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「錯覚おばけ屋敷」に行ってきました(嘘)

※この文章はフィクションです



近年、錯覚に関する研究が非常にすすんでいる。現在ではこの図形を見せるとこういう錯視がおきるという関係を調べる基礎的研究はほとんどしつくされ、この図形を見せれば、こういう効果が起こる、という、錯覚の原理の理解はあらかたしつくされたみたいだ。

そして、錯覚工学とよばれるものが台頭してきた。これは刺激を調整することで、あからさまに錯覚じみたような図形なしに、錯覚の効果だけをひき出す方法を研究する学問分野だ。この研究は、娯楽を中心として幅広い商業分野に応用されていくことが期待されている。

では、具体的にどういう事ができるのかというと、たとえば、いま一番盛り上がっているレジャーの一つはおばけ屋敷だ。錯覚というのは、「存在しないものが視え」たり、「存在しているのに視えなくなっ」たり、「ものが、本来のすがたとはまったくちがって視え」たりすることだから、これを自由自在にあやつれば、おばけ屋敷のお客さんに実に様々な世界を体験させることができる、というわけ。

わが家の近くにも新しくできるということだったので、開館してすぐ行ってきた。とにかく、スゴかった、、、今回はその時の体験をまとめてみた、という記事。激しくネタバレを含むので、許容可能な方のみ、スクロールしてお読みください。












まず、建物の外観だが、見た目はふつうの、いかにも幽霊が出そうな日本家屋だった。この形態はどうやらすでにほとんど完成しているようで、数十年前から顕著な変化は見られていないみたいだ。並んでいる間に出てきた人の反応が見てみたかったが、ネタバレ防止のためか、入口と出口は反対側に設置されていた。

筆者は怖いものがあまり得意ではないので、ドキドキ95・ワクワク2くらいの精神状態で待機していると、30分ほどで中に通された。

入るとまず夕方、電気をつけてないぐらいの明るさの居間があって、一見、なんの変哲もないのだが、ふとした瞬間、視界の端に人らしき影が映る。気がついて、目で追うとすでに消えている。これが繰り返される。これはもちろん、錯視を利用したものなのだが、何者かの気配を感じさせる効果音なども相まって、確実に「いる」という実感が形成されていく。
家のなかを移動するにつれ、心霊現象のバリエーションも増していく。洗面台の鏡に、歪んだ自分の顔が映り、やがては顔があるはずの場所にぽっかりと穴が空いている。浴室のタイルの隙間からはジワジワと血が染み出し、ちゃぽん、ちゃぽん、と不安定なリズムで滴る水の音に耳を傾けていると、ふいに平衡感覚が崩れ、視界が輪郭を保てなくなる。どこからか声が聴こえている。
からがら浴室を発ち、廊下を、声の方へと歩んでいく。………おかしい。あきらかに、はじめ見た廊下の距離は歩いてきたのに、いっこうに突き当たりにたどり着かない。怪訝に思うが、足を運び続ける。突然、視界に髪の長い女性の影が映る。今回は視野の中心に納めても形を保ち続けている。強い恐怖に駆られるが、足が自らの意思を持ったように勝手に前に進んでしまう。近づいてくるとそれが小刻みに震えていることに気がつく。あと一歩で手が届いてしまうというその瞬間、あたりがビカッビカッと光につつまれたかと思うと目の前に怨念に醜く歪んだ女の顔が!!

恐怖と驚愕で腰を抜かし、うずくまっていると、段々と明るくなってきた。どうやらここで終わりのようだ。ガイドさんがやってきて、出口へと案内してくれる。膝が笑ってしまって、上手く歩くことができなかった。恐怖からの開放によるカタルシスと、大の大人なのに腰を抜かしてしまった恥ずかしさとで、半べそをかきながらその場を後にした。

いや〜怖かった。錯覚なのだと、頭ではわかっていたのだが、途中からはほんとうに幽霊を視た気分になっていた。まだ行っていない方は、かならず新しい体験となることを確約するのでぜひ一度足を運んでみてほしい。

参考資料:イリュージョンフォーラム

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