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【ミステリ短編】 prime number 前編

1 エドガー探偵事務所

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「あぁーなるほどなるほど。つまりあなたは、ご主人から送られてきたこの暗号を、おれに解いてほしいと…つまりそういうことっすね?」

 依頼人から差し出されたクリーム色の紙には、何やら不思議な数字とともにhappy birthdayの文字が見える。名刺ほどの大きさのその紙を虫メガネでジロジロ見回しているのは、このエドガー探偵事務所の探偵・江戸川クマオ、その人だ。
 その名のとおりクマのように大きい身体を窮屈そうに1人掛けソファにねじ込み、依頼人の話に熱心に耳を傾けている。ズボラとノーテンキを足して2を掛けたような性格で、本人は気を付けているつもりかもしれないが、普段の軽いノリがまったく隠しきれていない。たしか今年で43歳のはずだ。身体が大きいのに童顔なので歳よりはかなり若く見える。ちなみに独身だ。

 依頼人は月山ツキヤマテル美さん。気品漂うご婦人だ。ホワイトのマキシ丈フリルスカートに大きなスヌードのついたネイビーのニットがとてもよく似合っている。耳にはパールのイヤリングが淡く光を放ち、そのさりげなさがまた上品だ。年齢は40は超えていると思うけれど、正直なところまったく予想できない。女のわたしからしても、こんなステキな女性を街中で見かけたら二度見するだろう。いや3回は見ておくかもしれない。
 テル美さんが心配そうにクマオさんに尋ねる。

「はい。あの…何とかなりそうでしょうか?」

「まぁ今んとこはなんとも言えないっすねぇ…ところで、旦那RETUさんはどうしてこんな暗号を?」

「主人は昔からわたくしを驚かせるのが好きでしたから…それでそのような方法を…取ったのだと思います」

そう答えるテル美さんはなぜか哀しげだった。

 あ、そうだ。申し遅れたけれど、わたしは今年の4月からここで働いているクマオさんの助手であり、エドガー探偵事務所ただひとりの所員、森野ユキ子だ。
 就活中はどこの企業にもフラれ続け、完全に終わったと凹んでいたところをクマオさんに拾われた。どうしてわたしを雇ってくれたのかは今でも分からない。面接に行くなり「ユー、イイね!」という実に軽いノリで採用が決まった。時期的にも本当にギリギリのところだったから、不安や心配よりもよろこびの方が大きかったのを覚えている。

 あれから早くも7ヶ月だ。はじめのうちはこの特殊な業界のアレコレに戸惑うことが多かったけれど、ようやく少しづつ慣れてきて任される仕事も増えてきた。徐々にやりがいだって感じられるようになってきた。
 もしひとつだけ不満を挙げるのなら、探偵業が思っていた以上に地味だということくらいか。テレビでやっているような犯人の後をタクシーでつける!とか、証拠を元に殺人犯を突き止める!とか、そんなことはまず起こらなかった。たしかに浮気の素行調査で人を尾行することはあったけれど、実際にやってみると人の尾行は恐ろしく暇だった。現実世界の尾行というものは、そのほとんどが待ち時間なのだ。対象人物が入った建物と数時間にらめっこなんてのはザラだったし、夏場の炎天下でのそれは苦痛の極みだった。
 探偵のリアルは、ただひたすら待ち時間に気を抜かずに、クマオさんと気の抜けた会話をすることだった。

 わたしが勤めはじめてからこれまでのところ、依頼は少ないながらもポツポツと入り続け、そのどれもが一応の解決をしている。これって結構スゴイことだと思う。クマオさんは全然気にしていない様だけど。
 ただ残念なのは、今のところわたしが解決の役に立てている気があまりしないことだ。まぁ、これはわたしがまだ修行不足なだけなのだろうけど、どこかで助手としての結果をちゃんと出したいな…なんて思っている。

