり寮に引きこもっていたが、同期の井口に「そろそろ食べよう」と言われて一緒に食べたチャーハンの味が忘れられないと、上原は後に語っている。

2018年4月18日 西武戦
先発高梨の好投と打線爆発で0-8と8点リードの8回裏のマウンドに上がったが、1アウト1・2塁とピンチの場面を作って降板。その後の田中豊樹、トンキンが打たれて7-8に追い上げられ、9回裏の石川直也が2失点してサヨナラ負けを喫した。
これ以降、ファイターズが大量リードをしている時や8点差になった時、西武戦で西武が追い上げてきた時などさまざまな場面で、この試合結果のスクリーンショットがSNSに投稿されるようになった。
上原自身は失点をしていないが(ランナーを残してるので自責点は2)、反撃のきっかけを与えたことは、大きな心の傷となってるのではないだろうか。
あの画像が出るたびに、あの試合で勝ちをフイにされた高梨だけでなく、上原と田中豊樹のことも思い出してしまう。
そして上原も田中豊樹もこの試合以降なかなか結果を残せず、田中豊樹は2019年オフに戦力外通告を受け、ファイターズを去った。

再出発

その後、田中豊樹は巨人と育成契約を結び再出発した。
着実に実績を積み重ね、2020年7月26日に支配下登録。8月19日にメルセデスのアクシデント降板を受け緊急登板し、勝利投手となった。田中豊樹は新天地で着々と自分の居場所を作りつつある。

上原の昨日の登板も「新しい上原健太」のスタートだ。再出発の日だ。
昨日の勝ち星は消えてしまったけれど、楽天のエース涌井と投げ合い無失点の好投をした事実は消えない。
これからのシーズン後半にはもっともっと活躍してくれることだろう。
まずは上原の次の登板が楽しみでしかたない。



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余談ですが、2018年4月の時だけでなく2017年7月の試合の先発投手も高梨でした。チャーハンのエピソードしか記憶になかったので、調べてみてびっくりしました。
昨日の負け投手が、その高梨とトレードでファイターズに来た秋吉だったというのも、何か因縁めいたものを感じてしまいます。

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