 ─── そんなこともあって、今回のまさしく探偵らしいこの依頼は、わたしの心を最高にときめかせていた。アールグレイをテル美さんに差し出しながら何となく聞いてみる。

「これって、旦那さんに答えを聞くわけにはいかないんですか?」

 そう聞いた瞬間に、あれ?わたし何か間違ったかな?みたいな不思議な空気が事務所に流れた。いつもは脱力しまくった顔をしているクマオさんまで神妙だ。わたしはどんな表情をすればいいか分からず、とりあえず視線だけクマオさんとテル美さんの間をブランコのように行き来させる。ほんの少しの間だったはずなのに、わたしには恐ろしく長く感じた。
 テル美さんが机の上に置かれたアールグレイに話しかけるように喋り始める。

「すみません。はじめに言っておくべきでしたね。わたくしの主人、月山レツ哉は、もうこの世を去っているのです……ちょうど1年ほど前に…病で」


ユキ子のメモ帳 2021.11.17 Wed
依頼人 月山テル美(54)
    1967.07.13 生まれ
内 容 暗号解読
詳 細 
 21.07.13 に依頼人自宅に封書が届く。差出人は20.08.01 に他界した夫・月山レツ哉(享年57・1963.03.17 生まれ)。
 封書はタイムカプセル郵便と呼ばれる方法で届いており、受付日時は20.07.17 、内容物は誕生日カード一枚であった。
ーーー
 11.20 Sat 10:00に依頼人の家でより詳しく話を聞く。


2 テル美の夢

 
 ねぇ、レツさん、あの手紙はどういう意味なのかしら?
 全然分からないわ。

 もうあなたって、いつもそうやってわたしが少し困っているところを見ては楽しむんだから…

 ねぇ、レツさん?聞いているの?

 え?なに?

 なんて言ってるの?

 ちょっと待って…まだ行かないで…


3 月山邸・前庭①


 「うわぁ…大きなお宅ですね…」
 「おぅ…これはマジですげぇな」

 わたしとクマオさんは月山邸の門前に立ち尽くし、さっきからため息しか出てこない。だって、門から家の玄関が見えないのだ。なんなんだここは。チラリとクマオさんを見ると、意を決して虫メガネでインターホンを押そうとしていた。一応よそ行きのスーツを着ているけれど、後頭部に寝ぐせが付いている。後でこっそり教えておこう。

 今日は、テル美さんにより詳しい話を聞くため、ここまでやって来た。別に電話で話を聞いても良いのだけど、クマオさんが言うには「詳しい話はぜってぇ直接会って聞いたほうがいい。あとな、依頼人のウチに行かせてもらえるならそっちの方が良いぞ」と、そういうものらしい。理由はわからない。でも、クマオさんがやけに真剣に言う時はそっちを選んでおいて失敗は無かった。

 テル美さんはわざわざ門のところまで出迎えに来てくれた。今日はホワイト地にネイビーのストライプが入ったコットンワンピースに、黒のダウンベストを羽織っている。ワンピースの裾から白のブーツがチラリと見え、足元の抜け感がステキだ。ほんと、見惚れる。

「こんにちは。ささ、こちらへどうぞ」

相変わらずのまぶしすぎる笑顔で、テル美さんが私たちを中に案内してくれた。

+++

 そこは庭というにはあまりにも広すぎる、わたしからすれば植物園のような空間が広がっていた。なんだかよく分からない花々や樹木がいちいちオシャレで、ここに来た目的を忘れてワクワクしてしまう。
 クマオさんもかなり興奮しているようで、もう完全に素が出てしまっている。さっきから「うぉぉー」とか「マジかぁー」とか言いながらキョロキョロしている。まごうことなきアラフォーのおっさんのはずなのに、こういう妙に子どもっぽいところがクマオさんにはある。人の家ではしゃぎまくる身内がいると、こっちとしては少し恥ずかしいのに。

「コ、コレはー!!」

 うぉっ。隣を歩いていたクマオさんが突然大声を出すから、身体がビクッっとなってしまった。なんなんだ一体。クマオさんがその大きな身体をワナワナと震えさせている方向には、何やら大きめの草かシダのようなものが地面から生えている。

「テテ、テル美さん!コレって、マイクロサイカスカロコマっすよね?マジかぁー!スッゲー!カッコいいわぁー!」
「ふふふ。ソテツ、お好きなんですね。主人の趣味で、キューバから取り寄せたらしいのよ」

 …………は?マイクのサーカスがコマ?
 何を言っているのか全然分からない。ふとクマオさんの顔を見ると、感動で今にも泣き出しそうだ。おいおい。この草が?なにかスゴイ物なのだろうか?そんなことを言おうものならクマオさんにこの場で半殺しにされそうだ。言いたい気持ちをゴクリと飲み込み、わたしも草に感動している体で先に進む。


4 月山邸・前庭②


 しばらく植物園みたいな庭を進むと、急に開けたところに出た。ここも庭というよりは、もう広場だ。わたしの実家の近所の公園より広い。
 広場の中心には、ものすごく大きな三角定規のようなものが見える。三角定規は長辺を大地に、短辺を天に向けており、その高さは建物の2階ほどはあるだろうか。

「これは…日時計っすか?」

クマオさんが尋ねた。

「はい。これも主人の趣味で、ここは大きな日時計になっておりますの。ちょうど今からご案内する応接室から、この日時計の様子が一望できるように設計されていますのよ」

 日時計?あの小学校とかにあった、太陽のつくる影で時間がわかるというあれだろうか。確かに周囲をよく見ると、例の大きな三角定規を中心に、半円状に何やら人間ほどの大きさの石が等間隔に並んでいる。それぞれの石には数字が刻まれていて、西端から6、7、8…一番北側の石には12と書いてある。今は三角定規の影が、10の石あたりに伸びている。
 おぉ…昔から理科が好きだったからだろうか。なんだか妙に感動しているわたしがいた。全体像は大きすぎて分からないが、たしかにこの前庭が巨大な日時計になっているようだ。時刻を示す石をさらによく見ると、刻まれた数字の下になにやら輝くものが見える。

「わぁ!キレイ!これ、宝石か何かですか?」

 わたしが見ていたのは5番の石で、なにか緑色の石が埋め込まれており、キラキラと太陽光を反射させていた。

「ふふ。時刻を示すそれぞれの石には、彫られた数字の月の誕生石が埋め込まれているの。たとえば5でしたらエメラルド、のようにね。もちろん宝石はすべてイミテーションだけれど、主人はいつかは全部本物にするぞ!だなんて、楽しそうに語ってくれていたわ」

 テル美さんは昔を懐かしむように教えてくれた。
 それにしても、まったく何もかもがオシャレだ。オシャレなのに、それでいて豪邸にありがちな嫌味な感じがしない。まだ庭しか見ていないのに、レツ哉さんとテル美さんの人柄が随所に感じられる気がした。クマオさんが依頼人のウチへ行けと言っていたのは、つまりこういうことを感じろと、そういうことなのかもしれないなと思った。

 わたしは歩きながら、暗号について思考した。

a  4004  8463  1092  2912

 うーん。数字に規則性が感じられない。これは一体何を表しているのだろう。4桁の数字が4つあるということは、これらがもし文字を表しているとするのなら4文字の何かということだろうか。それにしても最初にある「a」はなぜこれだけアルファベットなのだろう。
 考えてもよく分からなかった。クマオさんはもう分かっているのだろうか。聞いてみたい気もするが、わたしもなにか糸口をつかんだ状態でそのことについては話をしたかった。

 グッと堪えてテル美さんについて行く。


5 月山邸 応接室


 月山邸はまさに宮殿だった。案内されるがまま2階の応接室に通され、ソファを促された。なんというか…大統領が座りそうなソファだ。キョロキョロしたら行儀が悪いかなと思いつつも、隣でクマオさんが虫メガネを片手に率先してキョロキョロしていると、ついついわたしも便乗してしまう。

 しばらくすると、品の良い老紳士が紅茶をティートレイに載せて入ってきた。これが執事か!と妙に高鳴る気持ちを抑えつつ、紅茶が差し出されるのをじっと待つ。
 執事の方が出してくれた紅茶はこれまでに嗅いだことのない、甘やかでフルーティな香りがした。ティーカップの中に入った紅茶はビックリするくらい色が薄いのに、こんなにも華やかなな香りがするなんて不思議だった。

「じゃぁ早速なんすけど、お話を聞かせてもらってイイっすかね」

 クマオさんの声でハッと意識が応接室に引き戻される。そうだ。今日は詳しい話を聞きにきたのだった。「よろしくお願いします」というテル美さんの声で、わたしも仕事モードに入った。紙とペンを取り出す。

「じゃぁ、おい、お前から先になんか聞きたいことあったら聞いて」

 え?クマオさんからいきなり振られて変な声が出そうになった。だって、これまでの仕事では、ひたすらクマオさんの後ろをついて行くだけだったのだ。今日もそうなのだろうと勝手にそう思っていた。
 そんな急に言われても…そう思ったけれど、考えようによってはこれはチャンスなのかも知れない。ようやく探偵っぽい依頼が来たのだ。わたしだって少しは役に立ちたい。それに、暗号に関しては毎晩色々と ── 結局のところ全然分からなかったけど ── 考えてきた。
 わたしは意を決して、とりあえず何か聞いてみることにした。

「じゃぁ…あの…テル美さんはこの暗号に関して、何か思い当たることはあるんでしょうか?」
「ごめんなさいね。わたくしも色々と考えてみたのですけれど、まったく思い当たる節がございませんの。これまで色んな形でのサプライズはありましたわ。でもこういう暗号での形は初めてで…。夫からのメッセージが届いてから、わたくし自身も方々を当たってみたの。でも結果はどこもサッパリ。行き詰まっていたところを、そちらの探偵事務所のことを風の噂で聞きまして、それで依頼にあがったというわけです」

 そっかぁー。何か糸口でもあればと思ったのに、取り付く島もなさそうだった。他に何か質問をするにも、ここまで依頼人本人が分からない様では、わたしも特に思い浮かばなかった。本当にわたしってまだまだだな…そう思いながらクマオさんに質問は以上だと伝える。

 「じゃぁ今度はおれが」そう言いながらクマオさんが質問をしようとした時だった。軽いノックの後に執事の老紳士が滑るように応接室へ入ってきて、テル美さんに何やら耳打ちをした。ふたりのやり取りから察するに、どうやら急な来客があったようだった。

「あ、ウチらはイイっすよ。外しますんで」

 クマオさんが気を利かせてそう言ったくらいのタイミングだったと思う。ノックもなく一人の男性が応接室に入ってきた。わぉ。すごくダンディでカッコイイ。
 多分わたしよりふた回りは歳が上だと思うが、身のこなし、服装、顔面、どれをとっても明らかに一般人とレベルが違う。颯爽と現れた超絶ダンディはわたしたちを一瞥してニコリと笑顔を向けるなり、テル美さんの元へ歩いていく。

「ごめんね、テル美ちゃん。来客中だってことは聞いてたんだけど、近くに寄ったものだから少し顔を出しておきたくてさ。あ…ぼくはすぐ帰るから、とりあえず今夜、例のレストランで20時に。この前の返事、いつでもいいけど楽しみにしてるよ。じゃ、また後でね」

 ダンディは言いたいことだけ言い終えると、わたしの方をチラリと見るなり素敵な笑顔とウインクを残して去っていった。キザなのに様になっている。
 嵐が過ぎ去ったかのごとく、部屋は一転静寂に包まれた。テル美さんはわたしたちに申し訳なさそうな顔を向けている。
 静寂を破ったのはクマオさんだった。

「あの、さっきの方、紹介してもらっていいっすか?あと、テル美さんとレツ哉さんの馴れ初めも教えて欲しい。おれ、秘密は守りますんで」

 あ。この声のトーンは真剣モードだ。そう思った。クマオさんが真剣になる時は月に1回あるかどうか。でも、その時は絶対大切な時だ。そのことをこれまでの経験でわたしは知っていた。

「先ほどは本当に申し訳ありません。あの方は倉持さんとおっしゃいます。倉持財閥の…その次期社長で、わたくしに…あの…結婚を申し込んで下さったのです」

 そう言いながらテル美さんはふと窓の方へ視線を動かした。わたしもつられてそちらを見ると、眼下に先ほどの大きな日時計が見える。巨大三角定規の影は11の石に近づきつつあった。

ユキ子のメモ帳 2021.11.20 Sat
時 間 10:15〜11:30
場 所 月山邸・応接室
詳 細
 
 暗号解読における明確な手がかりは無し。これまでに様々なサプライズはあったものの、このような暗号のサプライズを受けるのは初めてとのこと。
 夫・レツ哉氏との馴れ初めは1994年(依頼人27歳)の頃。レツ哉氏からの熱烈なアプローチがきっかけで交際がはじまる。結婚記念日が1996.7.13(依頼人誕生日)であるため、レツ哉氏はいつもこの日を大切にしていたようである。
ーーー
 依頼人は倉持財閥の次期社長・倉持亨氏からプロポーズを受けている。


6 テル美の夢


 レツさん、今日はあなたとの馴れ初めを聞かれたわ。

 あなたは覚えてる?あなたがわたしにはじめて交際を申し込んだ時の言葉。

「ぼくらは繋がっている」って。

 わたしね、最初はこの人何言っているのかしらと思ったわ。ふふ、許してちょうだいね。

 最初は交際をお断りしたけど、あなたはそれでもまったくめげなかったわね。

 TERUとRETUはアナグラムだとか、わたしたちの誕生日もどうのこうのとか言っていたのが懐かしいわ。

 でもね、今振り返ると思うの、あなたと結婚して良かったって。

 ねぇ…レツさん、あのね…わたしあなたに伝えたいことがあるの。聞いてくれるかしら?

 ん?どうかしたの?

 え…?なに?

 よく聞こえないわ。

 何て言っているの?

 ねぇ…お願い。

 レツさん、わたしをひとりにしないで。


7 エドガー探偵事務所


「おい。あの倉持っておっさんを調べるぞ」

 クマオさんにそう言われてわたしが真っ先に感じたのは、え…どうして?だった。どう考えても今回の依頼とは直接関係ないではないか。わたしたちの仕事は暗号解読だったはずだ。テル美さんが誰と再婚しようが、それを調べることが暗号解読につながるはずがない。

 ………いや待てよ。よーく考えてみると、クマオさんが月山邸でテル美さんに聞いたあの質問も変だ。あの時は急な来客やテル美さんからの告白があって気が付かなかったが、レツ哉さんとの馴れ初めだって暗号解読とはまったく関係がないではないか。
 何でそんなことを聞いたんだろう、そう考えた時に、わたしの頭の中にひとつの仮説が浮かんでしまった。さては……

クマオさんてば、テル美さんに……

「おい!聞いてんのか?倉持に付くぞ!」

 そう強く言われて、ハッと我にかえる。
 「付く」とは、つまり「尾行する」という意味だ。どうやら本気で倉持さんを調べるらしい。何ということだ。ついにクマオさんにもそういう人が現れてしまったか。なんだか歳の離れたさえない兄が、急に張り切り出したかのような可愛さを覚える。「はいはい。クマオさん、分かりましたよ」そんなことを心の中で思いながら、尾行の準備をはじめる。

 尾行は必ずふたりで行う。ひとりだとトイレ休憩が取れないからってこともあるけれど、やはり危険が伴うためにふたりで行うのが鉄則なのだそうだ。これはクマオさんが例のマジなトーンで言っていたことのひとつだ。
 そして尾行時の持ち物は、カメラ、ボイスレコーダー、小型GPS。これが三種の神器で、わたしはこれに付け足して暇潰し用のガムも持っていく。でも、今回の待ち時間は暇にはならなそうだ。だって、クマオさんに聞いてみたいことが山ほどある。

「何だお前、ニヤニヤしながら準備しやがって。気持ち悪りぃな」

そう言われて、クマオさんを見る目も余計ニヤニヤしてしまった。



ーーつづくーー


メッセージの真意とは。訪れる怒涛の展開であるよ。


100円→今日のコーヒーを買う。 500円→1時間仕事を休んで何か書く。 1,000円→もの書きへの転職をマジで考える。